大阪地方裁判所第21民事部(谷有恒裁判長)は、本年(令和3年)1月12日、学生の履修履歴等を基礎にした就職・採用活動支援サイトについて「リシュ活」の商標を使用することが、「職業のあっせん」、「求人情報の提供」(第35類)を指定役務とする登録商標「Re就活」にかかる商標権を侵害するものとして、その使用の差止めや損害賠償などを命じる判決をしました。

判決は、「リシュ活」と「Re就活」とは、外観や観念において相違するものの、称呼が類似することを理由として両者の類似性を認定していますが、その理由として、需要者の一部である求職者は、サービスをさほど精査せずに会員登録をすることや、ウェブサイトの検索には曖昧な文字列も利用できること等を考慮し、需要者に与える印象や記憶において、外観や観念よりも称呼が大きく影響することを指摘しています。

従来、商標の類似性判断において、称呼が、外観や観念よりも重視される傾向にあるとはいわれていましたが、ウェブサイト上で提供されるサービスについて、「リシュ活」と「Re就活」の類似性を認めたのは、かなり踏み込んだ判断といえそうですので、参考のために紹介します。

ポイント

骨子

  • 求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠(乙13,18ないし27,34。各枝番を含む。)によれば,多数の他の求人情報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録することに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。
  • そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であること,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記ではなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よりも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである。
  • 求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のとおり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第21民事部
判決言渡日 令和3年1月12日
事件番号
事件名
平成30年(ワ)第11672号
商標権侵害差止等請求事件
登録商標 商標登録第4898960号
「Re就活」(標準文字)
裁判官 裁判長裁判官 谷   有 恒
   裁判官 杉 浦 一 輝
   裁判官 島 村 陽 子

解説

商標登録と商標権侵害

商標登録を受けるためには、以下のとおり、商標とその商標を用いる商品やサービス(指定商品・役務)との組合せで出願することを要します。

(商標登録出願)
第五条 商標登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書に必要な書面を添付して特許庁長官に提出しなければならない。
 商標登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
 商標登録を受けようとする商標
 指定商品又は指定役務並びに第六条第二項の政令で定める商品及び役務の区分
(略)

商標出願の結果、商標登録を受けると、出願人は、以下のとおり、商標権を得ることができます。

(商標権の設定の登録)
第十八条 商標権は、設定の登録により発生する。
(略)

商標権者は、以下のとおり、登録された指定商品について、登録された商標を使用する権利を専有します。

(商標権の効力)
第二十五条 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。(略)

その結果、第三者が、登録された商標と同一の商標を登録された指定商品・役務と同一の商品・役務について使用したときは、商標権の侵害となります。

また、商標法は、以下のとおり、同一の場合のほか、類似の商標を、同一または類似の商品・役務に使用した場合にも、商標権侵害とみなす旨規定しており、権利範囲を類似の場合にまで拡大しています。

(侵害とみなす行為)
第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
(略)

商標の類似性

商標が類似しているか否かの判断については、以下の最三判昭和43年2月27日昭和39年(行ツ)第110号民集第22巻2号399頁(氷山印事件)が、具体的な取引状況に基づき、商標の外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象を考慮して、商品の出所に誤認混同が生じるか、という観点から判断すべきことを示しており、これが重要な先例となっています。

商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

この判決は、 旧商標法(大正10年法律第99号)2条1項9号の解釈に関するもので、役務商標(サービスマーク)について商標登録が認められるようになった平成3年の商標法改正以前のものですが、同様の考え方は、役務商標にもあてはまります。また、氷山印事件判決は、商標の登録の可否を巡る事件に関するものですが、侵害事件においても同様の考え方が用いられています。

先願との関係

商標法は、以下のとおり、先行する商標登録出願と同一または類似の商標出願については、商標登録を受けることができないものとしています。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(略)
十一 当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十二 他人の登録防護標章(防護標章登録を受けている標章をいう。以下同じ。)と同一の商標であつて、その防護標章登録に係る指定商品又は指定役務について使用をするもの
(略)

そのため、先に出願された商標があった場合に、自己の出願にかかる商標登録が認められた場合には、特許庁は、その出願にかかる商標または商品役務が先願にかかる商標または商品役務と類似しないと判断したものといえ、その限りで登録商標を使用することについては、先願の商標権者との関係でも、一定の安全性が担保されているといえます。

もっとも、商標の登録審査にかかる特許庁の判断は、侵害訴訟裁判所の判断を拘束するものではないため、商標登録を受けていることが先願の商標権の行使との関係で、法的な抗弁となるわけではありません。

商標権侵害に対する救済

商標権侵害があった場合、以下のとおり、商標権者は、侵害者に対し、侵害の停止、予防及び予防に必要な措置を求めることができます。こういった請求は、差止請求と呼ばれます。

(差止請求権)
第三十六条 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

また、過去の商標権侵害に対しては、以下の民法709条により、不法行為に基づく損害賠償を請求することもできます。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

ドメイン名と商標権

ドメイン名に他人の登録商標と同一又は類似の文字列が含まれる場合に商標権侵害となり得るかという問題については、ドメイン名を登録し、使用することが商標としての使用といえるかといった点などをめぐって議論がありますが、これを認めた裁判例として、「mon-chouchou.com」について大阪地判平成23年6月30日平成 22年(ワ)第4461号などがあります。この判決は、上記ドメイン名が、単にインターネット上のアドレスとして使用されていただけでなく、商品の包装用紙などに使用されていたことを捉えて、商標としての使用を認定しています。

不正競争防止法に基づく差止が認められた事案としては、「j-phone.co.jp」についての東京地判平成13年4月24日平成12年(ワ)第3545号や、「MariCar.jp」に関する知財高判令和2年1月29日平成30年(ネ)第10081号、平成30年(ネ)第10091号などがあります。

