平成31年3月13日、公正取引委員会(公取委)は、被審人がCDMA携帯無線通信に係る知的財産権の実施権等を一括して許諾するにあたり、相手方にその知的財産権についての被審人に対する無償の実施権許諾等を余儀なくさせており、これが独占禁止法の禁止する拘束条件付取引に該当することを理由に発せられた平成21年9月28日付けの排除措置命令について、当該ライセンス契約がクロスライセンス契約としての性質を有することを指摘したうえで、本件の事実関係においては公正競争阻害性が認められないことを理由に、これを取り消す旨の審決を行いました。

公取委が排除措置命令の全部を取り消すことは珍しく、また、知財ライセンス契約における非係争条項の独禁法上の評価を考える際の参考になります。

本稿では、非係争義務と拘束条件付取引に関する基本知識と本件事案及び本件ライセンス契約の概要をご紹介します。本件違反行為の公正競争阻害性に関する公取委の判断については、「知財ライセンス契約の非係争条項が不当な拘束条件付取引に該当するとした排除措置命令を取り消した公正取引委員会の審判審決(2)」をご覧ください。

ポイント

骨子

  • 独占禁止法が不当な拘束条件付取引を規制するのは、競争に直接影響を及ぼすような拘束を加えることは、相手方の事業活動において、相手方が良質廉価な商品・役務を提供するという形で行われるべき競争を人為的に妨げる側面を有しているからであり、拘束条件付取引の内容が様々であることから、不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては、個々の事案ごとに、その形態や拘束の程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれを判断し、それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合に初めて相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるというべきである。
  • 不当な拘束条件付取引に該当するか否かを判断するに当たっては、具体的な競争減殺効果の発生を要するものではなく、ある程度において競争減殺効果発生のおそれがあると認められる場合であれば足りるが、この「おそれ」の程度は、競争減殺効果が発生する可能性があるという程度の漠然とした可能性の程度でもって足りると解するべきではなく、当該行為の競争に及ぼす量的又は質的な影響を個別に判断して、公正な競争を阻害するおそれの有無が判断されることが必要である。
  • 本件ライセンス契約は、基本的な契約の構造としては、被審人が保有する知的財産権の実施権を許諾するのに対し、国内端末等製造販売業者も保有する知的財産権の非独占的な実施権を許諾するというクロスライセンス契約としての性質を有するものといえる。
  • 被審人のライセンシーに対する非係争条項も、これを本件ライセンス契約に規定した国内端末等製造販売業者と、同様の条項を規定した他の被審人のライセンシーが、無償で、互いに保有する知的財産権の権利主張をしないことを約束するというものであって、相互に保有する知的財産権の使用を可能とするものとして、クロスライセンス契約に類似した性質を有するものと認めるのが相当である。
  • クロスライセンス契約を締結すること自体は原則として公正競争阻害性を有するものとは認められない。
  • クロスライセンス契約としての性質を有する本件無償許諾条項等が規定された本件ライセンス契約について、国内端末等製造販売業者の研究開発意欲を阻害するなどして公正な競争秩序に悪影響を及ぼす可能性があると認められるためには、この点についての証拠等に基づくある程度具体的な立証等が必要になるものと解される。

審決概要

行政機関 公正取引委員会
審決年月日 平成31年3月13日
事件番号 平成22年(判)第1号
事件名 著作権侵害差止等請求事件
被審人 クアルコム・インコーポレイテッド
審判請求の対象 被審人に対する平成21年9月28日付けの排除措置命令
(平成21年(措)第22号)

解説

不公正な取引方法とは

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」といいます。)は、公正かつ自由な競争を促進するため(独禁法1条)、不当な取引制限(カルテルや入札談合)や私的独占(コスト割れ供給、抱き合わせ等)とともに、不公正な取引方法を禁止しています。不公正な取引方法とは、取引の態様として、「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)があるものを類型化したものです。「おそれ」で足りる点で、競争の実質的制限が要件となる不当な取引制限や私的独占と異なります。

不公正な取引方法に該当する具体的行為は、独禁法2条9項1~5号に該当する行為(法定5類型)及び同項6号に基づいて公取委が指定する行為があります。法定5類型としては、共同の取引拒絶(同項1号)、差別対価(同項2号)、不当廉売(同項3号)、再販売価格の拘束(同項4号)及び優越的地位の濫用(同項5号)が規定されています。また、同項6号に基づいて公取委が指定する行為としては、業種横断的に適用される「不公正な取引方法」(昭和57年6月18日公取委告示第15号、平成21年10月28日改正)などがあり、この「不公正な取引方法」は「一般指定」と呼ばれます。

