知的財産高等裁判所第2部(森義之裁判長)は、本年(平成30年)8月22日、拒絶査定不服審判において新規事項の追加を理由に補正を却下し、請求不成立とした拒絶審決を取り消す判決をしました。

判決は、ソルダーレジスト事件知財高裁大合議判決に沿って新規事項の追加に該当するかを判断していますが、特許請求の範囲の限定を付加するに際し、当該限定事項について明細書に明示的記載がない場合に、第三者が製造販売する特定の製品の構成を技術常識として考慮し、明細書の記載から自明の事項を認定しています。

ポイント

骨子

  • 特許請求の範囲等の補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),上記の「最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,当該補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
  • ・・・以上の事実を考え併せると,当業者が,当初明細書等に接した場合,そこに記載されている撹拌羽が,ET-3Aに付属品として添付されている200mlビーカー用の本件撹拌羽根を指していると理解することができるものと認められる。そして,特定事項aは,200mlビーカー用の本件撹拌羽根の実寸法を追加するものであるから,特定事項aを本願の請求項1に記載することが,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものとはいえず,新規事項追加の判断の誤りをいう原告の主張は理由がある。

判決概要(審決概要など)

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 平成30年8月22日
事件番号 平成29年(行ケ)第10216号
事件名 損害賠償請求控訴事件
原審決 特許庁平成29年10月11日
不服2016-7849号
対象特許 特願2011-42737号
「染毛剤、その使用方法及び染毛剤用品」
裁判官 裁判長裁判官 森   義 之
裁判官    佐 野   信
裁判官    熊 谷 大 輔

解説

拒絶査定不服審判における補正と前置審査

拒絶査定不服審判とは

特許出願人は、審査で拒絶査定を受けたときは、その不服申立てとして、拒絶査定謄本の送達から3ヶ月以内に、拒絶査定不服審判を請求することができます(特許法121条1項)。

拒絶査定不服審判は審査の続審としての性質を有しており(特許法158条)、拒絶査定の違法性を判断するのではなく、出願に対して特許査定をすべきか否かを判断の対象とします。そのため、審判官は、審理の結果、拒絶理由がないと認めたときは、拒絶査定を取り消すのみならず、特許をすべき決定をすることができます(特許法159条3項、51条)。他方、出願を拒絶すべきものと認めるときは、審判官は、審判請求不成立の審決(拒絶審決)をします。

前置審査とは

拒絶査定不服審判の請求人は、審判請求と同時に、明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができます(特許法17条の2第1項4号)。これにより、審査段階ではなるべく補正をせずに広い権利の獲得を目指し、拒絶査定を受けてから、拒絶理由を解消するための補正をすることが可能になります。

補正がされた場合、拒絶査定不服審判の審理は開始されず、改めて審査官が審査を行います(特許法162条)。拒絶査定に応じて出願人が補正をする場合には、それまで特許審査をしてきた審査官が審査をする方が効率的だからです。

このような審査手続は、「前置審査」と呼ばれ、実務的には、しばしば審判官による審理が行われる前に前置審査によって拒絶査定取消の上特許査定がなされ、拒絶査定不服審判の手続が完了します。

前置審査によって拒絶理由が解消されない場合の取扱い

前置審査によっても拒絶理由が解消されないときは、審査官は、前置審査の結果を前置報告書に記載し、特許庁長官に対して前置報告をします。拒絶理由が解消されない場合には、補正によっても原拒絶査定の取消理由が解消されず、または、新たな拒絶理由が発見される場合もあれば、補正が不適法でやはり拒絶理由が解消されず、または、さらに新たな拒絶理由が発見される場合もあります。

前置報告があると、特許庁長官は、拒絶査定不服審判の審理を行う審判官を選任するとともに、審判請求人に審査前置解除通知をし、審判官による審理が行なわれます。

拒絶審決に対する不服申立て

上述のとおり、審判官による審理の結果、出願を拒絶すべきものと認められたときは、審判官は、拒絶審決をします。この場合において、拒絶審決に不服のある出願人は、知的財産高等裁判所において、審決謄本の送達から30日の不変期間内に審決取消訴訟を提起することができます(特許法178条)。

拒絶審決取消訴訟の審理対象は、特許をすべきか否かではなく、原審決の違法性です。つまり、裁判所は、出願に対して特許すべきか否かという終局的な判断をする必要はなく、手続的な瑕疵を含む何らかの違法を発見すれば、審決を取り消して、審理を特許庁に差し戻すこととなります(特許法181条)。

