東京地方裁判所民事第46部(柴田義明裁判長)は、令和2年(2020年)12月17日、「投資用ソフトウェア」の著作権者との間で独占的利用許諾契約を締結している独占的利用権者である原告が当該ソフトウェアを無断で複製・公衆送信した被告に対して損害賠償を請求した事案において、原告が当該ソフトウェアを独占的に利用する地位にあることを通じて得る利益が侵害されたと判断し、原告の請求を一部認容しました。

著作権に関する独占的利用権者が侵害者に対して損害賠償を請求することができるかどうかについては、特許法の分野ほど裁判例の蓄積がありません。そのため、本判決は、明確な判断基準を示したものではないものの、一事例として実務上参考になります。

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ポイント

骨子

  • 著作物の独占的利用権者は、著作権者に対して契約上の地位に基づき債権的請求権を有するにすぎないが、そのような地位にあることを通じて当該著作物の独占的利用による利益を享受し得る地位にある。
  • 原告は、本件ソフトを原告コミュニティへの入会特典として原告コミュニティへの入会費用を得ることによって、本件ソフトを独占的に利用する地位にあることによる利益を享受していた。被告は、少なくとも本件ソフトを複製、公衆送信することによって、原告が本件ソフトを独占的に利用する地位にあることを通じて得る利益を侵害したといえる。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 令和2年12月17日
事件番号 令和2年(ワ)第3594号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 柴田 義明
裁判官    佐伯 良子
裁判官    棚井 啓

解説

著作物の独占的利用許諾

著作権者は、他人に対して著作物の利用を許諾することができます(著作権法63条1項)。利用許諾を受けた者を利用権者といいます。

利用許諾にあたり、ほかに利用許諾をしないという特約(著作権者自身が利用するかどうかは契約によります)が付される場合があり、そのような特約付きの利用許諾を独占的利用許諾といい、独占的利用許諾に基づく権利を独占的利用権、独占的利用許諾を受けた者を独占的利用権者といいます(それ以外の利用権者を非独占的利用権者と呼ぶことにします。また、後で登場する特許権に関する独占的通常実施権などについてもこれらと同様の意味を有するものと考えてください)。

独占的利用権者による侵害者に対する損害賠償請求の可否

問題の所在

非独占的利用権者は他の利用者の出現を阻止することができる立場にはなく、著作権者は別段の合意がない限り侵害者に対する権利行使の義務を負わないので、非独占的利用権者による侵害者に対する損害賠償請求は通常認められません。他方、独占的利用権者は、市場において独占的に商品を販売することができる立場にあり、もし侵害者が現れれば、侵害者に奪われた需要の分だけ独占的利用権者の売上げが減少します。独占的利用権者は、本来得られたはずの利益について、侵害者に対して損害賠償を請求することができるでしょうか。

「独占的」であるというのは、あくまで著作権者と利用権者との間の契約によって定めた条件にすぎず、第三者である侵害者を法的に拘束するものではありません。物権的効力を有し、契約関係にない者に対しても行使可能な利用権である出版権(著作権法79条1項)や同じ効力を有する特許法上の専用実施権(特許法77条1項)とは質的に異なります。

もっとも、裁判例は、独占的利用権者による侵害者に対する損害賠償請求を一定の範囲で認める傾向にあります。裁判例上、侵害者の認識と被侵害利益として、どのような事実があれば請求が認められるか、どのように損害が算定されるかを順に見てみましょう。

侵害者の認識

不法行為の要件である「故意又は過失」(民法709条)に関し、著作権侵害それ自体に関する故意や過失のみならず、独占的利用権の存在の認識まで求められるでしょうか。

独占的利用権者による侵害者に対する損害賠償請求に関するリーディングケースである東京地裁平成3年5月22日判決〔教科書準拠テープ事件〕は、独占的利用権の請求を認めるにあたり、「原告が独占的録音テープ製作販売権を有することを認識しながら、あえて本件テープを製作販売したものというべきであるから、被告代表者には、債権侵害の故意があったものと認めるのが相当である」(下線筆者)と述べ、侵害者において独占的利用権の存在を認識していたことを認定しました。

他方、例えば東京地裁平成27年4月15日判決〔法律事務所ウェブサイト事件〕は、「本件掲載行為によって著作権等の侵害を惹起する可能性があることを十分認識しながら,あえて本件各写真を複製し,これを送信可能化し,その際,著作者の氏名を表示しなかったものと推認するのが相当であって,本件各写真の著作権等の侵害につき,単なる過失にとどまらず,少なくとも未必の故意があったと認めるのが相当というべきである」(下線筆者)と述べ、認識の対象として著作権等の侵害の可能性を挙げており、独占的利用権の存在の認識を明示的には求めていません(「著作権等」は「著作権その他の権利」と定義されており、そこに独占的利用権が含まれている可能性もありますが、この事案では著作権侵害と独占的利用権侵害のほかに著作者人格権侵害も認められており、上記引用部分における「著作権等」が独占的利用権まで含む趣旨かどうかは、判決文からは明らかでありません)。

