東京地方裁判所民事第29部(國分隆文裁判長)は、令和4年(2022年)3月24日、物の生産に該当するためには、特許発明の構成要件の全てを満たすものが日本国内において新たに作り出されることが必要であることを理由として、被告の動画配信システムにおけるサーバが日本国外に設置されていた場合において特許権侵害の成立を否定する判決をしました。

本判決は、システム関係の発明に係る特許権侵害が問題となる事案において、構成要素の一部が国外で実施されていた場合の考え方につき実務上参考になると思われます。

なお、同一当事者間の同種の発明に係る特許に関する侵害訴訟において、知的財産高等裁判所は、令和4年(2022年)7月20日、本件とは対照的な判断を示しています。両者を比較することも有益と思われますので、同知財高裁判決についても近日中に記事を公開予定です。

ポイント

骨子

  • 特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された国の法律であると解すべきであるから、本件の差止め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日本法が準拠法となる。
  • 特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題ではなく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、関係の性質は不法行為である。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきであるから、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。
  • 原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠償請求に係る準拠法は日本法である。
  • 発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解される。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味する属地主義の原則からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要であると解すべきである。
  • 本件では、動画配信用サーバ及びコメント配信用のサーバがいずれも米国内に所在しており、完成した被告システムのうち日本国内の構成要件であるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことになるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることができない。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第29部
判決言渡日 令和4年3月24日
事件番号 令和元年(ワ)第25152号 特許権侵害差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 國 分 隆 文
裁判官    小 川   暁
裁判官    矢 野 紀 夫

解説

国境を越えた特許発明の実施と特許権侵害をめぐる論点

多くの製品がインターネットとつながるIoT(Internet to Things)やクラウドサービスによるビジネスが一般的になっています。そのような製品やサービスをカバーする発明は、端末とそこと情報を送受信するサーバなど複数の物で構成され、1つの物で完結しない場合がよくあります。そして、そのような場合、例えば、端末は日本国内にあるが、サーバは海外にあるといったように発明が国境を越えて実施されるケースが出てきます。

このようなケースで法的に問題になる論点としては、①特許権侵害に基づく請求の準拠法をどのように判断するか、及び、②特許発明の一部が国外で実施された場合に日本国内において特許権侵害が成立するか、という2つがあります。

特許権侵害に基づくの準拠法

準拠法とは

準拠法の問題とは、法律問題の解釈においてどの国または地域の法律に従うかという問題です。

準拠法には、契約解釈における契約準拠法や、会社の設立準拠法などもありますが、ここで問題になるのは、特許権侵害にかかる請求権の存否を判断するに当たって法解釈の基準となる準拠法です。

特許権侵害を請求原因とする訴えにおいて、行為が複数の国や地域にまたがっている場合には、どの国や地域の法律に基づいて特許権侵害に基づく請求権の存否を判断するかが問題となります。特許権侵害を原因とする請求権としては、差止めと損害賠償の請求があるため、その両方について考える必要があります。

特許権侵害にかかるこれらの請求権と準拠法の関係については、最高裁判所(最一判平成14年9月26日平成12年(受)第580号民集56巻7号1551頁)が一般的な考え方を示しています。

差止請求権と準拠法

まず、差止請求権と準拠法について、上記最高裁判決は、以下のように述べて、当該特許権が登録された国の法律が準拠法になるとの判示をしています。

特許権の効力の準拠法に関しては,法例等に直接の定めがないから,条理に基づいて,当該特許権と最も密接な関係がある国である当該特許権が登録された国の法律によると解するのが相当である。けだし,(ア) 特許権は,国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり,(イ) 特許権について属地主義の原則を採用する国が多く,それによれば,各国の特許権が,その成立,移転,効力等につき当該国の法律によって定められ,特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められるとされており,(ウ)特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められる以上,当該特許権の保護が要求される国は,登録された国であることに照らせば,特許権と最も密接な関係があるのは,当該特許権が登録された国と解するのが相当であるからである。

損害賠償請求権と準拠法

次に、特許権侵害を理由とする損害賠償請求について、同最高裁判決は、法律関係の性質は不法行為であり、その準拠法については、「法例」によるとしています。

特許権侵害を理由とする損害賠償請求については,特許権特有の問題ではなく,財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから,法律関係の性質は不法行為であり,その準拠法については,法例11条1項によるべきである。

ここにいう「法例」とは、現行の法の適用に関する通則法(以下「通則法」といいます。)であり、法律の適用に関するルールを定めた法律です。同法の17条(判決のいう法例の11条1項に相当)は次のように定めています。

