本年(平成30年)4月17日、大阪地方裁判所第21民事部は、不正競争防止法に基づき、被告会社に対し、「堂島プレミアムロール」等の標章の使用差止や損賠賠償等を命じる判決を下しました。
本裁判は、全国的にも有名なロールケーキ「堂島ロール」を販売する会社が、競合他社に対し標章使用の差止等を求めた裁判であり、世間的にも裁判の行方が注目されていました。
本稿では、関係する不正競争防止法の条項を解説するとともに、判決の概要を説明したいと思います。
ポイント
骨子
- 被告会社が被告標章(「堂島プレミアムロール」や「(株)堂島プレミアム/プレミアムロール」など)を使用し、またこれらを使用した被告商品を譲渡する行為は、原告標章(「堂島ロール」)との関係で不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
- 原告標章が原告の周知商品等表示となった事実が認められるから、仮に原告標章を考案し、それを使用したロールケーキの販売を始めたのが第三者であったとしても、その点は問題とはならない。
判決概要(審決概要など)
裁判所 | 大阪地方裁判所 第21民事部 |
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判決言渡日 | 平成30年4月17日 |
事件番号 | 平成28年(ワ)第6074号 不正競争行為差止等請求事件 |
裁判官 | 裁判長裁判官 森 崎 英 二 裁判官 野 上 誠 一 裁判官 大 川 潤 子 |
解説
標章と商標
商標法によると、「標章」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものをいいます。いわゆる「ロゴ」などがこれに該当しますが、これにとどまるわけではありません。
「商標」とは、「標章」のうち、業として商品や役務に使用するものをいいます。
商標法第2条第1項 この法律で「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
商品主体等混同行為
商品主体等混同行為にかかる不正競争行為
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を保護し、国民経済の健全な発展に寄与することを目的として定められたものであり、同法第2条第1項において、不正競争行為の類型が列挙されています。
その中で、商品や営業の主体(出所)を誤認混同させる行為が、不正競争行為として以下のように定められています(同1号)。
不正競争防止法第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 以下略
商品主体等混同行為の要件
商品や営業の主体を誤認混同させる行為(不競法2条1項1号)であると認められるには、以下の要件を満たす必要があります。
①他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている(周知性)
②同一又は類似の商品等表示
③他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
差止請求権
不正競争行為(2条1項各号)によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者はその行為の停止又は予防を請求することができます(3条1項)。この場合、行為者の故意・過失は不要です。
差止請求の態様としては、「被告は、別紙目録記載の標章を使用してはならない」などとして侵害行為の停止又は予防を請求することができる(3条1項)とともに、「被告は、別紙目録記載の標章を使用した商品、広告物を廃棄せよ」などとして侵害行為を組成した物や侵害行為から生じた物の廃棄等の請求をすることができます(3条2項)。
(差止請求権)
不正競争防止法 第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
損害賠償請求権
不正競争により営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により不正競争を行った者に対し、損害賠償を請求することができます(4条)。
(損害賠償)
不正競争防止法 第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。 以下略
また、不正競争防止法は、損害額について推定規定を設けるなどして、営業上の利益を侵害された者の損害の挙証の便宜を図っています(5条)。
(損害の額の推定等)
不正競争防止法 第五条 第二条第一項第一号から第十号まで又は第十六号に掲げる不正競争(同項第四号から第九号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。2 不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。
3 第二条第一項第一号から第九号まで、第十三号又は第十六号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
一 第二条第一項第一号又は第二号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品等表示の使用
二 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品の形態の使用
三 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る営業秘密の使用
四 第二条第一項第十三号に掲げる不正競争 当該侵害に係るドメイン名の使用
五 第二条第一項第十六号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商標の使用4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
商標と不正競争防止法
商標は、特許庁に登録することによって商標権が得られ、商標法による保護が受けられます。これに加え、周知性があれば不正競争防止法による保護も受けられます。
なお、商標登録していない商標は、商標法による保護は受けられませんが、周知性があれば不正競争防止法による保護を受けられます。
