東京地方裁判所民事第29部(國分隆文裁判長)は、本年(令和4年)7月13日、被告ウェブサイトの制作の委託先が原告の著作物である写真を基に作成した画像を原告に無断で当該ウェブサイトに掲載したという事案において、被告自らが当該画像をアップロードしたと同視できること、当該写真が掲載されていたページにはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)の表示等があり、被告には当該画像の掲載について少なくとも過失が認められることを示しました。

第三者の著作権侵害についてウェブサイト制作の委託先と委託元を同視した点、CCライセンスの表示も根拠として権利侵害についての過失を認めた点において特徴があるため、紹介します。

ポイント

骨子

  • 外注会社に本件被告サイトの制作を依頼した被告が同サイトの内容を事前に確認していないとしても、被告は、本件被告サイトが開設されて以降、同サイトを管理運営していたこと、同サイトは被告が運営する着物及び浴衣買取ウェブサイトへの送客のために作成されたものであって、本件写真を使用することによる最終的な利益帰属主体は被告であることからすると、被告自らが本件画像をアップロードしたと同視できる。
  • 本件写真が掲載されているページに「Check license」(ライセンスを確認せよ)との表示や「License: Attribution-ShareAlike License」(使用許諾:表示-継承使用許諾)と記載されたリンクがあり、同リンクをクリックすると、CCライセンス証に係るページが表示される場合には、上記ページを見た者は、通常、本件写真が著作権及び著作者人格権により保護されており、一定の条件に従わない限り使用することができないことを認識し、又は認識することができるといえるから、本件被告サイトに著作者を表示せずに本件画像を掲載したことについて、被告には少なくとも過失があったと認められる。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第29部
判決言渡日 令和4年7月13日
事件番号 令和3年(ワ)第21405号 著作権侵害差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 國分 隆文
裁判官    間明 宏充
裁判官    バヒスバラン 薫

解説

物理的侵害主体と規範的侵害主体

著作権・著作者人格権侵害に基づく差止請求の相手方、すなわち侵害行為の主体は「侵害する者又は侵害するおそれがある者」とされています(著作権法112条1項)。ここに複製等の物理的侵害主体(実際に印刷機を操作して他人の著作物を印刷する者等)が含まれるのは当然ですが、それ以外の者も一定の範囲では侵害行為の主体になり得ると考えられています。そのような主体は「規範的行為主体」と呼ばれます。

例えば会社が従業員に命じて印刷機を操作させ、他人の著作物を印刷させているときは、両者の間に密接な支配関係があり、会社が従業員を自らの「手足」として利用しているといえることから(この考え方は「手足論」と呼ばれます)、会社は規範的侵害主体に当たり、著作権侵害の責任を負うと考えられています。

規範的侵害主体の責任が認められるのは、このような場合に限られません。古くから「カラオケ法理」と呼ばれる考え方があり、これによれば、①物理的侵害主体の行為を管理・支配し、②営業上の利益が帰属する者は規範的侵害主体として責任を負います(客の歌唱についてカラオケスナックの経営者に著作権侵害の責任を認めたクラブ・キャッツアイ事件最高裁判決〔最高裁昭和63年3月15日判決〕に由来する考え方です)。

しかし、ロクラクⅡ事件最高裁判決(最高裁平成23年1月20日判決)は、①と②の2要件ではなく、「複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当である」と述べて、諸事情の総合考慮によって侵害主体性を判断する立場を採用しました。この立場はその後の裁判例でも採用されており、例えば有名な音楽教室事件知財高裁判決(知財高裁令和3年3月18日判決。町野弁護士による解説記事参照)も「音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては、演奏の対象、方法、演奏への関与の内容、程度等の諸要素を考慮し、誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当である」と述べました。

現在においても①や②が諸事情の1つとして考慮されることはあり、例えばLive Bar X.Y.Z.→A事件知財高裁判決(知財高裁平成28年10月19日判決)は、「利用される著作物の対象,方法,著作物の利用への関与の内容,程度等の諸要素を考慮」すると述べたうえで、「本件店舗における1審原告管理著作物の演奏を管理・支配し,演奏の実現における枢要な行為を行い,それによって利益を得ていると認められる」と述べてライブハウスを規範的侵害主体と認めており、考慮要素として①や②を重視しているといえます。

