知的財産高等裁判所第2部(本多知成裁判長)は、令和4年(2020年)7月20日、海外に設置されたサーバから日本国内への向けた特許発明の技術的範囲に属するプログラムの提供が行われていた事案において、当該提供行為は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当であると判断し、これが日本国特許法2条3項1号の「提供」に該当するとし、日本国内における特許権侵害の成立を認める判決をしました。

本判決は、同一当事者間の同種の発明に係る特許に関する侵害訴訟においては、東京地方裁判所が特許権侵害の成立を否定する判決(同判決のリーガルアップデートはこちら)を出しており、本判決はこれと対照的な判断となっています。

システム関係の発明に係る特許権侵害が問題となる事案において、実施行為の一部が国外で行われていた場合であっても特許権侵害が認められた事案として、訴訟や出願実務にも影響があると思われます。

ポイント

骨子

  • ネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。
  • 他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
  • したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
  • 本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決言渡日 令和4年7月20日
事件番号 平成30年(ネ)第10077号
特許権侵害差止等請求控訴事件
原判決 東京地判平成30年9月19日
平成28年(ワ)第38565号
特許権侵害差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 本多知成
裁判官    浅井 憲
裁判官    中島朋宏

解説

問題の所在

多くの製品がインターネットとつながるIoT(Internet to Things)やクラウドサービスによるビジネスが一般的になっています。そのような製品やサービスをカバーする発明は、端末とそこと情報を送受信するサーバなど複数の物で構成され、1つの物で完結しない場合がよくあります。そして、そのような場合、例えば、端末は日本国内にあるが、サーバは海外にあるといったように発明が国境を越えて実施されるケースが出てきます。

このようなケースで法的に問題になる論点としては、①特許権侵害に基づく請求の準拠法をどのように判断するか、及び、②特許発明の一部が国外で実施された場合に日本国内において特許権侵害が成立するか、という2つがあります。

上記①は、特許権侵害を請求原因とする訴えにおいて、行為が複数の国や地域にまたがっている場合には、どの国や地域の法律に基づいて特許権侵害に基づく請求権の存否を判断するかという問題です。この点については、最高裁判決最高裁判所(最一判平成14年9月26日平成12年(受)第580号民集56巻7号1551頁)により、差止請求については当該特許権が登録された国の法律が準拠法になる、損害賠償請求については「法例」(現在の「法の適用に関する通則法」)に従うと判断しています。

他方、上記②は、特許発明の構成要件の一部が日本国外で実施されている場合において、オールエレメント・ルール及び属地主義との関係で、特許権侵害を認めてよいかという問題です。この点については、東京地判令和4年3月24日以前に直接判断した裁判例はありませんでした。

本件では、このうち、主に②の論点が問題になっていました。

各論点の詳細については、東京地判令和4年3月24日のリーガルアップデートをご参照下さい。

事案の概要

原告の請求

本件は、「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」とする特許第4734471号及び第4695583号 の特許に係る特許権(以下「本件特許権」といいます。)の特許権者である原告が、被告2社(1社は日本、1社は米国に所在する会社であり、以下、併せて「被告ら」といいます。)に対して、特許権侵害に基づく差止及び損害賠償の請求を求めた事案です。

本件では複数の特許権の侵害が問題になっていますが、本判決が侵害を認定した特許第4734471号の請求項9記載の発明(以下「本件特許発明1」といいます。) の構成は、以下のようになっています。

1-9A 動画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表示装置のコンピュータを,

1-9B 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生手段,

1-9C コメントと,当該コメントが付与された時点における,動画の最初を 基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部に記憶された情報を参照し,

1-9D 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて,前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち,前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントをコメント情報記憶部から読み出し,

1-9E 当該読み出されたコメントの一部を,前記コメントを表示する領域であって一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており他の領域が前記第1の表示欄の外側にある第2の表示欄のうち,前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示するコメント表示手段,

1-9F として機能させるプログラム

原告(控訴人)の主張は、被告(被控訴人)の1社であるFC2 INC.が提供するインターネット上のコメント付き動画配信サービスである「FC2動画」ほか2つのサービス(併せて「被控訴人サービス」といいます。)に用いられるプログラム(以下、個々のプログラムを「被控訴人プログラム1」などといい、個々のプログラムを併せて「被控訴人各プログラム」といいます。)が本件特許に係る発明の技術的範囲に属し、被告ら各プログラムがインストールされた情報処理端末(以下「被控訴人ら各装置」といいます。)は各特許発明の技術的範囲に属し、被告らによる各装置の生産及び使用並びに被告ら各プログラムの生産、譲渡、貸渡し及び電気通信回路を通じた提供(以下「譲渡等」といいます。)並びに譲渡等の申し出は特許権侵害行為を構成するというものです。

原告は、被告らに対し、①特許法100条1項に基づき、被告ら各装置の生産及び使用並びに被告ら各プログラムの生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止めを求め、②同条2項に基づき、被告ら各プログラムの抹消を求め、③民法709条及び同法719条に基づき、損害賠償金の内金1億円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めていました。