本件事案の概要
本件は、全国的にも有名なロールケーキ「堂島ロール」を販売する会社が、「堂島プレミアムロール」等の標章を使用してロールケーキを販売する競合他社に対し、不正競争防止法違反等を理由として標章の差止及び印刷物等からの抹消を求めるとともに、同社および代表者らに損害賠償を求めた裁判です。
原告標章の1つ(原告標章2) | 被告標章の1つ(被告標章1) |
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被告標章の1つ(被告標章3) | |
判旨
①周知性
判決では、不正競争防止法第2条第1項の要件のうち、①原告標章の周知性について、以下のとおり、その該当性を認めました。
原告商品及びその商品等表示である「堂島ロール」は,平成18年頃から大阪市を中心に知られるようになって,そのことが,新聞や雑誌等の記事やテレビ番組で取り上げられるにつれて「堂島ロール」の商品名は全国に知られ始め,これと並行して原告がその販売店舗を急速に全国に展開していくことで売り上げが伸びるとともに,雑誌,テレビ等のマスコミで取り上げられる機会も一層増え,これらの相乗効果で,遅くとも被告会社が設立された平成24年6月までには,原告標章は,原告商品の出所を表示する商品等表示として,日本全国で需要者の間に広く認識され,その程度は周知の域を超え著名といえるほどになっていたものと認められる。
また、そもそも原告標章「堂島ロール」は、原告ではなく第三者が考案したのであるから、「堂島ロール」は「原告の商品等表示」ではないとの被告主張について、裁判所は、仮に第三者によって考案されていたとしても結論に影響しない旨を判示しています。
被告らは,原告標章を考案し,それを使用したロールケーキの販売を始めたのは,第三者であるから,原告の商品等表示とはいえない旨も主張するが,上記(1)認定のとおり,原告標章が原告の周知商品等表示となった事実が認められるから,被告らの主張事実の真偽はさておき,その点は問題とはならない。
②類似性
判決では、類似性判断の基準について、以下のとおり、取引者や需要者の立場から、全体的観察によって対比することをもって判断するものと述べています。
ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最25 高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁参照)。
その上で、被告の各標章がいずれも原告標章と類似していると判断しました。その一つについては、以下のような理由が述べられています。
(被告標章1)
被告標章1及び4である「堂島プレミアムロール」は,「堂島」,「プレミアム」,「ロール」の3語で構成されているが,このうち,「プレミアム」との語は,優れたあるいは高品質なものを意味する語であり,商品が優れたり,高品質なものであったりすることを表現するため商品名に「プレミアム」という文字が付加される例も多い(乙C7の1,2,乙C8の1参照)ことが一般的に認められるから,「プレミアム」の部分は,これと結合する他の単語で表示される商品の品質を表すものと理解され,商品の出所識別機能があるものとは認められない。他方,「堂島」は地名,「ロール」は「ロールケーキ」の普通名詞の略称を表す語であるが,「プレミアム」が上記のとおり,品質を示す意味しか有しないことからすると,「プレミアム」を挟んで分離されているものの,被告標章1及び4からは,プレミアムな,すなわち高品質な「堂島ロール」との観念が生じ,これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえるし,また称呼も同様に類似しているといえる。
そうすると,被告標章1及び4と原告標章とは,被告標章4のみならず字体に特徴のある被告標章1を含め,取引者,需要者が外観,称呼又は観念の同一性に基づく印象,記憶,連想等から,両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。
③混同を生じさせる行為
続いて判決は、以下のとおり、被告行為が混同を生じさせる行為であると認めました。
原告標章と被告標章は類似しており,原告標章を付した原告商品と被告標章を付した被告商品はいずれも一般消費者を需要者とするロールケーキという点で共通しているだけでなく,両商品の販売価格はほぼ一緒であるから,被告商品を販売する行為は,他人である原告の商品と混同を生じさせる行為であるということができる。
差止請求
使用差止請求(3条1項)については、各被告標章のいずれについても被告会社が使用するおそれがあるものとしてこれを認め、抹消請求(3条2項)については、各被告標章のうち具体的使用事実の認められない標章を除き、これを認めました。
損害賠償請求
裁判所は損害額について、第5条第2項の推定規定を適用し、
(被告商品1個あたりの利益の額)145円 × (被告商品の販売数量)23万6280個
=3426万0600円
を原告の損害額として、被告会社に対し損害賠償を命じました。
なお、1個あたりの利益の額は、食料品の製造企業(中小企業)の一般的な製造原価割合を参照して認定されており、また、販売個数は、被告会社に納入された箱の数量を参照して認定されています。
そして、被告会社の代表取締役及び前代表取締役についても、会社法第429条第1項に基づき、在任期間に応じた損害賠償責任を認めました。
その他の請求
原告は、上記不正競争防止法に基づく請求のほか、商標法に基づく損害賠償と不当利得の返還請求をしていますが、裁判所は、これらが仮に認められたとしても上記損害額を超えることはないと判断して、具体的な要件の充足性の判断を行っていません。
コメント
本件は、全国的にも有名なロールケーキとその類似品に関する紛争が訴訟にまで至ったものであり、また、原告商品や商品名に複雑な来歴があるという噂があったことからも、訴訟の結果は世間の注目を集めました。
判決の内容として新たな判断などがあるわけではありませんが、世間の注目を集めた裁判につき、法的な視点から改めて解説した次第です。
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(文責・村上)
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