不公正な取引方法の考え方については、公取委が様々のガイドラインを公表しています。技術の利用に係る制限行為を対象とするものとしては、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日公表、平成28年1月21日最終改正。以下「知財ガイドライン」といいます。)があります。

不公正な取引方法に該当する行為は、公取委による排除措置命令の対象となり(独禁法20条)、そのうち法定5類型にあっては、公取委による課徴金納付命令の対象となります(独禁法20条の2~20条の6。ただし、優越的地位の濫用以外については、公取委の調査開始日から遡り10年以内に同じ行為類型で排除措置命令を受け、それが確定している場合等に限られ、優越的地位の濫用については、継続してするものに限られます。)。

また、不公正な取引方法に該当する行為は、差止請求の対象ともなります(独禁法24条)。

拘束条件付取引とは

拘束条件付取引とは、不公正な取引方法の行為類型の一つであり、「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」をいいます(一般指定12項)。事業活動を不当に拘束する行為のうち、再販売価格の拘束(独禁法2条9項4号)及び排他条件付取引(一般指定11項)を除く範囲のものが広く拘束条件付取引に該当します。

ここで「不当に」とは、公正競争阻害性があることを意味します。したがって、ある行為が拘束条件付取引に該当し、不公正な取引方法として違法となるためには、①取引条件が相手方の事業活動を拘束するものであること、②公正競争阻害性が認められることが要件となります。

独占禁止法
(定義)
第二条
⑨ この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
四 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。
六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。

一般指定
(排他条件付取引)
11 不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。
(拘束条件付取引)
12 法第二条第九項第四号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること

もっとも、平成21年の独禁法改正前は、再販売価格の拘束も一般指定に規定されていました。再販売価格の拘束は、平成21年改正により、再販売価格の拘束の規定が独禁法に移動され(独禁法2条9項4号)、課徴金納付命令の対象となりました(独禁法20条の6)。

平成21年改正前の独禁法とそれに基づく一般指定の内容は以下のとおりであり、これらが本審決における適用法令です。

平成21年改正法による改正前の独占禁止法
(定義)
第二条
⑨ この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
四 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。

旧一般指定
(排他条件付取引)
11 不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。
(再販売価格の拘束)
12 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次の各号のいずれかに掲げる拘束の条件をつけて、当該商品を供給すること。
一 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
二 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。
(拘束条件付取引)
13 前二項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること

非係争義務とは

ライセンシーが現に保有し又は将来取得することになる知的財産について、ライセンサーやその指定する第三者には知的財産権の権利行使をしないという義務を非係争義務といいます。

知財ライセンス契約において非係争義務が課されることはそれほど稀ではなく、例えばクロスライセンス契約は、契約当事者相互に非係争義務が課されているものと考えることもできます。

非係争義務を課す行為が不公正な取引方法に該当する場合

知的財産ガイドラインは、不公正な取引方法の観点から、技術の利用に係る制限行為を黒条項(原則として不公正な取引方法に該当する行為)、灰条項(公正競争阻害性を有する場合には不公正な取引方法に該当する行為)及び白条項(原則として不公正な取引方法に該当しない行為)の3種類に分けています。

非係争義務を課す行為については、知財ガイドラインの第4の5(6)において、以下のとおり、ライセンサーの技術市場若しくは製品市場における有力な地位を強化することにつながること、又はライセンシーの権利行使が制限されることによってライセンシーの研究開発意欲を損ない、新たな技術の開発を阻害することにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当するものと整理されています(灰条項)。

ライセンサーがライセンシーに対し,ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の権利をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対して行使しない義務(注17)を課す行為は,ライセンサーの技術市場若しくは製品市場における有力な地位を強化することにつながること,又はライセンシーの権利行使が制限されることによってライセンシーの研究開発意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,公正競争阻害性を有する場合には,不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。

ただし,実質的にみて,ライセンシーが開発した改良技術についてライセンサーに非独占的にライセンスをする義務が課されているにすぎない場合は,後記(9)の改良技術の非独占的ライセンス義務と同様,原則として不公正な取引方法に該当しない。

(注17)ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対してライセンスをする義務を含む。

非係争義務に関する審決例

非係争義務と拘束条件付取引が問題となった審決例に、公取委平成20年9月16日審判審決があります。パソコン製造販売業者(OEM業者)の多くは、AV技術に関する必須特許を有していたところ、被審人(マイクロソフト社)とOEM業者が締結したパソコン用OS(ウィンドウズ)のライセンス契約には、以下のような条項(非係争条項)がありました。