被侵害利益と独占的な「事実状態」との関係

著作権者と利用権者との間に独占的利用許諾の契約が成立していれば、不法行為の要件である「法律上保護される利益」(民法709条)として足りるでしょうか。それとも、独占的利用権者が市場において現に商品を販売し、その独占的な地位が事実上も実現されていることまで必要でしょうか。

この点につき、確立した裁判例はありませんが、例えば東京地裁令和2年6月25日判決〔チェブラーシカ事件〕は、「独占的利用権者は,商品化権の権利者に対し,契約上の地位に基づく債権的請求権を有するにすぎないが,このような地位にあることを通じて本件キャラクターに係る商品化権を独占的に使用し,これを使用した商品の市場における販売利益を独占的に享受し得る地位にあることに鑑みると,独占的利用権者がこの事実状態に基づいて享受する利益についても,一定の法的保護が与えられるべきである。そうすると,独占的利用権者が,契約外の第三者に対し,損害賠償請求をすることができるためには,現に商品化権の権利者から唯一許諾を受けた者として当該キャラクター商品を市場において販売しているか,そうでないとしても,商品化権の権利者において,利用権者の利用権の専有を確保したと評価されるに足りる行為を行うことによりこれに準じる客観的状況を創出しているなど,当該利用権者が契約上の地位に基づいて上記商品化権を専有しているという事実状態が存在するといえることが必要というべきである」(下線筆者)と述べました。そして、同判決は、独占的利用権者である原告がライセンス契約に基づいて日本で商品を販売したことがなく、また、原告の求めがあったにもかかわらず、独占的利用権の許諾者が被告に対して具体的な対応を一切とらず、利用権を被告と原告の双方に設定した二重譲渡の状態にあることを認めつつ被告の利用権を優先させるかのような姿勢を見せていたこと等を踏まえ、原告による独占的な販売もこれに準ずる客観的状況もなく、上記事実状態がなかったと判断し、原告の損害賠償請求を棄却しました。

また、東京地裁平成27年4月15日判決〔法律事務所ウェブサイト事件〕も「原告アマナイメージズは,事実上,第三者との関係において本件写真3ないし6の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあると評価することができるところ,このような事実状態に基づき同原告が享受する利益は,法的保護に値するものというべきである」と述べ、同様の立場を示しています。

特許権に関する独占的通常実施権の事案においても、例えば東京地裁平成25年1月31日判決〔オープン式発酵処理装置事件〕は「本件独占的通常実施権1に基づく本件特許権1の実施についての事実上の独占が損なわれた」かどうかを検討しており、同様の立場を示したものと理解することもできます。

契約成立のみならず、このような「事実状態」の存在まで要求する立場のリーディングケースが東京地裁平成15年6月27日判決〔花粉のど飴事件〕です。同判決は、商標権に関する独占的通常使用権の事案において、「独占的通常使用権者が契約上の地位に基づいて登録商標の使用権を専有しているという事実状態が存在することを前提とすれば,独占的通常実施権者〔原文ママ〕がこの事実状態に基づいて享受する利益についても,一定の法的保護を与えるのが相当である。すなわち,独占的通常使用権者が現に商標権者等から唯一許諾を受けた者として当該登録商標を付した商品を自ら市場において販売している場合において,無権原の第三者が当該登録商品を使用した競合商品を市場において販売しているときには,独占的通常使用権者は,固有の権利として,自ら当該第三者に対して損害賠償を請求し得るものと解するのが相当である」と述べました。そして、同判決は、商標権者が契約に違反して第三者にも商標の使用を許諾し、当該第三者が市場において商品を販売していたことを踏まえ、上記事実状態の存在を否定し、原告の損害賠償請求を棄却しました。

以上のような裁判例の傾向に鑑みれば、仮に契約成立のみで「法律上保護される利益」を認める立場によっても、独占的利用権者は本来得られない利益についてまで損害賠償請求が可能になるものではなく、独占的利用権者が市場で商品を販売したことがない、あるいは市場において著作権者から利用許諾を受けた第三者が存在するといった事情は、損害算定の段階において考慮されることになるでしょう。

