知的財産高等裁判所第4部(菅野雅之裁判長)は、本年(令和4年)11月16日、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームにかかる特許について、特許請求の範囲の記載が、「出願時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義的に明らかな場合」にあたらず、また、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情」も存在しないとして、特許無効審判における不成立審決を取り消す判決をしました。

ポイント

骨子

  • 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁)。
  • もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がその範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪う結果となり、第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。
  • そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解される。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第4部
判決言渡日 令和4年11月16日
事件番号
事件名
令和4年(ネ)第1273号
審決取消請求事件
原審決 無効2019-800099号事件
特許 特許第3889689号「電鋳管の製造方法及び電鋳管」
裁判官 裁判長裁判官 菅 野 雅 之
裁判官    本 吉 弘 行
裁判官    中 村   恭

解説

特許法における記載要件とは

記載要件の根拠と種類

特許を受けるためには、以下の特許法36条1項により、出願人と発明者の氏名や住所等を記載した願書を提出する必要があり、また、同条2項により、願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付する必要があります。

(特許出願)
第三十六条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
 発明者の氏名及び住所又は居所
 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。

願書に添付すべき文書のうち明細書については、特許法36条3項により、発明の名称、図面の簡単な説明及び発明の詳細な説明を記載すべきことが定められ、同条4項により、発明の詳細な説明の記載内容についての定めがあります。一般に、同項1号の要件は「実施可能要件」と呼ばれ、同項2号の要件は「先行技術文献情報開示要件」と呼ばれます。

(特許出願)
第三十六条 (略)
 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
 発明の名称
 図面の簡単な説明
 発明の詳細な説明
 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。

願書に添付すべき文書のうち特許請求の範囲については、特許法36条5項に請求項に関する定めが置かれ、同条6項に内容面での記載要件が規定されています。同項1号の要件は「サポート要件」、同項2号の要件は「明確性要件」、同項3号の要件は「簡潔性要件」と呼ばれます。

(特許出願)
第三十六条 (略)
 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
 特許を受けようとする発明が明確であること。
 請求項ごとの記載が簡潔であること。
 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。

最後に、願書に添付すべき文書のうち要約書については、特許法36条7項に記載すべき事項が定められています。

(特許出願)
第三十六条 (略)
 第二項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。

記載要件違反の効果

願書やその添付の文書に形式的な不備があるときは、出願後の方式審査により手続の補正が指令され、補正がされないときは、出願が却下されます。また、出願人が特定できなかったり、明細書が添付されていなかったりするなど、大きな方式上の不備があるときは、手続補正指令を経ることなく、弁明書提出を経て出願が却下されます。

(手続の却下)
第十八条 特許庁長官は、第十七条第三項の規定により手続の補正をすべきことを命じた者が同項の規定により指定した期間内にその補正をしないとき、又は特許権の設定の登録を受ける者が第百八条第一項に規定する期間内に特許料を納付しないときは、その手続を却下することができる。
(略)

(不適法な手続の却下)
第十八条の二 特許庁長官は、不適法な手続であつて、その補正をすることができないものについては、その手続を却下するものとする。ただし、第三十八条の二第一項各号に該当する場合は、この限りでない。
 前項の規定により却下しようとするときは、手続をした者に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出する機会を与えなければならない。

方式面の問題がない場合であっても、明細書の発明の詳細な説明が上述の実施可能要件を充足しない場合や、特許請求の範囲の記載がサポート要件や明確性要件といった特許法36条6項の上記要件を充足しない場合には、審査官は、特許出願に対し、拒絶の査定をすることになります。

(拒絶の査定)
第四十九条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
(略)
 その特許出願が第三十六条第四項第一号若しくは第六項又は第三十七条に規定する要件を満たしていないとき。
(略)

審査において記載不備が指摘されず、または解消されたと認められた結果特許査定を経て特許登録がなされた場合においても、客観的に実施可能要件、サポート要件、明確性要件、簡潔性要件のいずれかに違反するときは、何人も特許掲載公報の発行の日から6ヶ月以内は特許異議の申立てをすることができ、申立てに理由があるときは、特許が取り消されます。

(特許異議の申立て)
第百十三条 何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。
(略)
 その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたこと。

