2019年12月25日、中央環境審議会循環型社会部会レジ袋有料化検討小委員会は、2020年7月から始まるプラスチック製買物袋の有料化のあり方を発表しました。
今般、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)の関連省令が改正され、小売業に属する事業を行う事業者が商品の販売に際してその商品の持ち運びのためのプラスチック製買物袋を有償で提供することが義務付けられることとなり、2020年7月1日から施行されます。
本稿では、省令改正の背景と改正の内容及び併せて公表されたガイドラインの内容を解説します。
ポイント
骨子
- 国内におけるプラスチック廃棄物の排出を抑制し、また、消費者のライフスタイルの変革を促すための措置として、2020年7月1日から、省令で定める小売業に属する事業を行う事業者(指定容器包装利用事業者)においてプラスチック製買物袋を有償で提供することが義務付けられる。
- 現行の容器包装リサイクル法の下においては、指定容器包装利用事業者は容器包装廃棄物の排出抑制推進措置を行うべきものとされ、主務大臣は、排出抑制のための必要な指導・助言をすることができる。また、容器包装多量利用事業者については、主務大臣に対して、取組の状況につき定期報告を行う義務があり、これを怠った場合には罰則が課され得るほか、その内容が不十分な場合には指導、勧告、公表、命令を受ける場合がある。
- 今般のプラスチック製買物袋の有償提供は、既存の容器包装リサイクル法の関連省令を改正することにより行われ、指定容器包装利用事業者は、プラスチック製買物袋を有償で提供することにより、消費者によるプラスチック製の買物袋の排出の抑制を相当程度促進することが求められる。また、容器包装多量利用事業者については、これに加えて、プラスチック製買物袋の有償提供の取組の状況についても主務大臣への定期報告が必要となる。
解説
プラスチック製買物袋有料化の背景
近年、プラスチックごみによる海洋の汚染の問題が国際的に大きな問題となっており、国連やG7、G20といった国際会議でプラスチックごみの減量化に向けて議論がされている状況です。
こうした流れを受けて国内外の民間企業においては、飲食店におけるプラスチック製ストローの廃止、小売店におけるプラスチック袋から紙袋への切り替え、食品や飲料メーカーにおけるプラスチックの代替素材の開発等が積極的に行われており、「脱プラ」の動きが加速しています。
プラスチックごみを削減するため方法としては、一度使用されて捨てられる「ワンウェイ」のプラスチック製品の使用自体を削減することが1つとして考えられます。プラスチック製のストローや買物袋はワンウェイのプラスチック製品の代表例です。
国外ではレジ袋を有料化または禁止している国や地域が複数あります。例えば、イギリス、スペイン及びオランダでは有料化が義務付けられ、フランスではバイオマス含有等一定の条件を満たさないレジ袋の使用が禁止されています。また、中国では2008年に有料化が義務付けられ、レジ袋の使用削減が達成されたと言われています。
一方、日本国内の動きとしては、2019年5月に環境省、経済産業省等複数の省庁の連名で「プラスチック資源循環戦略」が公表され、プラスチックごみ問題に具体的に取り組んでいくことを明らかにしています。この中ではワンウェイのプラスチックを2030年までにこれまでの努力も含め累積で25%削減することが目標とされ、具体的な施策として、「レジ袋の有料化義務化」について言及されていました。
日本国内でもレジ袋の有料化を条例で義務付けたり、自治体と小売店が協定を締結することによりレジ袋の使用を削減する取組は行われていましたが、国レベルで有料化は義務付けられていませんでした。しかしながら、プラスチックごみを削減し、また、そのために国民の行動の変革を起こす目的で、今般、プラスチック製買物袋の有料化が義務付けられることになったものです。
容器包装リサイクル法における排出抑制推進措置
容器包装リサイクル法とは
今回のプラスチック製買物袋の有料化の施策は容器包装リサイクル法の関連省令を改正することにより行われるものであるため、以下では、容器包装リサイクル法の概要と、同法において小売業者が行うものとされる排出抑制推進措置の概要を説明します。
容器包装リサイクル法は、容器包装廃棄物の削減を目的として1995年に制定されました。同法では、市町村は容器包装廃棄物の分別収集を行うこととされる一方、容器包装を利用または製造する事業者は容器包装廃棄物の再商品化義務を負っています。
実際の運用においては、分別収集された容器包装廃棄物は指定法人を通じて入札で決まった再商品化事業者に引き渡されてリサイクルが行われ、容器包装の利用または製造を行う事業者は指定法人に対して再商品化費用を負担しています。(このほか、主務大臣の認定を受けた場合には、容器包装の利用または製造を行う事業者は指定法人を介さずに再商品化を行うこともできます。)
