特許は、社会の科学的発展や国の経済的促進に伴い、重要性が高まってきました。ロシア連邦においては、特許の重要性がソ連崩壊後から認識され、特許法に係る法改正が行われてきました。
本稿では、ロシアにおいて特許の対象となる発明、実用新案および工業意匠を取り上げ、それぞれの法的効力を発生させるために、要件や他の注意点について解説します。
また、特許においてどのような権利があり、どのような法的保護を受けられることについて焦点を当てたいと考えられます。なお、本稿で引用するロシア民法の日本語訳文は、特許庁による和訳に基づいていますが、特許庁による和訳は2014年までとなっているため、本稿では、それ以降2017年までの改正について独自の和訳をしています。
ポイント
- ロシアにおける、発明、実用新案及び工業意匠に係る知的財産権は特許権の対象とされます。
- ロシアにおいては、欧州特許のように、広域にわたるユーラシア特許があります。ユーラシア特許は、9ヶ国(ロシア、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、モルドバ、タジキスタン、及びトルクメニスタン)にわたる効力があるものの、対象は発明のみに限定されます。
- ロシアにおいて職務上発明等がなされ、特許権が使用者に帰属した場合、労働者には補償金を請求する権利があります。補償金の額は使用者と労働者の合意によって決められます。
関連法
ロシアは、特許法に関連する主要な国際条約に加盟しており、国際レベルと国内レベルに法源を分けられます。国際面では、工業所有権の保護に関するパリ条約(1883年)、特許協力条約(ワシントン条約1970年)、ユーラシア特許条約(1994年)などがあります。
国内レベルでは、ロシア民法の第4部第72章において、特許制度が規定されています。発明や実用新案の出願や審査手続き等に関しては、ロシアの経済発展省による規則等があります。
ロシア特許法の体系
ロシア民法は、「特許」という用語の明示的な定義を置いていませんが、特許権については、民法第1345条が規定しています。
第 1345 条 特許権
1.発明、実用新案及び意匠に係る知的財産権は特許権とする。
特許 | 要件 | 保護期間 | |
---|---|---|---|
発明 (изобретение) |
新規性、進歩性、 産業上利用可能性 |
出願日より20年間 | |
実用新案 (полезная модель) |
新規性、 産業上利用可能性 |
出願日より10年間 | |
工業意匠 (промышленный образец) |
新規性、独創性 | 出願日より5年間 (4回延長可) |
発明者、実用新案の考案者または意匠の創作者には個人のみになります。これらの者は①排他的権利、②創作者であると主張する権利などがあります。
第 1345 条 特許権
2.次の各号に掲げる権利は、発明者、実用新案の考案者又は意匠の創作者に帰属するものとする。
1) 排他的権利
2) 創作者であると主張する権利
3.本法に規定する場合には、その他の権利(特許を取得する権利、従業者発明、実用新案又は意匠に対する補償金に係る権利を含む)も、発明者、実用新案考案者又は意匠創作者に帰属する。
ここでいう、発明者であることを主張する権利とは、自らが発明者であると認められる権利だと考えられます。また、排他的権利(исключительное право)というのは、特許権利者のみ又はライセンシーのみが当該特許を使用できる権利をいいます。
第 1346 条 ロシア連邦領域内における発明、実用新案及び意匠に係る排他的権利の効力
ロシア連邦領域内において、排他的権利は、連邦の知的財産当局が付与する特許により、又はロシア連邦が締結した国際条約に基づきロシア連邦領域内において効力を有する特許により証される発明、実用新案及び意匠につき認められるものとする。
発明(изобретение)
発明とは、製品(デバイス、物質、微生物の菌株、植物または動物の細胞培養)または方法・プロセスになどに関連するあらゆる分野の技術的解決手段を指します。
