町野静本稿では、IPライセンスガイドラインのうち、第3章(独禁法上の問題点及び分析方法)の概略を説明します。

ポイント

骨子

  • ライセンスによる競争上の悪影響を検討するに当たっては、まず、ライセンスによって影響を受ける市場を特定します。
  • 知財ライセンスの場合も、原則として、独占禁止法違反の判断のほとんどの場合に適用される「合理の原則(rule of reason)」に従い判断がされます。

ライセンスにより影響を受ける市場の考え方

独占禁止法における「市場」とは

独占禁止法は市場における公正な競争を維持するための法律であるため、法適用に際しては、どのような市場の競争が阻害されているかを判断する必要があります。そこで、本ガイドラインでは、競争阻害効果の分析に先立ち、ライセンスによって影響を受ける市場についての考え方を示しています。

本ガイドラインにおける市場の考え方

本ガイドラインにおいては、通常、知的財産権の保有者がその保有技術の範囲内での競争を作り出すことを求められるものではないとされています。

しかしながら、ライセンスによって同業者間(潜在的な競合相手も含む)の競争に影響を与える場合(水平関係)、例えば、市場の分断や価格拘束を容易にする場合には、独占禁止法上の問題が生じ得、他の市場においても技術へのアクセスの制限や製品の価格上昇などの影響も与え得ます。

そして、こういった競争上の悪影響が懸念される場合、上記のとおり、行政機関は、通常、影響をうける1またはそれ以上の市場を特定することとなります。

知的財産権のライセンスに関して、本ガイドラインでは、ライセンス契約により受けうる市場を、製品市場(Goods Markets)、技術市場(Technology Markets)及び研究・開発市場(Research and Development Markets)の3つであるとした上で、それぞれの市場をどのように考えるかが示されています。

市場 考え方
製品市場 ライセンスを供与された知的財産権を製造において利用した最終製品または半製品の市場及び同市場の上流の市場
技術市場 ライセンスをされる知的財産権(技術)及びその密接代代替財(close substitute)の市場

※ある技術が、当該技術を用いた製品とは別個に取引される場合に問題となる。
研究・開発市場 商用化可能な製品の確定もしくは特定の新製品または改良製品または方法に向けられた製品や方法に関連する研究開発を構成する資産(及びその密接代替財)の市場

※製品市場や技術市場における分析で適切な評価がされないものの、ライセンスが新たな開発に悪影響を与える(すなわち、商品化の可能性や新しいサービスのイノベーションのための研究や競争相手のいない地域での製品開発や改良に影響を与える)場合に問題となる。

水平関係及び垂直関係

米国の独占禁止法に関するガイドラインなどでは、「水平関係(horizontal relationship)」、「垂直関係(vertical relationship)」ということ言葉をよく目にします。水平関係とは競争関係にあること、垂直関係は、取引の段階を異にする当事者間の関係を指します。知的財産権が関連する場合に限らず、独占禁止法上の分析においては、当事者間の関係が水平的か垂直的か、またはその双方を持つのかをまず検討することになります。

もっとも、ライセンサーとライセンシーとの間に水平的な関係があるそれ自体が、ライセンサー・ライセンシー間の取り組みが非競争的なものであると示唆するものではなく、逆に、純粋な垂直関係にあるからといって反競争的な効果があることを保証するものではありません。両者がどういった関係にあるのかは、ライセンスにより反競争的な効果があるかどうかを判断する際の一助となるに過ぎないものです。

ライセンスによる拘束を評価する枠組み

ライセンスによる拘束を独禁法上評価する際には、ほぼ全てのケースにおいて、「合理の原則」が用いられます。合理の原則とはアメリカの判例法上の規範です。

同原則においては、まず、①知的財産権のライセンスにおける拘束が反競争的な効果を持つかを検討します。そのような拘束が存在すると判断された場合、次に、②当該取り組みが反競争的効果に勝る競争促進的な利益を達成するために合理的に必要なのかを検討します。①で反競争的な効果があるとされ、更に、②で合理性が否定されて始めて独占禁止法違反であると判断されることになるのです。

ただし、価格協定、生産量の制限及び水平関係の競業者による市場の分断のように、行為の性質上「当然違法(per se illegal)」と判断されるケースもあります。

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(文責・町野)

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