排出抑制推進措置の概要(指定容器包装利用事業者の義務)
プラスチック製買物袋の排出抑制との関係では、2006年の容器包装リサイクル法の改正により、「指定容器包装利用事業者」が省令に従い、容器包装の使用を合理化するための取組を行うこととされました(法7条の4)。
ここでいう「指定容器包装利用事業者」とは、「その事業において容器包装を用いる事業者であって、小売業に属する事業を行うもの」(小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令(以下「省令」といいます。)1条)とされています。今回プラスチック製買物袋の有料化を行うものとされる事業者はこの「指定容器包装利用事業者」です。後述のガイドラインの説明のとおり、ここでいう事業者の範囲は広く、スーパーマーケット、コンビニエンスストアといった事業者のほか、美容室で商品を販売するケースのように小売業が本業ではない場合も含みます。
指定容器包装利用事業者は、省令に従い、容器包装の使用量の低減に関する目標を定め、削減のための取組を計画的に行うこと、容器包装使用の合理化を行うこと、消費者による容器包装廃棄物の排出抑制のための情報の提供、容器包装の使用の合理化を図るための体制の整備等を行うことが求められます(法7条の4、省令第1項、省令第1ないし4条)。
また、主務大臣は、容器包装廃棄物の排出の抑制を促進するため必要があると認めるときは、指定容器包装利用事業者に対し、容器包装廃棄物の排出の抑制の促進について必要な指導及び助言をすることができます(法7条の5)。
容器包装多量利用事業者の義務
指定容器包装利用事業者のうち、その事業において用いる容器包装の量が50トン以上である事業者(容器包装多量利用事業者)は、毎年度、排出の抑制を促進するために取り組んだ措置の実施の状況に関し、主務大臣に報告しなければなりません(法7条の6第1項)。報告義務に違反した場合には、罰則規定があります(法48条1号)。
主務大臣は、上記取組の状況が著しく不十分であると認められるときは、当該容器包装多量利用事業者に対して必要な措置を採るよう勧告することができ、それに従わない場合にはその旨を公表することができます(法7条の7第1項、第2項)。更に、勧告に正当なく従わず、容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進を著しく害すると認めるときは、主務大臣は、一定の手続を経た上で、勧告に係る措置を採るよう命令を出すこともできます(法7条の7第3項)。命令に従わなかった場合については、罰則規定も設けられています(法46条の2)。
省令の改正
有料化義務を負う事業者と対象となる買物袋
今回、省令の改正により、指定容器包装利用事業者にはプラスチック製買物袋の有償提供が義務付けられます。対象となる事業者並びに有料化の対象または対象外となる買物袋は以下のとおりです。
対象となる事業者(省令1条) | 指定容器包装利用事業者(その事業において容器包装を用いる事業者であって、小売業に属する事業を行うもの) |
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有料化対象となる買物袋(省令2条1項) | 消費者が購入した商品を持ち運ぶために用いる、持ち手の付いたプラスチック製の買物袋 |
有料化対象外の買物袋(省令2条1項) | ・プラスチックのフィルムの厚さが50マイクロメートル以上のものであり、その旨が表示されているもの ・海洋生分解性プラスチックの配合率が100%であり、その旨が表示されているもの ・バイオマス素材の配合率が25%以上でありその旨が表示されているもの |
指定容器包装利用事業者の義務
改正された省令においては、2条1項が新設され、指定容器包装利用事業者は、上記の有料化の対象となるプラスチック製買物袋を有償で提供することにより消費者によるプラスチック製買物袋の排出の抑制を相当程度促進するものとされました。
なお、改正前の省令においても、指定容器包装利用事業者は、①商品の販売に際して、容器包装を有償で提供すること、容器包装を使用しないように誘因するために景品等を提供すること、買い物袋を持参しない消費者に繰り返し使用が可能な買物袋を提供すること、容器包装の使用について消費者の意思を確認すること等により消費者による容器包装廃棄物の排出を抑制を相当程度促進すること(省令2条1項、2項1号)、②薄肉化または軽量化された容器包装を用いること、商品に応じて適切な寸法の容器包装を用いること、商品の量り売りを行うこと、簡易包装化を推進すること等により、自らの容器包装の過剰な使用を抑制することが求められています(省令2条2項2号)。