OEM業者は、「対象製品」の製造等により侵害され、かつ、OEM業者が現在保有し、又は契約の終了前までに取得する世界中の特許権の侵害について、被審人、被審人の関連会社及び被審人のライセンシーに対し、訴訟の提起等をしない。

ライセンス契約によりOEM業者にライセンスされた「対象製品」に現在含まれる特徴及び機能が「対象製品」の将来製品、交換製品又は後継製品にも含まれている場合には、かかる特定の特徴及び機能は、「対象製品」の一部とみなされる。

公取委は、上記非係争条項の受入れを余儀なくさせた被審人の行為は、OEM業者のパソコンAV技術に対する研究開発意欲が損なわれる高い蓋然性があったことを認め、被審人に対して排除措置を命じました(なお、当時の審判制度では、排除措置命令を発するために審判を行う必要がありました。)。

公取委における審判制度の廃止

平成25年独禁法改正前においては、公取委による審判制度が設けられており、排除措置命令や課徴金納付命令に不服がある者は、公取委に審判を請求することができました(平成25年改正前の独禁法49条6項,50条4項)。しかし、当該命令を発した公取委自身が審判を行うという外観上の不公正さに対する批判を受け、平成25年独禁法改正によって審判制度は廃止されました。

もっとも、本審判は、平成22年1月5日に手続が開始されたため、平成25年改正独禁法の施行後においても引き続き審判手続において審理が続けられました。

なお、審判において排除措置命令の全部が取り消されたものとして、JASRACによる使用料の包括徴収が問題となった公取委平成24年6月12日審判審決があります(ただし、後に最高裁で排除措置命令が確定し、それを受けてJASRACが審判請求を取り下げました。)。

事案の概要

被審人は、携帯無線通信に関する技術に係る研究開発、携帯無線通信に係る知的財産権についての実施権の許諾等並びに携帯電話端末及び携帯電話基地局に用いられる半導体集積回路(チップ)の製造、販売等に係る事業を営む米国企業です。

国際電気通信連合(ITU)は、平成12年5月、第三世代の携帯無線通信について、「DS-CDMA(Direct Spread-CDMA)」及び「MC-CDMA(Multi Carrier-CDMA)」を含む計5規格を「IMT-2000」と称する国際規格として承認しました。そして、我が国の標準化機関である社団法人電波産業会(ARIB)に設置された規格会議(本審決では「規格会議」)は、平成12年3月、我が国における第三世代の携帯無線通信について、「IMT-2000 DS-CDMA System ARIB Standard(ARIB STD-T63 Ver. 1.00)」及び「IMT-2000 MC-CDMA System ARIB Standard(ARIB STD-T64 Ver. 1.00)」の2規格を標準規格として承認しました。

被審人は、規格会議における標準規格(第三世代携帯無線通信規格)の策定に先立つ平成12年1月21日、技術的必須知的財産権について、「当該権利所有者が、当該必須の工業所有権の権利の内容、条件を明らかにした上で、当該標準規格を使用する者に対し、適切な条件の下に、非排他的かつ無差別に当該必須の工業所有権の実施を許諾する。」との条件に基づく確認書を規格会議委員長に提出しました。被審人が提出した同確認書には、「ARIB STD-T63 Ver. 1.00」の規格に関して63件の該当工業所有権が、「ARIB STD-T64 Ver. 1.00」の規格に関して64件の該当工業所有権が、被審人の保有する技術的必須知的財産権として記載されていました。

なお、国内端末等製造販売業者の一部においても、技術的必須知的財産権の件数は被審人に及ばないものの、確認書を提出しました。また、規格会議委員長に提出された確認書において、「ARIB STD-T63 Ver. 1.00」の規格に係るものとして記載された該当工業所有権(技術的必須知的財産権)の総数は350件であり、「ARIB STD-T64 Ver. 1.00」の規格に係るものとして記載された該当工業所有権(技術的必須知的財産権)の総数は233件でした。

CDMA携帯無線通信を行う携帯電話端末(本審決では「CDMA携帯電話端末」)、基地局(本審決では「CDMA基地局」)及びそれらに利用される半導体集積回路(チップ)その他のCDMA携帯電話基地局用部品(本審決では「CDMA部品」と呼ばれ、CDMA携帯電話端末及びCDMA基地局と併せて「CDMA携帯電話端末等」と呼ばれます。)を製造、販売等するために利用される知的財産権には、CDMA携帯無線通信に係る技術的必須知的財産権のほか、これには該当しないものの、装置、機器、システム又はソフトウェアに競争上の優位性を与えたり、市場で合理的に要求される可能性のある機能その他の特徴を与えたりする知的財産権(本審決では「商業的必須知的財産権」)があります。

