公正取引委員会、中小企業庁、特許庁は、令和8年6月24日、「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」(以下「本指針」といいます。)を公表しました。
本指針は、取引の中で行われる知的財産権等の不当な吸い上げ等に関し、全業種を対象とした包括的かつ横断的な考え方を示すことを目的とした指針であり、独占禁止法上の優越的地位の濫用、取適法、フリーランス法といった法律面にも言及しています。
本指針については、前編においてその総論的紹介等を行いました。本稿では、知的財産権等の価値の適切な評価、及びその他の行為類型(出願干渉、知財訴訟等のリスク転嫁、共同研究開発等)に関する本指針の内容を紹介します。
ポイント
- 知的財産権の価値の適切な評価については、取引の目的である成果物とそれに関連する知的財産権等の対価との区分等についてあるべき姿が示され、場合によっては、独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法・フリーランス法に基づき問題となるおそれがあることが指摘されている。もっとも、両対価を必ずしも明示的に区分しなければならないものではないことも示されている。
- 知財訴訟等のリスク転嫁については、発注者の指示に基づく業務についての第三者との間に生じる知的財産権上の責任や、発注者が希望する目的物において第三者が有する知的財産権を侵害しないことの保証に係る責任の所在について、中小企業庁ガイドラインに類似したあるべき姿が示され、場合によっては、独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法・フリーランス法に基づき問題となるおそれがあることが指摘されている。
- 共同研究開発等については、共同研究開発によって得られた成果の帰属についてあるべき姿が示され、場合によっては、独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法・フリーランス法に基づき問題となるおそれがあることが指摘されている。
解説
以下本稿では、本指針の「第2 知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引に関する考え方」のうち「2 知的財産権等の価値の適切な評価」、及び「3 その他の行為類型」に含まれる出願干渉、知財訴訟等のリスク転嫁、共同研究開発等について紹介します。
なお、本稿における用語の定義は前編と同様とします。本稿に頻出する「中小企業庁ガイドライン」は前編に記載のとおり、知的財産取引に関するガイドラインを指しています。
知的財産権の価値の適切な評価
基本的な考え方
本指針は、知的財産権等の価値の適切な評価の基本的な考え方として、以下のとおり【あるべき姿】を示し、受注者が創出した知的財産権等の提供を受けるに当たっては適切な対価を決定すべきことを述べています(本指針28頁)。
【あるべき姿】
・受注者において創出した知的財産権等について、無償で又は相応の対価を支払うことなく、譲渡・許諾等(以下「提供」という。)を強要しないこと。
・受注者において創出した知的財産権等の提供を受けるに当たっては、その創出に要した費用や将来的な利益等も考慮し、その価値を適切に評価した上で対価を決定すること。
これを踏まえて本指針は、「ア 対価設定の選択肢の拡充」として、以下のとおり【あるべき姿】を示し、発注者及び受注者間で十分な協議を行うことを求めています(本指針28頁)。
【あるべき姿】
・受注者から知的財産権等の取引形態や対価の設定方法(支払方法)について提案がなされた場合には、当該提案の要否や具体的内容について、発注者及び受注者間で十分な協議を行うこと。
・自己の内規や従前の取引慣行のみを理由として、特定の対価の設定方法を当然の前提としないこと。
さらに本指針は、「イ 取引の目的である成果物とそれに関連する知的財産権等の対価との区分」として、以下のとおり【あるべき姿】を示し、成果物の対価と成果物に関する知的財産権の提供の対価を区分することを受注者から希望された場合には、発注者及び受注者間で十分な協議を行うことなどを求めています(本指針29頁)。
【あるべき姿】
・受注者から、成果物に係る対価と当該成果物に関連する知的財産権等の提供に係る対価を区分して整理することを希望された場合には、当該区分の要否や対価の考え方について、発注者及び受注者間で十分な協議を行うこと。
・成果物に係る対価と知的財産権等の対価を区分するか否かを問わず、成果物の制作費用のみを基準として、知的財産権等の経済的価値が適切に反映されていない著しく低額な対価を、一方的に決定しないこと。