補正の要件と新規事項の追加

補正の要件

補正の要件は、補正の時期によって異なりますが、拒絶査定不服審判の請求と同時に行う場合には最も厳格な要件が課せられており、以下のすべてを充足する必要があります。

(i) 新規事項を追加する補正でないこと(第17条の2第3項)
(ii) 発明の特別な技術的特徴を変更する補正でないこと(第17条の2第4項)
(iii) 特許請求の範囲についてする補正であって、次に掲げる事項を目的とする補正であること(第17条の2第5項)
(a) 請求項の削除(同項1号)
(b) 特許請求の範囲の限定的減縮(同項2号)
(c) 誤記の訂正(同項3号)
(d) 明瞭でない記載の釈明(同項4号)
(iv) 上記(iii)(b)を目的とする補正について、補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が独立して特許を受けることができるものであること(同条6項、126条7項)

新規事項の追加禁止の導入

上記要件のうち、「(i) 新規事項を追加する補正でないこと」(新規事項追加の禁止)は、全ての時期の補正に共通する要件となっています。具体的な内容は、「明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内においてしなければならない」というもので、出願人のために補正を許容する一方、先願主義の原則を実質的に確保し、第三者との利害の調整を図ることを目的とした要件です。

新規事項追加の禁止は、かつて補正の要件とされていた要旨変更補正の禁止、つまり、発明の本質を変化させ、同一性を失わせるような補正の禁止(旧特許法40条、41条)に代えて、平成5年の特許法改正において導入されました。要旨変更が禁止されていた時期と比較すると、新規事項追加の禁止の導入により、補正の範囲は厳格に制限されたといえます。

ソルダーレジスト事件知財高裁大合議判決

上述のとおり、法文上、新規事項追加の禁止については、補正の要件として、補正が「明細書、特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であること、と表現されていますが、どのような場合にこの範囲を超えるのかという問題について、知的財産高等裁判所の特別部が考え方を示したのがソルダーレジスト事件知財高裁大合議判決(知財高判平成20年5月30日平成18年(行ケ)第10563号審決取消請求事件)です。

同判決は、新規事項の追加の判断基準について以下のように述べ、①「明細書又は図面に記載した事項」は、明細書または図面の全ての記載の総合判断によって導かれる技術的事項を指すこと、そして、②このようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するか否かによって「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」といえるかを判断すること、を示しました。

「明細書又は図面に記載した事項」とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ,「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

同判決は、さらに、特許請求の範囲の限定を付加する場合において、①限定事項が明細書や図面に明示的に記載されている場合及び②明示的記載はなくとも、記載から自明である場合には、新規事項の追加とはならないとの考え方を示しました。実際の事案において、新規事項の追加が問題となるのは、ほとんどが特許請求の範囲に限定を付す場合ですので、これが実質的な判断基準となるものと考えられます。

明細書又は図面に記載された事項は,通常,当該明細書又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができるのであり,実務上このような判断手法が妥当する事例が多いものと考えられる。

具体的な事案の内容に目を向けると、ソルダーレジスト事件で問題となった特許は、感光性プレポリマー、光重合開始剤、希釈剤、エポキシ化合物といった物質からなる感光性熱硬化性樹脂組成物をクレームしたものでしたが、この組合せには、先願の発明が含まれていました。そこで、特許権者は、無効審判において、当初クレームされた組成物から、先願発明にかかる組成物を除くとの記載を追加する訂正の請求をしましたが、先願発明は出願時に意識されていなかったため、明細書等に具体的な記載がなく、新規事項の追加にあたるのではないかが争いになりました。

この事案に見られるように、特許請求の範囲の記載について「ただし、…を除く」などの消極的表現によって特許出願に係る発明のうち先願発明と同一である部分を除外するクレームは、一般に「除くクレーム」と呼ばれます。ソルダーレジスト事件判決は、除くクレームと新規事項の関係について以下のように述べ、明細書や図面に限定事項の具体的な記載があるかどうかに関わらず、実質的観点から新たな技術事項の導入があるか否かを判断すべきとの考え方を示しました。

(除くクレームの場合),特許権者は,特許出願時において先願発明の存在を認識していないから,当該特許出願に係る明細書又は図面には先願発明についての具体的な記載が存在しないのが通常であるが,明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても,平成6年改正前の特許法134条2項ただし書が適用されることに変わりはなく,このような訂正も,明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」する訂正であるというべきである。

ソルダーレジスト事件は、上述のとおり、特許無効審判における訂正請求の要件としての新規事項追加の禁止の解釈が争われた事案であり、また、いわゆる除くクレームの解釈が問題となった事例である点で本件とは異なります。しかし、同判決が示した新規事項の一般的考え方は、除くクレームを対象とするか否かを問わず、また、訂正のみならず補正についてもあてはまると解されています。