前述のとおり、容器包装リサイクル法においては、主務大臣は容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進について必要な指導及び助言をすることができるとされていますが、プラスチック製買物袋の有料化のあり方についても同様に指導及び助言ができることになります。
また、容器包装多量利用事業者が義務付けられる定期報告において、プラスチック製の買物袋の排出抑制のための取組内容や実績等に関係する情報・数値を記入する欄が追加され、これらの事項についても報告義務が課されます。
容器包装多量利用事業者については、プラスチック製買物袋の排出抑制の促進の状況が著しく不十分であると認められる場合には、勧告、公表、命令を受けることになり、罰則の対象となる点も前述のとおりです。一方で、容器包装多量事業者以外の指定容器包装利用事業者に対してはこれらの措置が採られることは予定されていません。
以上から、小売業を行う事業者は、引き続き石油由来のプラスチック製買物袋をいくらで提供するかを決定の上、有償提供とするようオペレーションを変更する必要があります。引き続き無償提供を続けるのであれば、上記の有料化対象外の海洋成分解性プラスチック製の袋等を提供する必要があります。その他、省令改正前から求められている、容器包装の排出抑制のための取り組みも引き続き必要です。
また、容器包装多量事業者は、上記に加え、プラスチック製買物袋の提供枚数、排出削減のための取り組み内容を記録の上、所定の書式に従い報告する必要があります。
ガイドラインの内容
対象となる事業者・買物袋
省令の改正と同時に、「プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン」が公表され、事業者がプラスチック製買物袋の有料化に取り組むに当たって、判断の目安とすべき事項が記載されています。
まず、対象となる事業者(指定容器包装利用事業者)については、主たる業種が小売ではなくても、事業の一部として小売事業を行っている場合(美容サロンで美容グッズを販売する場合等)には対象となります。なお、この点は、前述した2006年の容器包装リサイクル法改正時の解釈を変更するものではありません。また、省令に基づく有料化の対象とならない者についても自主的取組として、同様の措置を採ることが推奨されています。
次に、対象となる買物袋かどうかの判断は、①袋であるか否か、②プラスチック製か否か、③商品を入れる袋か否か、④持ち運ぶために用いるものか(持ち手があるか否か)及び⑤事業者がやむを得ず提供され、消費者が辞退することが可能か否かがメルクマールとなります。
例えば、上記④との関係では、食品売場などで生鮮食品等を入れるための持ち手のない袋は有料化の対象外となります。また、⑤との関係では事業者からやむを得ず提供され、消費者が事前に袋の要否について意思表示できない場合の通信販売の商品を入れた袋も対象外とされています(ただし、通信販売であっても、消費者が事前に袋の要否について意思表示をできるようにする等の取組をすることも重要とされています)。
有料化のあり方
有料化は、一定の対価を徴収することであり、買物袋を提供しないことと引き換えに商品価格を値引くことや、ポイントを付与すること等は有料化には含まれません。
買物袋の価格や、プラスチック製買物袋の売上の使途の決定は事業者に委ねられています。もっとも、1枚当たりの価格が1円未満になるような価格設定をすることは有料化に当たらないとされ、売上の使途については、事業者から自主的に情報発信することを推奨するとされています。
コメント
プラスチック製買物袋自体が容器包装廃棄物の中で占める割合は大きくはありませんが、今回の有料化の義務化は消費者のライフスタイルの変革を促し、使い捨てのプラスチックや容器包装の使用を削減していくよう社会を変えていくことを大きな目的としています。その意味で、有料化の義務化はプラスチックごみ排出抑制のための大きな一歩として評価できるでしょう。
省令改正までの間においては、中小企業も対象とするか、買物袋の価格を国が決めるか、買物袋の売上を環境対策等の目的のみに使うよう義務付けるか等、様々な点が話題となっていましたが、今回の改正では、中小企業を含む全事業者を対象としつつ、価格や売上の決定については各事業者の判断に委ねられており、ガイドラインを見ても、様々な点において各事業者の自主的な取組を推奨するものとなっています。
法律の枠組みの中で義務付けられる範囲には限界もあるため、各事業者の主体的な行動が求められ、こうした行動がESGやSDGsを意識した企業経営において重要になってくると思われます。
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(文責・町野)
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