本稿では、IPライセンスガイドラインのうち、第4章(「合理の原則」の下で行政機関がライセンス契約を評価する際の一般原則)、第5章(一般原則の適用)及び第6章(無効または行使不可能な知的財産権)の概要を説明します。
ポイント
骨子
- 合理の原則では、①反競争的な影響と②それが競争促進的効果から正当化されるかが検討されますが、第4章では具体的な判断においてどのような事情が考慮されるかにつき言及がされています。
- 形式的に反競争的な場合に当たる場合であっても、「セーフティー・ゾーン」に該当する一定の場合には、独禁法上問題とされることはありません。
「合理の原則」の下で行政機関がライセンス契約を評価する際の一般原則(第4章)
反競争的な影響(要件①)について
反競争的な影響の有無の判断にあたっては、以下のような事情が考慮されるとされています。
まず、ライセンサー、ライセンシーが垂直関係にある場合、市場構造(ライセンスによる拘束の影響を受けるか)、価格上昇や生産の制限の協定を容易にするか、反競争的なアクセスの遮断があるかが検討されます。
次に、一般的に、独占的ライセンス契約においては、ライセンサー同士、ライセンシー同士、または、ライセンサー・ライセンシー間に水平的な関係があるときにのみ、独占禁止法上の問題を生じ得ます(例えば、競業者間のクロスライセンス、グラントバック、知的財産権の取得など)。他方、非独占的ライセンス契約は、競業を制限するものではないため、一般的に独禁法上問題とはなりません。
また、独占的取り扱い(ライセンシーによる競合技術の取り扱い禁止等)については、ライセンス技術の発展という競争促進的な側面もあるため、行政機関は、そうした事情も考慮して合理性を判断するものとされています。
競争促進的効果から正当化されるか(要件②)について
先に述べたとおり、合理の原則の下では、ある行為に反競争的な効果が認められた場合、次のステップとして、当該行為が競争促進的な効果を達成するために合理的に必要かどうかを判断することになります。
この判断は相関関係にあり、反競争的効果が重大であれば強い正当化要素が要求され、逆に反競争的な効果が重大とはいえない場合には、要求される正当化事由のレベルも低くなります。また、反競争的でない他のとり得る手段の有無や内容についても考慮されます。
また、この判断をするに当たっては、影響を受ける当事者の一方的解除権の有無やライセンシーに契約更新を促すような契約条件(例えば最低購買量に対する未払い金があることなど)を含む拘束の期間が1つの重要な考慮要素となります。すなわち、契約期間が明らかに競争促進的効果を得るのに必要な期間を超えているかどうかが検討されることになります。
セーフティ・ゾーン(独禁法上の違法性を問われない場合)
形式的に反競争的な場合に当たる場合であっても、次のような場合、いわゆる「セーフティ・ゾーン」として、違法性を問われることはないとされています。
- i) 外形上反競争的で、 ii)ライセンサー及びライセンシーの合計シェアが、拘束によって重大な影響を受ける各市場の20%以上とならない場合には、特段の事情のないかぎり、違法性を問われることはない。
- 技術市場においてマーケットシェアに関するデータがない場合、上記i)及びii)当事者のライセンスによって拘束される技術のほかに、当該技術につきユーザーに競争的な価格で代替可能な技術が独立して4以上存在する場合。
- 研究開発市場において、上記i)及びii) 当事者のライセンスによって拘束される技術のほかに、当該研究開発に要求される特別な技術・特性を持ち、当該研究開発の近似代替品の研究開発を行うインセンティブを有する者が独立して4以上存在する場合。
なお、セーフティ・ゾーンに収まらないからといって、ただちに反競争的であるとされるものではありません。
一般原則の適用(第5章)
具体的な拘束の態様ごとの検討
第5章では、ライセンス契約において生ずる具体的な拘束毎に、一般原則がどのように適用されるかを簡単に検討しています。以下に、ガイドラインに示されている考え方を概観します。
拘束の態様 | 一般原則適用における考え方 |
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水平的拘束 | 合理の原則を適用しますが、価格拘束、市場や消費者の分配、生産量を減らす合意及び特定のボイコットのように、事案によっては、当然に違法となるケースもあります。 |
価格拘束 | 判例法上、合理の原則が適用されるものとされています(前回ガイドライン以降、判例変更あった部分です)。 |
抱き合わせ販売 | 売主が抱き合わせ品につきマーケットパワーを有し、当該取り扱いが抱き合わせ品または抱き合わせられた商品の市場に反競争的な影響を及ぼし、かつ、効率性の観点からの正当性が反競争的効果を上回らない場合には問題となります。 |
独占的取り扱い | ライセンサーの技術の開発、改良及び競業技術の開発改良を反競争的に遮断したり制限しているかどうかが考慮されます。 |
クロスライセンス、パテントプール | 水平関係にある競合者間のクロスライセンスは、クロスライセンスに関する合意が実際または潜在的な競業者の競争を消滅されるかどうかが考慮されます。
また、プールやクロスライセンスから特定の会社を除外する行為は、除外された企業がライセンス技術と結びついた製品市場において競争できない場合及びプール参加者が合わせて関連市場でマーケットパワーを有する場合でない限りは、一般的に、反競争的効果を有しないとされています。このような事情がある場合、制限が当該技術の効率的な開発改良と合理的に関連しているか及び市場への影響がさらに検討されます。 プールによる取り組みは参加者の研究開発を阻害する場合もあるものの、当該取り組みが研究開発分野における潜在的な研究開発に大きな割合を占める場合にのみ競争上の問題を生ずるとされています。 |
グラントバック | 非独占的グラントバックの方が競争阻害効果は少ないとされています。
グラントバック条項の問題点は合理の原則に従い判断されますが、そこでは、ライセンサーが関連する技術または研究開発市場でマーケットパワーを有しているかが重要な要素となります。 グラントバックによりライセンシーによる当該ライセンス技術の改良への投資インセンティブが大きく損なわれている場合には、さらに、当該取り組みによる競争促進効果(メリット)について検討がなされた上で、判断が行われることになります。 |
知的財産権の取得 | 独占禁止法に関する一般的基準、特に、2010年のHorizontal Merger Guidelinesを適用して判断がなされます。 |
無効または行使不可能な知的財産権(第6章)
最後に、無効または行使不可能な知的財産権の行使に関する問題点にも言及がされています。
無効または行使不可能な知的財産権の行使は、法令上の要件を全て満たした場合には、独占禁止法違反、具体的には、シャーマン法第2条(独占行為)または連邦取引法第5条(不公正な競争方法、不公正又は欺瞞的な行為または慣行)違反と判断される可能性があります。例えば、欺罔的な手段により取得した商標権や著作権を行使して市場を独占する行為は、判例法上、シャーマン法2条で規定する独占行為に当たりうるとされます。また、欺罔行為には及ばない不公正な行為により取得した特許権を行使し、または行使しようとする行為は、一定の条件下では連邦取引法第5条違反となり得るとした判例もあります。
コメント
今回の最終版のガイドラインは、パブリックコメント時の案からは2点変更がありますが、いずれも脚注の説明が若干加えられた程度で、大きな修正はありませんでした。
ライセンス契約において特に自社がライセンサーとなっている場合には、自社に有利な契約とするためにライセンシーに様々な拘束を課している場合がありますが、独占禁止法上問題はないかという視点も持った上で検討をすることが求められます。米国の規制は日本のものと似ているものの、異なる点もあるため、概要を把握しておくことは重要といえるでしょう。
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(文責・町野)