東京地方裁判所民事第46部(柴田義昭裁判長)は、平成30年12月27日、商品の形状のみからなる商標(立体商標)について、使用により自他商品識別力を獲得したといえるか否かの判断基準を示したうえで、原告商標の商標法3条1項3号該当性を否定するなどして、被告商品の譲渡等の差止め、廃棄、原告に対する損害賠償等を命じる判決を言い渡しました。

ポイント

骨子

商標法3条2項「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」(自他商品識別力を有する商標)該当性
  • 商品の形状のみからなる商標が、使用により自他商品識別力を獲得したといえるか否かは、当該商品の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
商標法4条1項7号「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(無効理由)該当性
  • (被告商品の販売開始後に原告商標を商標出願し、商標取得後、直ちに被告商品等の輸入差止めを申し立てた点について)ロングセラー商品であり、世界的に高い評価を受けている原告商品のブランド価値を守るため、原告が、需要者の間で自らの業務に係る商品であることを表示するものとして認識されている原告商標について商標登録を行い、原告商品の模倣品である被告商品の輸入差止めの申立て等を行うことは何ら不当なことではなく、上記商標登録の目的が不正なものと言えないことは明らかである。
商標法4条1項18号「商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標」(無効理由)該当性
  • (原告標章が、周辺の人の顔がはっきりと認識できる明るさを保ちつつ、光源のまぶしさによる不快感をほぼ完全に排除し、手元にも必要十分に明るくすることができるという機能を確保するために不可欠な立体的形状であるとの被告主張について)ランプシェードの形状は、シェードの枚数、形状、向き又はそれらの組合せなどにおいて複数の選択肢があり、原告標章も複数の選択肢があるランプシェードの形状の一つであり、上記機能を達成するためのランプシェードの構造が原告標章のみに限られることを認めるに足りる証拠はない。
損害発生の有無
  • 被告は、被告商品を販売するに当たり、原告商品が正規品であることや被告商品がリジェネリック・リプロダクト品であることを強調して原告商品に比べて低価格で販売していて原告商品と被告商品は競合品ではなく、原告に損害が発生しないと主張するが、本件において、同種かつ同一の形状を有し、そのことをうたう被告商品が原告商品の競合品であることは明らかであり、被告の主張は採用することはできない。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 平成30年12月27日
事件番号 平成29年(ヮ)第22543号
商標権侵害行為差止等請求事件
商標登録番号 第5825191号
裁判官 裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官    佐 藤 雅 浩
裁判官    木 下 良 仁

解説

事案の概要

ランプシェードを指定商品とする立体商標に係る商標権を有する原告が、被告商品の販売が商標権侵害に当たると主張して、商標法36条1項及び2項に基づく被告商品の譲渡等の差止め及び被告商品、その構成部品の廃棄並びに民法709条、商標法38条2項に基づく損害賠償金の支払いを求めたものです。

本件の争点は、以下の通りです。

(争点1)原告商標と被告標章は同一であるか
(争点2)原告商標の指定商品である「ランプシェード」と被告商品は類似するか
(争点3)原告商標に無効理由があるか
①商標法3条1項3号該当性
②同法4条1項7号該当性
③同法4条1項18号該当性
(争点4)損害発生の有無及び損害額
(争点5)原告の請求は権利の濫用に該当するか

商標権の侵害に当たるかどうかの判断

⑴ 商標権の侵害

登録商標と同一の指定商品・指定役務に登録商標を使用する行為は、商標権の侵害とされます。

また、指定商品・指定役務に同一若しくは類似する商品・役務に登録商標に類似する商標を使用する行為、または、指定商品・指定役務に類似する商品・役務に登録商標を使用する行為も、商標権の侵害と見做されます。

他方、登録商標と指定商品・指定役務のうち、いずれか一方が非類似であれば、原則として、商標権の侵害とは見做されません。

⑵ 商標の類似判断

商標の類似性については、商標の見た目(外観)・読み方(呼称)・一般的な印象(観念)の類似性の検討に加えて、取引の実情を考慮して、総合的に出所混同のおそれがあるかどうかを、取引者や一般の需要者が通常払うであろう注意の程度を基準として判断されます。

過去の最高裁判例においては、以下のような判断基準が示されています。

最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(氷山印事件)
商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決(小僧寿し事件)
商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。

最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決(小僧寿し事件)
商標の外観、観念又は呼称の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準に過ぎず、(中略)三点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできない。

⑶ 商品の類似判断

商品の類似性については、通常同一営業主により製造又は販売されているか、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうか、などの取引の実情等を考慮しつつ、商品に同一又は類似の商標が使用された場合に、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがあるか否かを基準として判断されます。