さらに、実施可能要件、サポート要件、明確性要件、簡潔性要件のいずれかの違反のある出願に対する特許については、特許無効審判を請求することにより、特許を無効にすることもできます。

(特許無効審判)
第百二十三条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
(略)
 その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき。

特許無効審判については、特許権消滅後も請求できるものとされており、特許異議申立てのような期間制限はありません。

(特許無効審判)
第百二十三条 (略)
 特許無効審判は、特許権の消滅後においても、請求することができる。
(略)

他方、特許無効審判を請求することができるのは、利害関係人に限られます。典型的には、事業で競合関係に立つ企業などがこれに該当します。

(特許無効審判)
第百二十三条 (略)
 特許無効審判は、利害関係人・・・に限り請求することができる。
(略)

加えて、実施可能要件、サポート要件、明確性要件、簡潔性要件のいずれかの違反のある出願に対する特許については、特許権者は、その権利行使をすることができないものとされています。

(特許権者等の権利行使の制限)
第百四条の三 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
(略)

明確性要件とは

明確性要件は、上記の特許法36条6項2号に規定された特許請求の範囲の記載要件で、特許請求の範囲の記載が「特許を受けようとする発明が明確であること」との要件を満たすものであることを求めるものです。特許請求の範囲は、特許権の範囲を画するものであるところ、第三者が許諾なく特許発明を実施すると、差止や損害賠償請求といった民事的な請求の対象となるほか、刑事罰の対象となることもあるため、権利範囲を明確にし、第三者に不測の不利益を及ぼさないようにすることが求められるのです。

「明確であること」の具体的な意味について、特許庁が公開している特許審査基準第II部第2章第3節2.1は、以下のとおり、「ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていること」が求められるとともに、「その前提として、発明特定事項の記載が明確である必要がある」としています。

(1) 請求項に係る発明が明確に把握されるためには、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要である。また、その前提として、発明特定事項の記載が明確である必要がある。特許を受けようとする発明が請求項ごとに記載されるという、請求項の制度の趣旨に照らせば、一の請求項に記載された事項に基づいて、一の発明が把握されることも必要である(2.2(4)参照)。

裁判例を見ると、明確性要件の趣旨及び判断基準につき、知財高判平成20年10月30日平成20年(行ケ)第10107号は、「付言」ながら、以下のとおり述べています。

特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載において,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許発明の技術的範囲,すなわち,特許によって付与された独占の範囲が不明となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。

この判示によると、明確性要件を充足するか否かの判断にあたっては、まず、参酌すべき資料として、特許請求の範囲の記載のみならず、明細書や図面も考慮すべきこととされています。また、判断の基礎としては、「当業者の出願当時における技術的常識」に則るべきこととされています。そして、判断の基準としては、「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか」という基準が示されています。この判決の考え方は、現在多くの下級審裁判例で用いられています。

発明のカテゴリーとプロダクト・バイ・プロセス・クレーム

発明とそのカテゴリー

特許法において、「発明」の語は、以下の同法2条1項により、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。

(定義)
第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
(略)

特許法は、この発明を、以下の同法2条3項の「実施」の定義の中で、「物の発明」、「方法の発明」、「物を生産する方法の発明」の3つのカテゴリーに分類しています。

(定義)
第二条 (略)
 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
(略)

物の発明は、物の構造や特性などにより、物の静的な構成が特定される発明で、上記の定義に見られるとおり、プログラム等も含まれます。方法の発明は、何かをする方法を内容とするもので、しばしば経時的に記載された手順によって特定されます。物を生産する方法は、方法の中でも、物の生産を目的とする発明で、発明を特定する上で、生産の手順に加え、生産される物の構成が記載されることもあります。

なお、「プログラム等」という用語については、特許法2条4項において、以下のとおり定義されています。

(定義)
第二条 (略)
 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。

カテゴリーの判定

特許発明がいずれのカテゴリーに属するかをどのように判定するかについて、最二判平成11年7月16日平成10年(オ)第604号民集第53巻6号957頁(生理活性物質測定方法事件)は、特許請求の範囲の記載によるものとしています。この判決は、以下のとおり、直接的には方法の発明と物を生産する方法の発明の区別について述べたものですが、物の発明と他の発明との判定も同様に解されます。

