米連邦最高裁判所は、本年(2018年)6月22日、同国特許法274条(f)(2)及び284条の適用において、主要な侵害行為が米国内で行われている限り、その結果海外で行われる実施行為によって生じた逸失利益を損害の算定根拠することが許容されるとの判決をしました。

本判決は、海外で直接侵害行為が行われることを想定して、国内での部品の販売・輸出を侵害とする米国特許法271条(f)が適用されることを前提としたものですが、判決の考え方は、同条(a)に規定される一般的な侵害行為にも適用され得るものであり、潜在的な影響の大きい判決と考えられます。

ポイント

骨子

  • 損害論に関する米国特許法284条の焦点となる行為は「侵害」であるところ、本件で適用される侵害規定である同法274条(f)(2)は、海外で組み合わされる発明の構成部品の米国内における供給を焦点とするものであるから、海外で生じた逸失利益を損害計算根拠としたとしても、域外適用否定の推定原則に反しない。

判決概要(審決概要など)

裁判所 米連邦最高裁判所
判決言渡日 2018年6月22日
ドケット番号 No. 16-1011
特許番号 US6,691,038
US7,080,607
US7,162,967
US7,293,520
当事者 WesternGeco LLC v. ION Geophysical Corp.

解説

特許法における属地主義

属地主義とは

属地主義(territoriality)とは、各国の法律の効力範囲が各国の主権の及ぶ範囲を超えないという考え方をいいます。我が国の判例が特許法との関係で属地主義の意味に触れたものとして、BBS事件判決(最三判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁)は、以下のように述べています。

属地主義の原則とは、特許権についていえば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するものである。

属地主義のもとでは、特許権の効力は日本の領土内に限定され、例えば、日本の特許権の技術的範囲に属する製品が米国で製造販売されても、特許権者は、日本の特許権に基づいて侵害訴訟を提起することはできません。

このような考え方は、その理論的根拠では議論が分かれるものの、結論において反対はなく、各国共通の考え方となっています。

日本の判例における属地主義の適用

米国特許権の侵害を誘導(induce)する行為(米国では特許法271条(b)により特許権侵害とされています。)を日本国内で行ったとして、特許権者が日本の裁判所で米国特許権に基づく侵害訴訟を提起したことについて、我が国の最高裁判所は、属地主義を理由に請求を棄却しました(最判平成14年9月26日民集56巻7号1551頁カードリーダー事件)。

この事例は、日本の特許権が日本の領土外に及ぶかを問題にしたものではなく、日本の裁判所が米国特許権に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を排斥する根拠としてそれぞれ属地主義を用いたもので、論旨について理論的観点から批判が多い判決ではあるものの、属地主義の具体的適用に関する裁判所の考え方を示したものといえます。

特許独立の原則との関係

特許制度を有するほとんどの国が加盟しているパリ条約(1900年ブラッセル改正条約)4条の2は、以下のような規定をおいており、ここに示された考え方は、一般に、「特許独立の原則」と呼ばれます。

(1) 同盟国の国民が各同盟国において出願した特許は、他の国(同盟国であるかどうかを問わない。)において同一の発明について取得した特許から独立したものとする。
(2) (1)の規定は、絶対的な意味に、特に、優先期間中に出願された特許が、無効又は消滅の理由についても、また、通常の存続期間についても、独立のものであるという意味に解釈しなければならない。

特許独立の原則は、特許の成立や存続について他国の特許の影響を受けないことを定めたものであって、その内容において、属地主義と重複するところがあります。古くは、属地主義は、パリ条約の特許独立の原則の規定から導かれるとの考え方もありました(清瀬一郎『特許法原理』等)。

しかし、この特許独立の原則がブラッセル改正条約で導入された背景には、外国人の特許の存続期間を本国の制度の範囲内とするような制度を導入する国が現れたことがあるところ、このような制度を国内法制で導入することは必ずしも属地主義の一般的な考え方に反するわけではありません。例えば、著作権法や商標法についても属地主義の原則が適用されますが、著作権については、その保護期間について、本国の保護期間を上限とする相互主義の導入が認められており(ベルヌ条約7条8項)、また、商標法については、本国での商標登録に外国の商標登録の消長を依存させることで他国での登録を簡易化するマドリッド・プロトコルが広く利用されています。

