令和7年(2025年)5月28日、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)及び資源の有効な利用の促進に関する法律(資源法)の一部を改正する法律が成立しました。一部の規定を除き、令和8年(2026年)4月1日から施行されます。

改正法により、上記2つの法律が改正されるところ、本稿では、GX推進法の改正のポイントを解説します。

ポイント

骨子

  • GX推進法は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進するため施策を定める法律であり、2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」に基づく施策を定める法律として2023年に制定された。国は、成長志向型カーボンプライング構想を掲げており、同法ではその実現のために、カーボンプライシングに位置付けられる制度である排出枠の割り当てと化石燃料採取者等に対する賦課金の徴収が定められている。
  • 国は、排出量取引制度を3段階で進めていくこととしており、現行のGX推進法では、第3段階目の有償オークション制度の対象となる発電事業者(法文上は「特定事業者」と定義)に対して、発電事業に係る二酸化炭素の排出枠の割当が定められている。今回の改正では、第2段階を実施するための措置が法定され、2026年から施行される。
  • 化石燃料賦課金は、石油会社やガス会社などに課される賦課金であり、2028年度から開始される。今回の改正では、法律の施行に向けて、化石燃料賦課金制度の執行のために必要な事項の整備が行われた。

解説

GX推進法の概要

「GX」とは、「グリーン・トランスフォーメーション」のことであり、産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換することを意味します。

GX推進法は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進するため施策を定める法律であり、2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」に基づく施策を定める法律として、2023年に制定されました。

同法では、以下の施策が定められています。

① 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略の策定
② 脱炭素成長型経済構造移行債(GX移行債)の発行
③ 特定事業者への排出枠の割当てに係る負担金の徴収(排出量取引制度)
④ 化石燃料採取者等に対する賦課金の徴収
⑤ 脱炭素成長型経済構造移行推進機構による脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する事業活動を行う者に対する支援業務

GXを推進するため、政府は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する目標や政策の基本的方向性、具体的な施策を定める脱炭素成長型経済構造移行推進戦略を策定するものとされています(6条。上記①)。同戦略は2023年7月に閣議決定され、公表されています(詳細はこちら)。また、2025年2月には、改訂版である「GX2040ビジョン~脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂~」(以下「2024ビジョン」といいます。)が公表されています。

GX推進法とカーボンプライシング

カーボンプライシングの概要

我が国では、経済成長とCO2排出量の削減の両方を実現することを目標とする「成長志向型カーボンプライシング構想」を掲げており、脱炭素成長型経済構造移行推進戦略においては、以下のように述べられています。

国際公約達成と、我が国の産業競争力強化・経済成長の同時実現に向けては、様々な分野で投資が必要となり、その規模は、一つの試算では今後10年間で150兆円を超える。こうした巨額のGX投資を官民協調で実現するため、「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実現・実行していく。具体的には、以下の3つの措置を講ずることとする。

  • 「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策等)
  • カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
  • 新たな金融手法の活用

カーボンプライシングとは、企業などの排出するCO2(炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法をいいます。

カーボンプライシングのうち、排出量取引制度は、排出企業ごとにCO2の排出量の「枠」を割り当て、その排出枠の過不足を企業間で取引したり、市場から調達することを可能とする制度です。CO2を排出する企業においては、CO2の排出を削減できれば経済的なメリットを受けることができ、排出者が排出量を削減するインセンティブが働くとされています。

化石燃料賦課金は、化石燃料(石油、石炭、天然ガス等)の消費によって発生するCO2排出量に応じて賦課されます。賦課金相当額の一部または全部は燃料価格に上乗せされることになるため、国民全体が排出量削減に対するコストを負担するとともに、化石燃料の使用を削減する行動変容につながるとされています。

今般のGX推進法の改正はカーボンプライシングに関するものであるため、以下では改正に関連する範囲において現行のGX推進法の枠組みを紹介します。

特定事業者への排出枠の割当てに係る負担金の徴収(排出量取引制度)

国は、排出量取引制度を3段階で進めていくこととしています。

第1段階は、GXリーグ参画企業による自主的な排出量取引の取組であり、2023年度から始まっています。排出量の目標水準は各企業が自ら決め、参加企業が定めたルールにより取引が行われます。現在700社以上の企業が参画しています。

第2段階は、一定規模以上の排出事業者を対象に排出量取引を義務化するもので、2026年度から施行予定です。300~400社が対象となり、国内排出量の6割がカバーできると試算されています。

