知的財産高等裁判所第2部(森義之裁判長)は、本年(令和元年)10月10日、非純正品を販売するウェブサイトに用いられている「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」の記載における「タカギ社製」の表示について、東京地裁の判決を変更し、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると判示しました。
ポイント
骨子
- ウェブサイト上の「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」という記載中の「タカギ社製」について、家庭用浄水器の交換用カートリッジである被告商品の商品等表示として使用されていると認められた
- 不正競争防止法5条2項における推定の覆滅については、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と周知な商品等表示の主体が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たるとされた
判決概要
裁判所 | 知的財産高等裁判所第2部 |
---|---|
判決言渡日 | 令和元年10月10日 |
事件番号 | 平成30年(ネ)第10064号(本訴) 平成31年(ネ)第10025号(附帯控訴) |
事件名 | 商標権侵害行為差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件 |
原審 | 東京地方裁判所平成29年(ワ)第14637号 |
裁判官 | 裁判長裁判官 森 義之 裁判官 眞鍋 美穂子 裁判官 熊谷 大輔 |
解説
商品等表示とは
不正競争防止法は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用して、誤認混同を生じさせる行為が不正競争行為にあたるとして規制しています(不正競争防止法2条1項1号)。具体的には、商品等表示の主体は、かかる行為を行った者に対し、差止めや損害賠償請求ができると規定しています(同法3条、4条)。
ここでいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいいます。従って、用途や内容を表示するにとどまる場合など、商品または営業の主体を表示するものとは言えない態様の場合は、商品等表示には当たらないということになります。
【不正競争防止法2条1項1号】
他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為。
誤認混同とは
不正競争防止法2条1項1号に該当するというためには、商品等表示の使用行為が、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」であることも要件となります。混同は、判例上、現実に発生している必要なく、混同のおそれがあれば足り、その判断は一般人を基準とするものと解されています。
推定の覆滅とは
不正競争防止法5条2項において、不正競争によって侵害を受けた場合の損害額につき、その立証を容易にするため、侵害者が侵害行為によって得た利益を損害の額と推定することが規定されています。これにより、損害賠償を請求する側が相手方の利益の額を立証すれば、推定を覆されない限り、その利益の額の賠償を受けることができるということになります。
【不正競争防止法5条2項】
不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。
事案の概要
本件は、浄水器及びその交換用カートリッジ等の製造販売を行う原告が、原告製品にのみ使用できる非純正交換用ろ過カートリッジを販売していた被告グレイスランド、被告好友印刷及びこれら2社の代表者であるAに対し、商標権侵害及び不正競争防止法違反に基づき、被告標章の使用差止め(被告グレイスランドに対し)と損害賠償(全被告に対し)を求めた訴訟です。
原審は、「【楽天市場】タカギ」(被告標章1)又は「タカギ」(被告標章2)の平成29年3月22日までの表示については商品等表示の使用に該当するとしたものの、その他の使用及び「タカギ社製」(被告標章3)を含む記載については、一連の呼びかけともいえる文言であると受け取れるものであるとして商品等表示の使用には当たらないとしました。
上記判決に対し、一審原告がこれを不服として控訴をし、これに対し一審被告らも敗訴部分について控訴した事件が本件です。主な争点は、①「【楽天市場】タカギ」(被告標章1)又は「タカギ」(被告標章2)の平成29年3月22日以降の商品等表示としての使用の該当性、➁「タカギ社製」(被告標章3)の商品等表示としての使用の該当性、③被告代表者個人の損害賠償責任、④損害額の4点です。
なお、原判決の内容については、こちらの記事もご参照下さい。
判旨
商品等表示性について
本判決は、以下の通り、「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」という記載中の「タカギ社製」(被告標章3)について、商品等表示として使用されたものと判断しました。
被告標章3である「タカギ社製」は,それが修飾する商品が「タカギ社」の製造に係るものであること,すなわち,当該商品が一審原告の出所に係ることを示す語句であるといえる。そして,被告標章3(タカギ社製)を含む本件記載2は,「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」と3段に分けて記載されているものであって,文章の内容だけからしても,「タカギ社製」が,「浄水蛇口」ではなく,「交換用カートリッジ」を修飾していると理解することが可能なものである。また,前提事実(6)のとおり,本件記載2の上方及び下方の2か所に,本件記載2より明らかに大きなサイズの文字で,より目立つように「交換用カートリッジ」,「交換用カートリッジ ついに発売!!」などと表示され,かつ,交換用のカートリッジそのものである被告商品の写真画像も併せて表示されているから,それらの表示に接した需要者は,冒頭に独立して記載された「タカギ社製」の文字を,カートリッジに結びつけて理解しやすいといえる。
