日本と同様、ロシアでも著作権に隣接する権利(著作隣接権)が認識されています。著作隣接権は、特許権などと比較すると、一般の人でもよく直面する、知的財産権の中で重要な権利といえます。たとえば、音楽プレーヤー、ラジオ、テレビ番組や演出時に流れる音楽等は、これらのすべてが著作隣接権のもとで保護を受けます。

著作隣接権は、その名前のとおり、著作権と密接に関係しますが、相違する点も多くあります。本稿では、著作隣接権に係る重要な規定、著作隣接権の類型、著作隣接権者、保護期間などについて説明します。その中で、著作隣接権および著作権の対象を解説し、それぞれの相違点及び法律保護の特徴について触れます。ロシアにおける知的財産権分野を専門としない法律家、事業者、実演家やデータベース製作者などにも有益になると期待しています。

なお、2017年より、ロシア民法における知財関連法が大幅に改正され、その際、著作隣接権についても改正が行われましたが、特許庁の和訳文では、2014年以降の改正内容が反映されていません。本稿では、特許庁の和訳文に反映されていない改正内容にも触れていきます。

ポイント

    • 著作隣接権とは、実演家、レコード製作者、放送又は有線放送事業者、データベース製作者、出版者などが知的活動により創作した成果に関する権利を指します。
    • ロシア著作隣接権は著作権と同様、いくつかの権利に分類され、大きく①排他的権利、②非財産的人格権および③その他の権利から構成されます。
    • ロシアにおける著作隣接権の対象は5つ(実演、レコード、番組伝達、データベース、未公表の著作物の出版)あり、それぞれの性質等が異なります。
    • ロシアにおいて、データベースは、著作権および著作隣接権の両方の客体となるものの、保護する対象が異なります。

著作隣接権とは

著作隣接権について規定するロシア民法第71章には、「著作隣接権」の定義が置かれていないものの、その意味について、学説は、実演家、レコード製作者、放送又は有線放送事業者、データベース製作者、出版者などが知的活動により創作した成果に関する権利のことを指すと定義してします。

たとえば、作曲家は音楽の著作物(著作権の保護対象)を創作すれば、その楽曲に対して著作権を持ちます。他方、演奏家が当該音楽をバイオリンで演奏した場合、演奏家は、当該音楽の実演に対して著作隣接権をもつことになります。

留意すべきこととして、著作隣接権は、必ずしも保護対象にある著作物から発生するとは限りません。保護対象でない著作物からも著作隣接権が発生することがありえます。例えば、ロシア著作権では民間説話に関する創作物は保護対象にされていませんが、民間説話を実演すれば、その実演成果に対して著作隣接権が発生します。

著作隣接権の発生

著作隣接権は、著作権と同様に、「客観的な形式」が創作された時点から自動的に発生します。ここでいう、客観的な形式とは、権利者以外の者が認識できる形式のことを指します。著作隣接権が発生するには、登録やその他のいかなる方式による手続も要しません。

第1304条 著作隣接権の客体

2.著作隣接権の権利の発生、行使及び保護のためには、その客体の登録も、その他のいかなる方式の履行も要しない。

ここで、第三者の著作権を侵害する場合には、著作隣接権は発生しないことに留意すべきです。すなわち、著作権の保護対象である音楽の著作物を実演するには、当該音楽著作物の著作者から許諾を得なければなりません。許諾を得なければ、著作隣接権は発生せず、当該行為が著作権侵害として認識されます。許諾を得る手段としては、著作権に関する前回の記事で述べたように、ライセンス契約等といった方法があります。

著作隣接権の発生についてまとめると、次のとおりとなります。

手順 行為 方法
第三者の著作権を守る ライセンス契約を締結するか、公有の著作物を用いる
著作隣接権の客体を創作する 客観的な形式で表された、公表、放送その他
3 著作隣接権の発生 登録や法的保護の表はも不要

著作隣接権における保護対象

ここでは、どのような知的活動の成果が著作隣接権の対象になるかについて説明します。著作隣接権の対象は、著作権の対象と異なるため、それぞれの相違点及び法律保護の特徴に注意する必要があります。

