大阪地方裁判所第26民事部(杉浦正樹裁判長)は、令和3年9月6日、YouTubeの動画テロップ(字幕)の無断転載行為が著作権侵害に該当するとして、プロバイダに対する発信者情報開示請求を認容しました。

ポイント

骨子

  • 本件テロップは言語の著作物に該当する。
  • 本件テロップの無断転載行為は複製権又は翻案権の侵害に該当する。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第26民事部
判決言渡日 令和3年(2021年)9月6日
事件番号 令和元年(ワ)第2526号 発信者情報開示請求事件
原告 P1
被告 エックスサーバー株式会社(プロバイダ)
裁判官 裁判長裁判官 杉 浦 正 樹
裁判官    杉 浦 一 輝
裁判官    峯   健一郎

解説

著作物とは

誰かが文章や絵等を創作したときに、それが「著作物」に該当すれば、著作権法による保護を受けることができます。
「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいいます。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

また、著作物の例示として、著作権法に以下の規定があります。

(著作物の例示)
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物
2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。
(略)

上記のとおり、「著作物」に該当するためには、「創作的に表現したもの」である必要があります(創作性)。創作性とは、ありふれた表現ではなく作者の何らかの個性が表れていることを意味します。
例えば、言語の著作物(上記で例示されている小説や講演等を含む、文字か口頭かを問わず、言語で表現された著作物)に関していえば、以下の新聞の見出しや広告キャッチフレーズについて、ありふれた短い表現であるとして創作性(著作物性)を否定した裁判例があります。
「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」
(知財高裁平成17年10月6日ヨミウリオンライン事件判決)
「ある日突然、英語が口から飛び出した!」
(知財高裁平成27年11月10日スピードラーニング第1事件判決)

著作権侵害とは

著作権者は、著作物を利用する権利を専有し、他人が無断で著作物の利用を行うことは、著作権侵害として、差止や損害賠償の対象となります(民法709条、著作権法112条、114条)。
著作物の利用行為には、例えば、「複製」(著作権法21条)や、「翻案」(同法27条)が含まれます。「複製」は印刷等により有形的に再製する行為(同法2条1項15号、要するに、コピー等して同じようなものを作り出す行為)、「翻案」は、翻訳、編曲、変形、脚色、映画化等によって別の著作物を創作する行為(同法27条、要するに、元の著作物をアレンジする行為)をいいます。
著作権侵害というためには、①元の著作物に依拠したこと、②元の著作物の本質的な特徴を直接感得できることも必要です。

プロバイダ責任制限法と発信者情報開示請求

プロバイダ責任制限法は、正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といい、インターネット上での権利侵害行為に対し、プロバイダの責任の範囲や、被害者が求めることのできる措置について定めています。
その措置のひとつとして、同法4条1項は、以下のとおり、ネット上の情報の流通によって権利を害された者は、インターネット・サービス・プロバイダやウェブサイト運営者に対し、発信者情報の開示を求めることができる旨定めています。

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

事案の概要

本件は、YouTubeにおいて、「感動アニマルズ」との名称の動画配信チャンネルを運営する原告が、自身が創作して同チャンネルで配信した、動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせた動画のテロップ(本件テロップ)を、氏名不詳者(本件投稿者)がウェブサイト記事(本件記事)として無断転載した行為(本件投稿)が著作権侵害であると主張し、被告(プロバイダ)に対し、当該氏名不詳者の発信者情報開示を求めた裁判です。
本件投稿者による投稿は、原告の動画を埋め込むとともに、以下のように、本件テロップの表現を一部修正して文章として掲載したものでした(本件テロップや本件記事の具体的な内容は、判決文別紙にも記載されています)。

<本件テロップと本件記事の一例>
本件テロップ:「ドイツ出身のヴァレンティンさんは幼い頃からずっと動物を大切に思ってきました。」
本件記事:「この感動のストーリーは2人の人間から始まります。その1人がヴァレンティンさん。ヴァレンティンさんはドイツ出身。幼い頃よりずっと動物を大切に思ってきました。」

本件テロップ:「2人はボツワナで自然保護プロジェクトを立ち上げました。野生動物の保護を目的とするプロジェクトです。」
本件記事:「2人はボツワナで野生動物の保護を目的とする自然保護プロジェクトを立ち上げました。」

本件テロップ:「メスのライオンで非常に弱っており,瀕死の状態です。」
本件記事:「そのメスの幼いライオンで非常に弱っており,瀕死の状態です。」

本件テロップ:「けれどシルガにとって,人間に慣れてしまう事は危険な事です。」
本件記事:「しかし,人間に慣れてしまってはいけません。」

判旨

著作物性

被告は、本件動画は、既存の映像を編集したものであり、ベースとなっている映像自体がストーリー性を有するものとして構成されていることや、本件テロップは、各画面に1行から2行程度の短文であり、その内容も、閲覧者の理解を助ける程度の簡潔な表現で、既存のストーリーに沿って映像の内容を説明しているものに過ぎないとして、創作性はないと主張していました。
しかし、大阪地方裁判所は、以下のとおり、本件テロップは原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり、著作物と認められると判断しました。

本件動画は,動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー,BGM,本件テロップ及びこれを朗読したナレーションによって構成されるところ,スライドショー及びBGMのみではストーリー性が乏しく,本件動画の内容を正しく把握することは困難であると認められる。その意味で,本件テロップ及びこれを朗読したナレーションは,その余の構成部分に比して,本件動画の中で重要な役割を担うものといえる。
また,このような役割を担う本件テロップの内容は,男性2名が群れを離れた野生のライオンを保護し育てた後,野生動物の保護地区に戻したことや,後に男性らの1名がこの保護地区を訪れた際の当該ライオンとの再会の模様等の一連の出来事に関し,推察される各主体の心情等を交えて叙述したものである。表現方法についても,本件テロップは,動画視聴者の興味を引くことを意図してエピソード自体や表現の手法等を選択すると共に,構成や分量等を工夫して作成されたものといえる。
したがって,本件テロップは,その作成者である原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり,言語の著作物と認められる。

著作権侵害

大阪地方裁判所は、以下のとおり、本件投稿者の記事は、本件テロップと実質的にほぼ同一の内容を表現したものであり、複製又は翻案に当たると判断しました。

複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号),著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解される。また,翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。

本件記事は,記事中に本件動画が埋め込まれていること(甲5)や,上記のとおり,本件テロップと完全に一致する表現を多数含み,相違する部分も,句読点の有無等の僅かな形式的な相違のほか,本件テロップの表現の僅かな修正,要約,前後の入れ替え等にとどまり,実質的にほぼ同一の内容を表現したものであることに鑑みると,本件テロップに依拠したものと認められると共に,著作物である本件テロップの表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められる。
したがって,本件投稿は,少なくとも原告の本件テロップに係る複製権又は翻案権を侵害する。

その上で、結論として、原告の被告に対する本件投稿者の発信者情報開示請求を認めました。

コメント

近時、ファスト映画、まとめサイト、ネタバレサイト等による著作権侵害が問題になっています。元の著作物全部コピーしていなくても、一部を転載すればその部分の複製に、内容を修正・要約しても元の著作物の本質的特徴を直接感得できる場合は翻案にあたり、著作権侵害になり得るところです。
本判決は、YouTube動画のテロップについて、著作物性を認めるとともに、若干内容を修正した本件投稿者の記事について著作権侵害を認めたもので、同種事案の参考になると思われます。

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(文責・藤田)