発明において特許保護を受けるには、一定の要件が必要となります。すなわち、発明が①新規であり、②進歩性を有し、かつ、③産業上利用可能であるといった要件を満たさなければなりません。発明は、先行技術によって公開されていないときに新規であるとみなされます。発明の特許保護の期間は出願日から20年間ですが、医薬品、殺虫剤や農薬に関連した発明の場合は、5年間までの延長をすることが可能です。特許を受ける権利は、発明者、使用者(従業員が発明した場合)または譲受人にあります。
ただし、(1)ヒトをクローン化する方法及びヒトのクローン、(2)ヒトの胚細胞株の遺伝的完全性の修正方法、(3)工業目的及び商業目的によるヒトの胚の使用、(4)公共の利益、人間性及び倫理性の原則に反する知的活動、(5)発見、科学的理論及び数学的方法、(6)製品の外観のみに関し、審美的要求を満たすことを目的とするもの、(7)ゲーム、知的活動又は事業活動のための規則及び手段、(8)コンピュータ・プログラム(これは著作権の保護対象に入ります)、(9)情報の提示、(10)植物品種、動物品種、及びそれらを得る生物学的方法、(11)集積回路の回路配置といったものは発明とみなされません。
実用新案 (полезная модель)
装置に関連した技術的解決手段は、実用新案としても保護されます。これが法律上の保護を受けるには、①新規、かつ、②産業上利用可能といった要件を満たす必要があります。実用新案の保護期間は、出願日から10年であり、3年までの延長が可能です。
2014年10月1日より、一つの出願につき一つの考案のみクレームすることが許されます(独立クレームは1つのみとし、かつ選択肢の記載により二以上の考案が記載されないようにする必要があります)。出願審査においては、新規性、産業上利用可能性、明細書の開示十分性及びクレームの明確性・サポート要件について審査されます(ロシア民法第1351条(1)、第1376条(2)、第1390条(1)~(2))。
なお、発明および実用新案に係る特許付与の出願手続き(書類など)は重複するため、実務的には、両方に出願し、発明特許が取得できなければ実用新案の特許を取得するケースもよく見られます。
工業意匠 (промышленный образец)
意匠は、工場で製造されたか又は自家製の物品の外観を保護するものです。法的保護を受けるには、その意匠の重要な特徴に関して①新規、かつ、②独創性が要求されます。ここでいう意匠の「重要な特徴」とは、物品の外観の審美的な細部を決定する特徴をいい、その形状、輪郭、装飾、色彩及び線模様、当該物品の外形、当該物品を形成している材料の質感又は仕上げが含まれます。意匠は、物品の外観の像に反映されるその重要な特徴の集合体が、当該意匠の優先日前に世界で公衆の利用に供されていた情報によって開示されていなかった場合は、新規であるとみなされます。
上記②でいう、独創性のある意匠というのは、意匠の本質的な特徴が製品の特徴の独創的特性があることを指します。
第 1352 条 意匠の特許性の条件
3.意匠は、その本質的特徴が当該物品の特徴の独創的特性によるものである場合、特にかかる特徴が、当該意匠の優先日前に世界で一般的に利用可能であった情報(事情に通じた消費者に当該物品の像により示される意匠と同一の全般的印象を与える、以前は知られていなかった類似の目的の物品を提示する解決であるもの)に知られていない場合は、創作的とみなされる。
2015年1月1日より、工業意匠の特許保護の当初の期間は出願日から5年間となったものの、4回連続で5年間ずつ(合計25年間)の延長が可能です。
ユーラシア特許条約
原則として、国内で取得した特許の効力はその国の領域内にのみ及びますが、いくつかの国又は協定された国で統一的な保護が受けられることもあります。例えば、欧州特許を取得した場合、その効力は、欧州特許条約に署名したヨーロッパの国々にわたって及びます。
他方、ロシアにおいても、そのような広域にわたる特許があります。これを、ユーラシア特許といいます。主要な関連法はユーラシア特許条約(1994年)です。同条約は、全ての加盟国(2018年1月現在9ヶ国:ロシア、アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、モルドバ、タジキスタン及びトルクメニスタン)において共通の特許に基づく保護を受けるためのユーラシア特許制度を設立することを目的としたものです。