著作隣接権の対象は以下の規定のとおり限られていますが、それぞれが重要な特徴をもっています。

第1304条 著作隣接権の客体

1)その実演が技術的手段による複製及び頒布が許可な形式で表現されている実演家、指揮者、演出制作者(実演家)

2)レコード、すなわち実演、その他の音又はそれらの映像の音だけを録音したもの

3)放送事業者又は有線放送事業者による番組(放送事業者又は有線放送事業者自身によって、又はその注文に応じて他の事業者の資金負担で制作された番組を含む)の伝達

4)無許可の検索及び資料の継続利用に対する保護が表示されているデータベース

5)公有に属してから公表された学術的、文学的及び美術的著作物(当該著作物の出版者の権利に関する限りにおいて)

上記の著作隣接権の対象は、知的活動の成果という観点から性質が異なっており、一概にこれら全てに創作性があるとは言えません。たとえば、実演や演出制作等は創作性ある成果といえますが、出版者の活動は創作性において劣ります。

以下では、それぞれの特徴について解説します。

1)実演および演出

ロシアにおける「実演」とは、歌・演奏・演出・ダンスやライブパフォーマンス、またはその他の技術的手段によって文学・芸術・民族の著作物を演じて見せることをいいます。当該実演が著作隣接権の保護対象になるには、技術的手段による複製及び頒布ができる形式で表現される要件が必要です。

著作隣接権の対象である実演と著作権の対象である著作物とを区別するのがもっとも重要なポイントです。例えば、「歌」を取り上げてみると、音楽(楽譜)とテキストを組み合わせた歌は、著作権の対象となります。この歌について、他の者がオーケストラ伴奏を伴って実演すると、その者が著作隣接権の保護を受けます。ただし、当該歌を他の形式で実演するには、著作権者の許諾を得ないといけないことについて注意が必要です。

2)レコード

ロシアにおける「レコード」とは、実演その他の音又はそれらの映像の音だけを録音したものをいいます。著作隣接権の対象には、視聴覚表現や画像を伴った録音はレコードに該当しません。従って、視聴覚作品(映画など)に含まれる録音物はレコードから除外されています。このような録音は、視聴覚著作物として著作権の保護対象になります。

本来、レコード製作には創作性がありません。しかし、多くの場合、録音・設備購入・実演者の確保やレコード頒布には多額の投資を要するため、これらの投資を保護する目的で、レコードも著作隣接権の対象に含まれました。レコードにおける著作隣接権が発生するには、第三者の著作権および著作隣接権が遵守されなければならず、これに反するときは排他的権利の侵害となるので留意する必要があります。

3)放送又は有線放送による番組伝達

ロシアにおいてラジオまたはテレビ番組は著作隣接権の対象であり、放送・ケーブル放送事業者が制作者または当初の権利保有者になります。ここで著作隣接権は、番組の制作または録画する時点からではなく、当該番組を放送・ケーブル放送による伝達する時点から発生します。これもレコードと同様に創作性がないものの、多額の投資が必要になるため、著作隣接権の対象として保護されます。

4)データベース

データベースは、著作隣接権および著作隣接権としても保護を受けられます。まず、データベースとして保護を受けるには、創作及びデータベースを構成する素材を集め、配列し、調整するのに相当な金銭・組織・その他の物質上の投資したことが要件とされます。「相当な投資」が認められるためには、原則として、10,000以上の素材から構成されるデータベースを作成することが求められます。

データベースの著作隣接権は、資料の提示形式を保護するのではなく、内容そのものを保護するということに特徴があります。著作隣接権法上は、権利保有者の許諾なしに、データベースから情報を取り出し、それを再利用することは禁じられます。他方、著作権の観点からは、当該行為は合法となります。これは、著作権法では、データベースの「形式(構造)」が保護対象であるのに対し、著作隣接権の場合は、その内容が保護対象になるからです。

ロシアの民法上では、データベースを著作権の対象として登録することができますが、データベースの著作隣接権としての登録に関する規定はありません。

5)未公表の著作物の出版

従前未公表であり、公有に属するに至り、又は著作権保護を受けないため公有に属した学術的、文学的又は美術的著作物の出版は、著作隣接権の対象となります。著作隣接権が認められるためには、公表されたとしても知的財産権が発生しないものであることが条件となります。これも上記と同様に創作性がありませんが、公表されていない著作物の探索・準備・出版に関する金銭上・組織上の費用を必要とするため、著作隣接権として保護を受けられます。

