知的財産高等裁判所第3部(鶴岡稔彦裁判長)は、本年(令和元年)10月23日、ケーブルテレビ事業者がテレビ放送事業者から著作権等の管理の委託を受けた著作権等管理事業者の著作権・著作隣接権を侵害した事案において、運用されていない使用料規程に基づく損害計算を否定し、現実に当該著作権等管理事業者とケーブルテレビ事業者の間の使用料を規律している合意に基づき、その1.5倍の額を損害と認定する判決をしました。

現実に適用されない使用料規程に基づく損害計算を排除した点では、損害額に関する差額説に整合的な考え方を示したものと思われますが、平成12年改正著作権法114条3項の趣旨を考慮し、事実認定において、通常のライセンス料相当額よりも大きな額の損害を認定した点で参考になるものと思われます。

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ポイント

骨子

  • 被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された同時再放送に係る利用許諾契約の内容,控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実を考慮すると,上記利用許諾契約の締結に当たり適用された実績が全くない,本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」・・・又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合」・・・が,著作権法114条4項の「使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」に該当するものとは認めらない。
  • 同条3項は,著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者,著作隣接権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また,同項所定の「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」については,平成12年法律第56号による改正前は「その著作権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。そして,かかる法改正の経緯に照らせば,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,これらの権利の行使につき受けるべき金銭の額は,通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
  • これを本件についてみると,・・・被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額,控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて,控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での利用に対し受けるべき金銭の額は,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約)をベースとし,そこに定められた額を約1.5倍した額・・・を下らないものと認めるのが相当である。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第3部
判決言渡日 令和元年10月23日
事件番号 平成31年(ネ)第10018号
事件名 損害賠償請求控訴事件
原審 東京地方裁判所平成28年(ワ)第28925号、平成29年(ワ)第17021号
裁判官 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官    上田卓哉
裁判官    山門 優

 

解説

著作隣接権とは

映画の著作物についての例外を除くと、著作権が、著作者、すなわち、著作物を創作した者に与えられる権利であるのに対し、著作隣接権は、著作物を伝達し、媒介する者に与えられる権利をいいます。

我が国の著作権法は、以下の4者に著作隣接権を付与しています。

  • 実演家(俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者)
  • レコード製作者(レコードに固定されている音を最初に固定した者)
  • 放送事業者(放送を業として行う者。テレビ放送の事業者などがこれにあたります。)
  • 有線放送事業者(有線放送を業として行う者。ケーブルテレビの事業者などがこれにあたります。)

著作権法は、著作隣接権者の種別ごとに与えられる具体的な権利の内容を規定しています。

有線放送権とは

著作権法は、「公衆送信」を「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信・・・を行うことをいう」と定義し、「有線放送」を「公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいう」と定義しています。

つまり、「有線放送」は、著作権法上「公衆送信」の一種に位置付けられており、ケーブルテレビの送信は、その1類型にあたります。

ここで、著作権法23条は、著作者が、公衆送信の権利を専有する旨規定しています。そのため、ケーブルテレビの放送事業者が、テレビ放送事業者が著作権を有する著作物の放送を受信し、有線放送する場合、テレビ放送事業者の許諾を得なければ、著作権侵害となります。

(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(略)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

また、著作権法99条1項は、以下のとおり、放送事業者が、放送を受信してこれを再放送し、または有線放送する権利を専有する旨規定しています。そのため、テレビ放送を受信してこれをケーブルテレビで放送するためには、テレビ放送の事業者から、許諾を得なければならず、ケーブルテレビの事業者が許諾なしにこれをしたときは、著作隣接権の侵害となります。

(再放送権及び有線放送権)
第九十九条 放送事業者は、その放送を受信してこれを再放送し、又は有線放送する権利を専有する。

著作権等侵害による損害の額の推定等

動産などの有体物が棄損されて修理費等が生じる場合と異なり、著作権や著作隣接権の侵害によって生じた具体的な損害の額を証明することには大きな困難が伴います。そのため、著作権法は、特許法などの他の知的財産法制と同様、損害の推定等に関する規定を設けています。

