大阪高等裁判所第8民事部(森崎英二裁判長)は、令和8年2月13日、結合商標の類否が争点となった商標権侵害訴訟において、被告標章「あわ恋いちご」から「恋いちご」の部分を抽出して原告商標と対比することは許されないとの判断をしました。

本件の一審判決では、「恋いちご」の部分の分離観察を可能とする判断が出されていました。二審の本判決では反対の結論となり、両判決においては取引の実情の評価が結論を分けることとなりました。

結合商標の分離観察の可否を検討する場合に参考となる判決と思われますので、紹介します。

ポイント

骨子

  • 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである。
  • 被告標章を付されたパッケージがいちごを同梱した被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情を考慮すると、被告標章の構成中の「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であるということになるから、その部分は、商品を普通に記述しているにすぎないと理解される。その余の部分である「あわ恋」という言葉は、既存の言葉に「淡い恋心」、「淡い恋」などがあり、また、被告標章の外観が柔らかな印象が与えられるようデザインされていることと相まって「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されるものと考えられる。よって、「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったとはいえないことも考え併せると、被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じているというべきである。
  • 被告標章が「阿波」等の記載を有するデザインのパッケージに付されることによって、「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるとしても、上記デザインのパッケージがいちごを同梱商品とする被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情の下においては、被告標章は、「あわ恋」と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の文字部分に被告各商品の産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないと考えられることになる。よって、被告標章と本件商標の類否を判断するに当たっては、被告標章を「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されないというべきである。

判決概要

裁判所 大阪高等裁判所第8民事部
判決言渡日 令和8年2月13日
事件番号 令和7年(ネ)第1750号
裁判官 裁判長裁判官 森崎 英二
裁判官 久末 裕子
裁判官 森鍵 一

解説

結合商標と商標の類否判断

結合商標とは

結合商標とは、文字や単語、図形、記号などの構成部分を複数組み合わせた商標をいいます。

結合商標について商標の類否判断をする場合、結合商標を全体として観察して他の商標と比較することにより類否判断をするのか、それとも結合商標を構成する部分の一部を分離して観察することにより類否判断をすることができるか、分離観察による判断が許されるとしてそれはどのような場合か、が問題となります。

リラ宝塚事件判決

結合商標の類否判断に関し、最判昭和38年12月5日・昭和37年(オ)第953号(リラ宝塚事件)は、以下のとおり、「各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標」については、その構成部分の一部を分離して類似性を認定することができるという判断を示しました。

商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されないのは、正に、所論のとおりである。しかし、簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

つつみのおひなっこや事件判決

その後、最判平成20年9月8日・平成19年(行ヒ)第223号(つつみのおひなっこや事件)は、以下のとおり、結合商標の構成部分の一部に基づいて類否判断をすることは、①その部分が需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないとの判断を示しました。

法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民 集47巻7号5009頁参照)。

両最高裁判決の基準と知財高裁判決の傾向

つつみのおひなっこや判決以降の知財高裁判決においては、つつみのおひなっこや判決の①②の場合を規範として挙げるものが多いですが、それらの中でも、両最高裁判決の基準の表現の仕方には多少の違いや傾向が見られます。

令和5年頃の知財高裁の状況として、つつみのおひなっこや判決の①②などの場合を、(i)不可分的結合商標であってもなお例外的に分離観察が許される類型を示したものと捉える判決と、(ii)不可分的結合商標には該当しない場合の例示として捉える判決とが見られました。こうした傾向については別稿にて解説しています。

これに対してさらに近年の状況としては、(ii)の立場から判示する判決もある一方[1]、(i)や(ii)のどちらの書きぶりもせず最高裁判決の文言に沿った判示をする傾向がみられます。

例えば、知財高判令和8年3月24日・令和7年(行ケ)第10102号(第3部・中平健裁判長)は、以下のように述べています。

そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁昭和34年(オ)第856号同36年6月23日第二小法廷判決・民集15巻6号1689頁参照)。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁〔リラ宝塚事件判決〕、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁〔SEIKO EYE事件判決〕、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁〔つつみのおひなっこや事件判決〕参照)。