以上に加えて,前記2で検討したとおり,被告標章3(タカギ社製)の要部であるタカギの文字部分が家庭用浄水器及びその関連商品の需要者の間で周知なものであること並びに需要者の注意力がそれほど高くないことといった事情も併せ考えると,需要者が,本件記載2の中で独立して最上段に記載されている「タカギ社製」が,本件記載2中の「交換用カートリッジ」を修飾する語句であると理解することは十分にあり得るものと認められる。
そうすると,本件記載2中の被告標章3(タカギ社製)は,被告商品について,商品等表示として使用されているものと認められる。
なお、本判決は、原審において被告標章3を含む記載につき一連の呼びかけともいえる文言であると受け取れるものであるとした点、及び被告標章3(「タカギ社製」)は「浄水蛇口」を修飾するとする被告の主張について、以下のとおり、考え方を示して排斥しています。
一審被告らは,①本件記載2が一連の呼びかけといえる文言であること,②本件記載2の2行目が「浄水蛇口」から始まり,かつ「浄水蛇口」の次に「の」という助詞が付されていることからすると,需要者は,被告標章3(タカギ社製)は「浄水蛇口」を修飾するものとして理解すると主張する。しかし,上記①について,本件記載2が呼びかけといえる文言であるからといって,被告標章3が商品等表示として使用されていないということにはならないし,上記②についても,一審被告らの主張する事情を考慮しても,上記アのとおり,需要者が,被告標章3(タカギ社製)が「交換用カートリッジ」を修飾する語句であると理解することは十分にあり得るということができるから,一審被告らの上記主張は採用することができない。
混同について
本判決は、原審と同様に、不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる」とは、従前の判例と同様、混同を生じさせるおそれがあることをもって足りるとの基準を示したうえで、被告標章3の使用は、原告の商品又は営業との間に混同を生じさせるおそれがあると認定しました。
被告標章3の使用行為についても,前記4(2)アで検討した使用態様に加えて,証拠(甲75)によると,パソコン等の設定によっては,被告標章3が表示されている部分と同一画面内に打ち消し表示が一切現れない場合がある(なお,本件記載2の上部に「GRACELAND」という表示がされているが,これは,それ自体では何の表示か明らかではないから,打ち消し表示として機能しているとは認められない。)ことからすると,需要者をして,被告商品を一審原告の製品と混同させるおそれがあるものと認められる
なお、需要者は被告商品が一審原告の製品とは異なるものであることを示す表示(打ち消し表示)に接することができるから混同の恐れは生じないとする一審被告の主張に関しては、下記の通り、その存在によって混同の恐れが生じなくなるものとは言えないと認定しました。
パソコンの設定等によっては,画面をスクロールしたり,別画面に移ったりすることによって表示されるものである上,①被告商品がそれほど高額なものではない上,被告ウェブサイトには被告商品の品質・性能・取付方法についての記載など多くの情報が盛り込まれているから,一般消費者の需要者が注意深く被告ウェブサイトの記載を読んで被告商品が一審原告の製品と異なるものであることを示す表示を認識するとは限らないこと,②一審被告らのいう打ち消し表示に接しているはずの複数の需要者が,被告商品を一審原告の製品であると実際に誤認混同していた上,誤認混同したが,相談やクレームに至らないケースもあると推認されることなどを考え併せると,一審被告らのいう打ち消し表示の存在によって混同のおそれが生じなくなるものとはいえない。
推定の覆滅について
本判決は、不競法5条2項における推定の覆滅について「侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と周知な商品等表示の主体が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。」としたうえで、被告標章1~3のうち、被告標章1及び2が商品等表示として使用されなくなった時点以降について、下記の通り判示し、5割の推定の覆滅を認めました。
平成29年3月23日以降,被告ウェブページ並びにそのタイトルタグ及びメタタグにおいて,被告標章1及び2は,商品等表示としては使用されておらず,前記4(2)アのとおり,被告標章3が被告ウェブページ1~6及び被告ウェブサイト2において商品等表示として使用されたのみであるから,本件不競法該当行為とは無関係に被告標章を購入した者も一定数存在したものと認められ,一定の推定の覆滅を認めることができる。その割合はこれまで認定した諸般の事情に照らすと,5割と認めるのが相当である。
結論
以上により、裁判所は、被告グレイスランドによる各被告標章の使用は、原審で否定された被告標章3の使用も含め不正競争防止法2条1項1号に該当するとし、また、原審では否定された代表者Aに対する個人又は代表者としての損害賠償責任についても、自ら意思決定をしていたものと推認できるとして共同不法行為に基づく責任を認め、被告グレイスランド、被告好友印刷(被告グレイスランドと代表者を同じくし、ウェブサイトの制作を担当)及び両者の代表者Aに対し損害賠償を命じました。もっとも損害額については5割の推定の覆滅を認めています。
なお、差止請求についての控訴については原審と同様棄却されました。
コメント
本判決は、「タカギ社製 浄水蛇口の交換用カートリッジを お探しのお客様へ」の記載における「タカギ社製」の表示が出所を示す語句であり、かつ、文字の大きさや配置などを考慮要素として、「タカギ社製」が「交換用カートリッジ」を修飾する語句であると需要者が理解することは十分にあり得るとして、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると判断しました。商品等表示に該当するかの判断において参考になるものと思われます。
本記事に関するお問い合わせはこちらから。
(文責・秦野)
- 投稿タグ
- タカギ製交換用カートリッジ, 不正競争行為差止等事件, 商品等表示, 商標・不正競争防止法, 推定の覆滅, 混同, 知的財産高等裁判所