(不法行為)
第十七条 不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。

したがって、損害賠償請求については、原則として加害行為の結果が発生した地の法律によって請求の当否が判断されることになります。

構成要件の一部が国外で実施されている場合の侵害の成否

問題の所在

次に、特許発明の構成要件の一部が日本国外で実施されている場合に侵害が成立するかについては、以下の点から問題となります。

特許権侵害が直接侵害として成立するためには、特許発明の構成要件の全てが相手方(侵害者)によって実施されている必要があります(オールエレメンツ・ルール)。

一方、各国の特許権は、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、各国の制度が他国の制度から独立したものとされ(特許独立の原則)、また、特許権の効力は当該国の領域内においてのみ認められることとされています(属地主義の原則)。

そして、特許発明の構成要件の一部が日本国外で実施されている場合には、前記オールエレメンツ・ルールと属地主義との関係で、特許権侵害を認めてよいのかが問題となります。

とりわけ、理論的には上記の場合にはこれらの原則に反するとして特許権侵害が否定されることになりそうですが、そのような場合に、被疑侵害品の構成要素の一部を海外に置くことで侵害者が容易に特許権侵害を免れることができてしまうのではないかという問題があります。

なお、特許法は直接侵害のほかに間接侵害が認められる場合も定めていますが(特許法101条)、間接侵害が成立するのは、物の発明の場合には、「物の生産に用いる物」の生産、譲渡等の場合に限定されているところ、本件のようなシステムに関する発明では物の生産に用いる物を生産したり譲渡していると構成できないケースも多く、間接侵害の規定で捕捉し切れないと思われます。

国内外における議論の状況

特許発明の構成要件の一部が日本国外で実施されている場合における特許権侵害の成否については、従前から学説上議論がありました。

裁判例について見ると、インターネットナンバー事件は判決(知財高判平成22年3月24日)では、「情報ページに対するアクセス方法」の特許発明に関し、被告のサーバが韓国に設置されていた事案で、裁判所は特許権侵害を認定しています。

しかしながら、この事案では日本国内の会社と韓国の親会社のいずれが特許権侵害の主体であるか(侵害主体性)が争点となっており、域外適用は争点になっていません。そして、この判決以外にも、域外適用の点について正面から判断をした判決はありませんでした。

米国においては、メール配信システムに係る特許発明で無線送信サーバはカナダ、SMTPサーバやPOPサーバや受信端末は米国内に設置されていたという事実関係の下で特許権侵害を肯定した連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)の判決があります(NTP, Inc. v. Research In Motion, Ltd., 418 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2005))。

CAFCは、(一部サーバが米国外にあったとしても)①他の被告のシステムは全て米国内に存在し、配信サーバを含む全ての装置は、全て米国で制御が可能であること、②被告システムの使用による利益は米国内で享受することができることを理由に、米国特許法§217 (a)の「米国内における・・使用」に該当し、直接侵害が成立すると判断しています。

事案の概要

本件は、「コメント配信システム」とする特許第6526304号の特許(「本件特許」といいます。)に係る特許権(「本件特許権」といいます。)の特許権者である原告が、被告2社(1社は日本、1社は米国に所在する会社であり、以下、併せて「被告ら」といいます。)に対して、特許権侵害に基づく差止及び損害賠償の請求を求めた事案です。

本件特許の請求項1の発明(以下「本件発明1」といいます。)の構成は以下のようになっています。

1A サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
1B 前記サーバは、前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
1C 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
1D 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
1E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
1F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
1G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
1H 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、 が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、
1I コメント配信システム。

原告の主張は、被告の1社であるFC2 INC.(以下「被告FC2」といいます。)が運営するインターネット上のコメント付き動画配信サービスである「FC2動画」ほか2つのサービス(併せて「被告サービス」といいます。)に係るシステム(以下、併せて「被告システム」といいます。)が本件特許に係る発明の技術的範囲に属するものであり、被告FC2が被告の各サーバ(併せて「被告サーバ」といいます。)から日本国内のユーザ端末に所定の電子ファイル(以下、併せて「被告ファイル」といいます。)を送信することが被告システムの「生産」として本件特許権を侵害する行為に当たると主張し、また、もう一社の被告である株式会社ホームページサービスは被告FC2と実質的に一体のものとして上記の特許権侵害行為を行っているというものです。

原告は、被告らに対し、特許法100条1項に基づき、被告ファイルの日本国内のユーザ端末への配信の差止めを求め、同条2項に基づき、被告サーバ用プログラム目録記載の各プログラムの抹消及び被告サーバの除却を求めるとともに、特許権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償請求として、民法709条及び719条1項前段に基づき、特許法102条3項による実施料相当額の損害金1000万円及び遅延損害金の支払いを求めました。

本件の争点は、構成要件の充足性から無効論まで多岐に渡っていますが、本稿では、本件発明1につき、記載の準拠法及び特許発明の構成要件の一部国外で実施されている場合の特許権侵害の成否のみについて取り上げます。