また、知財高判令和8年4月15日・令和7年(行ケ)第10098号(第2部・森冨義明裁判長)も、以下のように述べています。

また、商標は、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるものであるから、複数の構成部分を組み合わせた結合商標について、その構成部分の一部を抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則として許されないというべきであるが、実際の取引において、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標については、常に必ずしも構成部分全体によって称呼、観念されるわけではなく、その一部のみによって称呼、観念されることがあることを踏まえると、商標の構成部分の一部が取引者や需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、その構成部分の一部を要部として抽出し、その部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されると解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民10 事228号561頁参照)。

事案の概要

本件は、一審原告が保有する本件商標の商標権に基づき、本件商標と類似する被告標章をパッケージに付したいちご同梱の商品を販売する行為の差止と被告標章の抹消を求める訴訟です。

一審原告は、花卉の栽培、販売及び輸出入に関する事業等を目的とする特例有限会社です。一審被告は、農産物の栽培、生産及び販売等を目的とする株式会社です。

本件商標

原告が保有する本件商標の商標権は以下のとおりです。

登録番号 第5006976号
出願日 平成18年1月27日
登録日 平成18年12月1日
指定商品・役務 第31類 いちご、いちごの種子、いちごの苗
登録商標
被告標章及び被告商品

被告標章は以下のとおりです。

本件判決別紙被告標章目録より

 

また、被告標章を付した被告商品における使用態様は以下のとおりです。

1 2

本件判決別紙被告商品目録より

争点

本件の争点は以下のとおりです。
◆争点1:本件商標と被告標章が類似するか
◆争点2:登録商標使用の抗弁が成立するか

争点1が主たる争点であり、より具体的には、被告標章の構成中「恋いちご」の文字部分を分離、抽出し、これを本件商標と比較することが許されるか否かが争われました。本稿ではこの争点を取り上げます。

なお、争点2については地裁判決が判断をしたものの、高裁判決では判断が示されませんでした。したがって本稿では、争点1を取り上げた後に争点2も簡単に紹介するにとどめます。

一審判決の判断

一審判決は、「恋いちご」の部分を抽出する分離観察を認めました。そのうえで、外観は一部相違があるものの、「コイイチゴ」の称呼において同一、観念も同一であり、被告標章の「恋いちご」部分に接した需要者は本件商標と出所を誤認混同するおそれがあると認められ、両者は全体として類似すると判断しました。

一審判決における分離観察を認めた判断は以下のとおりです。まず、分離観察の一般的規範を次のように述べています。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼観念が生じないと認められる場合のほか、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである

そのうえで一審判決は、以下のとおり、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され「恋いちご」部分を抽出することができるとの判断をしました。その根拠としては、被告各商品のパッケージにおける「徳島県産」とのいちごの産地を示す文字や「徳島県産 阿波のいちご」との文字、阿波踊りの踊り子や「阿波」と記載された提灯のイラストから、被告標章のうち「あわ」部分は、需要者に対し、地域名称である「阿波」を意味し産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえると述べています。

被告標章は、やや丸みのあるPOP体風の平仮名2文字(「あわ」)漢字1文字(「恋」)及び平仮名3文字(「いちご」)が、等間隔にやや円弧状に横書きされたもので、各文字の大きさ及び色彩は同一であり、まとまりよく構成されている。他方、被告標章のうち「あわ」部分については、「あわ」には「泡、粟、安房(千葉県南部の旧称)、阿波(徳島県の旧称)」(広辞苑第7版)などの複数の意味があり、平仮名表記であるがゆえに多義的なものといえるところ、指定商品との関係において、「あわ」が、例えば「泡」の意味である場合、「あわ」部分も自他商品の識別力を有し得るとはいえるが、「あわ」が「阿波」及び「安房」の意味である場合、「あわ」部分は地域を示す普通名称にすぎない上、産地表示などが広く行われているいちごを指定商品としていることからも、上記識別力があるとはいえない。そうすると、被告標章については、需要者において、「あわ」部分が上記のように複数ある意味のうち、「泡」のように一定の識別力を持ち得る意味として受け取られるであろう取引の実情があるのであれば、「あわ」の識別力が否定できない結果、「恋いちご」の部分のみを抽出した類否判断が許されないことも想定される一方、被告標章が付されたパッケージの態様など取引の実情に照らし、需要者において、「あわ」が識別力を伴わない地域名称を意味し、産地や販売地を表示するものとして受け取られるのであれば、「恋いちご」の部分を抽出して本件商標と比較検討することが許されるものといえる(標章の分離観察の可否も、需要者の観点から商標類否を判断する過程そのものであるところ、取引の実情を踏まえるべきものといえる。)。