方法の発明と物を生産する方法の発明とは、明文上判然と区別され、与えられる特許権の効力も明確に異なっているのであるから、方法の発明と物を生産する方法の発明とを同視することはできないし、方法の発明に関する特許権に物を生産する方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。そして、当該発明がいずれの発明に該当するかは、まず、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(同法七〇条一項参照)。

なお、上記判旨には、「願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載」との記載がありますが、制度の国際的な調和のため、その後の平成14年特許法改正により、特許請求の範囲は明細書から独立した願書の添付文書とされています。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの構成

このように特許請求の範囲の記載によって決定される発明のカテゴリーですが、具体的な記載として、物の発明は、上述のとおり、物の構造や特性などによって特定されるのが一般です。例えば、アナログの時計の発明として、特許請求の範囲に「文字板と、時針と、分針と、秒針からなる時計」と記載した場合、この記載によって特定される発明は、「時計」という物の発明で、その構成は、「文字板と、時針と、分針と、秒針からなる」という構造の記載によって特定されています(当然ですが、現時点でこの発明に新規性はなく、特許を受けることはできません。)。

他方、「文字板の上に、時針を配し、その上に分針を配し、その上に秒針を配する時計の製造方法」という記載をした場合、これは、物を生産する方法の発明です。時計を生産するための手順が示されているからです(この発明も、現時点で新規性はありません。)。

ここで、上の記載の末尾を少し書き換えて「文字板の上に、時針を配し、その上に分針を配し、その上に秒針を配した時計」とすると、生産方法の記載が「時計」という物の構成を特定するための記載に変わります。

製法が物を特定する記載として、より実務に即した例としては、「物質Aを触媒Bの存在下で物質Cと反応させて生産される物質D」といったものがあげられます。

このように、物(product)が生産方法によって(by process)特定される特許請求の範囲の記載(claim)は、「product by process claim/プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」(以下「PBPクレーム」といいます。)と呼ばれます。

なお、後述のとおり、上の時計のような例をPBPクレームとして取り扱うのは不都合であることから、実務上こうした例はPBPクレームとは扱われておらず、物質Dのような例が典型的なPBPクレームとして取り扱われています。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈

物同一説と製法限定説

PBPクレームをめぐっては、特許権がどの範囲に及ぶのか、つまり、記載された製法で製造された物だけに及ぶのか、あるいは、その製法によって得られる 物と同一の構成を有する物全般に及ぶのか、が議論されてきました。

また、PBPクレームの新規性を考える上でも、同様に、同一の製法で製造された物が公知であった場合にのみ新規性が否定されるのか、あるいは、その製法によって得られる物と同一の構成を有する物が公知であれば新規性が否定されるのか、ということも議論されます。

これらのうち、物の同一性を基礎に判断する考え方を「物同一説」、製法の同一性まで考慮する考え方を「製法限定説」といいます。

たとえば、上述の「物質Aを触媒Bの存在下で物質Cと反応させて生産される物質D」という発明の場合、物同一説によれば、この発明の特許出願前に、別の製法によるものであっても、同一の物質Dが公知であれば特許を受けることはできませんが、その代わりに、もし、物質Dが新規で、特許を受けることができれば、その後、別の製法で生産された物質Dについても権利行使をすることができることになります。

他方、製法限定説であれば、過去に物質Dが知られていたとしても、製法が異なれば特許を受けることができる代わりに、特許権を行使できるのも、同一の製法で生産された物質Dのみとなります。

審査における発明の要旨認定の考え方

物同一説と製法限定説の2つの考え方に関し、特許の出願審査においては、以下の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節5.1に記載のとおり、物同一説が採用されています。

5. 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合
5.1 請求項に係る発明の認定
請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合は、審査官は、その記載を、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解釈する。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、審査官は、生産物自体(Z)を意味しているものと解釈し、請求項に係る発明を認定する。