第3段階は、発電部門を対象とする排出枠の有償オークション制度の導入であり、2033年度から導入が予定されています。

現行のGX推進法では、上記の第3段階目の有償オークション制度の対象となる発電事業者(法文上は「特定事業者」と定義)に対して、発電事業に係る二酸化炭素の排出量に相当する枠を、有償または無償で割当をすることとされています(GX推進法15条)。

特定事業者は、このうちの有償での割当分につき、入札で決定される二酸化炭素の排出量1トン当たりについて負担すべき額に上記二酸化炭素の排出量に相当する枠に係る量を乗じた金額を納付する義務を負います(GX推進法16条、17条)。

化石燃料採取者等に対する賦課金の徴収

GX推進法は、2028年度から、化石燃料採取者等に対する賦課金を課すことを定めています(GX推進法11条)。ここでいう、「化石燃料採取者等」とは、原油等を採取し、又は保税地域から引き取る(すなわち輸入をする)者をいうとされており(同2条4項)、石油会社やガス会社などが該当することになります。

化石燃料採取者等は、その採取場から移出し、または保税地域から引き取る原油等に係る二酸化炭素の排出量1トン当たりについて負担すべき額(化石燃料賦課金単価)に、二酸化炭素の排出量を乗じた金額を納付する義務を負います(同11条1項)。

GX移行債の発行

GX推進法では、政府は、令和5年度から令和14年度までの各年度に限り、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する施策に要する費用の財源については、各年度の予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で、エネルギー対策特別会計の負担において、公債(GX移行債)を発行することができるとされています(GX推進法7条)。

GX移行債の発行は20兆円規模が予定され、2024年度は1.6兆円分が発行されました。

GX移行債は、前述の排出枠取引の第3段階における特定事業者の負担金と化石燃料賦課金により、令和32年度までに償還されることが予定されています(GX推進法8条1項)。

脱炭素成長型経済構造移行推進機構

GX推進法では、脱炭素成長型経済構造移行推進機構(以下「機構」といいます。)が設置され、化石燃料賦課金及び特定事業者負担金の徴収に係る事務、特定事業者排出枠の割当て及び入札の実施に関する業務、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する事業活動を行う者に対する債務保証その他の支援等を行うこととされています(GX推進法21条)。

改正の内容

法改正の背景

GX推進法では、特定事業者排出枠並びに化石燃料賦課金及び特定事業者負担金に係る制度を実施する方法について、特定事業者排出枠に係る取引を行う市場の本格的な稼働のための具体的な方策を含めて検討を加え、それらの結果に基づいて、法律の施行後2年以内に、必要な法制上の措置を講ずるものと定められています(GX推進法21条2項)。

今般、法律の施行から2年が経過しようとしており、成長志向型カーボンプライシング構想の具合化の次のステップとして、排出量取引制度の法定化、化石燃料賦課金の徴収に関する措置等が必要とされていました。

排出量取引制度

今回のGX推進法の改正では、前記の排出枠取引の第2段階の実施のための施策が法定されました。改正法では、「脱炭素成長型投資事業者排出枠」について定める章が新設され(第5章)、以下のような具体的な措置が定められています。

国による実施指針の策定

まず、経済産業大臣は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する投資を行おうとする事業者に対する脱炭素成長型投資事業者枠(以下「排出枠」といいます。)の割当の実施に関する指針(以下「実施指針」といいます。)を定めることとされました(改正GX推進法32条1項)。この実施指針では、排出目標の設定や排出実績量の算定に関する事項が定められます(同条2項)。

排出目標等の届出

政令で定める量以上のCO2を排出する事業者は、経済産業省令で定めるところにより、事業活動の内容や、CO2の年度平均量等を届出なければなりません(改正GX推進法33条1項)。この届出における排出目標量は政令で定める方法により適切に設定されたものでなければならず、あらかじめ登録確認機関の確認を受けた報告書を添付しなければなりません(同条2項及び3項)。対象となる事業者は、CO2の直接排出量が年間10万トン以上の事業者とされる見込みです。

届出は、100%子会社その他当該事業者と密接な関係を有する者(具体的な基準は経済産業省令で定める)と一体的に脱炭素成長型経済構造への円滑に移行に資する投資を行うときは、共同して行うことができます(改正GX推進法33条4項)。

なお、CO2の排出量の算定・報告については、すでに地球温暖化対策の推進に関する法律やエネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律において定められているところですが、GX推進法の排出量の算定に関する詳細なルールについては、これらの法律等の関連制度における考え方を基礎として定めていくものとされています(2040ビジョン・39頁)。

排出枠の無償割当て、排出量の実績報告、排出枠の償却

経済産業大臣は、事業者の届出内容が実施指針に照らして適切なものであると認めるときは、当該届出をした事業者(「脱炭素成長型投資事業者」といいます。)に対して、届出に係る排出目標量を基礎として、排出枠を無償で割り当てます(改正GX推進法34条1項)。