著作隣接権の類別

ロシア著作隣接権は他の知的財産権と同様、いくつかの権利に分類できます。著作隣接権は、大きく①排他的権利、②非財産的人格権および③その他の権利から構成します。

排他的権利(исключительное право)は、権利保有者が、著作隣接権の客体利用について、手段・形式を自らの裁量で決めることができる権利です。また、この権利に基づき、第三者による無断利用を差し止めることもできます。
非財産的人格権(личное неимущественное право)は、個人(実演家、演出家など)のみに認められる権利で、他の著作隣接権者は非財産的人格権を保有しません。著作隣接権のひとつとしての非財産的人格権は、(a)実演家であることを主張する権利、(b)氏名表示権、(c)実演の同一性保持権の3つの権利から構成されます。
その他の権利 - 出版者、レコード製作者、放送事業者およびデータベース製作者に限り、著作隣接権に係る複製物に対して氏名または商号を表示する権利が認められます。この権利は一身専属権であるものの、法人が行使することが多いため、人格権または非財産権利のカテゴリーに属しないものとされています。ロシアでは非財産的人格権が侵害された場合、精神的損害賠償の請求ができるものの、法人の場合は、精神的損害の賠償請求はできません。

著作隣接権の主体について

ここでは、ロシア著作隣接権について、誰が権利者となることができるかについて説明します。歌手・俳優・ダンサー・他の実演者は著作隣接権の所有に関わることが多いため、著作隣接権の主体に関する情報は役に立つと考えられます。さらに、主体に関するこの情報は、著作隣接権の客体を利用する側にも役に立つと考えられます。

著作隣接権主体の定義および種別

ロシアにおける著作隣接権は、法律・契約・相続から発生し、または企業再編成より発生することもあります。著作者には個人のみがなることができますが、著作隣接権者の場合は、法人もその権利者になることが可能です。例えば、レコード製作者、放送事業者やデータベース製作者の法人は著作隣接権の権利者になることができます。

非財産的人格権は、著作物を創作した者にのみ帰属しますが、著作隣接権に対する排他的権利の保有者は別の者になることもあります。例えば、排他的権利の所有者は、使用者であったり、譲渡契約によって取得した者とすることが可能です。さらに、著作隣接権は複数名による所有も可能です(例えば、演劇集団)。この場合、当該集団の各員が当該知的財産に対して共同で排他的権利を有することになります。ただし、多くの場合、労働契約における合意により、排他的権利を1名に帰属させます。

① 実演家 実演の演技者(俳優、歌手、音楽家、舞踊家その他、文芸、芸術又は古典芸能作品(軽演劇、サーカス又は人形劇を含む)を演じ、朗読し、朗詠し、歌い、演奏し、その他の実演に参加する者、並びに実演を演出し(演出者)、指揮する者(指揮者)をいう。(第1313条)
② レコード製作者 レコード製作者は、実演の音、その他の音、又はその代替物の最初の録音の発意と責任を負う者をいう。反証がなされない限り、レコード製作者はレコードの複製物又はその包装に通常の方法でその氏名が表示されている者とする。(第1322条)
③ 放送または有線放送事業者 放送又は有線放送事業者は、放送又は有線放送によりラジオ又はテレビ番組を伝達する法主体をいう。(第1329条)
④ データベース製作者 データベースの創作、及びデータベースを構成する素材を集め、配列し、調整する作業を構成した者である(第1333条)
⑤ 出版者 出版者は、従前未公表であり、公有に属するに至った(第1282条)、又は著作権保護を受けないため公有に属した学術的、文学的又は美術的著作物を適法に公表し又は公表を構成した者をいう(第1337条)
 ① 実演家、演出家および指揮者

「実演家」(исполнитель)とは、知的活動によって実演を創作した個人をいいます。ロシア民法が列挙しているのはあくまで例示ですが、多くの場合、俳優・音楽家・ダンサー・サーカス演技者・フィギュアスケーターなどのスポーツ競技者などの他の演技者が権利者となります。

