アメリカの連邦最高裁判所は、本年(2021年)4月5日、GoogleによるJAVA SE APIの複製は「フェアユース」に該当し、Oracleの著作権を侵害しないとする判断を示しました。(なお、Googleが複製したものは、JAVA SE APIのうち、declaration code(宣言コード)のみであり、implementing code(実装コード)については、Google自身が作成しました。)
ポイント
骨子
- GoogleによるJAVA SE APIの複製は、プログラマーがその能力を新しくかつ変容的なプログラムに生かすためのコード(declaration code)のみについて行われたものであり、フェアユースに該当する。
- コンピュータープログラムは、機能的な目的を有するという点で、他の多くの著作権の保護の対象となる著作物と異なる。コンピュータープログラムに関する著作権保護の法的範囲の決定においては、フェアユースが重要な役割を果たす。
- コンピュータープログラムは主として機能的であるため、伝統的な著作権の概念を適用することは難しい場合がある。
判決概要
裁判所 | 米連邦最高裁判所 |
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判決言渡日 | 2021年4月5日 |
事件 | Google LLC v. ORACLE AMERICA, INC. |
解説
著作権の制限
「他人による無許諾の利用を禁止する」という強い効力(排他的効力)を有する著作権は、場合によっては、権利保護の範囲が広範になりすぎたり、権利保護による効果が強すぎたりすることがあります。そこで、著作権法は、一定の場合に、著作権を制限する規定を設けています。
日本の著作権法では、著作権を制限する事由を限定的に列挙しています。以下は例示ですが、このようなものが著作権の制限となっています。
私的使用のための複製 | 30条 | 個人的な使用または家庭内その他これに準ずる範囲内における使用を目的とする複製。 |
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引用 | 32条 | 公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる利用。 |
教育・試験のための利用 | 33~36条 | 公表された著作物の教科用図書への掲載、学校等の教育機関における複製、試験問題としての複製など。 |
プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等 | 47条の3 | インストールやバックアップなどプログラムをコンピューターにおいて実行するために必然的に伴う複製など。 |
電子計算機における著作物の利用に付随する利用等 | 47条の4 | ウェブサイト閲覧に伴うブラウザキャッシュなど、電子計算機における利用を円滑または効率的に行うための付随的な利用。 |
フェアユース(公正利用)
上記のように、日本の著作権法上の権利制限規定は、著作権の制限が必要なケースとその要件について個別かつ限定的に列挙するものです。これに対し、本件で問題となっているフェアユース(公正利用)の規定(米国著作権法-1976年法第107条)は、「批評、解説、ニュース報道、教授(教室での使用のための複数のコピーを含む)、研究、またはリサーチ等を目的とする著作権のある作品の公正な利用は、著作権の侵害ではない。」とするものであり、著作権の権利制限について包括的一般的に規定するものとなっています。米国著作権法にも、個別的に権利を制限する規定はありますが、そのような規定に該当しない場合でも、フェアユースに該当すれば、著作権侵害にはならないことになります。
(なお、日本でも、近年、フェアユース規定を導入すべきではないかとの議論がなされています。特に、インターネットを中心とするデジタル技術の発達などに伴い現代社会のニーズへの対応という要請は強く、2018年(平成30年)の著作権法改正では、米国のフェアユース規定ほど包括的なものではありませんが、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備がなされています。)
17 U.S. Code § 107 – Limitations on exclusive rights: Fair use
Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright. In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include—
(1)the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;
(2)the nature of the copyrighted work;
(3)the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and
(4)the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.
The fact that a work is unpublished shall not itself bar a finding of fair use if such finding is made upon consideration of all the above factors.
