令和3年5月26日、地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律が成立しました。施行日は、一部を除き、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日となります。

本稿では、地球温暖化対策の推進に関する法律の改正のポイントを解説します。

ポイント

骨子

  • 我が国がパリ協定で合意した目標を達成するため、政府は2050年カーボンニュートラルを宣言し、その実現のための具体的な施策として、温暖化対策の推進に関する法律の一部が改正されました。本改正は、①基本理念の新設、②地域再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認定制度の創設、及び、③脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進等の3つの内容を柱とするものです。
  • 創設された基本理念では、地球温暖化対策の推進が、パリ協定の目標の達成と我が国における2050年カーボンニュートラルの実現のために国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体の密接な連携の下に行われなければならないことを明記しています。
  • 地域再エネを活用した脱炭素化を促進する事業の計画・認定制度は、市町村が定める地球温暖化対策の実行計画に適合することの認定を受けた地域脱炭素事業計画に記載された事業について、関連法令の手続がワンストップで行うことを認め、このような事業を行うことを容易にするものです。
  • 脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進等は、既存の排出量に係る算定報告公表制度につき、開示請求の手続なしで遅滞なく公表される仕組みとすることで、企業の取り組みの強化を促進するものです。

解説

地球温暖化対策の推進に関する法律の概要

地球温暖化対策の推進に関する法律(地球温暖化対策法)は、京都議定書の採択を契機として、国内における地球温暖化対策の枠組みを定めるために1997年に制定されました。この法律は、地球温暖化対策計画の根拠法として我が国の地球温暖化対策の枠組みを定めるとともに、地球温暖化対策のために国、地方公共団体及び事業者が負う責務や、そのための具体的な施策を定めるものです。

地球温暖化対策法は制定後、国際的な動きに合わせて複数回改正がされていますが、現行法では、以下のような事項が定められています。

第一章 総則(第一条―第七条)

第二章 地球温暖化対策計画(第八条・第九条)

第三章 地球温暖化対策推進本部(第十条―第十八条)

第四章 温室効果ガスの排出の抑制等のための施策(第十九条―第四十一条)

第五章 森林等による吸収作用の保全等(第四十二条)

第六章 割当量口座簿等(第四十三条―第五十七条)

第七章 雑則(第五十八条―第六十五条)

第八章 罰則(第六十六条―第六十八条)

地球温暖化対策計画の策定

温暖化対策法の下では、政府は、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、地球温暖化対策計画を定めなければならないとされています(8条1項)。この計画は、気候変動への対応のための国際的な合意を踏まえて、国内における目標とその目標達成のためにどのような施策を講じるかを定めるものです。

より具体的には、地球温暖化対策計画では、地球温暖化対策の推進に関する基本的方向のほか、温室効果ガスの抑制や吸収の目標、それを達成するために必要な国及び地方公共団体の施策に関する事項等が定められます(同条2項)。

この地球温暖化対策計画に従って、国の具体的な施策が行われることになるほか、政府や地方公共団体もこの計画に則った施策を取ることが求められます。現行の地球温暖化対策計画(平成28年5月閣議決定)は、パリ協定での合意を踏まえて2030年度までに温室効果ガスを13年度比で46%削減するという目標を達成するためのものとすべく、現在見直しが進められています。

地球温暖化対策計画の案の作成及び実施の推進等の事務は内閣に置かれた地球温暖化対策推進本部が担っています(第11条)。

このように、地球温暖化対策計画は、国、政府及び地方自治体が講ずる地球温暖化対策のための具体的な措置のを定めるものとなっています。

温室効果ガスの排出の抑制等のための施策
国、地方公共団体及び事業者の努力義務

地球温暖化対策法では、温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど7種類が指定されています。第2条3項)の排出の抑制等のための施策として、国及び地方公共団体による施策の推進に関する努力義務や、前述の政府実行計画・地方公共団体実行計画等を定めています。