ユーラシア特許を利用すると、1つの出願によって、その公告の日から9ヶ国の領域における特許権の効力を取得することができます。ただし、同条約は発明のみに適用され、実用新案や工業意匠に及ばないことに留意する必要があります。また、ユーラシア特許を取得すると、9ヶ国にわたって法的保護を受けられるのがメリットであるものの、当該特許が紛争などにより効力が失った場合は、全ての9ヶ国においてその効力が消滅することになります。
同条約を管理する当局は「ユーラシア特許機構」(Eurasian Patent Organization)です。
特許移転およびその方法
ロシアの特許法は、特許によって保護された発明、実用新案および工業意匠を第三者に譲渡またはライセンス供与をすることができます。当該ライセンスはロスパテントにおいて登録する必要があり、登録をされた時点から当該取引の効力が発生します。登録手続きがなされなければ、当該取引はなかったとみなされるので、注意が必要です。
特許権者の許諾がなければ、輸入、製造、出願、転売などを含む、いかなる方法でも特許対象物を使用することはできません。特許権を侵害すると、民事上、行政上、または刑事上の責任を負うこととなります。
ロシアの民法上では、特許を移転する方法として、①譲渡契約、③ライセンス契約、及び④オープンライセンスがあります。
①譲渡契約 | ロシア民法第1365条は特許の譲渡契約について規定しています。この契約により、特許所有者は特許に対する排他的権利の全部を受領者または特許購入者に譲渡します。当該契約の特徴は、特許を出願する際に、発明者は公募手段を希望する制度があります。ここでいう公募とは、単独発明者である出願人は、発明の特許付与に関する出願を提出する際に、特許が付与される場合は当該特許に係る譲渡契約を締結する義務を負う宣言を出願資料に添付することができます。よって、ロスパテントはそれを公式に公開し、取引条件が「一般的な慣行」に合致すれば、当該特許のロスパテントまたは発明者に通知した者・申請者は譲渡契約を締結することができます。その場合は、出願手数料は発明者にかからず、特許購入者が負担することになります。しかし、当該特許を誰でも購入できるわけではなく、ロシア国民またはロシア法人しか購入できない決まりになっています。 |
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②ライセンス契約 | 使用許諾契約(ライセンス契約)を締結することによって、発明、実用新案、工業意匠の使用権を付与できます(民法1367条)。 |
③オープンライセンス契約 | 特許権者は、発明、実用新案、工業意匠を使用する権利を何人に対しても付与する場合は、その趣旨の陳述をロスパテントに提出できます。この場合、発明に係る特許維持手数料の金額は、50%減額されます。 |
第1369条 発明、実用新案又は意匠に係る排他権を処分する契約の方式並びに排他権及び その質入の移転並びに発明、実用新案又は意匠を使用する権利の付与に係る国家登録
1.特許の譲渡に関する契約、ライセンス許諾契約及びその他の契約で発明、実用新案又は意匠に係る排他権が処分されるものは、書面により締結されるものとする。この書面方式義務を遵守しなかったときは、かかる契約は無効とする。
2.発明、実用新案若しくは意匠に係る排他権の譲渡若しくは質入又はこれらの使用権の契約による付与は、本法第 1232 条により定める手続に基づく国家登録の対象となる。
職務発明、職務考案および職務意匠
ロシア民法の第1370条は、職務発明等に関する主要な規定を設けています。自らの職務として又は雇用者の契約により、従業者が行った発明、考案した実用新案、または創作した工業意匠は、それぞれ、職務発明、職務実用新案または職務意匠と呼ばれます。
第 1370条 職務発明、職務考案又は職務意匠
1.自己の職務として又は雇用者が指定した特定の任務として従業者がした発明、考案した実用新案又は創作した意匠は、それぞれ、職務発明、職務考案又は職務意匠とみなされるものとする。