・知的財産権等の提供を求める場合には、取引の目的に照らして必要な範囲を超える無制限の利用又は全面的な譲渡を、当然の前提とする条件を一方的に設定しないこと。
また、【あるべき姿】に続く説明においては、成果物自体の対価と、成果物に関連する知的財産権等の提供の対価とを、概念上区分して整理するという考え方もあり得るとしつつ、必ずしも明示的に区分した形で設定しなければならないものではないことが述べられ、以下の諸要素に照らし成果物に係る対価の中に知的財産権等の対価を含めて包括的に設定することが合理的である場合もあると指摘されています。
・成果物の特性
・知的財産権等の価値の把握可能性
・当事者間の役割分担やリスク分配の在り方
・業界の商慣習
基本的な対応方針
基本的な考え方に沿った対応として、本指針は、以下の項目に留意することが重要であるとしています(本指針30~35頁)。
ア 契約締結時における明確な対価の支払条件及び対価の設定
イ 知的財産権等の取引形態の選択
ウ 知的財産権等の価値評価手法
エ ライセンス料の支払方法
オ 譲渡対価の支払方法
カ 取引の目的である成果物とそれに関連する知的財産権等の対価の明確化
このうち「イ 知的財産権等の取引形態の選択」では、知的財産権の譲渡と利用許諾との比較の視点を示し、十分な話合いの機会を設け、お互いが納得できる取引の形態を選択することが重要であるとしています。
「ウ 知的財産権等の価値評価手法」では、原価法(コスト・アプローチ)、取引事例比較法(マーケット・アプローチ)、収益還元法(インカム・アプローチ)の3つの評価法を挙げ、それぞれ長所と短所があるためその特性を理解する必要があるとしています。
「エ ライセンス料の支払方法」では、イニシャルフィーとランニングロイヤルティの説明がされ、「オ 譲渡対価の支払方法」では、一括払いと売上げに応じた額を支払う方法(レベニューシェア方式)の説明がされています。
もっとも、これらはいずれも特に目新しい概念ではなく、既存の概念の整理及び選択肢を示している印象です。
これに対して「カ 取引の目的である成果物とそれに関連する知的財産権等の対価の明確化」に関しては、従来、取引の目的である成果物とそれに関連する知的財産権等について、契約書等においてそれぞれの対価を別個に明確にすることが必要とされるのかが注目されていました。
この点につき本指針は、以下のとおり、「対象となる取引によっては」「区別することが合理的かつ適切となる場合もあるため、双方が納得して合意するためにも、こうした知的財産権等の対価についても、積極的に話合いの場を設けることが望ましい。」と述べています(本指針34頁)。これは、必ずしも両者の対価を別個に定めることが必要とされるものではない(そうしなければ直ちに法律上問題となるわけではない)ことを示していると解されます。
なお、取引の目的である成果物とそれに関連する知的財産権等について、その創出コストや将来的な価値等も考慮した適切な対価を設定するため、対象となる取引によっては、成果物の対価に知的財産権等の価値を含めて設定するのではなく、成果物そのものに係る対価と当該知的財産権等の利用又は譲渡に係る対価とを区別することが合理的かつ適切となる場合もあるため、双方が納得して合意するためにも、こうした知的財産権等の対価についても、積極的に話合いの場を設けることが望ましい。
問題となり得る事例:知的財産権等の不当な対価設定等
「知的財産権等の不当な対価設定等」についての問題となり得る事例として、以下の種類の事例が紹介されています(本指針36~39頁)。
(ア)取引の対価の一方的決定
(イ)知的財産権等の対価の不設定
(ウ)対価設定方法の一方的決定
それらの事例では、広告・パッケージデザイン・映像の制作における著作権譲渡、設計図面の対価の設定等の場面が示されています。
独占禁止法等の考え方:知的財産権等の不当な対価設定等
「知的財産権等の不当な対価設定等」についての独占禁止法等の考え方としては、いずれも、以下の法条によって問題となるおそれがあると指摘されています(本指針35~38頁)。
- 取引上の地位が優越している発注者が受注者に対し、一方的に、著しく低い対価での知的財産権等の取引を要請する場合であって、受注者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合
➤ 優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)- 取適法又はフリーランス法の適用対象取引に該当する場合
➤ 買いたたき(取適法5条1項5号、フリーランス法5条1項4号)