なお、平成22年6月1日、審査基準の新規事項ないし除くクレームに関する記載がソルダーレジスト事件判決に整合するよう改訂されましたが、審査実務は同判決の前後で変更されていません。

本件の経緯

本件訴訟の原告は、名称を「染毛剤,その使用方法及び染毛剤用品」とする発明について、平成23年2月28日に特許出願しました(特願2011-42737号)。その後、原告は、3度にわたって特許請求の範囲等を補正しました。これらの補正後の請求項1は以下のようなものでした。

【請求項1】
アルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤を含んで構成されると共に,(A)カチオン性界面活性剤0.05~10質量%及び/又は(B)アニオン性界面活性剤0.05~10質量%を含有し,
常温で液状である油性成分0.01~1質量%及び揮発性溶剤0.1~20質量% を含有し,
その各剤の混合液をノンエアゾールフォーマー容器から泡状に吐出して用いる染毛剤であって,前記ノンエアゾールフォーマー容器から吐出した泡をそのまま下記の特定の撹拌条件下で撹拌したとき,撹拌直後の泡(a)の体積に対する撹拌後40分経過時の泡(b)の体積の比率b/aが0.7~1の範囲内であることを特徴とする染毛剤。
撹拌条件:前記吐出直後の泡150mlを,200ml容で内径がほぼ6cmの円筒形容器(例えばビーカー)に収容する。次いで,日光ケミカルズ(株)製の市販乳化試験器ET-3A型の回転軸に取付けた撹拌羽を,その回転中心が円筒形容器の中心線と一致するように,かつその下端部が円筒形容器の底部との間に僅かなクリアランスを残すように,円筒形容器内部に位置決めする。撹拌羽は,回転中心となる支軸の下端から漢字の「山」の字を構成する形態で対の羽部を延設したものである。撹拌羽の回転半径は円筒形容器の半径より僅かに(数mm程度)小さく,対の羽部の上下方向の幅は円筒形容器に収容した泡の液面に達するサイズである。このように撹拌羽を位置決めしたもとで,25℃の雰囲気中,撹拌羽を150rp mの回転速度で3分間回転させ,泡を撹拌する。

原告は、さらに平成28年2月2日にも補正をしました。

【請求項1】
アルカリ剤を含有する第1剤と酸化剤を含有する第2剤を含んで構成されると共に,
前記第1剤と前記第2剤の混合液中に,
(A)カチオン性界面活性剤0.05~10質量%
B)アニオン性界面活性剤0.~10質量%
高級アルコール及びシリコーン類を含む,常温(25℃)で液状である油性成分0.01~1質量%,並びに,
エタノール,イソプロパノール,プロパノール,ブチルアルコール,ベンジルアルコールから選択される溶剤0.1~20質量%を含有し,その各剤の混合液をノンエアゾールフォーマー容器から泡状に吐出して用いる染毛剤であって,前記ノンエアゾールフォーマー容器から吐出した泡をそのまま下記の特定の撹拌条件下で撹拌したとき,撹拌直後の泡(a)の体積に対する撹拌後40分経過時の泡(b)の体積の比率b/aが0.7~1の範囲内であることを特徴とする染毛剤。
撹拌条件:前記吐出直後の泡150mlを,200ml容で内径がほぼ6cmの円筒形容器(例えばビーカー)に収容する。次いで,日光ケミカルズ(株)製の市販乳化試験器ET-3A型の回転軸に取付けた撹拌羽を,その回転中心が円筒形容器の中心線と一致するように,かつその下端部が円筒形容器の底部との間に僅かなクリアランスを残すように,円筒形容器内部に位置決めする。撹拌羽は,回転中心となる支軸の下端から漢字の「山」の字を構成する形態で対の羽部を延設したものである(撹拌羽の左右方向の幅は,全幅58mm,支軸直径6mm,支軸と羽との間隔(隙間)16mm,羽の幅10mmである。)。撹拌羽の回転半径は円筒形容器の半径より僅かに(数mm程度)小さく,対の羽部の上下方向の幅は円筒形容器に収容した泡の液面に達するサイズである。このように撹拌羽を位置決めしたもとで,25℃の雰囲気中,撹拌羽を150rpmの回転速度で3分間回転させ,泡を撹拌する。

しかし、審査官は、同月16日、「(25℃)」が新規事項の追加にあたることを理由に補正を却下し、拒絶査定をしました。そこで、原告は、同年5月30日、拒絶査定不服審判を請求するとともに、再度同内容の補正をしたところ、前置審査において上記同様の理由により補正を却下すべきとの前置報告書が出されたため、「(25℃)」を撤回した補正案を提出したものの、特許庁は、平成29年10月11日、「撹拌羽」の寸法の記載が新規事項の追加にあたることを理由に補正を却下し、不成立審決(拒絶審決)をしました。