また、特許独立の原則は、特許権の効力が及ぶ地理的範囲についてまで規定したものではありません。

このようなことから、属地主義と特許独立の原則とは別個の原則であるといえ、上記のBBS事件判決でも、両者が別個の問題であることを前提に議論がなされています。

外国での直接侵害行為に関する米国特許法の規定

属地主義の考え方は米国においても採用されており、例えば、日本における発明実施行為に米国の特許権が及ぶことは原則としてありません。

しかし、米国特許法271条(f)は、発明実施行為の一部が米国外において行われる場合においても米国の特許権が及ぶ類型を2つ規定しています。これらは、細部の要件で異なるものの、侵害品の構成部品が米国内で販売されまたは米国から輸出され、外国で組み合わされることが想定される場合において、構成部品のそのような販売・輸出(原文では「supply/供給」)行為を特許権侵害とする点で共通しています。

米国特許法271条(f)(1)

米国特許法271条(f)(1)は、構成部品の全部または要部を供給する場合の規定であり、米国外で侵害品になるよう組み合わせることを積極的に誘導するような行為を特許権侵害としています。

Whoever without authority supplies or causes to be supplied in or from the United States all or a substan¬tial portion of the components of a patented invention, where such components are uncombined in whole or in part, in such manner as to actively induce the com¬bination of such components outside of the United States in a manner that would infringe the patent if such combination occurred within the United States, shall be liable as an infringer.
何人も、権限なくして、特許発明の構成部品の全部又は要部を、当該構成部品がその全部又は一部において組み合わされていない状態で、当該構成部品を、その組合せが合衆国内において行われたときは特許侵害となるような態様で合衆国外で組み合わせることを積極的に誘導するような態様にて、合衆国内で又は合衆国から供給し又は供給させたときは、侵害者としての責めを負う。

米国特許法271条(f)(2)

米国特許法271条(f)(2)は、発明の専用品を供給する場合の規定であり、それが発明の専用品であることを知り、かつ、外国で組み合わされて侵害品となることを意図して供給する行為を特許権侵害とする規定です。今回紹介する判例では、この規定の適用が問題となりました。

Whoever without authority supplies or causes to be supplied in or from the United States any component of a patented invention that is especially made or es¬pecially adapted for use in the invention and not a staple article or commodity of commerce suitable for substantial noninfringing use, where such component is uncombined in whole or in part, knowing that such component is so made or adapted and intending that such component will be combined outside of the United States in a manner that would infringe the patent if such combination occurred within the United States, shall be liable as an infringer.
何人も、権限なくして、特許発明の構成部品であってその発明に使用するために特に作成され又は特に改造されたものであり、かつ、一般的市販品又は実質的な非侵害使用に適した取引商品でないものを、当該構成部品の全部又は一部が組み合わされていない状態において、当該構成部品がそのように作成され又は改造されたことを知り、かつ、当該構成部品の組合せが合衆国内において行われたときは特許侵害となるような方法で合衆国外で組み合わされることを意図して、合衆国内で又は合衆国から供給し又は供給させたときは、侵害者としての責めを負う。

米国特許法の損害賠償規定

米国特許法271条に基づいて特許権を侵害したと認められると、同法284条に基づく損害賠償請求が可能になります。同条第1段落は、以下のとおり規定しています。

Upon finding for the claimant the court shall award the claimant damages adequate to compensate for the infringement, but in no event less than a reasonable royalty for the use made of the invention by the infringer, together with interest and costs as fixed by the court.
原告の主張が認められたときは、裁判所は、原告に対し、侵害を補償するのに十分であり、侵害者が行った発明の使用に対する合理的ロイヤルティを下回ることのない額の損害賠償を、裁判所が定める利息及び費用とともに認容するものとする。

