大阪地方裁判所第21民事部(谷有恒裁判長)は、平成30年12月18日、サブコンビネーション発明にかかる特許権の間接侵害を認める判決をしました。

同判決は、薬剤分包用ロールペーパの発明についての特許請求の範囲の記載に「(特定の構成を有する)薬剤分包装置に用いられ」とある点について、薬剤分包用ロールペーパの構造、機能等を特定するものであって、用途または用法を定めたものではない、との解釈を示しました。

また、間接侵害についても、実質的な観点から「のみ」要件の充否の認定を行っています。

ポイント

骨子

サブコンビネーション発明の技術的範囲について
  • 本件発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であり,直接には構成要件BないしDから構成されるところ,構成要件Aの薬剤分包装置に係る特定は,本件ロールペーパ等が「用いられ」るという前提のもと,本件ロールペーパ等の構造,機能等を特定するものとして把握すべきものであり,本件ロールペーパ等の用途又は用法を定めたものと解すべきではない。
  • 本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構成要件BないしDと,構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから画されるものと解されるから,一体化製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構成要件を充足するものであって,一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に実際に使用されるか否かは,上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される。
  • 構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能な構成を有し,その他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産,譲渡されれば,その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって,その後に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは,特許権侵害の成否を左右するものではない。
  • 本件発明においては,構成要件Aの「用いられ」は,構成要件Aの記載によって構成要件B以下の内容が特定されることを意味するものとして使われているというべきであるから,そのように特定された構成要件を一体化製品が充足する場合には,構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され,これ以上に,構成要件Aの「用いられ」が,一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置以外には使用されないこと,あるいは現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置が存在することを,要件として定める趣旨と解することはできない。
間接侵害について
  • 被告日進製の薬剤分包装置については,被告製品の販売が一定期間行われた後に,わずか2台が製造,販売されたにとどまるものであるから,被告製品が使用されたとしてもごくわずかといわざるを得ないし,被告以外の薬剤分包装置に被告製品を使用することには困難が伴い,現実的ではないといわざるを得ないから,被告製品については,原告製薬剤分包装置に使用する以外の用途は,実質的には存在しないといわざるを得ない。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第21民事部
判決言渡日 平成30年12月18日
事件番号 平成28年(ワ)第6494号
事件名 特許権侵害差止等請求事件
対象特許 特許第4194737号
「薬剤分包用ロールペーパ」
裁判官 裁判長裁判官 谷 有恒
裁判官    野上誠一
裁判官    島村陽子

解説

サブコンビネーション発明とは

「サブコンビネーション」とは、二以上の装置を組み合わせてなる全体装置の発明、二以上の工程を組み合わせてなる製造方法の発明等に対し、組み合わされる各装置の発明、各工程の発明等をいいます。サブコンビネーションが組み合わされた発明は、「コンビネーション」と呼ばれ、その構成要素であることから、「サブ」コンビネーションと呼ばれます。

例えば、特許庁の特許・実用新案審査基準には、以下のように、携帯電話と充電器が組み合わされた例が紹介されています。この場合、携帯電話と充電器が組み合わされたものはコンビネーションにあたり、携帯電話や充電器はサブコンビネーションにあたります。

収容凹部内の 4 つの内側側面のうちの一の側面に給電端子を備え、その給電端子 とは反対の側面に受光手段を備えた充電器に収容可能な、充電端子を備えた携帯電 話機であって、前記充電器が前記受光手段を用いて携帯電話機の充電完了を示すラ ンプの色を検知し、充電を停止することを特徴とする携帯電話機

サブコンビネーション発明の認定

サブコンビネーション発明にかかる特許請求の範囲の記載の特徴は、他のサブコンビネーション(例えば、携帯電話に対する充電器)が含まれていることにあります。この他のサブコンビネーションの記載を、発明の特定との関係でどのように考えるかに関し、審査基準は、審査におけるサブコンビネーション発明の要旨の認定について、以下のとおり規定しています。