そして、本件の取引の実情をみると、被告各商品のパッケージには、被告標章のほかに、「徳島県産」とのいちごの産地を示す文字や「徳島県産 阿波のいちご」との文字が付記され、徳島県の伝統芸能である阿波踊りの踊り子や「阿波」と記載された提灯のイラストが目立つ態様で描かれている(甲3、4)ところ、被告標章の「あわ」の部分につき、漢字ではなく、平仮名表記とはいえ、需要者に対し、地域名称である「阿波」を意味し、産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえるから、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され、「恋いちご」部分を抽出して、本件商標と比較検討することができるというべきである。

なお、一審判決は、被告の主張に対し、「あわ恋」という文言自体から「淡い恋」の「い」を省略し「あわ」を平仮名表記したものであると受け取られる余地を否定するものではないとしつつ、以下のとおり、まずもって「あわ」は地域名称としての「阿波」を意味しているとの想起が前提にあって、その副次的ないわゆる掛詞としての趣旨にとどまると述べています。

他方、上記のような取引の実情を踏まえてもなお、被告標章のうち、「あわ恋」の部分から、「淡い恋」の「い」を省略し、「あわ」を平仮名表記したものとの受け止めが生じる余地を一概に否定するものではないが、そうであったとしても、本件の取引の実情のもとでは、あくまで、まずもって「あわ」は地域名称としての「阿波」を意味しているとの想起が前提にあって、その副次的ないわゆる掛詞としての趣旨にとどまるといえる。そのため、上記のような検討のもとで、「恋いちご」部分が、被告標章全体とは離れて、出所識別機能を果たすという需要者の印象、受け止め自体を左右するものではなく、分離観察のもと、本件商標との類否判断をすることを否定する事情とはいえない。

これに対して被告が控訴しました。

判旨

まず本判決は、分離観察の可否に関する規範として、以下のとおり、つつみのおひなっこや事件判決と同様の判示をしました。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。

続いて本判決は、以下のとおり、被告標章の構成は文字の大きさや書体が同一であることから、「恋いちご」の文字部分だけが独立して注意をひくように構成されてはいないとしたうえで、本件商標(恋苺)が取引者、需要者に広く知られていることは証拠上認められないから、被告標章のうち「恋いちご」の部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえないと判断しました。

これにより本件についてみると、被告標章の構成中には、本件商標と同じ称呼を生ずる「恋いちご」という文字部分が含まれているが、被告標章は、「あわ恋いちご」の文字をやや丸みのあるPOP体風書体の文字をやや円弧状に横書きして成されたものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「恋いちご」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。また、引用した前提事実(2)によれば、本件商標は平成18年に商標登録された商標であるが、いかなる態様で使用されているについて明らかにされておらず、これが取引者、需要者に広く知られていることを認めるに足りる証拠は被告各商品が取引されている地域に限ってもないから、本件商標と同じ称呼である被告標章の構成中の「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできない。

次に本判決は、以下のとおり、被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるのは、被告各商品のパッケージの表面にある「徳島県産」の表記、阿波踊りの踊り手や「阿波」と記載された提灯のイラスト、「徳島県産 阿波のいちご」の記載から、被告標章の「あわ」の文字部分が地名である「阿波」の意味を有することが示唆されているからである旨を述べました。

確かに、被告各商品のパッケージの表面のデザインからは、そこに付された被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるといえる。