制作委託と委託元の侵害主体性

パンフレットやウェブサイトといったコンテンツの制作の委託先が第三者の著作権を侵害した場合においては、委託元も侵害主体としてその責任を負うか否かが争点となることがあります。

例えばパン切断装置事件大阪地裁判決(大阪地裁平成28年7月7日判決)は、被告が第三者に作成を委託した取扱説明書が原告の著作権を侵害していた事案において、当該委託先は「被告の手足として,本件図面等に依拠して被告取扱説明書を作成したのであるから,その行為は被告の行為と同視すべきであ」ると述べました。この事案では、被告の代表者のほか少なくとも4名が原告に在籍していたところ、原告取扱説明書と同一の図面及び写真が使用されたという事実があったため、被告による指示の下で委託先が原告の著作物を複製したと判断されました。

著作権侵害の故意・過失

著作権侵害に基づく損害賠償請求の根拠は民法上の不法行為(709条)であるため、著作権侵害が生じたことについての故意又は過失が要件となります。違法複製物の作成者は、他人の著作物に依拠してこれを作成しているため、通常は故意が認められますが、違法複製物の譲受人にはそのような過程がないため、故意・過失の有無が争われることがあります。

例えば上野あかちゃんパンダ事件東京地裁判決(東京地裁平成31年3月13日判決。飯島弁護士による解説記事参照)は、著作権侵害に当たるとされた被告イラストが被告ではなく委託先によって作成されたという事案において、委託先等に「被告イラストの作成経過を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていた」と述べて、被告らの過失を認めました。他方、例えばドトールコーヒー事件大阪地裁判決(大阪地裁平成17年12月8日判決)は、被告がパンフレット製作会社にパンフレットの製作を依頼したという事案において、「そのパンフレットに使用された写真について、別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、パンフレット製作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かをパンフレット製作会社に対して確認し、あるいは、自らこれを調査するまでの注意義務を負うものではない」と述べて、被告の過失を否定しました。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

クリエイティブ・コモンズ(CC)とは、著作物の利用促進を目的とする国際的非営利組織及びその国際的プロジェクトの名称です。クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)として、「表示(BY)」(作品のクレジットを表示すること)、「非営利(NC)」(営利目的の利用禁止)、「改変禁止(ND)」(原作品の改変禁止)、「継承(SA)」(改変作品を同じCCライセンスで公開すること)という4つの条件の組合せによって構成される6種類のライセンスの型が用意されています。権利者は、インターネットで著作物を配布する際に任意のCCライセンスを所定のマークとリンクにより表示することで、当該条件の範囲内で著作物の自由な利用を第三者に認めることができるため、個別の権利処理は不要になります。例えば権利者が「CC BY」のマークを表示していれば、第三者は、作品のクレジットを表示する限り、営利目的の利用や改変を含めて、自由にその著作物を利用することができます。詳しくは、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのウェブサイトをご参照ください。

事案の概要

原告(一般私人)は、「Flickr」という写真共有サイト(本件写真共有サイト)で自己が著作者であり著作権を有する写真(黄色、茶色、橙色等の花が全体的に描かれた薄黄緑色の浴衣の上に無地の深い青紫色の帯を重ねて撮影したもの。本件写真)を投稿・公開するとともに、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を付与し、著作者の表示等を条件に本件写真の複製等による使用を許諾しています。

被告(古物営業法に基づく古物の売買等を目的とする株式会社)は、平成29年11月4日から令和3年1月7日までの間、その管理運営するウェブサイト(本件被告サイト)に本件写真を基にして作成した画像(本件画像)をアップロードしていましたが、その際、本件写真の著作者が原告である旨の表示はありませんでした。令和3年1月8日、被告は、原告から本件画像を直ちに削除すること等を求める内容の同月7日付「警告書」を受領し、同日頃、本件画像を削除しました。

