東京地方裁判所民事第46部(柴田義明裁判長)は、平成30年7月26日、非純正品を販売するウェブサイトに用いられている「タカギ 取付互換性のある交換用カートリッジ・・・」等のタイトルタグ・メタタグにおける「タカギ」等の表示が、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当するとして、損害賠償請求を認容する判決を言い渡しました。
ポイント
骨子
- 「タカギ 取付互換性のある交換用カートリッジ・・・」等のタイトルタグ・メタタグにおける「タカギ」等の表示は、タイトルタグ・メタタグの末尾に「※当製品はメーカー純正品ではございません。ご確認の上、お買い求めください。」等と記載されていたとしても、需要者は全ての記載を注意深く観察しない可能性が相当程度あること等から、商品等表示に該当する。
- 「タカギに使用出来る取り付け互換性のある交換用カートリッジ・・・」「タカギの浄水器に使用できる、取付け互換性のある交換用カートリッジ・・・」等のタイトルタグ・メタタグについては、商品内容を説明するまとまりのある文章が表示されているものであり、上記タイトルタグ・メタタグにおける「タカギ」等の表示は、当該商品の出所自体を表示するものであるとは受け取ることができないから、商品等表示に該当しない。
判決概要(審決概要など)
裁判所 | 東京地方裁判所民事第46部 |
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判決言渡日 | 平成30年7月26日 |
事件番号 | 平成29年(ワ)第14637号 |
原告表示 | 「タカギ」 |
被告標章 | 1 「【楽天市場】タカギ」 2 「タカギ」 3 「タカギ社製」 |
当事者 | 原告 株式会社タカギ 被告 合同会社グレイスランド 株式会社好友印刷 A(上記2社の代表者) |
裁判官 | 裁判長裁判官 柴 田 義 明 裁判官 佐 藤 雅 浩 裁判官 大 下 良 仁 |
解説
商品等表示とは
不正競争防止法は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用して、混同を生じさせる行為を「不正競争」の一つと定め(不正競争防止法2条1項1号)、そのような行為に対して、差止めや損害賠償請求ができると規定しています(同法3条、4条)。
ここでいう「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいいます。
そのため、他人の周知な商品等表示が記載されていても、それが商品又は営業を表示するもの(出所を表示するもの)といえないような場合(例えば説明的記述等)は、商品等表示性を欠き、不正競争には該当しないと解されています。
【不正競争防止法2条1項1号】
他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為。
タイトルタグ・メタタグと商品等表示
タイトルタグとは、ウェブページのタイトルを記述するhtmlタグであり、検索エンジンでの検査結果のタイトルや、ブラウザのタブに表示されます。
メタタグとは、ウェブページの概要を伝えるhtmlタグであり、検索エンジンの検索結果のタイトルの下に表示されます。
これらのタグは、htmlファイルに記載されると、検索結果等に表示され、需要者が目にすることとなるため、商品等表示になり得るとされています。
過去の裁判例でも、東京地裁平成27年1月29日IKEA事件判決において、タイトルタグ・メタタグの記載が役務の広告にあたるとして、商品等表示性が肯定されています(そのほか、メタタグの記載が商標権侵害に該当するとした、大阪地裁平成17年12月26日くるまの110番事件判決 があります)。
誤認混同とは
不正競争防止法2条1項1号に該当するというためには、商品等表示の使用行為が、「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」であることも要件となります。ここでいう混同とは、判例上、現実の混同までは必要なく、混同のおそれがあれば足りると解されています。
事案の概要
本件は、浄水器及びその交換用カートリッジ等の製造販売を行う原告が、原告製品にのみ使用できる非純正交換用ろ過カートリッジを販売していた被告グレイスランド、被告好友印刷及びこれら2社の代表者であるAに対し、商標権侵害及び不正競争防止法違反に基づき、被告標章の使用差止め(被告グレイスランドに対し)と損害賠償(全被告に対し)を求めた訴訟です。
