大阪高等裁判所第8民事部(山田陽三裁判長)は、本年(令和3年)1月14日、商店街に設置された「金魚電話ボックス」が原告の著作権を侵害するかが争われた事案につき、原判決を覆し、原告の主張を認め、原告の著作権を侵害しているとする判決をしました。

本判決は、まず原告作品について、原審ではアイディアと判断された「電話ボックス様の水槽に50匹から150匹程度の赤色の金魚を泳がせるという状況のもと、公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生しているという表現」について、これを創作性ある表現と認め、同表現について原告作品は被告作品と共通していると認めました。
そのうえで、本判決は、被告が被告作品を制作するに至った経緯を詳細に認定し、被告作品が原告作品に依拠しているとして、著作権侵害を認めました。
表現かアイディアかという著作物性の判断、及び複製権侵害における「依拠」の認定について、実務上参考になると思われますので、ご紹介いたします。

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ポイント

骨子

  • 電話ボックス様の水槽に50匹から150匹程度の赤色の金魚を泳がせるという状況のもと、公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生しているという表現において、原告作品は、その制作者である控訴人の個性が発揮されており、創作性がある。このような表現方法を含む1つの美術作品として、原告作品は著作物性を有するというべきであり、美術の著作物に該当すると認められる。
  • 被告作品は、第三者(美術大学の「金魚部」)により製作された作品の部材を被告が引き継いで製作したものであるところ、被告は、原告の抗議などの経緯から、原告作品のことを知り、かつ原告が著作権を主張していることも知ったと言え、かつ「金魚部」の学生らは原告作品の存在及び内容を認識していなかったとは言えないことから、被告らは被告作品を制作するに当たり原告作品に依拠したと認めることができる。

判決概要

裁判所 大阪高等裁判所第8民事部
判決言渡日 令和3年1月14日
事件番号 令和元年(ネ)第1735号
事件名 著作権に基づく差止等請求控訴事件
原審 奈良地方裁判所平成30年(ワ)第466号
裁判官 裁判長裁判官 山 田 陽 三
裁判官    倉 地 康 弘
裁判官    三 井 教 匡

解説

事案の概要

本件の原告(控訴人)は現代美術家として活躍しており、原告作品を製作していました。
原告作品の概要は、本判決によると下記のとおりです。

外見は我が国で見られる一般的な公衆電話ボックスに酷似したものであり、四方がアクリルガラスでできた電話ボックス様の水槽、その内部に設置された公衆電話機様の造作と棚、水槽を満たす水、水の中に泳ぐ多数の金魚から成る。

一方、本件の被告(被控訴人)は、被告作品の管理を行っていた商店街協同組合(以下、「被告組合」といいます。)と、これを設置した団体Aの代表者(以下、「被告B」といいます。)であり、大和郡山市内において、被告作品を展示していました。
被告作品の概要は、本判決によると下記のとおりです。

我が国で実際に使用されていた公衆電話ボックスの部材を利用して制作されたものであり、四方がアクリルガラスでできた電話ボックス様の水槽、その内部に設置された公衆電話機と棚、水槽を満たす水、水の中に泳ぐ多数の金魚から成る。

なお、「ならまち通信社」のウェブサイトにおいて、両作品の画像が掲載されています。
本事案は、原告が、被告作品は原告作品を複製したものであり原告の著作権(複製権、同一性保持権および氏名表示権)を侵害している旨主張して、被告作品の制作の差止め等を求めて、訴えを提起したものです。
主な争点は、①原告作品の著作物性②著作権(複製権又は翻案権)の侵害の有無となっております。

著作物とは

著作権法において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(同法2条1項1号)とされています。

【著作権法第2条1項1号】
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著作物性の要件としては、①思想又は感情、②創作性、③表現、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属すること、の4つが要求されます。

創作性

著作物として保護をうけるためには、「創作性」が必要です。ここでいう「創作性」については、厳格な意味での独創性とは異なり、著作物の外部的表現形式に著作者の何らかの個性が現れていればよいとされています。
誰が表現しても似たような表現になってしまうような場合は、著作者の個性が表現されているとはいえません。そのため、表現の選択の幅が存在しない場合には、創作性が否定されることになります。

創作性の判断にあたっては、当該作品の各構成要素につき個性の現れといえるかを検討するとともに、仮に各構成要素が個々では創作性が認められないとしても、それらを組み合わせた結果として創作性が認められないかについて検討する手法が用いられることがあります。