審査においては、日本だけでなく、多くの法域で物同一説が採用されているといわれます。

技術的範囲の考え方

他方、PBPクレームにかかる発明の技術的範囲の認定、つまり、PBPクレームにかかる特許権の権利範囲については解釈に争いがあり、知的財産高等裁判所特別部は、知財高判平成24年1月27日平成22年(ネ)第10043号(プラバスタチンナトリウム事件知財高判)において、製法限定説を原則としつつ、発明にかかる物の構成を「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情」が存在するときには、物同一説による、との解釈を示していました。このような事情がある場合の特許請求の範囲の記載は「真正PBPクレーム」と呼ばれ、それがない場合は、「不真正PBPクレーム」と呼ばれていました。

これに対し、最高裁判所は、上記プラバスタチンナトリウム事件の上告審(最二判平成27年6月5日平成24年(受)第1204号民集69巻4号700頁(プラバスタチンナトリウム事件最判))において、以下のとおり述べ、物同一説を採用しました。

特許は,物の発明,方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明についてされている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。

したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

その結果、PBPクレームにかかる発明の技術的範囲は、出願審査においても、権利行使においても、物同一説によって決せられることになりました。

なお、米国では、審査段階では物同一説に依拠しつつ、侵害判断においては、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が、Abbott Labs. v. Sandoz, Inc., 566 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2009)にて、製法限定説を採用するen banc(裁判官全員で構成される法廷)による判決をしており、日米の考え方は相違しています。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームと明確性要件

明確性要件をめぐる問題

PBPクレームについては、かねてより、権利範囲が不明確になりやすいという問題が指摘されていました。この問題は、特に物同一説を採用した場合に顕在化しやすくなります。

たとえば、「物質Aを触媒Bの存在下で物質Cと反応させて生産される物質D」という記載の場合、ここにいう物質Dがどのような構造や特性を有する物質なのか分かりにくく、製法によっても十分に特定できないとなると、ある物質が権利範囲に属するのかどうかを判断することが難しくなります。そのような場合には、第三者の予測可能性を奪うことになってしまいます。

もっとも、PBPクレームの権利範囲が常に把握しにくいかというと、たとえば、「文字板の上に、時針を配し、その上に分針を配し、その上に秒針を配した時計」という記載であれば、製法が構造に直結しているため、どのような時計かが不明確になるわけではありません。「ゆでたまご」も「ゆで」という製造方法で物と特定した例といえますが、おそらく、ゆでたまごの構造を仔細に記載するよりも、一言「ゆでたまご」と表現する方が明確でしょう。このように、発明の記載の明確性の問題は、技術分野や個々のクレームの記載に依存する面があり、本来その判断は、個々のクレームに基づいて行われるべきものといえます。

プラバスタチンナトリウム事件最判の明確性要件の考え方

この点につき、プラバスタチンナトリウム事件最判は、以下のとおり、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか、又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり、適当ではない。」との問題意識を示しています。

特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求しているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点からみると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではない。

他方、同判決は、例外的に、特許請求の範囲に製造方法を記載することが必要になる場合もあり、そのような場合には製造方法によって物を特定しても、第三者の利益を不当に害することはないとしています。

他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑みて,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

その上で、同判決は、以下のとおり、PBPクレームが明確性要件を充足するのは、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる」との基準を示しました(この事情はしばしば「不可能非実際的事情」と呼ばれ、また、同事情に基づく基準は「不可能非実際的基準」と呼ばれています。)。

以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

この判示によると、不可能非実際的基準が充足されれば明確性要件が充足されることになる一方、そうでなければ、たとえ、クレームの記載が明確であったとしても、明確性要件を欠くものとして、特許は無効にされることになります。たとえば、「文字板の上に、時針を配し、その上に分針を配し、その上に秒針を配した時計」との記載は、「文字板と、時針と、分針と、秒針からなる時計」と比較して、より明確に時計の構造を特定しているものと考えられますが、プラバスタチンナトリウム事件最判の考え方を文字通りに適用すると、「文字板と、時針と、分針と、秒針からなる時計」は明確でも、「文字板の上に、時針を配し、その上に分針を配し、その上に秒針を配した時計」は不明確であって、このような特許請求の範囲の記載がある場合、特許は無効にされるべきものとなります。