原告は、被告の行為が原告の本件写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び氏名表示権を侵害し、又は公衆による複製権侵害を幇助したと主張して、被告に対し、著作権に基づき、本件写真の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止めを求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めました。

裁判所は、原告の請求を一部認容し、損害賠償金の支払を被告に命じました。

判旨

侵害行為の主体

被告は、外注会社に本件被告サイトの制作を依頼しており、当該外注会社が「ビジュアルハント」というウェブサイトから本件写真の画像データをダウンロードし、この画像データから作成した本件画像の画像データをサーバーに保存して、本件写真を有形的に再製するとともに、本件被告サイト内のページに、上記サーバーに保存された本件画像データへのリンクを張りました。そのため、被告は、自らは本件被告サイトの内容を事前に確認してもいないから著作権・著作者人格権の侵害主体ではないと主張していましたが、裁判所は、以下のとおり述べ、被告が侵害主体であると判断しました。

……被告は、本件被告サイトにおいて、本件画像をサーバー内に保存することにより、本件写真を複製し、送信可能化したと評価することができる。そして、……本件被告サイト内において、本件写真の著作者が原告であることは表示されていない。

したがって、被告は、……原告が付与した使用許諾条件に違反して本件写真を複製及び送信可能化し、かつ、原告の実名又は変名を著作者として表示することなく本件写真を公衆に提供又は提示したといえ、原告の本件写真に係る複製権及び自動公衆送信権並びに氏名表示権を侵害したといえる。

被告の主張については、裁判所は、以下のとおり、被告が本件被告サイトを管理運営していたこと、本件写真の使用による最終的な利益帰属主体が被告であることから、被告自らが本件画像をアップロードしたと同視できると述べました。

……ウェブサイトの制作の依頼を受けた業者が、依頼者に何らの確認をとることなく、完成したウェブサイトに係るデータや素材等をサーバー内に蔵置して納品することは通常考え難いというべきであり、本件全証拠によっても被告の主張するような経緯を認めることはできない。仮に被告の主張する経緯が認められるとしても、被告は、本件被告サイトが開設されて以降、同サイトを管理運営していたこと、…………同サイトは被告が運営する着物及び浴衣買取ウェブサイトへの送客のために作成されたものであって、本件写真を使用することによる最終的な利益帰属主体は被告であることからすると、被告自らが本件画像をアップロードしたと同視できる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

被告の故意・過失の有無

裁判所は、以下のとおり、被告が本件写真をダウンロードした「ビジュアルハント」のページに「Check license」との表示の下にCCライセンスを意味する「License: Attribution-ShareAlike License」(使用許諾:表示-継承使用許諾)と記載されたリンクがあり、それをクリックすればCCライセンス証に係るページが表示される仕様になっていたことから、被告が本件被告サイトに著作者を表示せずに本件画像を掲載したことには少なくとも過失があったと判断しました。被告は、上記表示が英文で記載されており非常に分かりにくいなどと主張していましたが、裁判所は、その意味を調査することは可能であるとして、これを認めませんでした。

……被告が指摘するとおり、ビジュアルハント上の本件写真が掲載されているページには、「DOWNLOAD FOR FREE」との表示がされていることが認められるが、他方で、同表示のすぐ下には「Copy and paste this code under photo or at the bottom of your post」(写真の下又は掲載下部にこのコードを複製し貼り付けよ)との表示が、更にその下には「Check license」(ライセンスを確認せよ)との表示が、それぞれされていること、更にその下部には「License: Attribution-ShareAlike License」(使用許諾:表示-継承使用許諾)と記載されたリンクが表示され、同リンクをクリックすると、CCライセンス証……に係るページが表示されることが認められる。そして、……上記のCCライセンス証には、本件写真は著作者を表示する等の条件に従う限り自由に複製等の使用をすることができる旨の記載がされていることが認められる。

そうすると、上記ページを見た者は、通常、本件写真が著作権及び著作者人格権により保護されており、一定の条件に従わない限り使用することができないことを認識し、又は認識することができるといえるから、本件被告サイトに著作者を表示せずに本件画像を掲載したことについて、被告には少なくとも過失があったと認められる。