➤ 協議に応じない一方的な代金決定の禁止(取適法5条2項4号)
本指針の当該記載によると、優越的地位の濫用に該当するか否かについては、上記(ア) (イ) (ウ)のいずれのケースについても、結果的に著しく低い対価となっていることが重要な要素と考えられているものと解されます。
問題となり得る事例:知的財産権等の不当な譲渡要請等
「知的財産権等の不当な譲渡要請等」についての問題となり得る事例として、以下の種類の事例が紹介されています(本指針40~48頁)。
(ア)著作権の無償譲渡の要請
(イ)無償ライセンスの要請
(ウ)著作権の帰属条項の設定
(エ)著作者人格権の不行使条項の設定
(オ)中間成果物等の譲渡要請等
(カ)無償の技術指導、技術検証(PoC)、試作品製造等
それらの事例では、音楽・デザイン・動画の制作やプログラムの開発における著作権譲渡や帰属の取決め、デザインや音楽の制作における著作権不行使(受注者が氏名表示を希望した事例)、映像作品の製作における素材データの提供、システム開発のPoCにおけるPoC成果物の提供等の場面が示されています。
独占禁止法等の考え方:知的財産権等の不当な譲渡要請等
独占禁止法等の考え方としては、「(エ)著作者人格権の不行使条項の設定」以外はいずれも、以下の法条によって問題となるおそれがあると指摘されています(本指針39~42、44、46頁)。
- 取引上の地位が優越している発注者が受注者に対し、正当な理由がないのに、当該要請をする場合であって、受注者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合
➤ 優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)- 取適法又はフリーランス法の適用対象取引に該当する場合
➤ 不当な経済上の利益の提供要請(取適法5条2項2号、フリーランス法5条2項1号)
➤ 買いたたき(取適法5条1項5号、フリーランス法5条1項4号)
➤ 協議に応じない一方的な代金決定の禁止(取適法5条2項4号)
「(エ)著作者人格権の不行使条項の設定」については、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)のみが指摘されています(本指針43頁)。
競争政策上の望ましい対応
以上を踏まえ「競争政策上の望ましい対応」においては、独占禁止法等の問題となる法的リスクを未然に防止するためには、契約を締結する際に、当該知的財産権等に係る帰属、対価、その設定方法等の取引条件を取引の相手方に提示し、当該取引条件の理由について十分に説明するなど、取引条件をあらかじめ明確にして、十分協議した上で決定することが望ましいとされています(本指針49頁)。
このような、当該取引条件の理由を十分説明すること、取引条件をあらかじめ明確にし、十分協議することといった書きぶりは、本指針の別の項目における「競争政策上の望ましい対応」においても共通してみられるものではあり、本指針の基本スタンスの1つともいえそうです。この点がこの知的財産権等の対価の条件についても同様であることは、他の取引条件よりも厳格な特別な対応が求められているわけではないという観点で実務上参考になります。
出願干渉
基本的な考え方及び対応方針
本指針は、取引と直接関係がない発明や受注者が独自に開発した発明等についての基本的な考え方として、以下のとおり【あるべき姿】を示し、共同出願を強制することや出願内容への干渉をすべきでない旨を述べています(本指針55頁)。
本指針における【あるべき姿】の内容は、中小企業庁ガイドラインの「4.特許出願・知的財産権の無償譲渡・無償実施許諾」「(1) 特許出願への干渉(出願内容の報告・修正、共同出願の強制)」における【あるべき姿】とほぼ同じです。相違点は、本指針の【あるべき姿】では、自己の内規や取引慣行のみを理由としてそれを行わない旨の2つ目の箇条書き項目が追加された点です。
【あるべき姿】
・取引とは直接関係のない又は受注者等が独自に開発した発明その他これに係る独自の改良発明等の出願、登録等について、共同出願を強制的に求めたり、事前報告や出願等の内容の修正を求めるなど、企業が単独で行うべき出願等に干渉しないこと。
・自己の内規や従前の取引慣行のみを理由として、発注者が契約内容と関係がない特許出願についても事前報告させること等を当然の前提としないこと。
また、本指針は、基本的な考え方に沿った対応をすべきことを基本的な対応方針として挙げています(本指針55頁)。
問題となり得る事例