「表現」と「アイデア」

著作物として保護を受けるためには、思想又は感情を「表現」したものであることが必要であり、「表現」にあたらないいわゆる「アイデア」については著作権によっては保護されません(大阪地判昭和54年9月25日判タ397号(発光ダイオード事件)など)。

複製権とは

他人の著作物を複製する行為は、複製権侵害として著作権法上違法とされています(著作権法21条)。

「複製」については、著作権法において「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義されています。

【著作権法第2条1項15号】
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

著作物を複製することができるのは著作権者です(著作権法21条)。他人の著作物を複製する行為は、著作権法上定められている例外に該当する場合及び著作権者から利用を許諾されている場合を除き、複製権の侵害にあたります。

「依拠」とは

複製権侵害が成立するには、既存の著作物に依拠していること(依拠性)が要件となります。他人の著作物を一切参照せず、独自に創作した場合は複製権侵害にはなりません。

依拠性に関して述べた裁判例としては、音楽著作物に関するワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件(最判昭和53年9月7日判例時報906号38頁)が挙げられます。

この事件は、ある楽曲について当該楽曲を知らずにそれと同一性のある楽曲を作成したという事案です。最高裁は、下記のとおり、既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらないとしています。

著作者は、その著作物を複製する権利を専有し、第三者が著作権者に無断でその著作物を複製するときは、偽作者として著作権侵害の責に任じなければならないとされているが、ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従つて、その存在、内容を知らなかつた者は、これを知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。

翻案権とは

「翻案」とは、既存の著作物に基づき、修正、増減、変更等を加えて新たな著作物を作ることです。原著作物にはない創作的表現が加えられるという点で、複製とは異なります。

他人の著作物を翻案することができるのは著作権者に限られ(著作権法27条)著作権者に無断で著作物を翻案した場合は、翻案権侵害が成立します。

【著作権法第27条】
(翻訳権、翻案権等)
第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

著作権法上、「翻案」の定義規定は置かれていませんが、最高裁平成13年6月28日判決(江差追分事件)により下記のように定義されています。

既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう

原判決

原判決は、原告作品の著作物性は認めたものの、原告が同一性を主張する点については著作権法上の保護の及ばないアイディアに対する主張であるとして、原告の請求を棄却しました(平成30年(ワ)第466号)。
以下、原判決の内容を少し詳しくご紹介します。

まず、原告作品の著作物性につき、原判決は、原告作品の基本的な特徴として
① 公衆電話ボックス様の造形物を水槽に仕立て、その内部に公衆電話機を設置した状態で金魚を泳がせていること
② 金魚の生育環境を維持するために、公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであること
を挙げました。

そのうえで、①については以下のとおり述べて、著作物性を否定しました。

確かに公衆電話ボックスという日常的なものに、その内部で金魚が泳ぐという非日常的な風景を織り込むという原告の発想自体は斬新で独創的なものではあるが、これ自体はアイディアにほかならず、表現それ自体ではないから、著作権法上保護の対象とはならない。

また、②についても、公衆電話ボックス内に金魚を泳がせるというアイディアが決まれば自ずと選択肢が限られるとして、創作性を否定しています。

多数の金魚を公衆電話ボックスの大きさ及び形状の造作物内で泳がせるというアイディアを実現するには、水中に空気を注入することが必須となることは明らかであるところ、公衆電話ボックス内に通常存在する物から気泡を発生させようとすれば、もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想である。すなわち、アイディアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなるから、この点について創作性を認めることはできない。

他方で、原告作品の色・形状等の具体的な表現については創作性を認め、著作物に当たるものと判断しました。

原告作品について、公衆電話ボックス様の造作物の色・形状、内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現においては、作者独自の思想又は感情が表現されているということができ、創作性を認めることができるから、著作物に当たるものと認めることができる。

そのうえで、原判決は、複製権侵害が成立するとの原告の主張に対し、原告が同一性を主張する点(①外観上ほぼ同一形状の公衆電話ボックス様の造作水槽内に金魚を泳がせている点、②同造作水槽内に公衆電話機を設置し、公衆電話機の受話器部分から気泡を発生させる仕組みを採用している点)は著作権法上の保護の及ばないアイディアに対する主張であるから、原告の同一性に関する上記主張はそもそも理由がないとしました。