まず、政府は、前述の地球温暖化対策計画に即して、その事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化のための措置に関する計画(政府実行計画 )を策定するものとされています(第20条)。直近の政府実行計画は平成17年に定められたものであり、財やサービスの購入・使用に当たっての配慮(低公害車の導入、エネルギー消費効率の高い機器の導入等)建築物の建築、管理に当たっての配慮(温室効果ガスの排出の抑制等に資する建設資材等の選択等)等が定められています。

また、地方公共団体は、地球温暖化対策計画に即してその事務及び事業に関し、温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化のための措置に関する計画(地方公共団体実行計画)を策定するものとされています(第21条)。この地方公共団体実行計画は、事務事業編と区域施策編の2つから構成されており、例えば東京都は、前者として「スマートエネルギー都庁行動計画」を、後者として「東京都環境基本計画」を定めています。

更に、事業者に対しては、事業活動における排出抑制等のための努力義務(第23条)と、国民が日常生活において利用する製品又は役務の製造等を行うに当たっての温室効果ガスの排出抑制及び情報の提供を行う努力義務が規定されています(第24条)。

温室効果ガス算定排出量の報告制度

事業者に対して具体的な義務を課す制度としては、温室効果ガス算定排出量の報告制度が重要です。

この制度は、事業活動に伴い相当程度多い温室効果ガスの排出をする者として政令で定めるもの(特定排出者)に対し、温室効果ガス算定排出量に関して主務省令で定める事項を、事業所を所管する大臣に報告する義務を課すものです(第26条)。

現行法においては、報告された情報は、環境大臣及び経済産業大臣に通知され(第28条)、最終的には、集計された温室効果ガス算定排出量が公表される仕組みとなっています(第29条)。この公表に係るファイル記録事項であって当該主務大臣が保有するものについては、誰でも開示の請求を行うことができます(第30条)。

この制度の目的は、特定排出者に対して、自ら温室効果ガスの排出量を算定することにより自らの排出実態を認識させ、また、排出量の情報を国民に公表することで企業の自主的取り組みを促すことを目指すものです。

改正の内容

法改正の背景

温暖化対策法の附則第4条において、「政府は、平成31年までに、長期的展望に立ち、国際的に認められた知見を踏まえ、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。」との規定が設けられているとおり、同法は、元々定期的な見直しが予定されていました。

そのため、環境省は法律の施行状況を確認し、地球温暖化対策の推進に関する制度検討会は、この環境省による確認の結果や、パリ協定での合意内容、そして、2020年10月に政府が打ち出した「2050年カーボンニュートラル」も踏まえて、地球温暖化対策の更なる推進に向けた制度についての議論を行いました。

令和2年(2020年)12月、同検討会により、「地球温暖化対策の更なる推進に向けた今後の制度的対応の方向性について」と題する取りまとめが公表され、これを踏まえて今回の法改正が行われたものです。

基本理念の新設

現行の温暖化対策法第1条には、以下のような目的規定(第1条)が置かれています。

(目的)

第一条 この法律は、地球温暖化が地球全体の環境に深刻な影響を及ぼすものであり、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ地球温暖化を防止することが人類共通の課題であり、全ての者が自主的かつ積極的にこの課題に取り組むことが重要であることに鑑み、地球温暖化対策に関し、地球温暖化対策計画を策定するとともに、社会経済活動その他の活動による温室効果ガスの排出の抑制等を促進するための措置を講ずること等により、地球温暖化対策の推進を図り、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。

今回の改正では、法律内に以下のような基本理念の規定を新たに創設しました。

(基本理念)

第二条の二 地球温暖化対策の推進は、パリ協定第二条1(a)において世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏二度高い水準を十分に下回るものに抑えること及び世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏一・五度高い水準までのものに制限するための努力を継続することとされていることを踏まえ、環境の保全と経済及び社会の 発展を統合的に推進しつつ、我が国における二千五十年までの脱炭素社会(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会をいう。)の実現を旨として、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならない。

この基本理念の創設により、地球温暖化の対策の推進は、世界全体の気温上昇を工業化以前よりも1.5度高い水準までとするというパリ協定の目的や、2050年までのカーボンニュートラルという日本政府の掲げる目的のために行われることが明文化されることになりました。