4.1 請求項に係る発明の認定

審査官は、請求項に係る発明の認定の際に、請求項中に記載された「他のサブコンビネーション」に関する事項についても必ず検討対象とし、記載がないものとして扱ってはならない。その上で、その事項が形状、構造、構成要素、組成、作用、機能、性質、特性、方法(行為又は動作)、用途等(以下この項(4.)において「構造、機能等」という。)の観点からサブコンビネーションの発明の特定にどのような意味を有するのかを把握して、請求項に係るサブコンビネーションの発明を認定する。その把握の際には、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮する。

4.1.1 「他のサブコンビネーション」に関する事項が請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造、機能等を特定していると把握される場合

この場合は、審査官は、請求項に係るサブコンビネーションの発明を、そのような構造、機能等を有するものと認定する。(略)

4.1.2 「他のサブコンビネーション」に関する事項が、「他のサブコンビネーション」のみを特定する事項であって、請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造、機能等を何ら特定していない場合

この場合は、審査官は、「他のサブコンビネーション」に関する事項は、請求項に係るサブコンビネーションの発明を特定するための意味を有しないものとして発明を認定する。

審査基準の考え方は、要するに、発明の対象となるサブコンビネーションの構造、機能等を他のサブコンビネーションが特定している場合には、発明の構成要件として考慮し、そうでない場合には、考慮の対象としない、という考え方といえます。

物の発明における用途の記載

特許請求の範囲には、しばしば「●●に用いられる」とか、「●●用の」といった記載が現れます。こういった用途の記載がある場合に、用途によって発明が限定されるのかどうかという点については、特許要件の解釈においても、発明の技術的範囲の解釈においても、考え方に対立があります。

一般的な発明の記載においては、用途は発明を限定するものではないと考えられていますが、公知の化合物等について未知の属性を発見し、新たな用途に適用するような用途発明については、物の発明として特許性が認められる反面、記載され他用途に用いられる場合にのみ実施行為を認めるものとした裁判例が存在します。

また、用途によって発明の対象となる物を限定しようとする記載がある場合には、その用途に適した構造を持つ物に発明が限定されることがあります。審査基準は、「組成Aを有するピアノ線用Fe系合金」という例を用い、「ピアノ線用」という記載がピアノ線に用いるのに特に適した、高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合があるとして、「組成Aを有する歯車用Fe系合金」とは異なった発明となり得るとの説明をしています。

サブコンビネーション発明の権利範囲

審査段階におけるサブコンビネーション発明の認定については、上記のとおり、審査基準に則って実務が行われています。他方、サブコンビネーション発明の権利範囲については、議論があります。

サブコンビネーション発明は、他のサブコンビネーションとの関係で発明の構成が記載された発明ですが、両者は、充電器が携帯電話に用いるものであるように、しばしば、一方が他方に用いるものという関係にあります。上述のとおり、特許請求の範囲には、「●●に用いられる」とか、「●●用の」といった記載がよく現れますが、サブコンビネーション発明は、「用いる」相手方の構成が特許請求の範囲に記載された発明ということもできます。そのため、サブコンビネーション発明の権利範囲は、用途によって限定されるのではないか、という議論が生じるのです。

この点、東京地判平成23年12月26日平成21年(ワ)第44391号・平成23年(ワ)第19340号「ごみ貯蔵機器」事件は、特許請求の範囲の記載、発明の詳細な説明、図面、出願経過及び出願時の技術水準について具体的検討を加え、以下のように述べ、他の用途を排除するものではないとの考え方を示しました。

以上によると,本件発明1の構成要件A(A),F(B-5),G(C)に関して,本件発明1のごみ貯蔵カセットは,「ごみ貯蔵カセット回転装置に係合されて回転可能に据え付け,かつ,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられる」構成であるが,かかる用途等に限定されるものではないと解するのが相当である。

なお、上記判決は、サブコンビネーション発明一般について用途による限定はないと述べているのではなく、あくまで、クレーム解釈の結果として用途を限定した発明ではないとの結論を導いています。