著作物の利用がフェアユースに該当するか否かについては、上記(1)-(4)の4つの要素をケースごとに検討していき、裁判所が判断することになります。
【フェアユースの判断のための4つの要素】
(1) 利用の目的及び性質(その利用が商業的な性質を有するものであるか否か、又は、非商業的な教育的目的のためであるか否かという点を含む。)
(2) 著作権保護の対象となる著作物の性質
(3) 著作物全体との関係における、利用された部分の量及び実質性
(4) 当該利用が著作物の潜在的な市場又は価値に与える影響。
フェアユースが議論された米国の事例
例えば、連邦最高裁判所では、これまでに以下のようなケースでフェアユースが認められてきました。
Sony Corp. of America. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417 (1984) ― ベータマックス事件 ―
ソニーなどの被告が製造販売したビデオ録画機を、一般ユーザーが利用し、原告の著作物であるテレビ番組を複製している点について、一般ユーザーに著作権侵害の手段を提供したとして、原告が提訴した事案。連邦最高裁判所は、利用者の多くが家庭における後日の視聴 (time-shifting) を目的としていることから、フェアユースを構成すると判断した。
Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569 (1994) ― プリティ・ウーマン事件 ―
パロディに関するリーディングケース。楽曲「Oh! Pretty Woman」の著作権者である原告が、当該楽曲のパロディである曲を製作し発表した事案。フェアユースの判断において、著作物の利用がtransformative(変容的)であるかが重要であり、商業目的のパロディについてもフェアユースが適用され得ると判断した。
本件の事案の概要
当事者の主張
本件は、Googleがスマートフォン用のアンドロイドプラットフォーム構築のために、Oracleが権利を有するプログラムである「JAVA」の一部のコードを複製したところ、Oracleがこれを著作権侵害であると主張した事案です。Googleは、当該複製はフェアユースであるため著作権侵害には当たらないと主張しました。
Googleにより複製されたもの
本件で、Googleが複製したものは、JavaのAPIのうち、Javaの機能を使うために必要な「declaration code(宣言コード)」というものです。
APIとは、Application Programming Interfaceの略です。APIは、決まった形式でアクセスすると、決まった形式で結果を出してくれるというもので、これを利用すると、アプリケーションの開発がシンプルに行えるようになります。
APIには、declaration codeのほかに、実際にコンピューターに個々のタスクを実行するように指示を出す実装のためのコード(本件でimplementing codeと呼ばれているもの)があります。
本判決では、Googleにより利用されたJAVA APIの「declaration code」は、APIにおける特定のタスクを分類し、それらのタスクを整理するものであると認定されており、その性質については、著作権で保護されないアイデア等と結びついており、著作権保護の核心からは遠いものであると判断されています。つまり、本判決では、APIのうち、implementing codeとdeclaration codeが区別されています(なお、反対意見において、このような区別が妥当でないと批判されています。)
Googleは、implementing code(実装コード)については自ら作成しており、複製を行ったのはdeclaration codeのみでした。
また、本件で、Java APIのコンピューターコードの量は、「implementation code(実装コード)」を含む合計2.86 million linesでしたが、そのうち、Googleが複製したものは、11,500 linesであり、全体の0.4%にすぎませんでした。
下級審の判断(本件の経緯)
Oracleは、2010年にGoogleに対し訴えを提起しました。これについて、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所(連邦地方裁判所)は、APIのdeclaration codeについては著作物性がなく保護されないとの判断をしました。これに対し、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、declaration codeには創作性があり著作権で保護されると判断し、フェアユースの審理について連邦地方裁判所に差し戻しました。
その後、連邦地方裁判所は、Googleによる複製はフェアユースであると判断しましたが、CAFCは、GoogleはOracleと同じ目的でdeclaration codeを利用しておりtransformative(変容的)ではない等の理由でフェアユースに該当しないとの判断をしました。
そこで、2019年1月、Googleは連邦最高裁判所に上訴の申し立てをし、2020年10月の口頭弁論を経て、2021年4月に本判決でフェアユースが認められました。
法廷意見
連邦最高裁判所は、本件について、以下のようにフェアユースの各要素について検討し、Googleによる利用はフェアユースであると認定しました。(なお、連邦最高裁判所は、本判決において、Googleが複製したSun Java APIの著作物性については判断をしておらず、仮に、著作物性があったとしてもフェアユースとなることを認定しました。)
※以下、連邦最高裁判所の判断について、フェアユースの第1要素から順に記載しますが、本判決では、第2要素が第1要素よりも先に検討されています。
(1)利用の目的及び性質(フェアユース第1要素)
まず、裁判所は、GoogleによるSun Java APIの利用(複製)の目的について、以下のように、述べています。ここでは、アンドロイド形式のスマートフォンの利用と有用性を拡充し、プログラマーが利用可能な新しいプラットフォームを構築することが目的であったことが強調されており、GoogleによるSun Java APIの利用は、著作権それ自体の基本的な憲法上の目的である、創造的な「進歩」という点と合致していることが述べられています。
Here Google’s use of the Sun Java API seeks to create new products. It seeks to expand the use and usefulness of Android-based smartphones. Its new product offers programmers a highly creative and innovative tool for a smartphone environment. To the extent that Google used parts of the Sun Java API to create a new platform that could be readily used by programmers, its use was consistent with that creative “progress” that is the basic constitutional objective of copyright itself.