これに対し、原告が審決取消訴訟を提起したのが本訴訟で、上記の寸法の追加の適法性等が争点となりました。上記補正にかかる撹拌羽の寸法は、当初の明細書に記載がなく、上記補正に際しては、明細書も以下のとおり補正されています。

【0012】
即ち,ノンエアゾールフォーマー容器から染毛剤の各剤の混合液を泡状に吐出し,その150mlを,200ml容で内径がほぼ6cmの円筒形容器(例えばビーカー)に収容する。次いで,日光ケミカルズ(株)製の市販乳化試験器ET-3A型の回転軸に取付けた撹拌羽を,その回転中心が円筒形容器の中心線と一致するように,かつその下端部が円筒形容器の底部との間に僅かなクリアランスを残すように,円筒形容器内部に位置決めする。撹拌羽は,回転中心となる支軸の下端から漢字の「山」の字を構成する形態で対の羽部を延設したものである(撹拌羽の左右方向の幅は,全幅58mm,支軸直径6mm,支軸と羽との間隔(隙間)16mm,羽の幅10mmである。)。撹拌羽の回転半径は円筒形容器の半径より僅かに(数mm程度)小さく,対の羽部の上下方向の幅は円筒形容器に収容した泡の液面に達するサイズである。

判旨

判決は、まず、新規事項の追加にあたるか否かの判断基準として、ソルダーレジスト事件判決を引用します。

特許請求の範囲等の補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),上記の「最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,当該補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決・判例タイムズ1290号224頁参照)。

その上で、以下のとおり、判決は、当業者であれば、本件明細書の記載から、クレームの「撹拌羽」が長年にわたって寸法が変更されていない特定の製品を指していることを理解できるとの認定をし、結論として、撹拌羽の寸法の記載は、明細書または図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものとはいえないとの判断を示しました。

これを本件についてみるに,前記で認定したような本願発明において,撹拌羽根の形状,寸法等の撹拌条件は発明特定事項として重要な要素といえるところ,当初明細書等に本件撹拌羽根を用いることは明示されていない。しかし,当初明細書の【0012】には,①撹拌にET-3Aを用いること,②「撹拌羽」は,回転中心となる支軸の下端から漢字の「山」の字を構成する形態で対の羽部を延設した「撹拌羽」であること,③「撹拌羽」の回転半径は,内容量が200mlで内径約6cmのビーカー等の円筒形容器の半径(約3cm)より僅かに小さいことが記載されているところ,前記(1)イの事実によると,当初明細書に記載されている上記「撹拌羽」の形状,寸法は,ET-3Aの付属品である200mlビーカー用の本件撹拌羽根のそれと一致するものである。また,前記(1)イの事実によると,ET-3Aは,昭和60年頃から長年にわたって販売されており,多数の当業者によって使用されてきたと推認される実験用の機械であるところ,販売開始以来,付属品である本件撹拌羽根の形状,寸法に変更が加えられたことは一度もなく,しかも,遅くとも平成17年7月頃には,本件撹拌羽根は,ET-3Aとともに日光ケミカルズのカタログに掲載されていた。さらに,当初明細書の記載に適合するような形状,寸法のET-3A用の撹拌羽根が,ET-3A本体とは別に市販されていたことは証拠上認められない。
以上の事実を考え併せると,当業者が,当初明細書等に接した場合,そこに記載されている撹拌羽が,ET-3Aに付属品として添付されている200mlビーカー用の本件撹拌羽根を指していると理解することができるものと認められる。そして,特定事項aは,200mlビーカー用の本件撹拌羽根の実寸法を追加するものであるから,特定事項aを本願の請求項1に記載することが,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入するものとはいえず,新規事項追加の判断の誤りをいう原告の主張は理由がある。

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ソルダーレジスト事件判決は、特許請求の範囲の限定を付加する場合において、限定事項が明細書や図面に明示的に記載されている場合に加え、明示的記載はなくとも、記載から自明である場合には、新規事項の追加とはならないとの考え方を示しました。本判決は、明細書や図面に明示的記載がない事項について証拠から技術常識を認定し、自明と言える事項を導いたものといえ、その判断過程は参考になるものと思われます。また、クレームが第三者の具体的な製品名で限定されており、その製品の寸法や販売の状況等を認定することによって新規事項か否かの判断をした点でも参考となるでしょう。

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(文責・飯島)