本連載では、「DX時代の法務・知財」と題し、新しいタイプのITビジネスに関連する契約類型や法令について解説するとともに、そのようなビジネスを保護するための権利の取得・活用の考え方についても解説します。

プラットフォーム事業者に対する新たな規制として、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(デジタルプラットフォーム取引透明化法。以下「透明化法」ともいいます)が2020年5月27日に成立し、2021年2月1日に施行されました。透明化法は、直接的にはプラットフォーム事業者(透明化法の用語では「特定デジタルプラットフォーム提供者」)を規制対象とする法律です。しかし、契約条件や商品審査の基準が明確になり、契約解釈等についてプラットフォーム事業者と協議しやすくなることが期待されるほか、規制が遵守されていない場合には利用者が経済産業大臣に申出をすることもできるため、プラットフォームを利用する企業にとっても無関係ではありません。

当面、国内売上額3000億円以上のオンラインモールと国内売上額2000億円以上のアプリストアが経済産業大臣による「特定デジタルプラットフォーム提供者」としての指定の対象となるため、特に出店者やアプリ提供者となる企業は、透明化法の内容を理解しておくことが重要です。

ポイント

取り上げる法令

  • デジタルプラットフォーム取引透明化法
  • 独占禁止法

法令のポイント

  • 特定デジタルプラットフォーム提供者は、提供条件等の開示、出店者等との間の取引関係における相互理解の促進を図るために必要な措置、情報開示の状況や自己評価に関する報告書の提出等が義務付けられます。
  • 「特定デジタルプラットフォーム提供者」は、経済産業大臣が指定することとされており、当面、国内売上額3000億円以上のオンラインモールと国内売上額2000億円以上のアプリストアが指定の対象になります。
  • 透明化法の施行により、特定デジタルプラットフォームにおいては、契約条件や商品審査の基準が明確になり、契約解釈等についてプラットフォーム事業者と協議しやすくなることが期待されます。プラットフォーム事業者の対応が十分でなければ、経済産業大臣に対する申出の活用も検討に値します。

解説

デジタルプラットフォームの重要性

オンラインモール、アプリストア、SNS等のデジタルプラットフォームは、今や私たちの生活や企業活動にとって欠かせない存在です。企業にとっては、オンラインモールに自社の商品を出品したり、アプリストアで自社サービス用のアプリを提供したりすることにより、多くのユーザーに対する商品・サービスの提供が可能になります。デジタルプラットフォームは、革新的なビジネスや市場を生み出す重要な役割を担っています。

立法の経緯

公正取引委員会が実施した実態調査では、オンラインモールの出店者やアプリ提供者からの指摘として、規約の一方的変更によって手数料を引き上げられ、新しい決済システムの利用を強制される、出店者等の取引データやアプリユーザーの情報をデジタルプラットフォーム提供者の直接販売に利用される、検索・表示順位の基準が不透明である、検索結果において不当に下位に表示されるといった内容が報告されました。このような行為は、優越的地位の濫用等の独占禁止法違反行為にも繋がり得るものです。

そこで、デジタルプラットフォームにおいて、イノベーションの維持・促進とのバランスを保ちつつ、取引の透明性・公正性の向上を図り、公正かつ自由な競争を促進するための規制として、透明化法を制定するに至りました。透明化法の特徴は、デジタルプラットフォーム提供者に対して一定の不当行為を禁止するのではなく、情報開示や自主的・自律的な取組を求めるという点にあります。

規制対象事業者

透明化法によって規制される事業者は、特に規制の必要性が高い一定規模以上のデジタルプラットフォームを運営する「特定デジタルプラットフォーム提供者」に限られます。

「デジタルプラットフォーム」とは、コンピュータを用いた情報処理により構築され、商品等を提供しようとする者の情報を表示する「場」を多数の者に提供するオンラインサービスのうち、利用者の増加に伴い他の利用者の便益が著しく増進されるという効果(ネットワーク効果)があるものと定義されています(透明化法2条1項)。例えばオンラインモールにおいては、出店者の数が多ければ多いほど購入者が集まり、購入者が多ければ多いほど出店者が集まるという関係があり、このような場合にはネットワーク効果があるといえます。

そして、経済産業大臣は、事業規模が政令で定める売上額や利用者数の規模以上であるデジタルプラットフォーム(特定デジタルプラットフォーム)の提供者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定します(透明化法4条1項)。政令によれば、当面は国内売上額3000億円以上のオンラインモール、国内売上額2000億円以上のアプリストアが指定の対象となります。

規制の概要

提供条件等の開示

特定デジタルプラットフォーム提供者は、利用者に対して特定デジタルプラットフォームの提供条件を開示する際、当該提供条件に関する利用者の理解の増進が図られるよう、経済産業省令で定める方法に従う必要があります(透明化法5条1項)。経済産業省令では、明確かつ平易な表現を用いること、利用開始前及び利用中にいつでも容易に参照可能であることのほか、外国語の提供条件には翻訳文が必要であることが定められています。