また、裁判所は、以下のように、Googleの複製が限定的である点や、SunがSun Java APIを創作した目的(デスクトップやラップトップコンピューターにおける使用のため)とは異なる、スマートフォンプログラムのために行われたものであることを指摘しています。
The jury heard that Google limited its use of the Sun Java API to tasks and specific programming demands related to Android. It copied the API (which Sun created for use in desktop and laptop computers) only insofar as needed to include tasks that would be useful in smartphone programs.
To repeat, Google, through Android, provided a new collection of tasks operating in a distinct and different computing environment. Those tasks were carried out through the use of new implementing code (that Google wrote) designed to operate within that new environment.
さらに、本判決では、Googleは、Sun Java APIの一部を利用してreimplementation (再実装)を行ったものといえ、これはコンピュータープログラムの発展を促進するものであるということを指摘しています。
そして、結論として、Googleによる複製の目的及び性質は、“transformative”であるといえ、フェアユースを肯定する方向に働く旨が述べられています。
Some of the amici refer to what Google did as “reimplementation,” defined as the “building of a system . . . that repurposes the same words and syntaxes” of an existing system—in this case so that programmers who had learned an existing system could put their basic skills to use in a new one.
The record here demonstrates the numerous ways in which reimplementing an interface can further the development of computer programs.
…(中略)…
These and related facts convince us that the “purpose and character” of Google’s copying was transformative—to the point where this factor too weighs in favor of fair use.
なお、Googleの利用が商業的であることは、フェアユースの第1要素を否定する決定的な理由にはならないとされています。
So even though Google’s use was a commercial endeavor—a fact no party disputed, see 886 F. 3d, at 1197—that is not dispositive of the first factor, particularly in light of the inherently transformative role that the reimplementation played in the new Android system.
(2)著作物の性質(フェアユース第2要素)
フェアユース第2要素に関し、裁判所は、本件でGoogleが複製したdeclaration codeは、他のコンピュータープログラムと異なることを指摘しています。
相違点としては、(i)declaration codeは著作権保護を受けないアイデアと密接に結びついていること、(ii)declaration codeの価値は、誰も著作権を有しない価値、すなわち、コンピュータープログラマーがAPIシステムを学習した時間や努力の投資という部分に由来すること、などを挙げています。
These features mean that, as part of a user interface, the declaring code differs to some degree from the mine run of computer programs. Like other computer programs, it is functional in nature. But unlike many other programs, its use is inherently bound together with uncopyrightable ideas (general task division and organization) and new creative expression (Android’s implementing code). Unlike many other programs, its value in significant part derives from the value that those who do not hold copyrights, namely, computer programmers, invest of their own time and effort to learn the API’s system. And unlike many other programs, its value lies in its efforts to encourage programmers to learn and to use that system so that they will use (and continue to use) Sun-related implementing programs that Google did not copy.
さらに、判決は、declaration codeが仮に著作権保護の対象となるとしても、implementing codeのような多くのコンピュータープログラムよりも、著作権保護の核心(the core of the copyright)から離れたものであり、そのことは、「フェアユースの適用がコンピュータープログラムに対する一般的な著作権保護を弱体化させてしまうという恐れ」を減少させるものであると述べています。
つまり、declaration codeは他のプログラムに比べ著作権保護の必要性が高くないため、そのようなdeclaration codeにフェアユースの適用を認めたところで、プログラムの著作物一般に対する著作権保護を弱めることにはつながらないということです。
そして、「著作物の性質」というファクターがフェアユースの方向(フェアユースを肯定する方向)を示すものと結論づけているのです。
In our view, for the reasons just described, the declaring code is, if copyrightable at all, further than are most computer programs (such as the implementing code) from the core of copyright. That fact diminishes the fear, expressed by both the dissent and the Federal Circuit, that application of “fair use” here would seriously undermine the general copyright protection that Congress provided for computer programs. And it means that this factor, “the nature of the copyrighted work,” points in the direction of fair use.
(3)利用された著作物の量及び実質性(フェアユース第3要素)
上記の事案の説明の箇所で少し述べましたが、Googleが複製したとされるdeclaring codeの量を単独でみると、Googleが複製した量(合計11,500 lines)は多く見えますが、Sun Java APIにおけるソフトウェアのセット全体をみると、複製された量は小さい(Sun Java APIのコンピューターコードの合計は2.86 million linesであり、11,500 linesはわずか0.4パーセントである。)といえます。
この点について、裁判所は、まず、「たとえ、複製が少ない量であったとしても、コピーされた部分がオリジナルの著作物の核心部分を構成するものであれば、フェアユースの対象外になる場合もある。他方、複製の量が多かったとしても、複製されたものが、その創造的な表現をほとんど捉えていないものであるか、又は複製を行った者の正当な目的の中核をなす場合には、フェアユースの範囲に該当し得る」という、一般論を述べています。
We have said that even a small amount of copying may fall outside of the scope of fair use where the excerpt copied consists of the “‘heart’” of the original work’s creative expression.