問題となり得る事例としては、共同研究開発に係る取引において、自社が独自に生み出した発明でも、出願するには相手方の許可を得ることや相手方との共同出願にすることが定められた契約書の締結を要請され、修正を申し入れたが一方的に拒否され、当該契約の締結を受け入れざるを得なかった事例が紹介されています(本指針56頁)。
独占禁止法等の考え方
独占禁止法等の考え方としては、以下の法条によって問題となるおそれがあると指摘されています(本指針56頁)。
- 取引上の地位が優越している発注者が受注者に対し、一方的に、当該要請をする場合であって、受注者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合
➤ 優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)
知財訴訟等のリスク転嫁
基本的な考え方
本指針は、知財訴訟等のリスク転嫁についての基本的な考え方として、以下のとおり【あるべき姿】を示しています(本指針57~58頁)。
その内容は、中小企業庁ガイドラインの「5. 第三者との間に生じる知財訴訟等のリスクの転嫁」における【あるべき姿】とほぼ同じです。相違点は、中小企業庁ガイドラインでは「受注者に例外なく一方的に転嫁しない」との表現があったのに対し本指針では「例外なく」が削除されたこと、また本指針では1つ目及び3つ目の箇条書き項目にて「責任の所在を考慮することなく」という趣旨の表現が加わったことです。また、本指針では、自己の内規や取引慣行のみを理由としてそれを行わない旨の4つ目の箇条書き項目が加わっています。
【あるべき姿】
・発注者の指示に基づく業務について、第三者との間に生じる知的財産権上の責任や負担を、同責任の所在を考慮することなく、受注者に一方的に転嫁しないこと、又はその旨を契約に定めないこと。
・発注者が希望する目的物において、第三者が有する知的財産権を侵害しないことの保証に係る責任の所在については、発注者、受注者間の明示的な協議の上で決定するものとし、受注者に一方的に保証責任を転嫁しないこと、又はその旨を契約に定めないこと。
・発注者が希望する目的物の製造等に当たり、第三者が有する知的財産権を使用する必要があるときは、その使用に要する費用その他の負担を、同負担に係る責任の所在を考慮することなく、受注者に一方的に転嫁しないこと、又はその旨を契約に定めないこと。
・自己の内規や従前の取引慣行のみを理由として、受注者に訴訟リスクを一方的に転嫁することを当然の前提としないこと。
この【あるべき姿】を踏まえ、本指針は以下の4点に分けて説明をしています(本指針58~59頁)。
(ア)紛争解決責任の転嫁の禁止
(イ)非侵害の保証及び調査負担の適正化
(ウ)受注者に帰責事由がない場合の協力・補償
(エ)第三者の知的財産権の使用に伴う負担の適正化
これらの4点に記載された内容も、中小企業庁ガイドラインの「5. 第三者との間に生じる知財訴訟等のリスクの転嫁」に含まれている内容と同様です。
中小企業庁ガイドラインにおける知財訴訟等のリスクの転嫁については別稿で解説していますので、ご参照ください。
基本的な対応方針
基本的な考え方に沿った対応として、本指針は、「(ア)責任の所在の明確化」を挙げ、契約書において「紛争が生じた場合の責任分担の考え方を明記した条文」を盛り込むべきこと、発注者は受注者の利益を不当に侵害することがないよう十分に協議を行った上で締結すること等を指摘しています(本指針59~60頁)。
本指針はまた、「(イ)賠償責任の制限等」をも挙げ、責任発生条件の制限及び賠償額の制限を提案しています(本指針60頁)。
問題となり得る事例
本指針では問題となり得る事例として、以下引用するとおり、取引先の指示に基づいて製造した製品につき一方的に責任を負わされることとなった事例が紹介されています(本指針61頁)。
B社は、金属製品の製造販売に係る取引において、取引先から、取引先の指示に基づいて製造した製品であるにもかかわらず、当該製品を使用した完成品を販売するなどした結果、第三者の特許権を侵害した場合には、B社のみが損害賠償責任を負うなど、B社が一方的に不利となる片務条項の記載がある契約の締結を要請された。B社は、契約書の修正を求めたかったが、取引を止められてしまう可能性を考慮し、受け入れざるを得なかった。
(金属製品製造業)
独占禁止法等の考え方
独占禁止法等の考え方としては、以下の法条によって問題となるおそれがあると指摘されています(本指針61頁)。
- 取引上の地位が優越している発注者が受注者に対し、正当な理由がないのに、当該取引の成果に基づく商品・役務の損害賠償責任の負担を要請する場合であって、受注者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合