原判決

原判決(東京地判平成30年9月19日 平成28年(ワ)第38565号 特許権侵害差止等請求事件)において、裁判所は、被告製品は本件特許権の構成要件を充足せず、均等侵害も成立しないとして原告の請求を棄却しました。(なお、原判決では、行為地が複数国にまたがる場合における特許権侵害の成否には踏み込んでいません。)

これを不服として原告が控訴をしたのが本件です。

判旨

技術的範囲の属否について

控訴審では、原審とは異なり、被控訴人ら各プログラムは本件特許発明1の技術的範囲に属すると判断しました。

なお、本件の争点は、構成要件の充足性、無効論から被告らの行為の共同性(共同不法行為の成否)まで多岐に渡っていますが、本稿では、本件発明1につき、特許発明の構成要件の一部国外で実施されている場合の特許権侵害の成否のみについて取り上げます。

「提供」の解釈

一方、被控訴人らサービスにおいては、被控訴人ら各プログラムは、米国内に存在するサーバから日本国内に所在するユーザに向けて配信されるものであることから(以下、被控訴人ら各プログラムを日本国内に所在するユーザに向けて配信することを「本件配信」といいます。)、被控訴人ら各プログラムに係る電気通信回線を通じた提供は、その一部が日本国外において行われるものでした。そのため、本件配信が準拠法である日本国特許法にいう「提供」に該当するか否かが問題となりました。

この点につき、裁判所は、以下のように述べ、特許発明の実施行為の一部が形式的に日本国外で行われていた場合であっても、問題となる提供行為が「実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当する」としました。

また、上記の評価をするに当たっては、①当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、②当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、③当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、④当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかといった諸事情が考慮されるとしています。

・・・本件発明1-9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。

したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である

本件における侵害行為の成否

その上で、本件の事情の下においては、被控訴人の行った配信行為は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当であると判断し、これが日本国特許法2条3項1号の「提供」に該当するとしました。

そして、被控訴人らによるプログラムの生産並びに各プログラムの提供及び提供の申し出が直接侵害に、被控訴人ら各プログラムの提供につき間接侵害が成立すると結論付けています。

これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1-9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1-9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。

以上によれば、本件配信は、日本国特許法2条3項1号にいう「提供」に該当する。

以上によると、被控訴人らには、被控訴人らプログラム1の生産並びに被控訴人ら各プログラムの提供及び提供の申出を行うことによる本件特許権1の直接侵害と被控訴人ら各プログラムの提供を行うことによる本件特許権1の間接侵害が成立し、被控訴人らは、これらの侵害行為によって控訴人に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うというべきである。

結論

上記のほか、本件では、構成要件充足性、本件各特許は新規性または進歩性の欠如により無効とされるべきものか、被告らの行為の共同性といった論点も議論されましたが、本件発明1については、被控訴人らの主張は排斥され、特許権侵害が認められました。(本件発明2については、控訴審においても構成要件充足性が否定されています。)

結論として、判決は、被控訴人らに対して、①告ら各装置の生産及び使用並びに被告ら各プログラムの生産、譲渡等及び譲渡等の申出の差止め、②被告ら各プログラムの抹消、及び、③1億円の損害賠償及び遅延損害金の支払いを命じました。

なお、損害に関しては特許法102条2項に基づく認定をしていますが、被控訴人らサービスにおいて公開された動画のうち本件発明1が実施されているものの割合は非常に小さいと推認されること等を理由に99%の推定覆滅を認めています。

コメント

本判決は、先行する東京地裁判決(以下「別件訴訟」といいます。)とともに、ネットワーク関連の特許発明の一部が国外で実施されていた場合の特許権侵害の成否について国内で初めて判断基準を示した裁判例と評価できます。

別件訴訟の判決との関係については、同判決は、被疑侵害行為が被告システムという「物」の「生産」に該当するかについて判断をしたのに対し、本判決は、ネットワーク関連発明におけるプログラムの配信が特許法上「譲渡等」に含まれるものと定義される「電気通信回線を通じた提供」に該当するかという点について判断をしたものであり、この点で判断の対象となる実施行為が異なっています。(同種発明ではあるものの、発明が「システム」と「プログラム」で異なっていることから、原告の主張の組み立てにも違いが出たものと考えられます。)

もっとも、判決の適用範囲については、特許発明の実施行為全般につき、「形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される」と述べていることから、一定の場合には特許発明の構成要素の全部が国内で実施されている必要はないとしたものとの評価できると考えられます。

本判決については、被告側から上告がされており、最高裁がどのような判断をするか、別件訴訟の控訴審とともに引き続き注視が必要です。

なお、本判決では被告2社の関係性を詳細に認定した上で共同不法行為が認定されたため、複数主体性(特許権の構成要件の一部の実施行為を第三者が担っている場合に侵害者の行為と評価できるかという問題)は問題にはなっていませんが、ネットワーク関連発明では複数主体性が問題になるケースも多いと思われます。

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(文責・町野)