まず、当該規定の第3項によれば、職務発明等による知的活動の成果に対する排他的権利また特許を受ける権利は、(従業員および使用者との間の労働契約またはその他の合意によって別段の定めがない限り)使用者に帰属します。
3. 職務発明、職務考案又は職務意匠に係る排他的権利及び特許を取得する権利は、従業者と雇用者との間の民法又はその他の契約に別段の定めがない限り、雇用者に帰属するものとする。
しかし、職務発明等に対して発明者であると主張する権利は従業者に帰属します。
2.職務発明、職務考案又は職務意匠に係る創作者人格権は、従業者(発明者、考案者又は創作者)に帰属するものとする。
従業員は自らの職務または使用者が指定した特定の職務により創作した成果について使用者に書面による通知する義務が課せられています。この点において、ロシアの使用者は強い権利を有していますが労働者がその通知をしたにも関わらず、使用者が4か月以内に特許出願をせず、または特許を受ける権利を第三者に移転しない場合は、当該特許を受ける権利は労働者に帰属します。
4.別段の規定を定める使用者と従業者との間の契約(本条第3段落)が存在しないときは、従業者は、自己の雇用義務の遂行の過程で又は使用者に課された特定の職務から生じた自己の創作であってその成果が法的保護を受けられるものについて、書面により使用者に通知しなければならない。
従業者による通知の日から4月以内に、使用者が、当該発明、職務実用新案又は職務意匠について特許の付与を求める出願を知的所有権に係る連邦行政機関に対して行わず、職務発明、職務実用新案又は職務意匠について特許を取得する権利を他人に移転せず、かつ、当該知的活動の成果に関する情報を秘密にしておくことについて当該従業者に通知しないときは、かかる発明、実用新案又は意匠について特許を取得する権利は、当該従業者に帰属する。
労働者が職務発明等に対して特許を取得したとしても、使用者は当該特許の有効期間内において使用権の付与を請求することができます。この場合、使用権付与はライセンス(非排他的)契約によって行われます。当該ライセンスによる対価、条件や手続きなどは労働者と使用者の合意によって決定されます。双方の合意がなく紛争がある場合は、裁判の判断により解決されます。
他方、使用者が職務発明等に対して特許を取得した場合、労働者には当該特許について補償金を請求する権利が認められます。補償金の額などは、使用者と労働者の合意により決められます。
4.使用者が、職務発明、職務実用新案若しくは職務意匠について特許を受けるか、かかる発明、実用新案若しくは意匠についての情報を秘密にしておくこととしその旨を従業者に通知するか、特許を取得する権利を他人に移転するか又は自己の管理の及ばない事情により自己が行った出願に基づいて特許を取得できなかった場合は、従業者は補償金を受ける権利を有する。当該補償金の額、使用者による支払の条件及び手続は、使用者と従業者との間の契約により決定され、紛争が生じた場合は裁判により決定されるものとする。
業務委託等による発明、実用新案および意匠
請負契約や業務委託契約などの履行によって創作された発明等の権利は、誰に帰属するのでしょうか。契約に基づく業務遂行中に創作された発明、実用新案や意匠に関しては、民法第1371条において規定されています。当該条文によれば、労働契約、研究、開発または技術的作業の実施に係る契約において発明等について明確に規定していない限り、契約履行中に創作された発明、実用新案、工業意匠について特許及び排他的権を取得する権利は、請負人に帰属します。
第 1371 条 契約に基づく業務遂行中に創作された発明、実用新案又は意匠
1.労働契約又は研究、開発若しくは技術的作業の実施に係る契約であって、発明、実用新案又は意匠の創作について明示的に規定していないものの履行中に創作された発明、実用新案又は意匠に関して特許及び排他権を取得する権利は、請負人(業務遂行者)と顧客との間の契約に別段の規定がない限り、請負人(業務遂行者)に帰属する。