具体的には、著作権法114条は、以下のとおり、①侵害者が譲渡、送信した著作物の数量と著作権者の利益率を基礎に損害を算定すること(1項)、②侵害者が得た利益をもって損害と推定すること(2項)、③ライセンス料相当額をもって損害とみなすこと(3項)、を認めています。

(損害の額の推定等)
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2 著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
3 著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。

さらに、同条5項は、上記の3つのルールによって算出された損害よりも大きな損害額が証明されたときは、そのような損害額の請求をすることを認めています。ただし、この場合、裁判所は、侵害者に故意または重大な過失がなかった場合、損害算定においてそのような事実を考慮することができます。

(損害の額の推定等)
第百十四条 (略)
5 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

平成12年改正と著作権法114条3項

上述のとおり、著作権法114条3項は、ライセンス料相当額を損害とみなすことを認めていますが、この規定は、かつて、損害とみなすことのできる額を、「その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と規定していました。しかし、「通常」のライセンス料だと、適法にライセンスを受けた人も、無断で利用した人も、支払うべき額は同じになるため、ライセンス交渉する必要がなく、また、権利者がライセンスしたくないものまで利用できる分、侵害した方が得になってしまいます。

そこで、平成12年の改正により「通常」の文言が削除され、現在の文言になりました。このような法改正の経緯によれば、現在の114条3項は、適法にライセンスを受けた場合よりも高額のライセンス料を損害額とみなすことを許容したものと解されます。

著作権等管理事業者とは

著作権等管理事業者とは、著作権者または著作隣接権者から、著作権や著作隣接権の信託または委任を受けて、これらを管理するもののことをいいます。代表的な著作権等管理事業者としては、一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が挙げられます。

著作権等管理事業者は、使用料規程を定め、文化庁長官に届け出なければなりません(著作権等管理事業法13条1項)。

著作権等管理事業者の損害

著作権法114条4項は、以下のとおり、同条3項に基づくライセンス料相当額の損害を認定するに場合に、権利者が著作権等管理事業法に基づいて著作権等を管理しているときは、著作権等管理事業者の使用料規程に基づく使用料相当額を損害額とすることができ、また、使用料規程に複数の算出方法があるときは、最も高い額を損害額とすることができることを規定しています。

(損害の額の推定等)
第百十四条 (略)
4 著作権者又は著作隣接権者は、前項の規定によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し損害の賠償を請求する場合において、その著作権又は著作隣接権が著作権等管理事業法(平成十二年法律第百三十一号)第二条第一項に規定する管理委託契約に基づき同条第三項に規定する著作権等管理事業者が管理するものであるときは、当該著作権等管理事業者が定める同法第十三条第一項に規定する使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定により算出したその著作権又は著作隣接権に係る著作物等の使用料の額(当該額の算出方法が複数あるときは、当該複数の算出方法によりそれぞれ算出した額のうち最も高い額)をもつて、前項に規定する金銭の額とすることができる。

事案の概要

本件の控訴人(被告)は、ケーブルテレビ連盟に加盟するケーブルテレビの事業者で、昭和63年の設立以来、毎日放送他6社から同意を得て地上テレビジョン放送の有線テレビジョン放送による同時再放送を行っていましたが、従来、地上テレビジョン放送の放送事業者各社から特に対価の支払いは求められていませんでした。

他方、被控訴人(原告)は、平成25年4月に設立された著作権等管理事業法上の著作権等管理事業者で、地上テレビジョン放送の放送事業者各社から、地上テレビジョン放送の有線テレビジョン放送による同時再放送につき、管理の委託を受けることとなりました。これに伴い、被控訴人は、使用料規程(「本件使用料規程」)を定め、文化庁長官に届出をしています。