公取委は、被審人に対し、平成21年9月28日、次の行為(本件違反行為)について排除措置命令を発しました。

被審人が、被審人等が保有し又は保有することとなるCDMA携帯無線通信に係る知的財産権について、国内端末等製造販売業者に対してその実施権等を一括して許諾する契約を締結するに当たり、国内端末等製造販売業者等が保有し又は保有することとなる知的財産権について実施権等を無償で許諾することを余儀なくさせ、かつ、国内端末等製造販売業者等がその保有し又は保有することとなる知的財産権に基づく権利主張を行わない旨を約することを余儀なくさせており、これは、国内端末等製造販売業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて、国内端末等製造販売業者と取引しているものであって、平成21年改正前の独禁法2条9項4号(旧一般指定13項)に該当し、独禁法19条の規定に違反するものである。

これに対し、平成21年11月24日、被審人が審判を請求し、31回の審判を経て、公取委は、平成31年3月13日、本審決において、審査官の主張する本件違反行為が独禁法の禁止する拘束条件付取引に該当するものとは認めず、本件排除措置命令を取り消しました。

本件ライセンス契約の概要

本件ライセンス契約において、被審人は、国内端末等製造販売業者に対し、国内端末等製造販売業者等によるCDMA携帯電話端末、CDMA部品(国内端末等製造販売業者のCDMA携帯電話端末に組み込まれる場合に限られます。)及びCDMA基地局の製造、販売等のために、被審人が保有し又は保有することとなるCDMA携帯無線通信に係る一定の知的財産権の実施権を一身専属的(譲渡禁止)、全世界的及び非排他的に許諾するものと規定されていました。

一方で、国内端末等製造販売業者は、被審人に対し、ロイヤルティを支払うほか、以下の義務を負うものと規定されていました(本審判において、本件無償許諾条項、被審人等に対する非係争条項及び被審人のライセンシーに対する非係争条項は併せて「本件無償許諾条項等」と呼ばれています。)。なお、被審人等に対する非係争条項は、主に、商業的必須知的財産権を本件無償許諾条項の対象とすることを拒否した一部の国内端末等製造販売業者について規定されたものであり、また、被審人のライセンシーに対する非係争条項もこれに応じた一部の国内端末等製造販売業者についてのみ規定されたものです。

  • 被審人等によるCDMA携帯電話端末及びCDMA部品の製造、販売等のために、国内端末等製造販売業者等が保有し又は保有することとなる一定の知的財産権の一身専属的(譲渡禁止)、全世界的及び非排他的な実施権を許諾する(本件無償許諾条項)。
  • 被審人等に対し、又は、これに加えて被審人の顧客に対し、被審人等によるCDMA部品の製造、販売等、又は、これらに加えて被審人の顧客が被審人のCDMA部品を自社の製品に組み込んだことについて、国内端末等製造販売業者等が保有し、若しくは保有することとなるCDMA携帯無線通信に係る一定の知的財産権に基づいて権利主張を行わないことを約束する(被審人等に対する非係争条項)。
  • 被審人のライセンシーに対する非係争条項を規定した国内端末等製造販売業者が、同様の条項を規定した他の被審人のライセンシーに対し、当該ライセンシーによるCDMA携帯電話端末及び(又は)CDMA部品の製造、使用及び販売について、国内端末等製造販売業者等が保有し又は保有することとなる一定の知的財産権に基づいて権利主張を行わないことを約束する(被審人のライセンシーに対する非係争条項)。

なお、「無償許諾条項」という呼称は、審査官の主張に基づくものであり、内容としては、前記で説明した「非係争義務」に該当するものです(これについて、被審人は「クロスライセンス条項」と呼称していました。)。

それぞれの義務の詳細は、下表のとおりですが、以下がポイントです(下表の内容は、後に引用する審決文において適宜登場しますので、必要に応じてご参照ください。)。

  • 被審人による実施権許諾と国内端末等製造販売業者による実施権許諾・非係争義務のいずれにおいても、対象となる将来の知的財産権は「改良期間」内に開発・取得された改良技術に関するものに限定されている。
  • 「改良期間」は、被審人による実施権許諾と国内端末等製造販売業者による実施権許諾等のいずれにおいても同一である。
  • 商業的必須知的財産権に関する「改良期間」は、一定期間に限定されている。
  • 本件無償許諾条項について、契約書には「fully-paid and royalty free license」という文言があり、一部の契約書には、本件無償許諾条項を含む規定が全体として被審人による実施権許諾の対価の一部を構成していることを示す記載がある。