他方、別段の合意がない限り、顧客は、特許の全有効期間を通じ、追加の補償金を支払うことなく、ライセンス(非排他的)契約に基づき、基礎となる契約の締結の目的で当該の発明、実用新案又は意匠を使用する権利を有します。また、請負人(業務遂行者)が特許の取得又は当該特許の他人への譲渡に係る自己の権利を移転したときは、顧客は、引き続き、当該発明、実用新案又は意匠を同一の条件で使用する権利を有します。
ロシア民法の1372条は、発注による工業意匠の権利帰属について規定しています。ここでの特徴は、請負人と顧客との契約において別段の定めがない場合は、特許を取得する権利または工業意匠に対する排他的権利は、顧客に帰属するものとされています。
第 1372 条 注文に基づいて創作された意匠
1.契約で、その主題が(契約に基づく)意匠の創作であったものに基づいて創作された意匠について特許及び排他権を取得する権利は、請負人(業務遂行者)と顧客との間の契約に別段の規定がない限り、顧客に帰属する。
紛争解決
発明、実用新案、工業意匠に係る法的保護を受けるためには出願が必要ですが、出願をしたにも関わらず、ロシアの知的財産当局であるロスパテントによって拒絶されることが多々あります。この場合、当該拒絶の決定に対する不服を「特許紛争審判室」(Палата по патентным спорам)に申立てることができます。この審判は、ロスパテントの組織構造の中にある、特許紛争に係る審判事件を解決する組織です。特許紛争審判室は、下記のような紛争を審理します。
1) 特許付与の拒絶査定に対する不服申立て又は特許査定に対する異議申立て
2) 出願が取下げられたとみなされた決定に対する不服申立て
3) 特許の付与に対する(無効取消)不服申立て
特許紛争審判室の判断は最終ではありません。審判室の審決に対して不服があるときは、ロシアの裁判所に申立てることができます。
特許付与に対する異議
出願審査においては審査官による誤りが生じることもあり、また、実用新案の場合は、実質的に審査が行われることがないため、「新規性」に欠けることが多くあります。さらに、ロスパテントは、出願に際して記載する発明者・考案者・創作者などが、実際に発明者であることを主張する権利があるか、特許を受ける権利を有するかどうかの徹底的な審査はしません。
従って、特許は、存続期間にわたり、一部または全部が無効になることがあります。ロシア民法第1398条によれば、特許付与の合法性について、誰でも異議申立てをすることができます。特許の有効性が争われる一般的な理由は、新規性の基準が満たされていないという点です。つまり、新規性を喪失させるような先行技術情報が提出されることがあり、当該情報が特許付与に関する出願日以前に公開されたと証明されたら、当該特許を無効にする理由になります。
第 1398 条 発明、実用新案又は意匠に係る特許の無効確認
1.発明、実用新案又は意匠に係る特許は、次に掲げる場合は、全面的又は部分的に、無効と宣言することができる。(1)発明、実用新案又は意匠が本法の特許性の条件又は本法第 1349 条第 4 段落に規定する要 件に適合しない場合及び意匠が本法第 1231.1 条に規定する要件に適合しない場合
(2)提出日に提示された発明又は実用新案に係る出願書類が、当該技術分野に熟練した専門家が当該発明又は実用新案を実施することが可能な程度に十分に当該発明又は実用新案の本質的要素を開示するとの要件に合致していない場合
(3)特許付与に関する決定中の発明又は実用新案のクレームに、出願の提出日に提示された書 類に開示されていなかった特徴が含まれている(第 1378 条第 2 段落)か又は意匠に係る特許 付与に関する決定に付されている資料に、意匠の本質的特徴を含む物品の像は含まれているが、出願の提出日に提示された像若しくは意匠の本質的特徴を開示している物品の像に出願 の提出日に提示された像が含まれていない場合(第 1378 条第 3 段落)
(4)本法第1383条にいう条件に違背して、それぞれ同一の優先日を伴う同一の発明、実用新案又は意匠について複数の出願があったときに特許が付与された場合