➤ 優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)- 取適法又はフリーランス法の適用対象取引に該当する場合
➤ 不当な経済上の利益の提供要請(取適法5条2項2号、フリーランス法5条2項1号)
➤ 買いたたき(取適法5条1項5号、フリーランス法5条1項4号)
➤ 協議に応じない一方的な代金決定の禁止(取適法5条2項4号)
競争政策上の望ましい対応
以上を踏まえ「競争政策上の望ましい対応」においては、独占禁止法上の問題となる法的リスクを未然に防止するためには、帰責事由が発注者・受注者のいずれにあるのか、各々の帰責事由の内容、各々が獲得した利益等を考慮した結果、正当といえる範囲で紛争解決責任を分担すべきこと、当該取引条件を提示した理由について十分に説明するなど、取引条件をあらかじめ明確にして、十分協議した上で決定することが望ましいと指摘されています(本指針62頁)。
本指針でも中小企業庁ガイドラインと同様、例えば製品仕様を決めたのはどちらかといった帰責事由の所在や当事者間の協議に着目する姿勢を見て取ることができ、参考になります。
共同研究開発等
基本的な考え方
本指針は、基本的な考え方として、以下のとおり【あるべき姿】を示し、共同研究開発によって得られた成果の帰属は技術やアイデアの貢献度によって決められることが原則であるとし、もっぱら一方の当事者のみが技術やアイデアを提供している場合に他方の当事者のみに単独で帰属させるときには適切な対価を支払うこと等を述べています(本指針63頁)。
本指針の【あるべき姿】の内容は、中小企業庁ガイドラインの「2.試作品製造・共同開発等」「(2)共同研究開発における成果の権利帰属」における【あるべき姿】とほぼ同じです。相違点は、本指針では【あるべき姿】では、自己の内規や取引慣行のみを理由としてそれを行わない旨の箇条書き項目が追加された点です。
【あるべき姿】
・共同研究開発によって得られた成果の帰属は、技術やアイデアの貢献度によって決められることが原則である。特に、もっぱら一方の当事者のみが技術やアイデアを提供している場合であって、他方の当事者のみに単独で帰属させるときには、原則として当該知的財産権等の適切な対価を支払うこと。
その際、当該知的財産権等を提供した当事者が望めば、共同研究の成果を当該当事者も利用できるよう、無償で実施権を設定するなど、共同研究に携わった当事者の利用可能性に配慮すること。
・自己の内規や従前の取引慣行のみを理由として、技術やアイデアの貢献度等によらず、一方的に共同研究開発によって得られた成果を自己に帰属させたり、共同出願にしたりするなど、取引の実態に合わない契約条項を当然の前提としないこと。
また本指針は、【あるべき姿】に続けて、共同研究の大部分が一方の当事者によって行われた場合において、研究の結果創出された全ての知的財産権等を研究開発経費の多くを負担する他方の当事者に帰属させるケースを例に引きつつ、研究開発経費を負担していることが直ちに成果である知的財産権等の帰属主体となることを正当化するものではない、通常、かかる知的財産権等を発明者でない者が獲得するためには別途それに見合った対価を支払う必要があると述べています(本指針64頁)。
基本的な対応方針
基本的な考え方に沿った対応として、本指針は、共同研究開発を始めるに当たり、バックグラウンド情報(共同研究開発契約の締結時にすでに保有していた技術情報)を適切に管理し、共同研究開発の成果物とされるコンタミネーションを防ぐための実務的対応を紹介しています(本指針65頁)。
本指針はまた、開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決定できるようにしておくこと、開示したバックグラウンド情報の相手方における扱い(例:秘密保持義務、目的外使用禁止義務、特許出願禁止義務等)を定めておくことの重要性も指摘しています(本指針65頁)。
問題となり得る事例:共同研究開発等における成果物の不当な帰属等
「共同研究開発等における成果物の不当な帰属等」についての問題となり得る事例として、以下の類型の事例が紹介されています。
- 知的財産権の一方的帰属
- 名ばかり共同研究開発等
それらの事例では、取引先との共同研究開発において、双方のアイデアやノウハウ、技術等を用いて開発製造した製品について取引先のみに権利を帰属させ単独出願とすることを一方的に要請された事例、取引先にはほとんど貢献がないのに共同出願とすることを一方的に要請された事例等が紹介されています(本指針67~69頁)。
独占禁止法等の考え方:共同研究開発等における成果物の不当な帰属等