また、損害論においては、被告製品は他のサブコンビネーションとの組合せで用いられていないことが減額事由として主張されたのに対し、裁判所は、「その点についての具体的な主張立証はない。」との理由でこれを排斥しています。どこまで意識して書かれた判示かは不明ですが、論理的には、損害論の文脈において、用途を考慮する可能性を否定したわけではないといえます。

間接侵害とは

特許権侵害が成立するためには、原則として、特許請求に記載された発明の全部を実施することが必要です。例えば、「時針と分針と秒針からなる時計」という発明がある場合に、秒針がない時計を製造販売しても、特許権侵害にはなりません。

しかし、例えば、時針も分針も秒針もないものの、これらの針を取り付けられるような構造にし、あとは3本の針を取り付ければ完成する状態まで時計を作り、これを他の時計メーカーに供給するような場合には、その後に供給を受けた時計メーカーが特許権を侵害する時計を完成させて販売することが予定されていります。このように、自らは発明の全部を実施していなくても、特許権侵害を誘発するような行為は、特許法によって規制する必要があります。

そこで、特許法は、下記の規定を置き、特許権侵害を誘発する恐れのある行為を特許権侵害とみなし、法的責任を負わせることとしています。このような考え方は、間接的に特許権を侵害するという意味で、「間接侵害」と呼ばれ、特許発明の全ての構成要件を実施する「直接侵害」と対比されます。

(侵害とみなす行為)

第百一条 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。

一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

三 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為

四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

六 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為

「のみ」要件

上記のとおり、間接侵害に関する特許法101条には、違法とされる行為として、6つの類型が示されています。そのうち、1号は、いわゆる専用品に関する規定で、第三者が行う直接侵害品の生産に「のみ」用いられる専用品の製造販売等を行う行為を規制しています。

もっとも、この「のみ」要件を充足するために、およそ他の用途があり得ない、ということまでは要求されていません。例えば、本件の発明は薬剤分包用ロールペーパですが、その薬剤分包紙を一般の商品の包装に用いることが物理的に不可能なわけではありません。しかし、医薬品の分包に用いられるように加工され、また、薬剤分包装置に用いられるように芯管に巻き付けられた高価な薬剤分包紙を、一般の商品の包装に用いる利用方法は、社会的に見て現実的なものとはいえず、また、そのような用途に適しているわけでもありません。

そこで、裁判例は、「のみ」要件が充足されるためには、間接侵害が問題となる物に「経済的、商業的又は実用的な他の用途がないこと」が証明できれば足りると解しています(最近の例として、知財高判平成25年4月1日平成24年(ネ)第10092号等)。

事案の概要

原告は、薬剤分包用ロールペーパについての特許権者で、被告に対し、当該特許権の間接侵害を理由として、侵害訴訟を提起しました。薬剤分包用ロールペーパは、芯管の周りに長尺の薬剤分包紙を巻き付けたもので、薬剤分包装置に取り付けて用いられます。発明は、特定の構成を持つ薬剤分包装置に「用いられ」ることを構成要件のひとつとしていました。薬剤分包用ロールペーパ側の特徴は、芯管に磁石が埋め込まれることにあり、これを回転時に薬剤分包装置から読み取ることによって、薬剤分包紙に一定の張力を加えることを可能にしていました。

他方、被告の製品は、磁石が埋め込まれた芯管を持たず、原告の薬剤分包装置用の純正の芯管(磁石あり)よりも内径が少し大きい芯管に薬剤分包紙を巻き付けた構造になっており、ユーザが、利用時に、使用済みの原告の純正の芯管に嵌めて、原告の薬剤分包装置で利用できるようになっていました。そこで、原告は、ユーザによる直接侵害にのみ用いることのできる薬剤分包用ロールペーパを製造販売したものとして、間接侵害の主張を成立しました。

これに対して、被告は、「(特定の構成を有する薬剤分包装置に)用いられ」との要件を満たすためには、純正芯管に嵌められた状態の製品(一体化製品)が当該構成要件を充足する薬剤分包装置にのみ使用されるものであるか、または、少なくとも当該構成要件を充足する薬剤分包装置が現実に存在することが必要である、との主張をしました。