被侵害利益と独占的利用権者が著作権者に支払う利用料との関係

独占的利用権者が著作権者に支払う利用料については、独占的利用権者が独占的な地位を得る見返りとして、非独占的利用権者の利用料に比べて高めの金額に設定されていたり、最低支払額(ミニマムロイヤルティ)が設定されていたりする場合があります。そのような事情は、被侵害利益の有無を判断するにあたって考慮されるでしょうか。

意匠権に関する独占的通常実施権の事案ではありますが、大阪地裁昭和59年12月20日判決〔ヘアーブラシ事件〕は、「完全独占的通常実施権においては、権利者は実施権者に対し、実施権者以外の第三者に実施権を許諾しない義務を負うばかりか、権利者自身も実施しない義務を負つており、その結果実施権者は権利の実施品の製造販売にかかる市場及び利益を独占できる地位、期待をえているのであり、そのためにそれに見合う実施料を権利者に支払つているのであるから、無権限の第三者が当該意匠を実施することは実施権者の右地位を害し、その期待利益を奪うものであり、これによつて損害が生じた場合には、完全独占的通常実施権者は固有の権利として(債権者代位によらず)直接侵害者に対して損害賠償請求をなし得るものと解するのが相当である」(下線筆者)と述べており、独占的通常実施権者が相応の実施料を支払っていることを独占的通常実施権者の要保護性を高める事情として考慮しています。したがって、著作権に関する独占的利用権についても、利用料が高めに設定されていることや最低支払額が設定されていることは、被侵害利益の存在を認める方向で考慮される可能性があります(ただし、前記のとおり、その上で如何なる「事実状態」が存在したかが考慮されます)。

損害算定方法

著作権侵害による損害額の立証には困難を伴うことが多いため、著作権法114条には損害額推定等の規定が置かれています(1項:侵害品譲渡等数量に基づく算定、2項:侵害者利益に基づく推定、3項:利用料相当額)。独占的利用権について当該規定を類推適用することはできるでしょうか。

特許権に関する独占的通常実施権の事案では、立証の困難は特許権者であっても独占的通常実施権者であっても変わらないため、裁判例上、特許法102条1項(侵害品譲渡数量に基づく算定)や同条2項(侵害者利益に基づく推定)の類推適用が一般的に認められています(例えば東京地裁平成25年1月31日判決〔オープン式発酵処理装置事件〕)。特許法102条3項(実施料相当額)の類推適用については、実施料は本来的に特許権者が請求するものであるために議論が分かれますが、これを肯定した裁判例もあります(例えば東京地裁平成17年5月31日判決〔誘導電力分配システム事件〕は独占的通常実施権者に再実施許諾権限が付与されていた事案において同項の類推適用を肯定しました)。

著作権に関する独占的利用権については、特許法の分野ほど裁判例の蓄積はないものの、例えば東京地裁平成27年4月15日判決〔法律事務所ウェブサイト事件〕は、独占的利用権者が再利用許諾権限を有していた事案において、独占的利用権者が被った損害の算定にあたって著作権法114条3項(利用料相当額)の類推適用を肯定しました。同判決は、「同原告が,事実上,本件写真3ないし6の複製物を販売することによる利益を独占的に享受し得る地位にあり,その限りで,著作物を複製する権利を専有する著作権者と同様の立場にあることに照らせば,同原告の損害額の算定に当たり,著作権法114条3項を類推適用することができると解するのが相当である」(下線筆者)と述べています。

事案の概要

原告は、総合コンサルティング等を目的とする株式会社であり、平成31年4月1日、投資用ソフトウェア(本件ソフト)の著作権者である別の会社との間で、本件ソフトに関する独占的利用許諾契約(本件契約)を締結し、独占的利用権を取得しました。原告は、投資に関する有料コミュニティ(原告コミュニティ)を運営しており、本件契約では、原告コミュニティの参加者に対する再許諾権限が定められ、原告コミュニティの入会費用には本件ソフトの再許諾利用代金が含まれていました。

被告は、投資講座で勧誘を受け、令和元年7月15日までに、原告コミュニティに入会し、原告から、電子メールによって本件ソフトのデータの交付を受けました。その後、被告は、同じ講座で知り合ったAと称する人物を含む7人(本件各参加者)と情報交換をする中で、令和元年8月、Aと別の1人に対し、電子メールによって本件ソフトのデータを交付し、また、Aの助言を受け、本件各参加者が利用できるサーバに本件ソフトのデータをアップロードしました。その結果、残りの5人も当該サーバ経由又はA経由で本件ソフトのデータを取得しました。被告は、本件ソフトの配布には著作権侵害のおそれ等の問題があると認識していました。