On the other hand, copying a larger amount of material can fall within the scope of fair use where the material copied captures little of the material’s creative expression or is central to a copier’s valid purpose.
そして、裁判所は、本件では、下記のいくつかのGoogleによる複製の特徴に鑑み、利用された著作権の量ないし実質性を検討するにあたり、Googleが複製しなかった多くの部分も考慮に入れるべきであるとしました。
- そもそも、Sun Java APIは、Googleが複製しなかった部分であるtask-implementing linesと密接に関係していたこと。
- Googleはdeclaration codeの創造性や美観などを理由に複製したわけではないこと。
- Googleの基本的な目的は、スマートフォンという、Sun Java APIとは異なるコンピューター環境のために異なるシステムを作るというものであり、また、それを達成し普及させるためのアンドロイドプラットフォームを作るというものであったこと
Several features of Google’s copying suggest that the better way to look at the numbers is to take into account the several million lines that Google did not copy. For one thing, the Sun Java API is inseparably bound to those task implementing lines. Its purpose is to call them up. For another, Google copied those lines not because of their creativity, their beauty, or even (in a sense) because of their purpose. It copied them because programmers had already learned to work with the Sun Java API’s system, and it would have been difficult, perhaps prohibitively so, to attract programmers to build its Android smartphone system without them. Further, Google’s basic purpose was to create a different task-related system for a different computing environment (smartphones) and to create a platform—the Android platform—that would help achieve and popularize that objective.
さらに、本判決は、フェアユースを否定した控訴審判決について、Googleの正当な目的を狭く解釈しすぎていると指摘しています。
本判決は、Googleの目的について、単にJavaプログラミング言語をアンドロイドシステムにおいて使用可能にするというものではなく、プログラマーが、Sun Java APIで使用する知識や経験を、アンドロイド搭載のスマートフォンのための新しいプログラムを作成する際に利用可能にするものであると述べました。
また、declaration codeは、プログラマーの創造的なエネルギーを解き放つために必要な鍵であり、革新的なアンドロイドシステムを創造し改善していくために、そのようなエネルギーが必要だったと述べています。
We do not agree with the Federal Circuit’s conclusion that Google could have achieved its Java-compatibility objective by copying only the 170 lines of code that are “necessary to write in the Java language.” 886 F. 3d, at 1206. In our view, that conclusion views Google’s legitimate objectives too narrowly. Google’s basic objective was not simply to make the Java programming language usable on its Android systems. It was to permit programmers to make use of their knowledge and experience using the Sun Java API when they wrote new programs for smartphones with the Android platform. In principle, Google might have created its own, different system of declaring code. But the jury could have found that its doing so would not have achieved that basic objective. In a sense, the declaring code was the key that it needed to unlock the programmers’ creative energies. And it needed those energies to create and to improve its own innovative Android systems. We consequently believe that this “substantiality” factor weighs in favor of fair use.
このように、連邦最高裁判所は、フェアユースの第3要素である利用された著作物の量や実質性の判断においても、Sun Java APIのdeclaration codeが、アンドロイドという新しく創造的なプラットフォーム作成のために行われたという点を重視しています。
(4)市場への影響(フェアユース第4要素)
裁判所は、まず、一般論として、フェアユースの第4要素である市場への影響を考えるにあたっては、著作物の複製による損失の額だけでなく、損失の原因を検討しなければならないこと、また、複製により生み出されるであろう公共の利益も考慮しなければならないとしています。
But a potential loss of revenue is not the whole story. We here must consider not just the amount but also the source of the loss.
Further, we must take into account the public benefits the copying will likely produce.
そして、裁判所は、Sunが作成したJava ソフトウェアと、Googleの作成したアンドロイドプラットフォームとは、市場が別であることや、Sunはモバイルフォン市場で成功する立場にはいなかったことを指摘しています。
As to the likely amount of loss, the jury could have found that Android did not harm the actual or potential markets for Java SE. And it could have found that Sun itself (now Oracle) would not have been able to enter those markets successfully whether Google did, or did not, copy a part of its API. First, evidence at trial demonstrated that, regardless of Android’s smartphone technology, Sun was poorly positioned to succeed in the mobile phone market. The jury heard ample evidence that Java SE’s primary market was laptops and desktops.