また、被告は、原告の純正の芯管を嵌めていない状態で、上記構成要件を充足しない他社製の薬剤分包装置に利用することができるため、間接侵害は成立しないとも主張しました。

原告は、被告のこれらの主張に対し、本件発明は、公知の物の新たな用途に基づいて特許性が認められたいわゆる用途発明ではなく、その物自体に新規性があることを理由に特許が付与されたのだから、権利範囲が用途によって限定されるべきでなく、また、被告が主張する他社製薬剤分包装置での利用は「経済的、商業的又は実用的な他の用途」にあたらないと反論しました。

判旨

サブコンビネーション発明の技術的範囲について

判決は、まず、発明の性質として、以下のとおり、「用いられ」との記載は、薬剤分包用ロールペーパの構造、機能等を特定したものであって、用途、用法を特定した者とは解されない、と述べました。

本件発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であり,直接には構成要件BないしDから構成されるところ,構成要件Aの薬剤分包装置に係る特定は,本件ロールペーパ等が「用いられ」るという前提のもと,本件ロールペーパ等の構造,機能等を特定するものとして把握すべきものであり,本件ロールペーパ等の用途又は用法を定めたものと解すべきではない。

また、上記を前提とすると、本件発明の技術的範囲の解釈として、記載された構成の薬剤分包装置に実際に使用されるかどうかは構成要件の充足如何に影響しないと述べました。

本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構成要件BないしDと,構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから画されるものと解されるから,一体化製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構成要件を充足するものであって,一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に実際に使用されるか否かは,上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解される。

そして、判決は、当該構成の薬剤分包装置に「使用可能な構成を有し」、他の構成要件も充足する薬剤分包装置が生産、譲渡されれば、特許権侵害が成立し、その後の使用如何は結論に影響しないと判断しました。

構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能な構成を有し,その他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産,譲渡されれば,その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって,その後に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは,特許権侵害の成否を左右するものではない。

判決は、総括部分において、「用いられ」との記載が、他の用途に使用されないことや、特許請求の範囲に記載された薬剤分包装置が実在することを求めるものではない、との考え方を示しました。

本件発明においては,構成要件Aの「用いられ」は,構成要件Aの記載によって構成要件B以下の内容が特定されることを意味するものとして使われているというべきであるから,そのように特定された構成要件を一体化製品が充足する場合には,構成要件Aの「用いられ」を充足すると解され,これ以上に,構成要件Aの「用いられ」が,一体化製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置以外には使用されないこと,あるいは現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置が存在することを,要件として定める趣旨と解することはできない。

間接侵害について

判決は、被告が主張した他社製薬剤分包装置での利用可能性についてひとつずつ検討をし、結論として、以下のように述べ、原告製の薬剤分包装置に使用する以外の用途は実質的にないと認定し、「のみ」要件を充足すると判断しました。

被告日進製の薬剤分包装置については,被告製品の販売が一定期間行われた後に,わずか2台が製造,販売されたにとどまるものであるから,被告製品が使用されたとしてもごくわずかといわざるを得ないし,被告以外の薬剤分包装置に被告製品を使用することには困難が伴い,現実的ではないといわざるを得ないから,被告製品については,原告製薬剤分包装置に使用する以外の用途は,実質的には存在しないといわざるを得ない。

コメント

本件では、直接侵害品が他のサブコンビネーションである特定の構成の薬剤分包装置以外に用いられるものに限定されるか、という点と、間接侵害における専用品か、という点の、2つの観点から用途の問題が争われました。サブコンビネーション発明について間接侵害が認められた事案は多くはなく、事実認定について参考になると思われますので、紹介します。

なお、本判決の対象特許を巡っては、過去にも訴訟が存在しており、被告の一部も重複しています(大阪地判平成26年1月16日平成24年(ワ)第8071号)。この事件では、消尽の成否が争われましたが、最一判平成19年11月08日平成18年(受)第826号インクタンク事件の規範に則って「新たな製造」が認められ、消尽の適用が否定されています。

(文責・町野)