過去の最高裁判例においては、以下のような判断基準が示されています。

最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決(橘正宗事件)
それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある場合(中略)、類似の商品に当たる。

最高裁昭和39年6月16日第三小法廷判決(PEACOCK事件)
商品の品質、形状、用途が同一であるかどうかを基準とするだけではなく、さらに、その用途において密接な関連を有するかどうかとか、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情をも考慮すべき。

最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決(三国一事件)
商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、それらの商品に同一または類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合(中略)、類似の商品にあたると解すべき。

⑷ 本判決の判断(争点1)

本判決は、原告商標と被告標章が同一か否かについて、以下の通り述べ、「原告商標と被告標章は同一である」と判断しました。

原告標章と被告標章はランプシェードの直径の比について若干の相違があるものの、標章全体を見た際に判別し得る相違点とはいえず、原告標章と被告標章の外観は同一であると認められる。

原告商標及び被告標章はいずれも何らかの観念ないし呼称が生じるとはいえず、これらが相違するものともいえない。

そうすると、原告商標と被告標章は、外観が同一であり、観念及び呼称において区別されないと認められる。

また、原告商標と被告標章につき、商品の出所を誤認混同するおそれがないとするような取引の実情等があるとは認められない。

外観・呼称・観念の類似性の検討に加えて、取引の実情を考慮して、総合的に出所混同のおそれがあると認めたものといえます。

⑸ 本判決の判断(争点2)

本判決では、商品の類似判断について、以下の通り、判断基準が示されました。

対象となる商品が指定商品に類似しているか否かは、問題となる商品の製造業者、販売店ないし販売場所、需要者、用途等を総合考慮し、これらの商品に同一又は類似の商標が使用された場合に出所の混同を生じるおそれがあるか否かによって判断すべきである。

そのうえで、本判決は、原告商標の指定商品である「ランプシェード」と被告商品の類似について、以下の通り述べ、「ランプシェードと照明用器具である被告商品は類似すると解するのが相当である」と判断しました。

被告商品は照明用器具であるところ、照明用器具は主にランプシェードと電球取付部によって構成され、ランプシェードにその他の部品が組み合わされた照明用器具が店舗やウェブサイト上で販売されるのであり、ランプシェードとその完成品である照明用器具は販売店ないし販売場所、需要者が重なるといえること、ランプシェードに照明用器具以外の用途はないことからすれば、ランプシェードと照明用器具は商品としての関連性が極めて強く、これらの商品の同一又は類似の商標が使用された場合に出所の混同を生じるおそれは高いといえる。

商品の類似判断について、自ら示した判断基準に当てはめ、出所混同を生じるおそれが高いと認めたものといえます。

自他商品識別力を獲得したといえるか否の判断(商標法3条2項該当性)

⑴ 商標法3条1項3号

商標法3条1項は、以下の通り、商標登録を受けることができない、除外要件を定めています。

(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

そのため、産地・販売地・品質・原材料・効能・用途・形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標については、原則として、商標登録ができません(商標法3条1項3号)。

また、同号に該当する商標については、商標登録されたとしても、登録異議の申立てがあれば商標登録が取り消され、また、商標権侵害の訴えに対しては商標登録の無効主張がなされる可能性があります。

⑵ 商標法3条2項

商標法3条2項は、以下の通り、同法1項3号から5号までに該当する商標であっても、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができることを定めています。

第三条
2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

そのため、商標権侵害の訴えにおいて、商標法3条1項3号該当を理由とする商標登録の無効主張を受けた場合には、本項該当性を主張することが考えられます。

この点、特許庁が定める商標審査基準においては、同項に関して、以下のような説明がなされています。

「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」について

(1) 需要者の認識について
「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」とは、何人かの出所表示として、その商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されているものをいう。

(2) 考慮事由について
本項に該当するか否かは、例えば、次のような事実を総合勘案して判断する。なお、商標の使用状況に関する事実については、その性質等を実質的に把握し、それによってその商標の需要者の認識の程度を推定する。
➀出願商標の構成及び態様
➁商標の使用態様、使用数量(生産数、販売数等)、使用期間及び使用地域
➂広告宣伝の方法、期間、地域及び規模
➃出願人以外(団体商標の商標登録出願の場合は「出願人又はその構成員以外」とする。)の者による出願商標と同一又は類似する標章の使用の有無及び使用状況
➄商品又は役務の性質その他の取引の実情
➅需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果

⑶ 本判決の判断(争点3①)

原告商標は、商品の形状のみからなる商標(立体商標)であり、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当することについては、当事者間に争いがありませんでした。

そこで、原告商標の効力の有無について、原告商標が「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)に該当するか否かが争点となりました。