特定デジタルプラットフォーム提供者が出店者やアプリ提供者に対して開示すべき提供条件としては、以下の事項が挙げられています(同条2項1号)。

  • 特定デジタルプラットフォームの提供を拒絶する場合の判断基準
  • 特定デジタルプラットフォーム提供者の指定する商品の購入等を要請する場合の内容・理由
  • 商品等の情報に順位を付ける場合の順位決定に用いられる主要な事項
  • 特定デジタルプラットフォーム提供者が出店者等の売上額の推移に係るデータ等を取得・使用する場合のデータ内容・条件
  • 出店者等が当該データを取得・移転することの可否及び可能な場合のデータ内容・方法・条件
  • 出店者等による苦情申出・協議申入れの方法
  • その他経済産業省令で定める事項

また、特定デジタルプラットフォーム提供者が出店者等に対して提供条件とは異なる取引の実施を要請する場合、継続利用中の出店者等に対して特定デジタルプラットフォームの一部の提供を拒絶する場合(例えば特定商品の出品停止措置)等には、その内容・理由を開示することが原則です(同条3項)。

さらに、特定デジタルプラットフォーム提供者が出店者等に対する提供条件を変更する場合には、合理的な日数を確保した日(変更により生じる作業・調整のために15日より長い日数を要することが見込まれるとき)又は15日前の日までにその内容・理由を、特定デジタルプラットフォーム提供者が継続利用中の出店者等に対して特定デジタルプラットフォームの全部の提供を拒絶する場合には、30日前の日までにその旨・理由をそれぞれ開示することが原則です(同条4項、経済産業省令)。

相互理解の促進を図るために必要な措置の実施

前記実態調査では、出品停止等の処分についてオンラインモール運営事業者に相談しても何の解決にもならなかった、規約の解釈についてアプリストア運営事業者にあらかじめ相談することができないといった指摘も寄せられました。このような手続面における公正性の欠如に対処するため、特定デジタルプラットフォーム提供者は、出店者等との間の取引関係における相互理解の促進を図るために必要な措置を講じなければならないと定められています(透明化法7条1項)。経済産業大臣が当該措置に関する指針(同条2項)を公表しており、公正性確保や苦情処理・紛争解決のための体制・手続の整備、国内管理人の設置等に関する具体的な取組例等が紹介されています。

具体的な取組例としては、苦情処理・紛争解決については、例えば「商品等提供利用者からの苦情に関して、商品等提供利用者が特定デジタルプラットフォーム提供者に対して直接、容易に、無償で、苦情を申し出ることができる体制や手続を整備すること」や「事案の内容及び苦情の重要性と複雑さに応じて合理的な期間内に苦情を処理するとの基本方針や、必要に応じて初動期間等の目安となる所要期間や処理プロセスを定め、その旨を商品等提供利用者にあらかじめ開示すること」が提案されています。

モニタリング・レビュー

特定デジタルプラットフォーム提供者は、毎年度、一定の事項(事業概要、苦情処理・紛争解決、情報開示の状況、相互理解の促進を図るために必要な措置、自己評価)に関する報告書を経済産業大臣に提出することが求められます(透明化法9条1項)。

経済産業大臣は、報告書の内容等に基づいて特定デジタルプラットフォームの透明性・公正性を評価し(同条2項)、評価結果を報告書概要とともに公表します(同条5項)。特定デジタルプラットフォーム提供者は、当該評価結果を踏まえて透明性・公正性の向上に努める必要があります(同条6項)。

独占禁止法との関係

前記のとおり、特定デジタルプラットフォームにおいては独占禁止法違反行為が生じる懸念があるため、経済産業大臣は、特定デジタルプラットフォーム提供者の行為が「不公正な取引方法」(独占禁止法2条9項)に該当すると認めるときは、公正取引委員会に対して適当な措置を請求することができ、被害が多数に及ぶなど重大な事案では請求が義務付けられます(透明化法13条)。

経済産業大臣に対する申出

利用者は、提供条件等の開示や相互理解の促進を図るために必要な措置がなされていないと認めるときは、経済産業大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置を求めることができます(透明化法10条1項)。特定デジタルプラットフォーム提供者がそのような申出を理由に当該利用者を不利益に取り扱うことは許されません(同条2項)。

実務への影響

透明化法の施行により、特定デジタルプラットフォーム(当面は国内売上額3000億円以上のオンラインモール、国内売上額2000億円以上のアプリストア)においては、契約条件や商品審査の基準が明確になり、契約解釈等についてプラットフォーム事業者と協議しやすくなることが期待されます。

契約条件やプラットフォーム事業者による措置に関するプラットフォーム事業者との協議はこれまで必ずしも容易ではなかったため、今後、出店者やアプリ提供者は、それらに不明な点があれば、プラットフォーム事業者に対し、積極的に照会したり協議を申し入れたりすべきであると考えられます。もしプラットフォーム事業者が照会や協議に全く応じてくれない、あるいはプラットフォーム事業者が定めている対応期間内に対応してくれないといった事態が生じれば、経済産業大臣に対する申出の活用も検討に値します。

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(文責・溝上)