プラバスタチンナトリウム事件最判を巡る議論

プラバスタチンナトリウム事件最判の明確性要件にかかる判示は、PBPクレームの問題点に対して一定の回答を与えるものである一方、不可能非実際的基準にいう「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でない」ということと、クレームの記載が明確かどうかとは直接には関係がありません。記載の背景にどんな事情があろうと、あるいはなかろうと、記載が明確であれば明確ですし、不明確であれば不明確だからです。また、不可能非実際的基準の厳しい基準を文字通りに充足できるのはごく限られた場合であるため、この基準によると、長年の特許実務で積み上げられてきた多くのPBPクレームにかかる特許が、実際に明確かどうかを問わず、明確性要件違反とされ、無効にされるべきものとなってしまいます。そのため、明確性要件を用いつつ、一律の基準でPBPクレームを排除する不可能非実際的基準の是非や射程については、様々な議論がなされました。

そのような中、プラバスタチンナトリウム事件最判が興味深いのは、判決中の補足意見や少数意見に先鋭な意見の対立が現れているところです。

中でも、批判的な意見を記したのは特許庁で特許法改正に携わったこともある山本庸幸裁判官です。同裁判官は、現に特許制度の運用に携わった立場から、特許法改正の経緯も踏まえ、特許請求の範囲の記載は基本的に出願人の自由に委ねられつつ、第三者の権利を害する場合に個別に明確性要件などで規正するのが国際的な制度のあり方であること、そして、PBPクレームは、不明確になる場合もあるものの、技術分野によっては適切な権利保護に資するものであることを指摘し、多数意見に対し、「この多数意見では、以上のような特許法の解釈及び特許実務の運用を根底から覆す結果となる。それが正しい方向であるとすれば特に異論はないが、私には決してそうとは思えない。」との厳しい批判を加えています。

他方、同判決の補足意見として、千葉勝美裁判官は、以下のような意見を述べています。

  • 発明の構成をより分かりやすくするためであれば、製造方法については、特許請求の範囲にではなく、「発明の詳細な説明」に記載することで足り、そうすべきである。
  • 特許出願の際の審査が、PBPクレームを物質特許として認めるための要件を実質的にも審査することになる点でこれまでとは変わることとなるが、出願人にとっては、従前も、構造等で特定できる場合(不可能・非実際的事情が存在しない場合)であるのに通常の物の特許ではなくPBPクレームであるとして出願することがどの程度広く行われてきたかは疑問もあり、また、本当に「不可能であるか、又はおよそ実際的でない」のであれば、この点は、出願人にとって主張立証することに大きな負担となることはないであろう(例えば、生命科学の分野で、新しい遺伝子操作によって作られた細胞等であれば、それを出願時において構造等で特定することに不可能・非実際的事情が存在しないとして拒絶されるとはいえないであろう。)。
  • また、審査においても、出願人がこれを積極的かつ厳密に立証することは事柄の性質上限界があるので、これを厳格に要求することはできず、合理的な疑問がない限り、これを認める運用となる可能性が大きく、その意味では、さほど大きな懸念を抱かなくても済む可能性が大きい。
  • 出願時において不可能・非実際的事情の存在を明らかにできないのであれば(それは、構造等で特定できるのにそれをせず、安易に製法により特定したPBPクレームとして出願したということになる。)、それが無効とされても止むを得ないところである。もっとも、この事態は、特許出願の審査が緩くPBPクレームを認めてきたことに起因するものであり、このことは出願人のみの責任ともいえないところであって、これを避けるためには、特許無効審判における訂正の請求(特許法134条の2)や訂正審判の請求(同法126条)等を活用することも考えられ、それらが現実にどのように処理されるかは今後に残された問題であろう。

プラバスタチンナトリウム事件最判後の動き

裁判例の動き

プラバスタチンナトリウム事件最判の後、知的財産高等裁判所の裁判例には、同最判の判示を踏まえつつも、不可能非実際的基準の適用の前提となる「その物の製造方法が記載されている場合」を限定的に解釈するものが見られるようになりました。

たとえば、以前本ウェブサイトでも紹介した知財高判平成28年11月8日平成28年(行ケ)第10025号(鶴岡稔彦裁判長)は、以下のとおり、プラバスタチンナトリウム事件最判を前提としつつも、「当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確であれば」不可能非実際的基準を適用しないとの考え方を示しています。