演出家(режиссер-постановщик)とは、演劇・サーカス・その他の舞台作品の演出を行う個人のことをいいます。

指揮者(дирижер)とは、合奏または合唱を指揮する個人を指します。

② レコード製作者(Изготовитель фонограммы)

「レコード製作者」とは、ある音を最初に固定(録音)し、レコードを制作した個人または法人を指します。このようにして制作されたレコードは知的財産として扱われ、保護の対象になります。この場合、必ずしも著作物(著作権の対象)が含まれている必要はありません。著作隣接権は、自然の音やパソコン操作より製作された音の録音にも及びます。

③ 放送・有線放送事業者(Организация эфирного или кабельного вещания)

「放送・有線放送事業者」とは、放送または有線放送によりラジオまたはテレビ番組を伝達する法人をいいます。ロシアのマスメディア法によれば、ロシアにおいてはテレビ・ラジオ放送事業者は認可を取得しないといけません。この認可は、マスコミやインターネットの監督を担当する連邦通信・情報技術・マスコミ監督庁(ロスコムナゾール)より交付されます。

④ データベース製作者(Изготовитель базы данных)

「データベース製作者」とは、データベースの創作、及びデータベースを構成する素材を集め、配列し、調整する作業を「構成」した個人または法人のことをいいます。ここでポイントは「作業を構成した」ことであり、業務委託または労働契約のもとで作業を行った者ではなかく、実際に出資した者が著作隣接権の主体になります。

⑤ 出版者(Публикатор)

「出版者」とは、これまで未公表であり、公有に属するに至った(第1282条)、又は著作権保護を受けないため公有に属した学術的、文学的又は美術的著作物を適法に公表し又は公表を構成した者をいいます。

ここでなぜ著作物を創作していなかったにも関わず、著作隣接権を有するかといった問いがでてきます。出版者は、これまで公表されなかった作品の探索に取り組むため、著作隣接権が発生し、保護の対象になります。このような制度により、出版者よりいわゆる文化遺産を保存し、周知させることを促すことが目的です。

ただし、違法手段による作品公表の場合は、著作隣接権の対象になりません。また、出版者には個人のみがなりますが、法人が出版者になれないことに関する理由は不明です。

著作隣接権の保護期間

ロシアの著作隣接権は、著作権と違って、統一した法的な保護期間がありません。具体的な保護期間は、著作隣接権の客体により異なってきます。ここでいう保護期間は、著作隣接権の排他的権利を行使できる期間を差し、非財産的人格権は永遠に保護を受けます。

対象 保護期間
実演 実演家の存命中。但し、最短でも実演が行われた、若しくは実演のレコードが収録された日、又は放送又は有線放送による実演の伝達が行われた日の属する年の翌年の1月1日から50年は効力を有するものとする。(第1318条)
レコード 収録が行われた日の属する年の翌年の1月1日から50年間は効力を有するものとする。レコードが公表された場合、独占的権利は公表された日の属する年の翌年の1月1日から50年間効力を有するものとする。但し、レコードが収録された日から50年以内に公表されなかった場合はこの限りでない。
ラジオまたはテレビ番組の伝達 ラジオ又はテレビ番組の放送又は有線放送による伝達がなされた日の属する年の翌年の1月1日から50年は効力を有するものとする。
データベース 創作された日から公表された日から15年間
未公表である著作物の出版 公表された日から25年間

ロシア著作隣接権に係る改正

2017年3月28日に、ロシア連邦法である第43-FZ号「ロシア連邦民法第4部の改正について」が制定され、2018年1月より演出制作者(演出家)の著作隣接権の保護が強化されました。

当該改正により、演出家によって制作された演劇は、「視聴者による特定演劇の認知を維持しながら、その繰り返しの公演を可能とする形式で表現されれば」、著作隣接権が発生することとされました。この権利を享受するためのその他の要件として、技術的手段による複製及び頒布ができる形式で表現されることも必要です(ロシア民法第1304条第1項第1号)。この場合の演出制作者は(軽演劇、サーカス又は人形劇を含む)、著作隣接権の主体である実演者のカテゴリーに含まれます。

終わりに

以上がロシアにおける著作隣接権の概要です。次回は、ロシアの特許法について紹介していきます。

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(文責・アザマト・シャキロフ)