本年(平成28年)4月21日、東京地方裁判所においてストリーミングと著作権侵害の関係に関する判決がありました。判決は、以下の判示をして、ダウンロードを伴わないストリーミングは複製にあたらないことを明らかにしました。

ポイント

  • 受信複製物とは著作権等の侵害行為を組成する公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物又は実演等の複製物をいうところ,本件においてはダウンロードを伴わないストリーミング配信が行われたにとどまり,本件著作物のデータを受信した者が当該映像を視聴した後はそのパソコン等に上記データは残らないというのであるから,受信複製物が作成されたとは認められないと解するのが相当である。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
裁判官 裁判長裁判官 長谷川 浩 二
裁判官 萩 原 孝 基
裁判官 中 嶋 邦 人
判決言渡日 平成28年4月21日
事件番号 平成27年(ワ)第13760号

 

実務ポイント

ディスクなどへのデータの固定を伴わないストリーミングが著作権法上の「複製」に該当するかは議論がありましたが、本判決は、複製該当性を否定しました。

 

解説

本判決は、動画をストリーミング受信することは「複製」に該当しないことを明らかにしました。結論的には、従来の一般的な考え方に沿ったものといえますが、議論のあるところであり、また、動画配信の適法性をめぐる著作権法の考え方は複雑なので、この機会に改めて整理しておくこととしました。

 

複製とは

他人の著作物を複製すると、複製権侵害となり、著作権法上違法となります。では、「複製」とはどのような意味を持つ概念なのでしょうか。
著作権法は、「複製」の意味を、「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義しています(著作権法2条1項15号柱書)。

有形的再生とは、紙やデジタルメディアなど何らかの媒体に、再生可能な状態で固定することをいいます。印刷物や写真をコピーしたり、CDを複製するのが典型例だといえます。
これに対し、音楽を演奏したり、脚本を上演したりするのは、それ自体には媒体への固定を伴わないので、「無形的再生」といわれ、録音や録画がなされた場合にのみ複製が生じることになります(演劇用の著作物について、著作権法2条1項15号イ)。

つまり、複製とは、著作物が固定された媒体が新たに発生するような利用行為という点に特徴があるといえるでしょう。

 

ダウンロードとストリーミング

ネット上で配信されている動画の利用形態には、ダウンロードと呼ばれるものと、ストリーミングと呼ばれるものがあります。ダウンロードは、送信された情報がディスクなどのメディアに保存されることに特徴があり、ストリーミングは、ユーザから見ると、テレビやラジオの視聴と同じで、再生後にデータが固定されたメディアが残らないことに特徴があります。

上述の複製の定義からすると、ハードディスクなどの媒体に情報が保存されるダウンロードは、「有形的再生」に該当しますので、「複製」にあたります。

他方、ストリーミングについては、議論の余地があります。確かに、ユーザから見るとデジタル情報が手元に残されることはないのですが、技術的に見ると、ストリーミングの過程では、一時的ではあっても、PCのメモリやディスク上にキャッシュとしてデジタル情報が蓄積され、保存されるのが通常だからです。

この問題に関し、従来わが国では、著作権法を所管する文化庁著作権審議会が、メモリー上の一時的な蓄積は複製にあたらないとの見解を表明してきたほか、東京地判平成12年5月16日(スターデジオ事件判決)が、音楽配信を受ける受信チューナ内における音楽データの一時的蓄積は複製に該当しないとの判断を示していました。

本判決は、インターネット上の動画サイトからのストリーミング配信について、一時的な記録は複製にあたらないとして、上記問題に対し、一応の結論を示したものといえます。

 

ストリーミングと複製権の例外

わが国の著作権法では、有形的再生を伴う利用行為は複製権侵害として違法とされます。これが原則ですが、いくつか例外があり、そのひとつが、コンピュータによる情報処理過程における一時的保存を適法とする規定です。

(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
第47条の8 電子計算機において、・・・無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。

ストリーミングで生じるキャッシュは、著作物を受信して利用する場合に、「利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録する」ものですので、複製に該当するとしても、この規定が適用されます。

 

「権利の束」としての著作権と損害

上述のような例外規定によって適法とされるのなら、なぜ本判決では、ストリーミングが複製に該当するかが争われたのでしょうか。

著作権は、著作物を複製する権利である複製権のほか、映画などを上映する上映権、動画などの配信に関わる公衆送信権など、さまざまな権利の集合体です。このことを指して、「権利の束」と呼ぶこともあります。本判決では、ストリーミングは複製にあたらないとされましたが、そのことが直ちに著作権法上適法であることを意味するわけではありません。「権利の束」に含まれる他の権利を侵害していることもあるからです。

今回の事案で被告になったのは、動画ファイルを動画サイトにアップロードした人、つまり、複製する側でなく、配信する側の人です。本判決では、この動画ファイルのアップロードを捉えて公衆送信権を侵害するものとされました。複製の該当性は、著作権侵害の成立を前提としつつ、どれだけの損害をもたらしたか、という損害計算において議論されています。

なお、さらに「複製」の解釈を議論する意義があるとすれば、上で引用した著作権法47条の8の「これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。」との文言との関係が考えられるでしょう。確かに、著作権法47条の8は一時的な記録を適法としているのですが、違法な動画ファイルについては、「これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害」するものとして、この規定の適用が排斥される可能性があるからです。

 

ダウンロードをめぐる従来の制度と近年の法改正

以上のとおり、ストリーミングについては、現在の著作権法上、送信する側は規制されますが、受信する側は規制されないと考えられています。では、ダウンロードの場合はどうでしょうか。

まず、送信側については、ストリーミングと同様公衆送信権侵害が問題となりますので、著作権法による規制の対象となります。

次に、受信側は、動画ファイルなどを保存した時点で複製権侵害が問題となりますが、多くのユーザの利用目的は家庭内での鑑賞であるため、私的利用目的の複製として適法と考えられていました。しかし、動画鑑賞の主流がインターネットを介した配信となった現在、これでは著作権者の利益を守ることができないため、平成21年の著作権法改正により、著作権を侵害するものであることを知りながら録音または録画をする場合には、私的利用目的であっても違法となることが定められました。

このように、動画サイトなどを通じた動画の送受信は、ダウンロードかストリーミングか、送信側か受信側か、さらには違法著作物であることの認識があったか否か、と言った事情で著作権侵害が成立するかどうかが変わってきます。

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(文責・飯島)