なお、裁判所は、不正競争防止法違反を認定したことにより商標権侵害の成否については判断していないため、本稿でも不正競争防止法違反について取り上げます。
原告の表示の周知性、被告標章との類似性
本判決は、原告の「タカギ」という表示(原告表示)について、原告は蛇口一体型浄水器市場の販売シェアでは2位以下に大差をつけて全国1位であったこと等から、日本国内全域において、著名とまでは言えないものの周知性を有していると判断しました。
また、被告グレイスランドの「【楽天市場】タカギ」(被告標章1)「タカギ」(被告標章2)「タカギ社製」(被告標章3)の各標章は、いずれも原告表示と要部において称呼、観念及び外観が一致するとして、類似であると認めました。
商品等表示性
本判決は、以下のとおり、「【楽天市場】タカギ」(被告標章1)又は「タカギ」(被告標章2)の平成29年3月22日までの表示については、商品等表示として使用されたものと判断しました。
平成28年11月15日から平成29年3月22日までの間,タイトルタグ及びメタタグの記載によって,検索結果を表示するウェブサイトにおいて,タイトルとして被告標章1又は2が表示され,その後に空白部分があり,さらにその後に商品の品名が表示されたり,説明として被告標章2が表示され,その後に空白部分があり,さらにその後に商品の品名や説明が表示されたりした。このような態様での被告標章1及び2の使用は,写真や品名で説明される商品の出所を示すものであると認めることが相当である。そして,タイトルタグやメタタグにおける記載によって,ウェブサイトにおいて上記のような表示がされ,同サイトを閲覧した者もその表示を見ることができることに照らすと,タイトルタグやメタタグにおいて,被告標章1及び2は,商品を表示する商品等表示として使用(不競法2条1項1号)されたものと認められる。
さらに、本判決は、以下のとおり、タイトルタグ・メタタグの末尾に「※当製品はメーカー純正品ではございません。ご確認の上、お買い求めください。」等と記載されていたとしても、商品等表示性を否定するものではないと判示しました。
これに対し,被告らは,「取付互換性のある交換用カートリッジ」,「当製品はメーカー純正品ではございません」等といった表示があることや被告ウェブページ上における被告商品の外観写真が原告の純正品とは異なるものであることなどを挙げて,タイトルタグ,メタタグ,被告ウェブページにおいて,被告標章1及び2は商品の出所を表示するものとして使用されていない旨主張する。
しかし,上記のとおり,被告標章1及び2の後に空白部分があり,さらにその後に商品の品名等が記載されているという表示の態様,「互換性」という用語は製造販売者が同じ商品間でも用いられること(甲46),検索結果の表示画面において表示される内容やそこでの説明の文字の大きさ,当該商品の性質やウェブページでの表示であることに鑑み需要者は全ての記載を注意深く観察しない可能性が相当程度あることなどに照らし,被告らの主張は採用することができない。
他方で、「タカギに~」「タカギの~」といった表示に変更された後については、商品等表示として使用されたものとはいえないと判断しました。
平成29年3月23日以降,タイトルタグ及びメタタグの記載によって,検索結果を示すウェブサイトに上記のとおりの表示がされ,また,ウェブサイトによっては,検索結果の表示画面に別紙1-2,1-3,1-4のメタタグ欄記載の説明が表示されることになったと推認されるが,それらにおいては,いずれも「タカギ」というカタカナ3文字の後に「に」又は「の」という助詞が付加され,当該商品が原告商品に対応するものであるという,商品内容を説明するまとまりのある文章が表示されている。そして,このような表示内容に照らせば,需要者が上記の表示に接した場合には,それらにおける「タカギ」との表示は,当該商品が対応する商品を示すものであると受け取り,当該商品自体の出所を表示するものであると受け取ることはないと認められる。そうすると,平成29年3月23日以降のタイトルタグ及びメタタグにおいて,被告標章1及び2は不競法2条1項1号にいう商品等表示として使用されたものとはいえない。
「タカギ社製」(被告標章3)については、全体として一連の呼びかけともいえる文言であると自然に受け取れるものであり、商品の出所を表示するものとして使用されたとは認められないとして、商品等表示性を否定しました。
被告ウェブページには平成28年11月1日以降(被告ウェブページ5及び6については平成29年4月24日以降)現在に至るまで,被告標章3の「タカギ社製」の文字,「浄水蛇口の交換カートリッジを」の文字及び「お探しの皆さまへ」の文字が行頭を揃えて改行されて表示されていること,その表示より下部の画面には「待望の交換用浄水カートリッジ ついに発売!!」等の表示がされていることの各事実が認められる。