損害の額

裁判所は、協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程の内容を参酌し、使用目的、使用態様及び使用期間を当該規程に当てはめて、本件写真の使用料相当額(著作権法114条3項)を11万円と算定しました。

また、裁判所は、本件被告サイト上に本件画像が掲載された期間が長期間にわたっていること、上記期間における本件被告サイトのPV(ページビュー)は207にとどまり、本件写真の公衆への提供又は提示の回数自体は多いとはいえないこと等に鑑み、氏名表示権侵害による慰謝料を3万円と算定しました。

コメント

規範的侵害主体の論点については、歌唱・演奏やインターネットサービスの事案に関する裁判例の蓄積がありますが、コンテンツ等の制作委託の事案に関する裁判例として知られているものはそれほど多くありません。本判決は、傍論ながら、そのような事案に関する判断を示したものとして、一定の実務的価値があるといえます。パン切断装置事件大阪地裁判決は、委託元の指示があったことを認定し、手足論の考え方により委託元の侵害主体性を認めましたが、本判決は、被告が本件被告サイトの内容を事前に確認してもいないという事実が認められる場合であっても、被告自らが本件画像をアップロードしたと同視できると述べており、委託元が手足論よりも広い範囲で規範的侵害主体となる可能性を示しているものと思われます。

また、本判決は、被告を規範的侵害主体と認めた理由として、①被告による被告ウェブサイトの管理運営、②被告への最終的な利益帰属の2点を挙げています。これらは、カラオケ法理がいう「物理的侵害主体の行為の管理・支配」と「営業上の利益の帰属」に対応しているようにもみえますが、本件の侵害行為としては本件画像のアップロード(送信可能化)が問題となっており、それとウェブサイト完成後の管理運営とは区別されるため、少なくとも①の考慮は、カラオケ法理からは説明が難しいように思われます。そうすると、本判決もロクラクⅡ事件最高裁判決以降の裁判例と同じく、諸事情の総合考慮によって被告の侵害主体性を導いたと理解することができます。②を考慮している点は、Live Bar X.Y.Z.→A事件知財高裁判決等の裁判例の傾向に沿うものといえます。

もっとも、行為者との間に雇用関係がある場合や侵害行為について委託元の指示がある場合と比較して、ウェブサイトの制作を委託したというだけで、ここまでの責任を被告に認めてよいか否かについて、もう少し丁寧な理由付けが必要であったようにも思われます。ウェブサイトの管理運営開始後の送信行為が著作権侵害に問われているのであればともかく、本件では、ウェブサイト制作段階における本件画像のアップロード(送信可能化)が著作権侵害に問われており、委託先の行為と被告の責任との間には一定の距離があります。規範的侵害主体性の判断が傍論であったために理由の詳細が省略されている可能性もあり、本論点に関する裁判例の集積が望まれます。

被告の過失については、裁判例は委託元の調査義務の有無について判断が分かれていたところ、本判決は、被告に委託元としての調査義務を認めたものと理解することができます。そして、本判決によれば、本件のように写真等がフリー素材であるかのような記載があったとしても、そのほかにライセンス条件を示すような記載がないかどうかを十分に確認する必要があるといえます。

コンテンツ制作委託においては、委託元の立場から、委託先の著作権侵害等に備えて、権利非侵害保証条項(成果物の制作にあたって第三者の権利を侵害しないことを保証するもの)や補償条項(第三者から権利侵害を訴えられた場合に委託先が対応し、それによって生じた費用を負担するというもの)を定めることがあります。しかし、それらはあくまでも委託元・委託先間の合意にすぎず、第三者である著作権者等には効力が及びません。本判決を前提とすれば、現に著作権者から委託元が訴えられてしまうと、著作権者との関係では委託元が完全な責任を負う可能性があります。そのため、委託元としては、上記のような契約上の対応はもちろん、特に重要なコンテンツについては、自らも権利処理について十分に確認するなどの対応が望ましいといえます。

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(文責・溝上)