さらに、裁判所は、アンドロイドの収益性の源泉は、Sun Java APIにおけるプログラマーの投資に関係するものであり、Sun Java APIを作成したSun の投資とは関係がないという点を指摘しています。著作権法は、創作された著作物をどのように操作するかを学ぶことについての第三者による投資を保護するものではなく、このような第三者であるプログラマーの投資を考慮すると、本件においてOracleの著作権行使を認めることは、公共の利益を害するおそれがあると判断したのです。
This source of Android’s profitability has much to do with third parties’ (say, programmers’) investment in Sun Java programs. It has correspondingly less to do with Sun’s investment in creating the Sun Java API. We have no reason to believe that the Copyright Act seeks to protect third parties’ investment in learning how to operate a created work.
Finally, given programmers’ investment in learning the Sun Java API, to allow enforcement of Oracle’s copyright here would risk harm to the public. Given the costs and difficulties of producing alternative APIs with similar appeal to programmers, allowing enforcement here would make of the Sun Java API’s declaring code a lock limiting the future creativity of new programs.
また、裁判所は、著作権がアイデアを創造し広める経済的インセンティブを与えるものであることを確認し、本件においてGoogleが行ったようなユーザーインターフェースの再実装(reimplementation)は、より市場に入りやすくするための新しいコンピューターコードの創造を促すものであると、積極的に評価しています。
After all, “copyright supplies the economic incentive to [both] create and disseminate ideas,” Harper & Row, 471 U. S., at 558, and the reimplementation of a user interface allows creative new computer code to more easily enter the market.
そして、結論として、アンドロイド市場におけるSun の競争力は不確かであること、Sun が逸失した収益の源、そして、創造性に関する公共の利益を害するリスクを総合的に考慮すると、市場への影響というフェアユースの第4要素は、フェアユースを肯定する方向に働くと判断しました。
The uncertain nature of Sun’s ability to compete in Android’s market place, the sources of its lost revenue, and the risk of creativity-related harms to the public, when taken together, convince that this fourth factor—market effects—also weighs in favor of fair use.
コメント
最後に、本判決についての個人的な見解を述べたいと思います。
本判決では、フェアユースの該当性判断にあたり、①Googleが複製を行った目的、すなわち、アンドロイド形式のスマートフォンの利用と有用性を拡充し、プログラマーが利用可能な新しいプラットフォームを構築するということ、及び、②declaration codeの性質、がポイントとなったと思います。
モバイルOS市場におけるアンドロイドのシェアは、2012年頃は約27%程度であったものが、2019年には約75%とシェアを大幅に拡大しているというデータもあり、Googleが生み出したアンドロイドプラットフォームは、本件提訴後10年余りの間に急激に成長し存在感を増したといえます。
したがって、上記①に関していえば、アンドロイドプラットフォームのモバイルフォンOS市場における成功や社会に与えてきた影響の大きさという「結果」が、少なからず、連邦最高裁判所のフェアユース肯定の方向での判断に影響を与えたのではないかと思います。
また、本件では、declaration codeの役割や用いられ方、他のプログラムの著作物との違いが指摘されており、その結果、declaration codeは著作権保護の核心からは離れているものであると判断され、フェアユース肯定の方向に働きました。しかし、何が「著作権保護の核心」であるのかについては、明確な基準があるわけではないので、今後、新しい技術が生み出されるたびに、利用された創作物が著作権保護の核心に近いものなのか、又は、核心から離れたものなのかが問題になってくるのだろうと思います。
フェアユース規定は、時代の要請や技術の発展などに柔軟に対応できる点で、便利でもあり、優れた制度であると思います。しかし、反面、本判決でもそうであるように、フェアユースの4要素の検討において考慮できる事情は幅広く、その結果、どちらの結論にも転び得るものといえます。
著作権を制限するフェアユース理論の問題点については、「予測可能性が低い」ということがよく言われています。連邦控訴裁判所(CAFC)の判断を覆してフェアユースを肯定し、GAFAの筆頭といえるGoogleの正当性を認めた本件。「fair use – 公正な利用」という言葉には力強さを感じますが、その内容については、4つの判断要素が規定されているとしてもやはり曖昧な部分が多く、そこがフェアユースの長所でもあり短所でもあると思います。
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(文責・小和田)
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