判旨

特許権侵害の準拠法につき、裁判所は、次のようにこれまでの最高裁判決を引用し、本件では差止請求及び損害賠償請求のいずれの準拠法も日本法であると判断しました。

差止請求の準拠法

まず、差止請求の準拠法については、次のように述べています。

特許権に基づく差止め及び廃棄請求の準拠法は、当該特許権が登録された国の法律であると解すべきであるから(最高裁平成12年(受)第580同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)、本件の差止め及び除却等の請求についても、本件特許権が登録された国の法律である日本法が準拠法となる。

損害賠償請求の準拠法

また、損害賠償請求の準拠法については、以下のように述べて、結果発生地が日本であると認定した上で、通則法17条の規定により、日本法が準拠法となるとしています。

特許権侵害を理由とする損害賠償請求については、特許権特有の問題ではなく、財産権の侵害に対する民事上の救済の一環にほかならないから、関係の性質は不法行為である(前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決)。したがって、その準拠法については、通則法17条によるべきであるから、「加害行為の結果が発生した地の法」となる。

原告の損害賠償請求は、被告らが、被告サービスにおいて日本国内の端末に向けてファイルを配信したこと等によって、日本国特許である本件特許権を侵害したことを理由とするものであり、その主張が認められる場合には、権利侵害という結果は日本で発生したということができるから、上記損害賠償請求に係る準拠法は日本法である

特許権侵害の成否

次に、特許権侵害の成否について、裁判所は、以下のように、物の生産に該当するためには、特許発明の構成要件の全てを満たすものが日本国内において新たに作り出されることが必要であるとしました。

発明の技術的範囲に属する「物」を新たに作り出す行為をいうと解される。また、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味する属地主義の原則(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻715 号1551頁参照)からは、上記「生産」は、日本国内におけるものに限定されると解するのが相当である。したがって、上記の「生産」に当たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要であると解すべきである

その上で、本件では、動画配信用サーバ及びコメント配信用のサーバがいずれも米国内に所在しており、完成した被告システムのうち日本国内の構成要件であるユーザ端末のみでは本件発明1の全ての構成要件を充足しないことになるから、直ちには、本件発明1の対象となる「物」である「コメント配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることができないと判断し、原告の請求を棄却しました。

この点につき、原告は「被告システム1は、量的に見ても、質的に見ても、その大部分は日本国内に作り出される「物」であり、被告らによる「生産」は日本国内において行われていると評価することができる」と主張していましたが、裁判所は以下のように述べて、被告の主張を否定しています。

・・・特許法2条3項1号の「生産」に該当するためには、特許発明の構成要件を全て満たす物が日本国内において作り出される必要があると解するのが相当であり、特許権による禁止権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出されるといった基準をもって、物の発明の「実施」としての「生産」の範囲を画するのは相当とはいえない

・・・また、・・・本件発明1の目的は、単に、構成要件1Fの「判定部」及び構成要件1Gの「表示位置制御部」に相当する構成等を備える端末装置を提供することではなく、ユーザ間において、同じ動画を共有して、コメントを利用しコミュニケーションを図ることができるコメント配信システムを提供することであり、この目的に照らせば、動画の送信(構成要件1C及び1H)並びにコメントの受信及びコメント付与時間を含むコメント情報の送信(構成要件1B、1C及び1H)を行う「サーバ」は、この目的を実現する構成として重要な役割を担うものというべきである。

更に、裁判所は、本判決の結論の妥当性に関して次のように述べ、侵害を否定するのは著しく妥当性を欠くとの原告の主張を排斥しています。

本件全証拠によっても、本件特許権の設定登録がされた令和元年5月17日以降の時期において、米国法人である被告FC2が本件特許権の侵害の責任を回避するために動画配信用サーバ及びコメント配信用サーバを日本国外に設置し、実質的には日本国内から管理していたといった、結論として著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められない

コメント

本判決は、禁止権の及ぶ範囲の明確性を重視し、物の「生産」については「特許発明の構成要件の全てを満たす物が、日本国内において新たに作り出されることが必要」であると判断し、被告の動画配信用サーバ及びコメント配信用のサーバがいずれも米国内に所在していたことを理由に特許権侵害の成立を否定しました。

一方で、国外で実施されている要素が特許発明において「重要な役割」を担っていることや、被告FC2がサーバを国外に設置し管理していたのは侵害回避のためではないから、結論として著しく妥当性を欠くとはいえないとも述べており、一定の例外を許容しているようにも読めます。

本件は知的財産高等裁判所に控訴されており、同裁判所は、原告の申し立てに基づき、2022年10月30日、第三者意見募集制度(特許法105条の2の11)を採用することを決定しています。

なお、同一当事者間の同種の発明に係る特許に関する侵害訴訟において、知的財産高等裁判所は、令和4年(2022年)7月20日、本件とは対照的な判断を示しています。同知財高裁判決についても近日中に記事を公開予定です。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・町野)