(5)本法上発明者・考案者・創作者若しくは特許所有者でない者をそのような者として表示す るか又は本法上発明者・考案者・創作者若しくは特許所有者である者をそのような者として表示しない特許が付与された場合
注意すべきことは、真の発明者から補償金を得る目的で、冒認者が発明、実用新案、工業意匠に係る特許付与を先に出願をするケースがしばしばみられることです。
特許の存続期間の終了および回復
特許の存続期間および回復は、民法72章の第6節において規定されています。一般に、特許の存続期間は20年間であるものの、上記のように、特許の全部または一部が無効になる場合もあります。その場合、特許は、ロスパンテントの決定または裁判所の判断によって無効になります。
ロシア民法の第1399条によれば、特許権者の請求または、特許の維持手数料が未納の場合は、特許は存続期間満了の前に終了することがあります。
第 1399 条 発明、実用新案又は意匠の特許の効力の存続期間満了前終了
発明、実用新案又は意匠の特許の効力は、次に掲げる場合に、存続期間満了前に終了するものとする。特許権者により連邦の知的財産当局に提出された請求に基づいて―当該請求の受理日から。一群の発明、実用新案又は意匠について特許が付与され、かつ、特許権者の請求は一群に含まれる特許権の客体すべてついて提出されていないとき、特許の効力は、請求中に明記された発明、実用新案又は意匠に関してのみ終了するものとする。
発明、実用新案又は意匠の維持手数料の期限内納付を怠った場合―維持手数料に係る所定の納付期日から
特許の期間が終了すれば、その効力を回復することはできませんが、特許手数料を所定の期間内に納付しなかったことを理由として消滅した特許は回復することができます。特許の回復に係る申立は、特許手数料の納付期間の満了日から3年以内かつ当該特許の保護期間の満了前に、ロスパテントに対して行うことができます。
救済措置
特許が侵害された場合、様々な救済方法により保護を受けることができ、侵害された権利の本質及び侵害の結果が考慮されます。権利者には、次のような救済方法があります。
①権利の承認 権利の承認は、権利を否定するか又はその他のやり方により否認し、それにより権利所有者の利益を侵害する者に対し、権利を承認させる救済措置です。
②差し止め 権利を侵害する行為をした者又はかかる行為の準備をし、もしくはかかる行為を防止することができる者に対して、侵害の停止を命じる措置する措置です。
③損害賠償または補償金(compensation)の請求 権利者は、特許を違法に利用した者(契約なしの利用)又はその他のやり方で権利所有者の排他権を侵害し、損害を生じさせた者に対してその賠償を請求できます。補償金の請求権とは、法律で定められた範囲で裁判所が認定する一定額の賠償金を侵害者に請求できる権利です。具体的には、ア)1万~500万ルーブル(約160ドル~80,000ドル)の補償額、又は イ)特許使用料の2倍額(市場の通常価格で判断)のいずれかを請求できます。この補償金は,侵害の内容及び事件のその他の事情に鑑みて、公正及び正義の原則を考慮に入れて、裁判所が認定します。
④有形媒体の押収 権利を侵害する製造者、輸入者、保管者、運搬者、販売者、その他の流通業者又は悪意の取得者に対して用いられます。有形媒体の生産、頒布又はその他の使用及び輸入、輸送又は貯蔵が権利で保護された成果又は手段に係る排他権の侵害につながる場合は、その有形媒体は、侵害品とみなされ、裁判所の命令により流通経路から除去し、かつ、一切の補償なしに破毀することができます。
⑤裁判所の判断の公表 侵害行為について裁判所の判断を公表するよう求める権利です。具体的に、特許権者は、発明、実用新案、意匠の不法使用について、自己の権利のその他の侵害について、裁判所の判断をロスパテントの公報に掲載することによって公表するよう請求する権利です。
上記③で留意しなければいけないのは、特許権利者は、損害賠償か補償金のいずれかのみを選択しなければならないことです。
終わりに
以上がロシアにおける特許制度の概要です。次回は、商標法について紹介していきます。
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(文責・アザマト・シャキロフ)