前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。
そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。

この考え方は、不可能非実際的基準の適用の前提である「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において」との条件が成立するために、単純に製造方法の記載があるかどうかではなく、①製造方法の記載があること、及び、②当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確でないこと、という2つの要件を充足することを求めるものといえます。

そうすると、この判決のもとで、PBPクレームについて明確性要件違反が成立するのは、以下の3つの要件を充足する場合に限られることになります。

  • 特許請求の範囲に製造方法の記載があること
  • 当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から明確でないこと
  • 出願時において当該物をその構造または特性により直接特定することが不可能であるか、またはおよそ実際的でないという事情が存在しないこと

この要件のもとでは、「文字板の上に、時針を配し、その上に分針を配し、その上に秒針を配した時計」は、物の構造を明確に表したものとして、不可能非実際的基準が適用されるPBPクレームには該当せず、明確性要件にかかる通常の判断がなされることになるでしょう。

もっとも、そもそも、「どのような構造又は特性を表しているのかが・・・明確であれば」明確性基準は充足されますし、それが不明確であれば、たとえ不可能非実際的基準が充足され、類型的に明確性要件違反となることが回避できたとしても、個別の判断において結局明確性要件を充足しないとの判断に至るのが通常ではないかと思われるため、上記判旨は、プラバスタチンナトリウム事件最判が示した明確性要件の基準の適用の前提として、製法の記載が物の構造・特性を表しているかにより、実質的に明確性要件の適用の判断をしてしまうもの、つまり、明確性要件本来の個別判断により、不可能非実際的基準による類型的判断を捨象するものといえなくもありません。

なお、上記の知財高裁の考え方は、同じ鶴岡稔彦裁判長によるものながら、上記判決に先立つ知財高判平成28年9月20日平成27年(行ケ)第10242号にも見られます。

審査の動き

特許庁は、プラバスタチンナトリウム事件最判後の平成27年7月6日、「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査の取扱いについて」との文書を公開し、同判決が示した不可能非実際的基準に沿った審査を行うものとしつつ、「物の発明に係る請求項の少なくとも一部に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するか否かを、明細書、特許請求の範囲、図面の記載に加え、発明の属する技術分野における技術常識も考慮して判断する」とし、実質的に同判決の射程を制限しました。

具体的には、「製造に関して、経時的な要素の記載がある場合」、「製造に関して、技術的な特徴や条件が付された記載がある場合」、「製造方法の発明を引用する場合」には「その物の製造方法が記載されている場合」として不可能非実際的基準を適用するものの、「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」には、不可能非実際的基準を適用しないものとし、以下の例を挙げています。

具体例:
「樹脂組成物を硬化した物」
「貼付チップがセンサチップに接合されている物品」
「AがBと異なる厚さに形成された物」
「AとBを配合してなる組成物」
「ゴム組成物を用いて作成されたタイヤ」
「A層とB層の間にC層を配置してなる積層フィルム」
「単離細胞」「抽出物」「脱穀米」「蒸留酒」「メッキ層」「着脱自在に構成」

また、特許庁は、上記文書において、PBPクレームにかかる出願について、製法発明にカテゴリーを変更する補正で対応することを示唆していたほか、別途審判手続において、特許登録後にPBPクレームから製法クレームにカテゴリーを変更する訂正を認めています

現在の特許実用新案審査基準は、PBPクレームと明確性要件の関係について、第II部第2章第3節に以下のとおり記載しています。

4.3.2 物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合

物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、その請求項の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる。そうでない場合には、当該物の発明は不明確であると判断される。(参考)最二小判平成27年6月5日(平成24年(受)1204号、同2658号・民集69巻4号700頁、同904頁)「プラバスタチンナトリウム事件」判決

上記の事情として、以下のものが挙げられる。

(i) 出願時において物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったこと。

(ii) 特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、物の構造又は特性を特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出又は時間を要すること。

出願人は、上記の事情の存在について、発明の詳細な説明、意見書等において、これを説明することができる。

この記載は、プラバスタチンナトリウム事件最判に沿ったものですが、平成28年9月28日改訂の特許・実用新案審査ハンドブックは、第II部第2章2204「『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該当するか否かについての判断」において、以下の基本的な考え方を示しています。

