大阪地方裁判所第26民事部(髙松宏之裁判長)は、平成31年3月26日、結婚式や結婚披露宴の様子を録画した婚礼ビデオについて、著作権者の認定や、著作者人格権侵害の成否などが問題となった事案の判決をしました。

この事件の原告は、婚礼ビデオの撮影をした個人事業主で、被告は、結婚式場となったホテルの運営者から婚礼ビデオ制作などの委託を受けた会社と、結婚式を開いた2組のカップルです。原告は、被告である婚礼ビデオ製作等受託業者から、撮影の委託を受けていました。判決は、映画製作者への著作権帰属を認める著作権法29条1項に基づき、婚礼ビデオの著作権者は原告に撮影を委託した被告であるとするとともに、著作者人格権の侵害も否定し、結論として、原告の請求を棄却しています。

本判決の判示内容に特段目新しいものはありませんが、婚姻の当事者(新郎新婦及び両家)、婚礼の場を提供するホテル(ないしその運営者)、ホテルから婚礼ビデオの製作を受託した会社、当該受託会社から撮影を委託した個人といった関係者の中で、ホテルから婚礼ビデオの製作を受託した会社を著作権法上の映画製作者と認定している点や、婚礼ビデオの性質から発行ないし公表のおそれがないことを認定した点は、実務上参考になるものと思われます。

なお、少なくとも判決時点で原告に代理人はおらず、いわゆる本人訴訟となっています。

ポイント

骨子

  • 著作権法29条1項にいう「映画製作者」とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいい(同法2条1項10号),映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者のことをいうと解される。
  • 【氏名表示権の侵害の成否に関し】著作物又は二次的著作物の「公衆への提供又は提示」とは,特定多数の者に提供又は提示することも含む(著作権法2条5項)が,本件記録ビデオが被告P2らの挙式及び披露宴の様子を収録したものであることからすると,仮に被告らが本件記録ビデオを複製するおそれがあるとしても,被告Beeが複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのは被告P2らに限られ,3年以上前に挙式等を行った被告P2らが複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのも肉親くらいであり,被告P2らが今後SNSサービスに投稿するおそれがあるとも認められないから,被告らが特定多数の者に対してであっても本件記録ビデオを複製し,頒布するおそれがあるとは認められない。
  • 【公表権に関し】(上述の)点に照らせば,被告らが,本件記録ビデオを公表(著作権法4条,3条)するおそれがあるとは認められない。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第26民事部
判決言渡日 平成31年3月25日
事件番号 平成30年(ワ)第2082号
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 髙 松 宏 之
裁判官    野 上 誠 一
裁判官    大 門 宏一郎

解説

著作者・著作権者とは

著作権法には、著作物を巡る権利主体として、「著作者」と「著作権者」の2者が現れます。

そのうち、「著作者」については、「著作物を創作する者をいう。」(著作権法2条1項2号)と定義されており、著作者が有する権利として、公表権(同法18条)、氏名表示権(同法19条)、同一性保持権(同法20条)、名誉声望権(法113条7項)が規定されています。これらの権利は、いずれも著作者の人格的利益を保護するためのもので、著作者人格権と総称されます。

他方、「著作権者」は、著作権を有する者を指します。著作権は、複製権や公衆送信権など、著作権法21条以下に規定されるさまざまな支分権の総称で、これらの支分権の全部または一部を有する者が著作権者ということになります。支分権は、いずれも財産的権利ですので、この点において、人格的権利である著作者人格権と異なります。

著作物が創作されると、著作者は、原則として著作権を取得します。そのため、著作者と著作権者は一致するのが原則です。しかし、著作者人格権は著作者の人格に結び付いた権利であるため他人に承継できないのに対し、財産権である著作権は譲渡や相続などによって他人に承継することが可能です。また、後述のとおり、映画の著作物については、映画監督などの著作者とは別に、「映画製作者」が著作権者となる場合があることが定められています。そのため、同一の著作物について、著作者と著作権者が異なる場合もあります。