本判決では、立体商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるか否かについて、以下の通り、判断基準が示されました。

商品の形状のみからなる商標が、使用により自他商品識別力を獲得したといえるか否かは、当該商品の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。

そのうえで、本判決は、以下の通り、詳細な事実認定のもと、「ランプシェードの立体的形状である原告商標は、商標法3条2項の『需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの』(自他商品識別力を有する商標)に該当」するとして、「原告商標に同条1項3号の無効理由があるとは認められない」と判断しました。

原告標章は一般的なランプシェードの形状としてありふれたものであるとはいえず、特徴的な形状として需要者に対して強い印象を与えるものといえる

原告商品は、遅くとも昭和51年に日本国内における販売が開始され、日本全国で約40年間にわたり継続して販売されており、平成11年から平成26年までの間の原告商品の販売数量は7万4627台であり、販売数量は増加傾向にある

定期的に全国の多数の顧客に対して配布されていた商品カタログにおいて、原告商品の写真や原告商品が世界のロングセラー商品であること等の説明が記載され、原告標章を印象づける広告が繰り返しされている

多数の出版物において、原告商品の写真や説明文が掲載され、原告商品が世界のロングセラー商品であり、原告商標が優れたデザインであることが強調されている

原告商品が平成9年度通商産業省選定グッド・デザイン外国商品賞を受賞した

高等学校の教科書にも原告商品の写真や説明文が掲載されている

商品の形状のみからなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したといえるか否かについて、自ら示した判断基準に当てはめて、自他商品識別力を有する商標と認めたものといえます。

商標法4条1項7号該当性

⑴ 商標法4条1項7号

商標法4条1項は、以下の通り、商標登録を受けることができない商標を定めています。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

そのため、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」については、商標登録を受けることができません(商標法4条1項7号)。

また、同号に該当する商標については、商標登録されたとしても、登録異議の申立てがあれば商標登録が取り消され、また、商標権侵害の訴えに対しては商標登録の無効主張がなされる可能性があります。

この点、特許庁が定める商標審査基準においては、同号に関して、以下のような説明がなされています。

「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは、例えば、以下(1)から(5)に該当する場合をいう。
(1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。
なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
(2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
(3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
(4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
(5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。

被告は、原告商標の出願経緯が不当であると主張していることから、商標審査基準⑸に該当するとの主張であったと思われます。

⑵ 本判決の判断(争点3②)

本判決は、被告商品の販売開始後に原告商標を商標出願し、商標取得後、直ちに被告商品等の輸入差止めを申し立てた点をもって、公序良俗に違反するとする被告主張に対して、以下の通り述べ、「原告商標に商標法4条1項7号の無効理由があるとは認められない」と判断しました。

ロングセラー商品であり、世界的に高い評価を受けている原告商品のブランド価値を守るため、原告が、需要者の間で自らの業務に係る商品であることを表示するものとして認識されている原告商標について商標登録を行い、原告商品の模倣品である被告商品の輸入差止めの申立て等を行うことは何ら不当なことではなく、上記商標登録の目的が不正なものといえないことは明らかである。

被告商品の販売開始後に商標登録した場合であっても、模倣品の輸入差止めの申立て等を行うことは何ら不当なことではなく、商標登録の目的が不正なものとはいえないことから、原告商標が公序良俗に違反するものではないと認めたものといえます。

商標法4条1項18号該当性

⑴ 商標法4条1項18号

商標法4条1項は、以下の通り、商標登録を受けることができない商標を定めています。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十八 商品等(商品若しくは商品の包装又は役務をいう。第二十六条第一項第五号において同じ。)が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標

そのため、「商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標」については、商標登録を受けることができません(商標法4条1項18号)。

また、同号に該当する商標については、商標登録されたとしても、登録異議の申立てがあれば商標登録が取り消され、また、商標権侵害の訴えに対しては商標登録の無効主張がなされる可能性があります。

この点、特許庁が定める商標審査基準においては、同号に関して、以下のような説明がなされています。

商品等が「当然に備える特徴」について
商品等が「当然に備える特徴」について、第3条第2項に該当するか否かの判断において提出された証拠方法等から、次の(1)、(2)又は(3)を確認する。

(1) 立体商標について
(ア) 出願商標が、商品等の性質から通常備える立体的形状のみからなるものであること。
(イ) 出願商標が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなるものであること。
(4) 上記(1)(イ)・・・を確認するにあたっては、下記(ア)及び(イ)を考慮するものとする。
(ア) 商品等の機能を確保できる代替的な立体的形状・・・が他に存在するか否か。
(イ) 代替可能な立体的形状・・・が存在する場合でも、同程度(若しくはそれ以下)の費用で生産できるものであるか否か。