また、著作物性を認めた原告作品の具体的表現内容についても、アイディアに必然的に生じる表現であること、被告作品から原告作品を直接感得することはできないことを理由として、原告作品と被告作品との同一性を否定しました。

なお、事案に鑑み、具体的表現内容について原告作品と被告作品との間に同一性が認められるか否かについて検討するに、…原告作品と被告作品は、〔1〕造作物内部に二段の棚板が設置され、その上段に公衆電話機が設置されている点、〔2〕同受話器が水中に浮かんでいる点は共通している。しかしながら、〔1〕については、我が国の公衆電話ボックスでは、上段に公衆電話機、下段に電話帳等を据え置くため、二段の棚板が設置されているのが一般的であり、二段の棚板を設置してその上段に公衆電話機を設置するという表現は、公衆電話ボックス様の造作物を用いるという原告のアイディアに必然的に生じる表現であるから、この点について創作性が認められるものではない。また、〔2〕については、具体的表現内容は共通しているといえるものの、原告作品と被告作品の具体的表現としての共通点は〔2〕の点のみであり、この点を除いては相違しているのであって、被告作品から原告作品を直接感得することはできないから、原告作品と被告作品との同一性を認めることはできない。

上記判決に対し、原告がこれを不服として控訴しました。

本判決の判旨

⑴ 原告作品の著作物性について

本判決は、原告作品のうち本物の公衆電話ボックスと外観が異なる点として、以下の4点を指摘しました。

電話ボックスの多くの部分に水が満たされている。
電話ボックスの側面の4面とも、全面がアクリルガラスである。
その水中には赤色の金魚が泳いでおり、その数は、展示をするごとに変動するが、少なくて50匹、多くて150匹程度である。
公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している。

本判決は、まず①~④の各要素について創作性を検討したうえで、これらを組み合わせた作品全体についての創作性を判断しています。
まず、①~③単体については創作性を否定しましたが、④については、「水槽に空気を注入する方法としてよく用いられるのは、水槽内にエアストーン(気泡発生装置)を設置することである」と指摘し、アイデアから必然的に生じる表現であるという被告らの主張を排斥しました。

(1) 第4の点は、人が使用していない公衆電話機の受話器はハンガ一部に掛かっているものであり、 それが水中に浮いた状態で固定されていること自体、非日常的な情景を表現しているといえるし、受話器の受話部から気泡が発生することも本来あり得ないことである。そして、受話器がハンガ一部から外れ、水中に浮いた状態で、受話部から気泡が発生していることから、電話を掛け、電話先との間で、 通話をしている状態がイメージされており、鑑賞者に強い印象を与える表現である。したがって、 この表現には、控訴人の個性が発揮されているというべきである。

被控訴人らは、金魚を泳がせるためには水中に空気を注入する必要があり、かつ、受話器は通気口によって空気が通る構造をしているから、受話器から気泡が発生するという表現は、電話ボックスを水槽にして金魚を泳がせるというアイデアから必然的に生じる表現であると主張する。しかし、水槽に空気を注入する方法としてよく用いられるのは、水槽内にエアストーン(気泡発生装置)を設置することである。また、受話器は、受話部にしても送話部にしても、音声を通すためのものであり、空気を通す機能を果たすものではないから、そこから気泡が出ることによって、何らかの通話(意思の伝達)を想起させるという表現は、暗喩ともいうべきであり、決してありふれた表現ではない。したがって、受話器の受話部から気泡が発生しているという原告作品の表現に創作性があることは否定し難い。

そのうえで、①と③の点のみでは創作性を認めることができないものの、これに④の点を加えることによって、原告作品は「電話ボックス様の水槽に50匹から150匹程度の赤色の金魚を泳がせるという状況のもと、公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生しているという表現」について創作性があるといえることから、美術作品として著作物性を有し、「美術の著作物」に該当すると判断しました。

電話ボックス様の水槽に50匹から150匹程度の赤色の金魚を泳がせるという状況のもと、公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生しているという表現において、原告作品は、その制作者である控訴人の個性が発揮されており、創作性がある。このような表現方法を含む1つの美術作品として、原告作品は著作物性を有するというべきであり、美術の著作物に該当すると認められる。