しかし、被告標章のみで観察した場合、「あわ」の文字からは、「阿波」のみならず「泡」、「粟」、「安房」、「淡」も想起され得ることからすると、被告各商品のパッケージの表面のデザインにおいて被告標章の「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるのは、被告各商品のパッケージの表面に被告標章と共に「徳島県産」の表記、阿波踊りの踊り手及び「阿波」と記載された高張提灯のイラストが描かれ、さらに本件各商品2には「徳島県産 阿波のいちご」と記載され、これらの記載類から、被告標章の「あわ」の文字部分が地名である「阿波」の意味を有することが示唆されているからというべきである。そして、このようにいえることは、証拠(甲8)によれば、被告各商品のように商品名の冒頭に地名の「阿波」を意味するものとして平仮名の「あわ」が用いられている商品では、パッケージ等に商品名の冒頭の「あわ」の文字部分が地名の「阿波」であることを示唆する記載を伴うことが一般的であると認められることから裏付けられているといえる(なお、各商標の説明は、同表「説明等(裁判所認定)」欄記載のとおりである。また、前掲証拠によれば、同表に列挙したとおり、サービス、サービス提供場所等の名称にも「あわ」の文字部分を地名の「阿波」で用いられている例が多数あるが、これらの場合には、そのサービス提供者、サービス提供場所自体が徳島に関連することが明らかな状態で使用されているので、そのことによって「あわ」の文字部分が地名の「阿波」を意味することが示唆されていると認められる。)。

そのうえで本判決は、以下のとおり、

  • 被告標章がいちごを同梱した商品のパッケージに使用されているという取引の実情を考慮すると、被告標章の構成中の「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であって商品を普通に記述するものであること
  • 被告標章の「あわ恋」の部分は、被告標章が柔らかな印象が与えられるようデザインされていることと相まって、「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されること

を指摘し、「恋いちご」の文字部分がいちごの取引者や需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではないとし、むしろ被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じていると判断しました。

そして、被告標章を付された上記デザインのパッケージがいちごを同梱した被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情を考慮すると、被告標章の構成中の「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であるということになるから、その部分は、商品を普通に記述しているにすぎないと理解され、その余の部分である「あわ恋」という言葉は、既存の言葉に「淡い恋心」、「淡い恋」などがあり、また、被告標章の外観が柔らかな印象が与えられるようデザインされていることと相まって「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されるものと考えられるから、前説示のとおり、「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったとはいえないことも考え併せると、被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じているというべきである。

そして、本判決は以下のとおり、被告標章が被告商品のパッケージに付されることによって「阿波」が想起されるとしても、被告標章は「あわ恋」と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の文字部分に被告各商品の産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないとして、「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されないと判断しました。

そうすると、被告標章が上記デザインのパッケージに付されることによって、「あわ」の文字部分から地名である「阿波」が想起されるとしても、上記デザインのパッケージがいちごを同梱商品とする被告各商品のパッケージとして使用されているという取引の実情の下においては、被告標章は、「あわ恋」と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の文字部分に被告各商品の産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないと考えられることになるから、被告標章と本件商標の類否を判断するに当たっては、被告標章を「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されないというべきである。

コメント

地裁と高裁とで判断が分かれた本件は、結合商標の分離観察の可否について、いまだ実務上の予測可能性が高くないことを表しているといえます。特に本件では、結論を分けたのが取引の実情の評価であった点が特徴的です。

地裁は、被告商品のパッケージに「阿波」を示す表示が見られることから、被告標章の「あわ」は「阿波」を想起させるものだとして、これを地名・産地を示すに過ぎない識別力のない部分と判断し、残りの「恋いちご」部分の抽出を可としました。これに対して高裁は、被告標章のうち「いちご」の部分は商品を普通に記述するものにすぎず識別力は弱く、「あわ恋」は「淡い恋心」等から派生する造語であり「あわ恋」に識別力があるから「恋いちご」の部分の抽出は不可としました。

証拠として同じパッケージに接しながら、阿波や徳島県に関する表示を重視した地裁と、商品がいちごであることを重視した高裁とで、重きを置いたポイントが異なっているとみられます。

一つの見方として、具体的な被告商品における表示を重視した地裁判決のほうが取引の実情を具体的に参酌しているのに対し、被告商品がいちごであるという本件商標の指定商品一般に通用する事情を用いた高裁判決のほうが取引の実情を抽象的に参酌したということができます。もっとも、取引の実情を具体的にみれば両者の相違が顕著になって非類似の判断になりやすいかといえば、本件では地裁判決のほうが類似の判断に至っているわけですので、一概に定式化できるものでもなさそうです。