なお、本件ライセンス契約の契約期間は定められていませんでした。

<被審人による実施権許諾>

対象となる行為 国内端末等製造販売業者等によるCDMA携帯電話端末、CDMA部品(国内端末等製造販売業者のCDMA携帯電話端末に組み込まれる場合に限る)及びCDMA基地局の製造、販売等
対象となる知的財産権の範囲 CDMA携帯無線通信に係る技術的必須知的財産権及び商業的必須知的財産権
対象となる知的財産権の時的範囲 ①本件ライセンス契約の発効日以前に被審人等が開発・取得したもの
②改良期間内に被審人等が開発・取得することとなる改良技術
改良期間 <技術的必須知的財産権>
14社中8社との契約で無期限(《F》については、基地局契約のみ、《B》については、特定の事業部の知的財産権のみ)
その他の6社との契約で期限あり(1社については、後に無期限に変更)
<商業的必須知的財産権>
いずれの契約でも期限あり
権利行使できなくなる相手方の範囲 ①国内端末等製造販売業者
②国内端末等製造販売業者から当該知的財産権を使用して製造された携帯電話端末等を購入した相手方

<本件無償許諾条項>

対象となる行為 被審人等によるCDMA携帯電話端末及びCDMA部品の製造、販売等
対象となる知的財産権の範囲 CDMA携帯無線通信に係る技術的必須知的財産権及び商業的必須知的財産権
※《L1》及び《D》が本件無償許諾条項に基づいて実施権の許諾をするのは技術的必須知的財産権のみ
※《L1》については一定の「部品」の第三者への販売等について、技術的必須知的財産権の実施権を許諾していないほか、実施権を許諾する知的財産権の範囲を一部限定
対象となる知的財産権の時的範囲 ①本件ライセンス契約の発効日以前に国内端末等製造販売業者等が開発・取得したもの
②改良期間内に国内端末等製造販売業者等が開発・取得することとなる改良技術
改良期間 被審人による実施権許諾における改良期間と同じ
権利行使できなくなる相手方の範囲 ①被審人等
②被審人の顧客(当該顧客が被審人等から購入したCDMA部品による知的財産権の侵害に限る)
その他 ①国内端末等製造販売業者の本件ライセンス契約の契約書には、本件無償許諾条項に関し、「fully-paid and royalty free license」という文言
②一部の国内端末等製造販売業者の本件ライセンス契約の契約書には、その前文において、本件無償許諾条項を含む規定が、全体として、被審人からの知的財産権の実施権の許諾についての対価の一部を構成していることを示す記載

<被審人等に対する非係争条項> ※《D》、《L1》及び《F》のみ

対象となる行為 被審人等によるCDMA携帯電話端末及びCDMA部品の製造、販売等
又は
これに加えて被審人の顧客が被審人等のCDMA部品を自社の製品に組み込んだこと
対象となる知的財産権の範囲 《L1》については、CDMA携帯無線通信に係る技術的必須知的財産権及び商業的必須知的財産権
《D》については、CDMA携帯無線通信に係る商業的必須知的財産権
※技術的必須知的財産権については本件無償許諾条項があるため、実質的に意味があるのは商業的必須知的財産権(《F》については技術的必須知的財産権しか対象とされていないため、実質的に意味のない条項となっていることを理由に検討対象から外されている)
対象となる知的財産権の時的範囲 本件無償許諾条項と同じ
改良期間 被審人による実施権許諾における改良期間と同じ
権利行使できなくなる相手方の範囲 《L1》については、①被審人等と②被審人等から被審人の「顧客部品」を購入してこれを製品に組み込んだ顧客(「顧客部品」とそれ以外の製品とを組み合わせることによる権利侵害をした顧客を除く)
《D》については、被審人等

<被審人のライセンシーに対する非係争条項> ※《L1》、《D》及び《B》を除く11社のみ

対象となる行為 当該ライセンシーによるCDMA携帯電話端末及び(又は)CDMA部品の製造、使用及び販売
対象となる知的財産権の範囲 CDMA携帯無線通信に係る技術的必須知的財産権のみ
対象となる知的財産権の時的範囲 本件無償許諾条項と同じ
改良期間 被審人による実施権許諾における改良期間と同じ?(本審決本文において明確な認定はない)
権利行使できなくなる相手方の範囲 同様の条項を規定した他の被審人のライセンシー
その他 同様の条項を規定した他の被審人のライセンシーとの間で格別の金員の授受をすることは定められていない

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(文責・溝上)