⑵ 著作権侵害(複製権・翻案権)について

ア 原告作品と被告作品の類似性

本判決は、まず、原告作品と被告作品の共通点と相違点を下記の通り列挙しました。

共通点
公衆電話ボックス様の造作水槽(側面は4面とも全面がアクリルガラス)に水が入れられ、水中に主に赤色の金魚が50匹から150匹程度、泳いでいる。
公衆電話機の受話器がハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している。
相違点
公衆電話機の機種が異なる。
公衆電話機の色は、原告作品は黄緑色であるが、被告作品は灰色である。
電話ボックスの屋根の色は、原告作品は黄緑色であるが、被告作品は赤色である。
公衆電話機の下にある棚は、原告作品は1段で正方形であるが、被告作品は2段で、上段は正方形、下段は三角形に近い六角形(野球のホームベースを縦方向に押しつぶしたような形状)である。
原告作品では、水は電話ボックス全体を満たしておらず、上部にいくらかの空間が残されているが、被告作品では、水が電話ボックス全体を満たしている。
被告作品は、平成26年2月22日に展示を始めた当初は、アクリルガラスのうちの1面に縦長の蝶番を模した部材が貼り付けられていた。

本判決は原判決と異なり、「電話ボックス様の水槽に50匹から150匹程度の赤色の金魚を泳がせるという状況のもと、公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生しているという表現」について創作性を認めています。
そのため、共通点①②については、原告作品における創作性のある部分と重なると認定できることになります。

共通点①及び②は、原告作品のうち表現上の創作性のある部分と重なる。なお、被告作品は、平成26年2月22日に展示を開始した当初は、アクリルガラスのうちの1面に、縦長の蝶番を模した部材を貼り付けていた(相違点⑥)。しかし、前記のとおり、この蝶番は目立つものではなく、公衆電話を利用する者にとっても、鑑賞者にとっても、注意をひかれる部位とはいえないから、この点の相違が、共通点①として表れている原告作品と被告作品の共通性を減殺するものではない。

そのうえで、下記のとおり、相違点については、いずれもありふれた表現にすぎず、創作性のない部分に関係するものであるとしました。

一方、他の相違点はいずれも、原告作品のうち表現上の創作性のない部分に関係する。原告作品も被告作品も、本物の公衆電話ボックスを模したものであり、いずれにおいても、公衆電話機の機種と色、屋根の色(相違点①~③)は、本物の公衆電話ボックスにおいても見られるものである。公衆電話機の下の棚(相違点④)は、公衆電話を利用する者にしても鑑賞者にしても、注意を向ける部位ではなく、水の量(相違点⑤)についても同様であることは前記のとおりである。すなわち、 これらの相違点はいずれもありふれた表現であるか、鑑賞者が注意を向けない表現にすぎないというべきである。

以上より、創作性のある部分は共通していることから、被告作品は、原告作品のうち表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製していると判断しました。

なお、本判決は複製権の侵害を認めたうえで、下記のとおり述べて、仮に別の著作物ということができるとしても、原告作品の翻案にあたるとの考えを示しています。

仮に、 公衆電話機の種類と色、 屋根の色(相違点①~③) の選択に創作性を認めることができ、被告作品が、原告作品と別の著作物ということができるとしても、被告作品は、 上記相違点①から③について変更を加えながらも、後記(3)のとおり原告作品に依拠し、かつ、上記共通点①及び②に基づく表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、原告作品における表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、原告作品を翻案したものということができる。

イ 「依拠」について
原判決においては、そもそも原告作品と被告作品の類似性を否定したため、被告作品が原告作品に「依拠」しているかどうか、すなわち、被告らが原告作品の存在・内容を認識していたかどうかについては、判断がなされていませんでした。
本判決は、被告らが被告作品を制作するに至った経緯を詳細に認定したうえで、「依拠」性を認めています。