また地裁は、まずもって「あわ」は地域名称としての「阿波」を意味しているとの想起が前提にあり、その副次的ないわゆる掛詞として「淡い恋」の「い」を省略し「あわ」を平仮名表記したものとの受け止めがあると捉えています。これに対し高裁は、「あわ恋」と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の文字部分に産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないと述べています。

このように、掛詞として何が主たる意味で何が副次的な意味であるのかについても、地裁と高裁とで見方が逆になっています。

いちごを販売するための同じパッケージを取引の実情として判断対象としながら、その評価と結論が反対になっている点、結合商標の分離観察と取引の実情の評価の予測可能性の難しさを物語っています。最高裁判例の規範を踏まえてもやはりポイントとなるのは識別力の強弱であるといえます。当事者としては裁判所による判断の予測可能性が高くないことを見据えつつ、説得力の高い主張立証の組立てに注力することになるでしょう。

付記:争点2(登録商標使用の抗弁が成立するか)について

本件では、訴外Z社が有する以下の登録商標(以下「Z商標」)がありました。

登録番号 第6438678号
出願日 令和3年1月19日
登録日 令和3年9月6日
指定商品・役務 第31類 いちご
登録商標 あわ恋いちご(標準文字)

被告は令和3年9月28日、Z社との間でZ商標の通常使用権を許諾する契約を締結しました。これに基づき被告は、被告による被告標章の使用は通常使用権者による登録商標の使用であるから、本件商標権の侵害に当たらないと主張しました。

裁判所の判断

一審判決は、この抗弁を時機に後れた攻撃防御方法として却下しつつ、「なお、念のため検討すると」として判断しました。

一審判決の判示は、以下のとおり、一審判決の判断によれば「あわ」部分の識別力を否定し需要者に対し本件商標との誤認混同を生じさせる使用態様が採られているという本件における取引の実情のもとで、商標法の目的、趣旨に照らし、登録商標の効力をもってしても、このような態様での標章使用を正当化できず権利の濫用であるというものです。

被告が登録商標使用の抗弁として主張するところは、被告標章が本件商標と類似することを前提としながら、本件商標に後れて出願された登録商標(Z商標)の使用の範囲内であることを理由として、商標権侵害を否定するものであるが、そのような主張自体、先行して出願された登録商標と類似し、需要者に誤認混同を惹起するおそれのある標章使用を肯定するに等しく、商標法の想定するところとは解されない。すなわち、被告標章自体は、多義的な語である「あわ」を用いていることもあって、本件商標との誤認混同のおそれを回避する使用態様も想定されないものではないが、本件における取引の実情としては、前記1で検討したとおり、「あわ」部分の識別力を否定し、需要者に対し、本件商標との誤認混同を生じさせる使用態様が採られているものであるところ、商標法の目的、趣旨に照らし、登録商標の効力をもってしても、このような態様での標章使用を正当化できるものではなく、商標法のもとで付与された権利を濫用するものというべきである。よって、被告の上記主張は抗弁として成り立たない。

一審判決の理由付けはあまり具体的ではないですが、おそらく、登録商標「あわ恋いちご」自体はその「あわ」は多義的であり得るものの、実際の使用態様として被告自ら「あわ」の識別力を否定し「恋いちご」が抽出され得る態様にて使用をしていることから、後願である「あわ恋いちご」が登録商標だからといって商標侵害を免れることは正当化されないという趣旨かと思われます。

これに対し、高裁判決では争点2についての判断は示されませんでした。これは、高裁判決は商標の類似を否定する判断をし、これによって原告の請求を棄却する結論に至るため、争点2の判断をする必要がなかったためと考えられます。

被告の抗弁を権利の濫用として排斥した判決は商標の分野でも数少ないものですので、実務上の一つの参考として、本件の地裁判決にも留意しておくのがよいといえるでしょう。

 

脚注
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[1] 知財高判令和7年10月30日・令和7年(行ケ)第10050号

 

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(文責・神田雄)