⑵ 本判決の判断(争点3③)

本判決は、原告標章が、周辺の人の顔がはっきりと認識できる明るさを保ちつつ、光源のまぶしさによる不快感をほぼ完全に排除し、手元にも必要十分に明るくすることができるという機能を確保するために不可欠な立体的形状であるとの被告主張に対して、以下の通り述べ、「原告商標に商標法4条1項18号の無効理由があるとは認められない」と判断しました。

ランプシェードの形状は、シェードの枚数、形状、向き又はそれらの組合せなどにおいて複数の選択肢があり、原告標章も複数の選択肢があるランプシェードの形状の一つであり、上記機能を達成するためのランプシェードの構造が原告標章のみに限られることを認めるに足りる証拠はない。

原告標章について、複数の選択肢があるランプシェードの形状の一つであり、ランプシェードとしての機能を達成するために当然の備える特徴ではないと認めたものといえます。

損害発生の有無及び損害額

⑴ 商標権侵害行為に対する救済手段

商標権侵害行為に対しては、裁判所での民事手続による救済として、以下の手段をとることができます。

①侵害行為等の差止を求めること
②損害賠償を請求すること
③不当利得の返還を請求すること
④信用回復のための措置等を求めること

また、民事手続による救済とは別途、刑事事件として、刑事罰の適用(商標法78条、78条の2)を受けることもあります。

⑵ 損害賠償請求

本来、不法行為に基づく損害賠償請求をするためには、請求者側において、損害額や相手方の故意・過失等を証明しなければなりません。

ところが、商標権侵害事件において、実際に被った損害額や侵害者に故意・過失があったことを証明することは、非常に困難な場合が少なくありません。

そこで、商標法は、以下の通り、商標権侵害における損害についての算定規定を設けています(商標法38条)。

(損害の額の推定等)
第三十八条 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した商品を譲渡したときは、その譲渡した商品の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、商標権者又は専用使用権者がその侵害の行為がなければ販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、商標権者又は専用使用権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を商標権者又は専用使用権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

2 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。

3 商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

4 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。

5 前二項の規定は、これらの規定に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、商標権又は専用使用権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

また、商標法は、以下の通り、侵害者に侵害行為について過失があったものと推定する規定を設けています(商標法39条、特許法103条準用)。

(特許法の準用)
第三十九条 特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

(過失の推定)
特許法
第百三条 他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

⑶ 本判決の判断(争点4)

本判決は、原告の損害について、以下の通り述べ、「商標法38条2項の適用があるというべきである」と判断しました。

原告は被告商品と同種かつ同一の形状を有する原告商品を販売しているのであるから、被告の商標権侵害行為がなかったならば原告が利益を得られたであろうという事情があると認めるのが相当であり、商標法38条2項の適用があるというべきである。

また、本判決は、被告商品を販売するに当たり、原告商品が正規品であることや被告商品がリジェネリック・リプロダクト品であることを強調して原告商品に比べて低価格で販売していて原告商品と被告商品は競合品ではなく、原告に損害が発生しないという被告主張に対しては、以下の通り述べ、排斥しています。

本件において、同種かつ同一の形状を有し、そのことをうたう被告商品が原告商品の競合品であることは明らかであり、被告の主張は採用することはできない。

被告において、リジェネリック・リプロダクト品であることを強調することから、原告商品の競合品であると認めたものといえます。

なお、本判決は、損害額については、商標法38条2項に基づき、原告商標登録日以降の被告商品の売上額から経費を控除して算定しました。

権利濫用該当性

本判決の判断(争点5)

本判決は、原告の請求が権利の濫用に該当するとの被告主張について、以下の通り述べ、「原告の本件請求が権利の濫用に該当するとはいえ」ないと判断しました。

被告は、原告は被告及びその関連会社による被告商品の輸入差止め等の業務妨害を行うために原告商標を登録し、本件請求を行っているのであるから、本件請求は権利の濫用に該当すると主張するが、原告の商標登録の目的が不正であるとはいえないことは(争点3②に関する判断)のとおりであり、原告の本件請求が権利の濫用に該当するとはいえず、被告の主張を採用することはできない。

商標登録の目的が不正なものとはいえず、原告商標が公序良俗に違反するものではないことから、原告の請求についても、権利の濫用に該当するものではないと認めたものといえます。

コメント

この判決は、商品の形状のみからなる商標(立体商標)に関して、使用により自他商品識別力を獲得したといえるか否かの判断基準を示したものであり、事実認定や当てはめを含めて、類似事案において参考になるものといえます。

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(文責・平野)