(ア)被告作品の制作者・制作時期

被告作品は、美大の「金魚部」で製作された作品(「テレ金」)の部材を被告らが引き継いで、平成26年2月22日に製作したものと認定されています。

(イ)被告が原告作品の存在・内容を認識しながら制作したことについて

被告が上記「テレ金」を引き継ぎ、被告作品を製作し、展示するに至った経緯につき、本判決が認定した事実を時系列で整理します。

①H23.5月頃 被告Bが「金魚部」の指導者である教授及び金魚部のメンバーと知り合う(以後、継続して関係を持っていた)。
②H23.10 同「金魚部」が、大阪市内で開催されたアートイベント「おおさかカンヴァス2011」に製作した作品(「テレ金」)を展示。
③H24.3~4 大和郡山市で開催された映画の公開記念イベント及び「大和郡山お城まつり」において「テレ金」を展示。
④H24.8 上記「テレ金」についておおさかカンヴァス事務局に原告から抗議があり、「金魚部」が出品を辞退。
⑤H25.3~4 「大和郡山お城まつり」に「テレ金」を展示。
金魚部が活動を停止。有志によって構成された団体である「金魚の会」(代表者は被告B)が、金魚部から「テレ金」の部材を譲り受ける。
⑦H25.10 「金魚の会」は、同年10 月、同市で開催された「奈良•町家の芸術祭HANARART 2013」に、 「テレ金」と同様の作品を「金魚電話」と名付けて展示。なお、被告Bは展示に当たって「金魚部」指導者である教授と話をし、その展示に関してアドバイスを受けた。
⑧H25.12 原告がHANARART 2013の実行委員長に対し、 「金魚電話」が控訴人(原告)の著作権を侵害しているとして抗議し、また、被告に対しても同様の抗議を行った。
HANARART2013実行委員長からの原告からの抗議に対する原告宛の回答書において、「以前の○○様(原告)との間のいきさつもある程度聞き及んではおりましたが」との記載がなされる。
➉H26.2.22 被告らが被告作品を制作し、喫茶店の屋外部分にこれを設置。

本判決は、上記の事実関係を前提として、

  • 被告は、平成23年(2011年)5月頃には「金魚部」の指導者である教授及び金魚部のメンバーと知り合い、以後、継続して関係を持っていたこと(①)
  • おおさかカンヴァス2011への「テレ金」の出品に対し原告から抗議があり、出品を辞退した(④)という経緯からすると、金魚部のメンバーは、遅くともこの時までに原告作品の存在を知り、「テレ金」が原告の著作権を侵害するとの主張をしていることを知ったと認められること
  • 被告は、「テレ金」の部材を金魚部から承継した金魚の会の代表者でもあり、 HANARART2013(アートイベント)で「金魚電話」を展示するに当たっても、同教授と話をし、その展示に関してアドバイスまで受けていること(⑦)
  • 原告は、平成25年(2013年)12月、 HANARART 2013の実行委員長に対し、 「金魚電話」が控訴人(原告)の著作権を侵害しているとして抗議し、また、被告に対しても同様の抗議をしたこと(⑧)
  • HANARART2013の実行委員長からの原告からの抗議に対する原告宛の回答書において、「以前の○○様(原告)との間のいきさつもある程度聞き及んではおりましたが」との記載があり(⑨)、被告がこれを聞き及んでいなかったとは考え難いこと

等に基づき、「遅くとも平成25年(2013年)12月までに、原告作品のことを知り、かつ、これについて美術家である原告が著作権を主張していることも知った」と認定しました。
なお、被告Bは、本人尋問において,原告と話をしたことはなく,原告作品のことも知らなかったと供述していたとのことですが、本判決は、①、⑦、⑨の事実から、「「金魚電話」の直接の担当者で,金魚部のメンバーや教授と親交のある被告Bが聞き及んでいなかったとは考え難い」とし、被告Bの供述の信用性を否定しています。

(ウ)金魚部の学生の認識について
被告は、金魚部の学生は原告作品の存在及び内容を認識していなかったから、原告作品に依拠した事実はないと反論していました。

しかしながら、本判決は、

  • 共通点①に加え、創作性の根拠となった共通点②を備えたものが独立して制作されることは経験則上ないこと
  • 「テレ金」制作に関わった人物たちは、美術を専攻する者であったことを考えると、原告作品を紹介する媒体やこれに関する情報に接する機会は多いこと
  • 原告が、おおさかカンヴァス2011の事務局に抗議するとともに、金魚部のメンバーに対し、 「テレ金」の内容を変えるよう求めたところ、特段の反論もなく、金魚部の方から出品を辞退したこと

から、金魚部の学生は原告作品の存在及び内容を認識していなかったとは言えず、被告らは被告作品を制作するに当たり原告作品に依拠したと認めることができると判断しています。

コメント

本判決は、著作物性の判断について、原審ではアイディアと判断された「公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガ一部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している」点につき、創作性ある表現と認めたものであり、アイディアと表現の線引きについて実務上参考になるものと思われます。
また、被告が被告作品を制作するに至った経緯を詳細に認定したうえで、被告作品が原告作品に依拠していると認定しており、複製権・翻案権侵害における「依拠」の判断についても参考になるものと思われます。

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(文責・秦野)