映画の著作物とは

著作権法2条3項は、「映画の著作物」の意味について、以下の規定を置いています。

この法律にいう『映画の著作物』には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。

上記規定は、「含むものとする」と定めるだけで、映画の著作物がどのようなものか積極的に定義してはいません。しかし、著作権法が想定している典型的な「映画」は劇場用映画であり、視覚的効果や固定といった条件を満たしているため、実質的に、媒体に固定された動画の表現物が「映画の著作物」であるといえます。

映画の著作物の著作者

映画の著作物の著作者の認定

映画の著作物の典型である劇場用映画は、その製作に多くの人が関与します。そこで、誰が著作者となるかについて、著作権法は、以下の規定を置いています。

(映画の著作物の著作者)
第十六条 映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。

映画に創作的寄与をする人は、しばしば、原作小説や脚本、音楽などを提供する「クラシカル・オーサー」と、監督などの「モダン・オーサー」とに分類されますが、著作権法は、モダン・オーサーをもって映画の著作物の著作者としたものといえます。

職務著作との関係

著作権法16条但書に現れる「前条」(同法15条)は、いわゆる職務著作について、使用者(典型的には会社)が著作者となることを規定したものです。

(職務上作成する著作物の著作者)
第十五条 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

著作権法16条は、「ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない」と定めるように、同法15条が適用される場合を適用対象外としているため、これら2つの規定の間では、同法15条が優先的に適用されることになります。そのため、例えば、会社の従業員が業務上作成した動画など、著作権法15条が適用される場合には使用者たる会社が、映画監督が社外にいる場合にはその監督が、それぞれ著作者になることとなります。

映画の著作物の著作権者

著作権法29条1項による特例

著作権法は、映画の著作権の帰属についても、以下のとおり、著作権法29条1項に特別の規定を置き、その要件を満たすときは、著作者ではなく、「映画製作者」が著作権者となることを定めています。

第二十九条 映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。

映画製作者とは

著作権法29条1項にいう「映画製作者」について、著作権法は「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と定義しており(同法2条1項10号)、具体的には、映画の著作物を製作する意思を有し、著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者をいうものと解されています(知財高判平成18年9月13日判時1956号148頁「グッドバイ・キャロル事件」等)。

典型的には、映画製作会社がこれにあたりますが、未編集フィルムの著作権はフィルムの制作者に帰属するとした裁判例(東京高裁平成5年9月9日判時1477号27頁「三沢市勢映画製作事件」)や、テレビCM原版について、広告主が映画製作者に該当するとした裁判例(知財高判平成24年10月25日平成24年(ネ)第10008号「テレビCM原版事件」)など、実際の認定にあたっては、個別具体的な事情によって様々な類型があります。

なお、映画を巡る術語として、シナリオの作成や撮影、演出といった、アーティストによる創作活動は「制作」と呼ばれ、撮影セットの設営などの裏方の作業や、資金調達、宣伝、配給などの業務は「製作」と呼ばれます。著作権法は、同法16条の著作者の認定において「制作」の語を用いているのに対し、映画製作者の語には「製作」を用いていますが、これは、「映画製作者」が、創作活動ではなく、経済的関係に着目した概念であることを示しています。

参加約束

「映画の著作物の製作に参加することを約束しているとき」とは、典型的には、映画製作会社による映画の製作に監督が参加しているような関係を指すものと考えるとよいでしょう。このような関係が認められる場合には、著作者たる監督ではなく、映画製作会社が著作権者となります。

職務著作等との関係

著作権法29条1項も、著作権法第15条1項に該当する場合には適用が除外されていますので、職務著作に関する規定が優先的に適用されることとなります。その結果、映画が職務著作である場合には、使用者が著作者かつ著作権者となり、職務著作でなく、かつ、上記の著作権法29条1項が適用される場合には、監督が著作者、映画製作会社が著作権者となります。

なお、論理的には、職務著作ではなく、かつ、著作権法29条1項が適用されない場合もあり、典型的には、個人的に撮影した映像作品などがこれにあたります。この場合には、原則どおり、著作権法16条によって著作者となる者が著作権者にもなります。

著作物の公表と発行

著作物の公表とは

上述のとおり、著作者人格権の中には、公表権が含まれています。公表権とは、「著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。・・・)を公衆に提供し、又は提示する権利」(著作権法18条1項)をいいますが、ここにいう「公表」とは、著作権法4条に規定されるとおり、以下の各行為を指します。