事案の概要

原告は、インターネット上で求人情報や求職者情報を提供する株式会社で、標準文字商標「Re就活」について商標登録を受けていました(商標登録第4898960号)。同商標登録にかかる商品・役務区分は第35類及び第41類で、第35類に属する指定役務には、「職業のあっせん、求人情報の提供」が含まれていました。

被告は、学生の出身校・学部・学科や履修科目及び企業情報をもとに就職希望者と企業のマッチングを行なっている一般社団法人で、「リシュ活」との標準文字商標につき商標登録を受け、これを使用していました。

このような状況で、原告が、被告に対し、商標やドメイン名の使用の差止及び損害賠償を求めたのが本訴訟です。原告は判決の添付文書1及び同2に列挙されている8つの標章(被告標章1ないし8)を問題にしていますが、被告標章1は「リシュ活」との文字列で、被告標章2ないし5は、レタリングされた「リシュ活」に図形や「CONSORTIUM」といった文字列が結合されたもの、被告標章6ないし8は、それぞれ「risyu-katsu.jp」、「twitter.com/risyukatsu」、「peac.jp/risyu-katsu」といったドメイン名ないしアドレスでした。

判旨

被告標章1について

判決は、まず、被告の役務は、「職業のあっせん」、「求人情報の提供」と「同一又は類似である」と認定しました。

その上で、「Re就活」と「リシュ活」について対比し、以下のとおり、外観や観念において両者は類似しないとの判断をしました。

本件商標は,欧文字2文字と漢字2文字からなっており,カタカナ3文字と漢字1文字からなる被告標章1とは,語尾の「活」の一文字のみが共通しているに過ぎず,欧文字とカタカナから受ける印象も相応に異なるから,外観は同一ではなく,類似するものとも認め難い。
また,被告標章1からは特定の観念を生じないため,観念の点において,両者が同一又は類似ということはできない。

他方、称呼については、以下のとおり、両者は長音の有無が異なるに過ぎず、印象が異なるものとはいえないと述べました。

称呼においては,両者は長音の有無が異なるに過ぎず,長音は他の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから,離隔的に観察した場合,同一のものと誤認しやすく,極めて類似しているといえる。被告は,アクセントが異なると主張するが,本件商標も被告標章1も造語であるため,固定したアクセントがあるわけではなく,時と場所を異にしてもアクセントの違いで区別できるほど,印象が異なるものとは認め難い。
さらに、取引の実情については、以下のとおり、需要者である求人企業が称呼の類似性から5人混同するとは認め難いとしつつも、求職者は、サービスの利用の簡便性から、役務内容を精査せずに会員登録することがあることや、ネット上では曖昧な文字列による検索が可能であることなどから、誤認混同の恐れがあるとしました。
取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払うものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が多数ある中で・・・,どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。
しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠・・・によれば,多数の他の求人情報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録することに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。
そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であること,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記ではなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よりも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである。
そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のとおり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる。

この点について、被告は、ウェブサイトでの役務の提供における役務主体の識別は、ウェブサイトの目立つところに設けられたロゴにより行われるのが通常であるとの主張をしていましたが、判決は、以下のとおり、文字列で構成された商標については、称呼で記憶してアクセスすることが多いなどの理由により、これを排斥しました。

被告は,ウェブサイトでの役務の提供においては,役務主体の識別はウェブサイトの上部等の目立つところに付されたロゴにより行われるのが通常であると主張するが,前記のとおり,インターネット上においても,文字列で構成された商標については,称呼で記憶してアクセスすることが多いのであり,称呼の重要性が低いものとはいえない。また,被告は,求職者がサービス内容を確認して会員規約に同意し,所定の情報を入力して会員登録するまでの過程で多くの画面に接することにより視覚で役務の内容や運営主体を理解すると主張するが,・・・被告は,ウェブサイト上で,被告役務につき「まずは会員登録してください。メールアドレスと属性の登録のみで約1分で完了します。」などと記載し,会員登録フォームのページには被告役務の内容を説明する特段の記載はなく,メールアドレスや学校名等の登録のみで会員登録が完了し,会員規約はスクロールしなければ内容を確認できないものであることが認められる。他方,被告役務の会員登録に当たって,学生に役務の内容や運営主体を理解させ,本件商標に係る役務との誤認混同を生じさせないようにする識別表示については,存するとは認められない。

以上から、判決は、「Re就活」と「リシュ活」には類似性が認められるとしました。

被告標章2ないし8について

判決は、被告標章1と基本的に同様の理由から、同2ないし8についても称呼が類似するとして、登録商標との類似性を認めました。被告標章4の「CONSORTIUM」の文字列については、「リシュ活」の文字列よりも個々の文字が小さいこと等から、「リシュ活」部分が役務の主体を識別する要部であるとされ、やはり称呼の類似性を認めました。

結論

結論において、判決は、被告による原告の商標権の侵害を認め、差止め及び損害賠償の請求を認容しました。

なお、損害額については、原告は、1億円の支払いを求めていたのに対し、判決が認容した額は、元本額にして443,919円にとどまりました。

コメント

本件は、観念や外観が異なる中、称呼の類似性に依拠して商標権侵害を認めた事案です。従来、商標の類似性判断において、称呼は、観念や外観よりも重視される傾向にあったといわれていますが、ウェブ上のサービスにおいて、「リシュ活」と「Re就活」が類似するというのは、かなり踏み込んだ判断であろうと思われます。あくまで地裁判決ですので、控訴審の判断が注目されるところです。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・飯島)