被控訴人は、ケーブルテレビ連盟との間で、本件使用料規程に基づきケーブルテレビ各社が支払うべき使用料について交渉をし、一定の合意(「本件基本合意」)を締結しました。本件基本合意には、本件使用料規程に対し、一定の減額措置の定めがあり、実際の運用においては、常に本件基本合意に基づく減額措置が適用され、本件使用料規程の計算がそのまま適用されたことはありませんでした。

控訴人は、ケーブルテレビ連盟に委任状を提出していなかったため、被控訴人との間で個別に使用料について交渉を続けてきました。しかし、両者の考えの隔たりは大きく、合意に至らなかったため、被控訴人が、有線放送権の侵害を理由に控訴人を訴えたのが本訴訟です。

本訴訟の争点は多岐にわたりますが、損害額の認定に関し、被控訴人は、著作権法114条4項に基づき、本件使用料規程による最も高い額が認定されるべきとの主張をしたのに対し、控訴人は、これまでに成立した利用許諾契約では、本件基本合意に基づく減額がなされており、本件使用料規程による使用料は適用されていないから、損害計算においても考慮されるべきでないと主張していました。

判旨

判決は、まず、以下のとおり述べ、本件の事実関係のもとでは、適用実績のない本件使用料規程の定めには、著作権法114条4項の適用はなく、本件基本合意による減額のない本件使用料規程に基づく損害計算は否定しました。

被控訴人とケーブルテレビ事業者との間で締結された同時再放送に係る利用許諾契約の内容,控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実を考慮すると,上記利用許諾契約の締結に当たり適用された実績が全くない,本件使用料規程の「年間の包括的利用許諾契約によらない場合」(3条⑵)又は「年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合」(3条⑴)が,著作権法114条4項の「使用料規程のうちその侵害の行為に係る著作物等の利用の態様について適用されるべき規定」に該当するものとは認めらない。

続いて、判決は、平成12年の著作権改正の趣旨について以下のとおり述べ、著作権法114条3項によって認められるライセンス料相当額は、侵害行為後に定められるものであることから、通常のライセンス契約による場合と比較して高額になるであろうことを考慮すべきと述べています。

同条3項は,著作権及び著作隣接権侵害の際に著作権者,著作隣接権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。また,同項所定の「その著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」については,平成12年法律第56号による改正前は「その著作権又は著作隣接権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。そして,かかる法改正の経緯に照らせば,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,これらの権利の行使につき受けるべき金銭の額は,通常の利用許諾契約の使用料に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。

以上を前提に、判決は、本件では、被控訴人とケーブルテレビ事業者の間の使用料を現実に規律している本件基本合意の規定を基礎としつつ、その1.5倍の額を損害額と認定しました。

これを本件についてみると,前記イ(ア)の被控訴人とケーブルテレビ事業者との間の同時再放送に係る実際の利用許諾契約における使用料の額,控訴人による本件有線放送権の利用の態様等の事実に加えて,控訴人と被控訴人の間の再放送同意に係る利用許諾契約に関する交渉経緯など,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,著作権及び著作隣接権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での利用に対し受けるべき金銭の額は,被控訴人とケーブルテレビ事業者との間における再放送使用料を現実に規律していると認められる本件基本合意及び本件使用料一覧(2者契約)をベースとし,そこに定められた額を約1.5倍した額である,区域内再放送につき1世帯1ch当たり年額36円及び区域外再放送につき1世帯1ch当たり年額180円とし,平成26年度についてはその半額を下らないものと認めるのが相当である。

コメント

判決は、著作権法114条4項の文言にかかわらず、現実に適用されない使用料規程に基づく損害計算を排除しましたが、この点では、損害額に関する差額説の考え方に沿った判断を示したものと思われます。

他方、判決は、平成12年改正著作権法114条3項の趣旨を考慮し、事実認定において、通常のライセンス料相当額よりも大きな額の損害を認定しています。1.5倍という数字に具体的な根拠があるわけではありませんが、このような認定手法は実務上参考になるものと思われます。

(文責・飯島)