米国の特許法は、逸失利益に対する賠償を認めており、また、ロイヤルティの額を最低額としている点で我が国の特許法の考え方と類似していますが、我が国における損害額算定にしばしば用いられる特許法102条2項に相当する規定はなく、被告が得た利益を損害と推定するという考え方は用いられていません。

他方、「damages adequate to compensate for the infringement」には様々な損害が含まれ、安価な侵害品が提供されたことによる特許権者の製品の価格の下落分が損害と認められることもあります。そして、このような考え方が採用されることが、米国で非常に高額の損害賠償が認められる一因となっています。

域外適用否定の推定原則(Presumption Against Extraterritoriality)

域外適用とは

属地主義の考え方に対し、外国の事実に自国の法律を適用する考え方を、「域外適用」(extraterritoriality)といいます。英語のextraterritorialityという語には、「治外法権」という意味もありますが、治外法権は、ある国の領土内における行為にその国の法律が及ばないことを指すのに対し、域外適用は、ある国の領土外における行為にその国の法律が及ぶことを指します。

域外適用否定の推定原則とは

域外適用は例外的な法律適用手法であり、米国では、域外適用否定の推定(Presumption Against Extraterritoriality)と呼ばれる原則があります。これは、議会が明示的に域外適用を承認する意思を表明していない限り、裁判所は、当該法律は国内に関する事項を定めたものと推定すべきであるとの考え方で、議会は通常国内問題を前提に立法を行うこと(Smith v. United States, 507 U. S. 197, 204, n. 5 (1993))や、国際礼譲(EEOC v. Arabian American Oil Co., 499 U. S. 244, 248 (1991))を根拠とします。

域外適用否定の推定原則の判断手法

裁判所による法適用が域外適用否定の推定原則に反していないかは、RJRナビスコ事件(RJR Nabisco, Inc. v. European Community, 579 U. S. ___, ___ (2016))で示された2段階のテストで判断されます。

1つ目のテストは、「域外適用否定の推定が覆滅されているか」というテストで、条文に明確に域外適用が定められている場合がこれに当たります。

2つ目のテストは、「事案はその法律の国内適用をするものか」ということで、その法律の焦点(focus)が何にあるか、そして、その焦点に関連する行為が米国内で生じたものか、という点に着目して判断されます。

これらのテストは、まず1つ目のテストを検討し、1つ目のテストで覆滅が認められない場合に、2つ目のテストについて検討する、という手順で検討することが望ましいとされているものの、2つ目のテストをまず検討することも許されるものとされています。

事案の概要

事実関係

原告WesternGeco社は、自社で使用する海底調査用のシステムに関する特許権を有していたところ、被告ION社は、その部品を米国内で生産し、海外企業に販売し始めました。ION社の製品を購入した海外の企業は、それを組み立てて、原告の製品と区別のつかない海底調査システムを作り、それを使って原告と競業していました。

地方裁判所の判断

原告が被告を特許権侵害で提訴したところ、陪審は、IONによる特許権侵害を認め、ロイヤルティ相当額として12,500,000ドル、逸失利益として93,400,000ドルの損害賠償を認容しました。これに対し、ION社は、トライアル後の申立てとして、271条(f)を域外適用することはできず、逸失利益は認められないと主張しましたが、地方裁判所はこれを認めませんでした。

連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判断

上記判断を受けて、ION社は連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に控訴しました。CAFCは日本の知的財産高等裁判所に相当する裁判所で、主として、知的財産案件の控訴事件を取り扱っています。

ION社の控訴に対し、CAFCは、地方裁判所における逸失利益の認定を覆しました。CAFCは、従前、一般的な特許権侵害規定である271条(a)の解釈として、外国での販売を回復するための損害賠償請求は認められないとの見解に立っていましたが、271条(f)についても同様の考え方を適用したのです。

これに対してWesternGeco社が最高裁判所に上告したのが、本件です。

争点

本件では、海外での直接侵害行為が要素となっている271条(f)の要件が充足されることを前提に、284条による損害賠償として、海外での売上げも考慮すべきか、という問題が争われました。

具体的な解釈問題としては、海外での売上げを考慮することが域外適用否定の推定原則に反しないか、という点が検討されています。

判旨

法廷意見

判決は、域外適用推定の原則の適用にあたり、2段階テストの2つ目のテストを用いることとし、まず、以下のように述べて、関連する条文があるときは、併せて検討する必要があるとしました。本件では、271条(f)(2)と284条がこれにあたります。

If the statutory provision at issue works in tandem with other provisions, it must be assessed in concert with those other provisions. Otherwise, it would be impossible to accurately determine whether the application of the statute in the case is a “domestic application.”