審査官は、物の発明についての請求項の少なくとも一部に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するか否かを、明細書、特許請求の範囲、図面の記載に加え、その発明の属する技術分野における出願時の技術常識も考慮して判断する(以下の類型、具体例に形式的に該当しても、当該技術分野における技術常識に基づいて異なる判断がされる場合があることに留意が必要である)。
特に、「その物の製造方法が記載されている場合」の類型、具体例に形式的に該当したとしても、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮し、「当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか」が明らかであるときには、審査官は、「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するとの理由で明確性要件違反とはしない。

また、同ハンドブックは、上の記載に続いて、「『その物の製造方法が記載されている場合』に該当しない類型」として、ここでも「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」を挙げ、その具体例として、以下のとおり記載しています。

具体例:
「樹脂組成物を硬化した物」
「貼付チップがセンサチップに接合されている物品」
「AがBと異なる厚さに形成された物」
「AとBを配合してなる組成物」
「ゴム組成物を用いて作製されたタイヤ」
「A層とB層の間にC層を配置してなる積層フィルム」
「着脱自在に構成」
「A部材に溶接されたB部材」
「面取りされた部材」
「本体にかしめ固定された蓋」
「粗糸Aと粗糸Bとを用いてなる精紡混撚糸」
「ポリマーAで被覆された顔料」
「モノマーAとモノマーBを重合させてなるポリマー」
「PEG化されたタンパク質」
「翻訳後修飾されたタンパク質A」
「ヒト化抗体」
「配列番号Xで表されるアミノ酸において少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質」

●特に、物の構造又は特性を特定する用語として、概念が定着しているもの(例えば、辞書、教科書、規格文書等に定義等の記載が存在し、かかる記載に照らすと、物の構造又は特性を特定する用語として概念が定着していると判断されるもの)
「鋳物」「鋳造品」「鍛造品」
「溶接部」「ろう付け部」「はんだ付け部」「融着接続部」
「切削部」「切断部」「研削面」「圧入部」「圧入構造」
「焼結体」「圧粉体」
「延伸フィルム」「インフレーションフィルム」
「印刷部品」「印刷コイル」「印刷コンデンサ」
「塗布膜」「蒸着膜」「(層、膜としての)コーティング層」
「拡散層」「エピタキシャル層」「エピタキシャル成長層」
「フロート板ガラス」「溶融亜鉛めっき鋼板」「加硫ゴム」「エンボス加工品」「溶接組立体」「一体成形品」
「単離細胞」「抽出物」「脱穀米」「蒸留酒」「メッキ層」

これも、「その物の製造方法が記載されている場合」を限定的に解釈することにより、不可能非実際的基準の硬直性から生じる問題を回避しようとするものといえるでしょう。

この解釈によれば、「文字板の上に、時針を配し、その上に分針を配し、その上に秒針を配した時計」は、そもそもPBPクレームにはあたらないことになります。知財高裁の判決が、そういったクレームもPBPクレームに該当することを前提としつつ、明確性要件との関係でプラバスタチンナトリウム最判の射程を制限したのに対し、特許庁は、PBPクレームの該当性そのものを否定するアプローチで軌道修正を図ったものと考えられます。

事案の概要

概要

本件は、被告が保有する特許第3889689号についての特許無効審判(無効2019-800099号)の不成立審決に対する取消訴訟です。対象特許の発明は、名称を「電鋳管の製造方法及び電鋳管」とし、9つの請求項がありますが、特許無効審判では、請求項1、5、6及び9にかかる発明についての特許が無効にされるべきものかが争われました。

審判では、訂正要件、実施可能要件、サポート要件、特許要件(進歩性)、明確性要件の各充足が争われましたが、本稿では、明確性要件の問題を取り上げます。

争点

明確性要件が問題になったのは、請求項6及び9にかかる特許で、請求項6の記載は以下のようなものでした。

外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方または両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管であって、
前記導電層は、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下であることを特徴とする、
電鋳管。