原告は、被告に対し、被告が本件ソフトを無断で複製・公衆送信したことにより、独占的利用権を侵害され損害を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権(民法709条)に基づき、7人分の再許諾利用代金相当額等の損害賠償を請求しました。

判旨

独占的利用による利益に対する侵害の成否

東京地裁は、著作物の独占的利用権者が債権的請求権を有するにすぎないとしつつ、原告が本件ソフトの独占的利用による利益(入会費用)を享受していたと述べました。「事実状態」という言葉は用いられていないものの、原告が現に入会費用という利益を得ていたことを前提としており、独占的な「事実状態」まで要求する立場と理解することもできます。

著作物の独占的利用権者は,著作権者に対して契約上の地位に基づき債権的請求権を有するにすぎないが,そのような地位にあることを通じて当該著作物の独占的利用による利益を享受し得る地位にある。そして,……原告は,本件ソフトを原告コミュニティへの入会特典として原告コミュニティへの入会費用を得ることによって,本件ソフトを独占的に利用する地位にあることによる利益を享受していた。

そして、東京地裁は、被告による本件ソフトの無断複製・公衆送信がなければ、原告が原告コミュニティへの入会による利益を得ることができたと指摘し、本件ソフトの独占的利用による利益が侵害されたとしました。

被告は,問題があると認識しながら,本件各参加者のうちA外1人に対し,本件ソフトのデータを電子メールに添付して送信する方法により交付し,また,本件各参加者と共有するアカウントにより利用できるインターネットに接続しているサーバに本件ソフトのデータをアップロードして……これらの際に本件ソフトを有形的に再製して複製した。さらに,被告は,本件各参加者と共有するアカウントにより利用できる上記サーバに本件ソフトのデータをアップロードして……,本件ソフトを自動公衆送信し得るようにした(以下,これらの行為を「本件各行為」ということがある。)。そして,……被告の本件各行為がなければ,原告コミュニティに入会する者がいて原告は利益を得たことができたといえる。

これらによれば,被告は,上記のとおり,少なくとも本件ソフトを複製,公衆送信することによって,原告が本件ソフトを独占的に利用する地位にあることを通じて得る利益を侵害したといえる。

「問題があると認識しながら」の部分については、東京地裁は、本判決で「被告は,本件ソフトを本件各参加者に配布することには著作権侵害のおそれ等の問題があると認識し」ていたとしか認定しておらず、被告が原告の独占的利用権の存在を認識していたかどうかは認定していません。しかし、被告はまさに原告から交付を受けた本件ソフトのデータを複製するなどしており、本件ソフトについて原告が何らかの権原を有していたことは、被告も認識していたとも考えられ、これが判断の前提とされている可能性もあります。

原告が被った損害及び額

原告は、被告の不法行為により、原告が本件ソフトのデータを配布した7人分の再利用許諾代金(入会費用)相当額の損害を受けたと主張しました。しかし、東京地裁は、以下のとおり、本件ソフトの価値に強く着目していたAについては、被告の行為がなければ本件ソフト入手のために原告コミュニティに参加したと認めましたが、他の6人については、このような関係を認めませんでした。不法行為の要件である因果関係について判断したものといえます。

ここで,被告が本件各行為により本件ソフトを配布した本件各参加者は,いずれも原告コミュニティの紹介,勧誘を受けたが入会しなかったこと……を踏まえると,被告の本件各行為がなかったならば本件各参加者全員が入会費用を支払って原告コミュニティに入会したことを認めることはできない。もっとも,本件各参加者のうちAは,原告コミュニティに参加した被告と情報交換をして,被告から本件ソフトの交付を受け,また,本件ソフトの配布のために必要な処理等を率先して行うなどしていて,本件ソフトの価値に強く着目していた者であり,被告の行為がなければ,本件ソフトを入手するために本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加したと認めることが相当である。そうすると,被告の本件各行為により,原告は少なくとも本件ソフトが入会特典である原告コミュニティに参加した者を1名失ったと認められる。

なお、原告は、著作権法114条の(類推)適用を主張しておらず、これに関する判示はありません。

コメント

本判決は、独占的利用権者による侵害者に対する損害賠償請求の要件として、独占的利用許諾契約の成立に加え、独占的な「事実状態」まで求めるものと理解することもでき、裁判例の傾向に沿った判断を示したものといえます。したがって、このような請求を検討する際には、独占的利用権者が実際に市場で商品を販売しているかどうかを確認する必要があります。

著作権に関する独占的利用権者については、固有の差止請求権を認めるべきかどうかという議論もあり、現在、文化庁において導入の是非に関する検討が続けられています(著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム「著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム審議経過報告書」(令和3年1月13日)参照)。

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(文責・溝上)