そして,「タカギ社製」の文字から始まる表示は,その表示の態様から,全体として「タカギ社製浄水蛇口の交換カートリッジをお探しの皆さまへ」という一連の呼びかけともいえる文言であると自然に受け取れるものであり,それは,その下の表示等によっても裏付けられる。したがって,被告ウェブページにおいて,上記の「タカギ社製」との被告標章3は,商品の出所を表示するものとして使用されたとは認められない。
混同
本判決は、以下のとおり、不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる」とは、従前の判例と同様、混同を生じさせるおそれがあることをもって足りるとの基準を示しました。
不競法2条1項1号の混同を生じさせるか否かは,商品等表示の使用方法や態様等といった具体的事情を基にして,一般的な需要者が普通に払う注意を基準として判断されるべきであり,また,現実に混同が生じることまでは必要でなく,実際に商品等を購入する時点で需要者に混同を生じさせるおそれがあることをもって足りると解するのが相当である。
その上で、被告グレイスランドによる各被告標章の使用は、原告の商品又は営業との間に混同を生じさせるものであると認定しました。
ショッピングモール内の検索結果を表示するウェブサイトにおいて,被告商品の写真の横に,タイトルとして上記で説示のとおり全国的に周知性が認められている本件カタカナ表示が表示され,その後に空白部分があり,さらにその後に商品の品名等が表示される一方で,原告製品でないことを示す説明は表示されなかった。一般の検索結果の表示画面においても,タイトルにおいては,本件カタカナ表示の後に空白部分があり,その後,商品の品名等が表示される一方,原告製品でないことを示す説明は表示されず,メーカー純正品でないとの説明の文字の大きさはタイトルより小さかった。そのような検索結果の表示画面に接した需要者は,被告商品に対する被告標章1及び2の使用によってその出所の混同を生じるおそれがあると認められる。
また,被告ウェブページの記載は, 前期事実(7)のとおり,本件カタカナ表示の後に空白部分があり,その後,商品の品名等が表示されるものであった。家庭で日常的に使用されるという当該商品の性質などに照らせば,需要者はウェブページの表示の全ての記載を注意深く観察しない可能性も相当程度ある。そして,インターネット上のショッピングモールの店舗において販売されるという被告商品の販売方法に照らせば,検索結果の表示画面を経由して被告商品の購入を考え,被告ウェブページを閲覧するに至る者が相当数存在すると考えられる。上記のとおり,検索結果の表示画面に接した需要者は,被告商品に対する被告標章1及び2の使用によってその出所の混同を生じるおそれがあると認められるところ,特に,そのような検索結果の表示画面を介して被告ウェブページを閲覧するに至った需要者は,被告ウェブページに上記表示があることを見た場合,被告ウェブページに被告商品が原告の純正品でないことの記載等があるとしても,上記の誤認を解消しないおそれがある。 ウのとおり,被告商品を原告の純正品であると誤認した顧客数名が原告に対して相談やクレームを入れており,また,それらを誤認したが相談ないしクレームには至らないケースもあると推認される。
結論
以上により、裁判所は、被告グレイスランドによる各被告標章の使用は不正競争防止法2条1項1号に該当するとして、被告グレイスランド及び被告好友印刷(被告グレイスランドと代表者を同じくし、ウェブサイトの制作を担当)に対する損害賠償を認容しました。
他方で、代表者Aに対する個人又は代表者としての損害賠償責任は否定されました。
また、差止請求については、既に不正競争防止法に違反しない形に表示が修正されていることから、棄却されました。
コメント
本判決では、「タカギ 取付互換性のある交換用カートリッジ・・・」等のタイトルタグ・メタタグにおける「タカギ」等の表示が商品等表示に該当するとされた一方、「タカギに使用出来る取り付け互換性のある交換用カートリッジ・・・」「タカギの浄水器に使用できる、取付け互換性のある交換用カートリッジ・・・」等のタイトルタグ・メタタグにおける「タカギ」等の表示については、商品等表示に該当しないと判断されました。
商品の出所を表示するものか、単なる説明に過ぎないのかの判断に関し、今後の参考になるものと思われます。
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(文責・藤田)