脱炭素成長型投資事業者は、排出枠の割当年度の翌年度において排出実績量その他経済産業省令で定める事項について経済産業大臣、環境大臣及び事業活動の所管大臣に報告する義務を負います(改正GX推進法35条1項)。この排出実績量について事前に登録確認機関の確認を得て報告書を添付しなければならないことは当初の排出量の届出と同様です(同法35条2項、3項)。

前記報告を受けて、経済産業大臣は報告をした脱炭素成長型投資事業者に対して、排出実績量に相当する排出枠を通知し、通知を受けた事業者は、翌年度の1月31日までこの排出枠を保有する義務を負います(改正GX推進法36条1項)。

割当の翌年度の1月31日に、経済産業大臣は割り当て枠の償却を行います。割り当てられた枠の償却を受けていない事業者は、未償却部分に後述する参考上限価格と1.1を乗じた額(未償却相当負担金)を支払わなければなりません(改正GX推進法41条)。

排出枠の取引

脱炭素成長投資事業者排出枠は、枠を保有する者との間で取引の対象とすることができます(改正GX推進法38条1項)。すなわち、改正法の下では、脱炭素成長投資事業者は、自らが無償で割り当てられた排出枠が不要となった場合にはこれを他の事業者に有償で売却することが認められています。

排出枠の売買を行うための市場(排出枠取引市場)の設置及び運営は、機構が行うものとされました(改正GX推進法111条)。これは、取引量が低迷する可能性がある制度開始当初において、取引を集中させることで適正な価格形成を促す観点からの制度設計であると説明されています(GX2040ビジョン・44頁)。

価格安定化措置

改正GX推進法では、排出枠の価格安定化措置が設けられています。

まず、排出枠が投機的取引の対象とされてはならないことが明文化され(改正GX推進法38条2項)、経済産業大臣は、毎年度、脱炭素成長型投資事業者枠の取引価格について参考上限価格を定めるものとされています(改正GX推進法39条1項)。

この参考上限価格は、我が国の産業又は国民生活に与える影響、脱炭素成長型経済構造への移行状況、エネルギーの需給に関する施策との整合性その他事情を勘案して決せられます。

また、機構は、排出枠の平均売買価格が経済産業省の定める調整基準取引価格を下回る場合には、排出枠を買い入れることができます(改正GX推進法117条1項)。買い入れた排出枠は脱炭素成長型投資事業者対して売り渡すものとされています(同4項)。

排出枠の記録方法

排出枠の取得、保有及び移転のため、経済産業大臣は排出枠口座簿を作成し、法人等保有口座及び機構取引口座を開設するものとし(改正GX推進法45条)、排出枠の管理を行おうとする内国法人は排出枠口座簿に自社の法人等保有口座の開設を受けなければなりません(同法48条1項)。排出枠が割り当てられたときは法人等保有口座に記録されます(改正GX推進法34条3項)。

排出枠の帰属は排出枠口座簿の記録により定まり(改正GX推進法46条)、排出枠の譲渡は口座における排出枠の振替手続により行われます(同50条)。

化石燃料賦課金徴収のための必要事項の整備

今回の改正では、化石燃料賦課金の執行のために必要な事項の整備も併せて行われました。

まず、化石燃料賦課金の納付に係る移出とみなす場合等を法定しました(改正GX推進法12条)。具体的には、前述のとおり、賦課金の算定基準となるのは化石燃料の採取場からの移出や保税地域からの引き取り量ですが、原油等の採取場や保税地域において原油等が費消される場合には、費消のときに原油等の移出ないし引き取りがあったものとみなされ、賦課金が課されることが明記されました。また、原油等の採取の販売業者が労務、資金等を供給して採取を委託する場合には、委託をした者が委託を受けた者の採取した原油等で委託に係る採取をしたものみなされます。

また、化石燃料賦課金は、エネルギーの受供給等に関する施策との整合性、我が国の産業活動に与える影響等を考慮して政令で定めるものについては、化石燃料賦課金を減額することができます(改正GX推進法15条)。

その他、化石燃料採取者等の届出、納付の具体的な方法、延納の場合の措置、滞納処分、延滞金、徴収手続といった実務的な事項も改正法において法定されました(改正GX推進法19~26条)。

コメント

今回のGX推進法の改正では、排出枠取引の第2段階についての具体的な内容が定められた点が重要です。制度開始は2026年4月からとなりますので、対象企業は、手続の理解と対応のための社内体制の整備が求められます。

次回は、資源法の改正のポイントを解説します。

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(文責・町野)