その上で、判決は、284条について、侵害に対して十分な損害賠償をすべきことを定める規定であることから、その「焦点」となる行為は、「侵害」であると述べます。

The portion of §284 at issue here states that “the court shall award the claimant damages adequate to compensate for the infringement.” We conclude that “the infringement” is the focus of this statute.

次に、271条(f)(2)に目を向けると、同規定は、構成部品が海外で組み合わされることを想定してはいるものの、対象となる行為は、米国内または米国からの「供給」とされていることから、同規定の「焦点」となる行為は米国における「供給」であると認定します。

Section 271(f)(2) focuses on domestic conduct. It provides that a company “shall be liable as an infringer” if it “supplies” certain components of a patented invention “in or from the United States” with the intent that they “will be combined outside of the United States in a manner that would infringe the patent if such combination occurred within the United States.” The conduct that §271(f)(2) regulates—i.e., its focus—is the domestic act of “suppl[ying] in or from the United States.”

その上で、271条(f)(2)を充足する本件では、「焦点」となるIONの行為は、明らかに米国内で生じたものであるため、逸失利益の認定は、284条の国内適用によるものとしました。

The conduct in this case that is relevant to that focus clearly occurred in the United States, as it was ION’s domestic act of supplying the components that infringed WesternGeco’s patents. Thus, the lost-profits damages that were awarded to WesternGeco were a domestic application of §284.

被告の主張について

被告は、284条の「焦点」は「侵害」ではなく「損害」であるところ、「損害」は海外における組合せ行為なくして生じないものであるから、逸失利益は284条の適用の結果である、と主張しました。

これに対し、判決は、損害は侵害に対する救済という284条が達成しようとする目的のための手段にすぎず、海外での事象は、侵害に付随するものにすぎないから、域外適用の分析において重要なものではない、として被告の主張を排斥しました。

Here, the damages themselves are merely the means by which the statute achieves its end of remedying infringements. [略] Those overseas events were merely incidental to the infringement. In other words, they do not have “primacy” for purposes of the extraterritoriality analysis.

反対意見について

本判決には、Gorsuch判事の反対意見があり、Breyer判事もこれに賛同しています。反対意見は、本件における逸失利益の認定が域外適用否定の推定に反するものではないという限りでは同意する、としつつ、米国の特許権による独占は米国外に及ばないこと、271条(f)(2)に海外に効力を及ぼす旨の表明はないこと、海外での使用まで損害の対象とすると発明完成品の輸出よりも発明の構成部品の輸出の方が大きな逸失利益を導くこととなっていること、国際礼譲に反することなどを理由に、逸失利益の認定に反対しています。

これに対し、法廷意見は、反対意見は侵害の問題と損害の問題を混同するものであるとの批判をしました。

結論

結論として、判決は、原告に逸失利益を認定したのは、284条の許容される国内適用の結果といえるとし、CAFCの判決を破棄するとともに、さらなる審理のため、事件を差し戻しました。

We hold that WesternGeco’s damages award for lost profits was a permissible domestic application of §284. The judgment of the Federal Circuit is reversed, and the case is remanded for further proceedings consistent with this opinion.

コメント

本判決は、近年権利制限的な判決が続いた米国において、権利拡張的な判決といえます。本件では、特許権者が自ら発明を使用する事業活動をしていたということもありますが、海外における使用行為まで損害の計算根拠となるとすると、損害額は大きくなる可能性があります。また、域外適用の問題を検討するについて、損害発生地は問わないとする本件の論旨は、271条(f)以外の侵害類型にも適用される可能性があります。この点で潜在的なインパクトのあり得る判決と思われます。

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(文責・飯島)