また、請求項9は、訂正請求によって訂正されたところ、訂正後の記載は、以下のようなものでした(下線部は、請求項6との相違部分)。

外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成すると共に、前記細線材の両端側に前記電着物または前記囲繞物が形成されていない部分を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管であって、
前記導電層は、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下であり、
前記電着物または前記囲繞物はニッケルとし、前記導電層は金とした
ことを特徴とする、
電鋳管。

審決は、上記クレーム中の細線材の抜き取り方法に関する記載は、電鋳により製造された微細な管の構造または特性として、細線材が適切に除去されており、電鋳管がコンタクトプローブ用の管等として使用可能な程度の内面精度を有しているとの構造または特性を表していると解釈することができること、及び、不可能非実際的基準も充足すると認められることから、明確性要件は充足されると判断していました。

原告(審判請求人)は、審決の上記認定判断を不服として、審決取消訴訟を提起しました。訴訟において、被告(特許権者)は、本件発明6及び訂正発明9の電鋳管をその構造または特性により直接特定することについて不可能・非実際的事情が存在しないことを認めていたため、それでも明確性要件が充足されるかが争点となっていました。

判旨

判決は、まず、プラバスタチンナトリウム事件最判に基づき、以下のとおり、PBPクレームが明確性要件を充足するためには不可能非実際的基準を充足する必要があることを述べました。

物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁)。

他方、判決は、プラバスタチンナトリウム事件最判の趣旨は、物同一説のもと、PBPクレームは、一般的な場合において、権利範囲が不明確になり、第三者の利益が不当に害されかねないところにあることを指摘しました。

もっとも、上記のように解釈される趣旨は、物の発明について、その特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)、当該発明の技術的範囲は当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるところ(前掲最高裁判決)、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのか、又は物の発明であってもその発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているか不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がその範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪う結果となり、第三者の利益が不当に害されることが生じかねないところにある。

その上で、判決は、以下のとおり、「出願時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義的に明らかな場合」には、プラバスタチンナトリウム事件最判の上記趣旨は該当せず、明確性要件違反には当たらないとの考え方を示しました。これは、上述の平成28年知財高判と同様の考え方です。

そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、出願時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解される。

以上の基準のもと、判決は、以下のとおり、発明にかかる物の構造や特性が一義的に明らかかを検討し、結論において、これを否定しました。

まず、特許請求の範囲の記載から本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の内面精度が明らかでないことはいうまでもなく、また、本件明細書には、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の内面精度について、何ら記載も示唆もされていない。
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、①電着物等を加熱して熱膨張させ、又は細線材を冷却して収縮させることにより、電着物等と細線材の間に隙間を形成する方法、②液中に浸して又は液をかけることにより、細線材と電着物等が接触している箇所を滑りやすくする方法、③一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細線材と電着物等の間に隙間を形成したりして、掴んで引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体又は液体を噴出して押し遣る方法、④熱又は溶剤で溶かす方法が記載されている(【0041】、【0116】)が、これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法(上記③の方法に含まれる。)が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在したとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。

以上の認定判断を経て、判決は、請求項6及び9にかかる部分について明確性要件の充足を否定し、特許庁の審決を取り消しました。

コメント

判決は、プラバスタチンナトリウム事件最判の射程を狭く解した知財高裁や特許庁の実務運用の延長上にあるもので、形式的には不可能非実際的基準によって明確性要件が否定されているものの、実質的には、「出願時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義的に明らかな場合」にあたるか、という基準で明確性要件の判断がなされているものと考えることもできます。

知財高裁と特許庁が、最高裁判所の判決直後から、ともに判決の射程を限定し、実質的にその適用を回避する実務運用を採用したことは、プラバスタチンナトリウム事件最判の考え方が、そのままでは実務的に機能しないものであったことを示すもので、PBPクレームを巡る一連の動きは、最高裁判所が問題対処のためにいささか過剰で非現実的な基準を設けたのに対し、特許実務の無用の混乱を避けるため、判決直後から現場が運用で適正化を図ってきた例といえるでしょう。議論の前提となった物同一説の是非については今なお議論の残るところではありますが、我が国のPBPクレームを巡る基本的な考え方は定着してきたと思われますので、今後は、具体的な事案における裁判例の蓄積が待たれるところです。

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(文責・飯島)