独占禁止法等の考え方としては、以下の法条によって問題となるおそれがあると指摘されています(本指針67、68頁)。
- 取引上の地位が他方当事者に優越している一方当事者が他方当事者に対し、正当な理由がないのに、その無償提供等を要請する場合であって、当該他方当事者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合
➤ 優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)- 取適法又はフリーランス法の適用対象取引に該当する場合
➤ 不当な経済上の利益の提供要請(取適法5条2項2号、フリーランス法5条2項1号)
➤ 買いたたき(取適法5条1項5号、フリーランス法5条1項4号)
➤ 協議に応じない一方的な代金決定の禁止(取適法5条2項4号)
問題となり得る事例:共同研究開発等における成果物の不当な条件設定等
「共同研究開発における成果物に関する不当な条件設定等」についての問題となり得る事例として、以下の類型の事例が紹介されています。
- 共同研究開発の成果物の利用制限
- 最恵待遇条件
- 共有知的財産権の不利な取扱い
それらの事例の概要は以下のとおりです(本指針70~72頁)。
| 共同研究開発の成果物の利用制限 | 共同研究開発において自社ノウハウのみを用いて試作品開発等をしたところ、 (i)取引先と関連会社が無償で成果物やその知的財産権を利用又は実施できる旨の規定 (ii)本契約終了後、一定期間、自社が当該知的財産権を用いた製品を自由に販売することを制限される規定 (iii)これらの規定は本契約終了後も知的財産権が存続する限り有効とされるとする規定 を含む共同研究開発契約の締結を一方的に要請された |
|---|---|
| 最恵待遇条件 | 共同研究開発によって生み出された成果物については自社に帰属するものの、一定期間内は取引先に独占的に供給すること、当該期間経過後も当該取引先に最恵待遇条件で供給することを内容とする共同研究開発契約の締結を一方的に要請された |
| 共有知的財産権の不利な取扱い | 互いに同等に実施できることを前提に共同研究開発に参加したところ、取引先から、共同研究開発の成果物について、共有特許であるにもかかわらず、自社は特許権を実施できないという内容の契約の締結を一方的に要請された |
独占禁止法等の考え方:共同研究開発等における成果物の不当な条件設定等
独占禁止法等の考え方としては、以下の法条によって問題となるおそれがあると指摘されています(本指針70~72頁)。
- 取引上の地位が他方当事者に優越している一方当事者が他方当事者に対し、一方的に、当該要請をする場合であって、当該他方当事者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合
➤ 優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)- 「共同研究開発の成果物の利用制限」について:市場における有力な事業者である一方当事者が他方当事者に対し、当該制限をし、それによって市場閉鎖効果が生じるおそれがある場合
➤ 排他条件付取引(一般指定11項)又は拘束条件付取引(一般指定12項)- 「最恵待遇条件」について:市場における有力な事業者である一方当事者が他方当事者に対し、最恵待遇条件を設定し、それによって市場閉鎖効果が生じるおそれがある場合
➤ 拘束条件付取引(一般指定12項)
コメント
本稿で紹介した本指針の「2 知的財産権等の価値の適切な評価」は、本指針の中でも注目される部分と思われます。取引目的である成果物とその知的財産権等について必ずしも対価を書き分けなければならないわけではないこと、他方で、対価についても十分な協議を行っていたかどうかに着目されるであろうことが示唆された点は、実務の参考になるでしょう。
またそもそも、無償であること等が問題となることはあるとして、取引の中で生じた知的財産権等を発注者に譲渡させたり帰属させたりすること自体が本指針で問題とされているわけではないことも、押さえておくべきポイントといえます。
本指針における「3 その他の行為類型」(出願干渉、知財訴訟等のリスク転嫁、共同研究開発等)は、本稿で紹介したとおり、中小企業庁ガイドラインと基本的な考え方を同じくするものとみられます。もっとも、本指針に記載されることにより、全業種を対象とした包括的かつ横断的な考え方としても適用されることが確認されたということができます。
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(文責・神田)