法律案の概要によれば、これにより、政策の方向性や継続性を明確に示すことで、あらゆる主体に対し、予見可能性を与え、取組やイノベーションが促進するものと説明されています。

地域再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認定制度の創設

前述のとおり、温暖化対策法の下において、地方公共団体は、温室効果ガスの排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化のための措置に関する計画(地方公共団体実行計画)を定めることとされていますが、実効性のある実行計画を策定するためには、地域の実情に応じた施策を講ずることが必要です。

今回の法改正では、まず、都道府県及び政令指定都市等は、地方公共団体の実行計画の中で、施策の実施に関する目標を定めるものとされました。他方、市町村においては実行計画の中で、その区域の自然的社会的条件に応じて温室効果ガスの排出量の削減等を行うための施策として、都道府県及び政令指定都市等による実行計画と同様の事項を定めるよう努めるものとされました(第21条4項)。

また、太陽光発電所などの再エネ関連施設の新設に関しては、法令で要求されるアセスメントや許認可等の手続に時間がかかるという問題や、地域環境や景観上の問題を巡ってトラブルとなるケースがあり、再生可能エネルギーの導入の足かせとなっていました。

こうした問題を改善するため、市町村は、地域脱炭素化促進事業の対象となる区域(促進区域)や促進区域において整備する地域脱炭素促進施設の種類及び規模等を定めることができるものとされました(第21条5項)。

そして、地域脱炭素化促進事業を行おうとするものは、実行計画を策定した市町村の認定を受けることができ(第22条の2第1項)、認定を受けた事業が事業計画に従って脱炭素化促進事業を行う場合には、他の法令で必要とされる許可を取得したものとみなされる規定がおかれました(第22条の5ないし11)。

これらの規定により、市町村が促進区域を定めて当該地域に再エネ施設等を誘導することで地域の紛争を未然に回避するとともに、認定を受けた事業については関連法令の手続ワンストップ化を図ることでスムーズに事業を行うようにできることが期待されます。

脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進等

前述のとおり、現行法上、特定排出者は、温室効果ガス算定排出量に関して主務省令で定める事項を報告し、その報告結果を誰でも閲覧できる仕組みがありましたが、紙媒体での報告が中心となっていたため国による集計事務に時間がかかり、報告から公表まで約2年を要していました。

しかしながら、昨今はTCFD提言への対応やESG金融の拡大に伴い、企業による気候変動関連情報の情報開示が進んでおり、また情報の公表を進めることで開示情報を積極的に活用していく必要性が指摘されていました。

こうしたことから、今回の改正により、環境大臣及び経済産業大臣は、現行法のような開示請求を経ることなく、企業から報告を受けた温室効果ガス算定排出量等につき、遅滞なく公表するものとされました(第29条)。この改正により、特定排出者に当たる企業については、排出量情報の開示が基本的には義務化されたことになります。

なお、企業からの報告については、電子システムによるものが原則とされることになっています。

また、地域地球温暖化防止活動推進センターの事業として、事業者及び住民に対する啓発活動も追加されました(第38条1項)。

コメント

今回の温暖化対策法の改正は、パリ協定での目的達成のために、地域及び企業に脱炭素化のための自主的な取り組みを促す内容となっています。特に、地域において脱炭素化事業を行いたい企業においては、市町村から事業の認定を受けることによりスムーズかつトラブルを回避した形での事業を行える見通しが立てやすくなるため、改正法の施行後に市町村の動きを注視の上、検討を行うことが考えられます。

また、パリ協定での目標や2050年までのカーボンニュートラルが基本理念で明示されたことにより、今後も企業の積極的な取り組みが要求されると思われますので、今後の地球温暖化対策計画の見直しの内容からどのような施策が採られるのかを見ておく必要があります。

本法に基づく取り組みがどの程度進んでいくかにつき、今後実務の動向を注視していくことが重要でしょう。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・町野)