  • 発行
  • 権原ある者による上演、演奏、上映、公衆送信、口述または展示の方法による公衆への提示
  • 権原ある者による送信可能化

(著作物の公表)
第四条 著作物は、発行され、又は第二十二条から第二十五条までに規定する権利を有する者若しくはその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾(第八十条第三項の規定による公衆送信の許諾をいう。次項、第三十七条第三項ただし書及び第三十七条の二ただし書において同じ。)を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信、口述、若しくは展示の方法で公衆に提示された場合(建築の著作物にあつては、第二十一条に規定する権利を有する者又はその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。)を得た者によつて建設された場合を含む。)において、公表されたものとする。

2 著作物は、第二十三条第一項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその公衆送信許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、公表されたものとみなす。

3 二次的著作物である翻訳物が、第二十八条の規定により第二十二条から第二十四条までに規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信若しくは口述の方法で公衆に提示され、又は第二十八条の規定により第二十三条第一項に規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、その原著作物は、公表されたものとみなす。

4 美術の著作物又は写真の著作物は、第四十五条第一項に規定する者によつて同項の展示が行われた場合には、公表されたものとみなす。

5 著作物がこの法律による保護を受けるとしたならば第一項から第三項までの権利を有すべき者又はその者からその著作物の利用の承諾を得た者は、それぞれ第一項から第三項までの権利を有する者又はその許諾を得た者とみなして、これらの規定を適用する。

著作物の発行とは

著作物の公表を構成する行為のうち、「発行」については、以下の規定があり、「(著作物の)性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」が作成され、頒布される場合に認められます。

(著作物の発行)
第三条 著作物は、その性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が、第二十一条に規定する権利を有する者又はその許諾(第六十三条第一項の規定による利用の許諾をいう。以下この項、次条第一項、第四条の二及び第六十三条を除き、以下この章及び次章において同じ。)を得た者若しくは第七十九条の出版権の設定を受けた者若しくはその複製許諾(第八十条第三項の規定による複製の許諾をいう。第三十七条第三項ただし書及び第三十七条の二ただし書において同じ。)を得た者によつて作成され、頒布された場合(第二十六条、第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を有する者の権利を害しない場合に限る。)において、発行されたものとする。
(以下略)

この規定と、著作権法4条を併せ読むと、「(著作物の)性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」が作成され、頒布された場合には、発行とともに、公表も認められることとなります。

事案の概要

本件の原告は個人で映像制作等を業として営む者で、被告は、映像企画制作及び映像演出並びにブライダル等プロデュース等を業とする会社(被告Bee)及び福岡市内で結婚式・披露宴をした2組のカップルです。

被告Beeは、福岡市内でエフ・ジェイホテルズ社が運営するホテル「グランドハイアット福岡」(本件ホテル)から、同ホテルにおける結婚式のビデオ撮影等を受託しており、原告は、被告Beeからビデオ撮影を原告に委託していました。

原告は、被告Beeからの委託に基づき、他の被告らの2組の挙式および披露宴の様子を撮影し、そのデータを被告Beeに納品しました。被告Beeは、このデータを編集等して、本件ホテルからの委託に基づき、それぞれ結婚式をした他の被告らに納品しました。

このような状況で、原告は、著作権および著作者人格権に基づき、被告Bee及び結婚式をした2組のカップルを相手に、原告が撮影したデータのほか、被告Beeが作成したデータ等について、複製、頒布の禁止や廃棄を求めて訴訟を提起しました。

なお、詳細は不明ですが、原告と被告Beeとの間には、本訴訟以前から他に訴訟が係属しており、係争関係にあったことが判決文から窺われます。

争点

本件では、著作権、著作者人格権に関していくつかの問題が争われましたが、主要な争点は、原告が撮影したビデオ(原告撮影ビデオ)の著作権の帰属で、被告Beeは、委託契約において原告が被告Beeに著作権を譲渡したか、または、被告Beeは、著作権法上の映画製作者に該当し、原告は映画の製作について参加約束をした者であるから、原告撮影ビデオの著作権は被告Beeに帰属するとの主張をしました。

また、著作者人格権については、公表権、氏名表示権、同一性保持権の全ての侵害が問題とされており、原告と被告Beeとの委託契約において、結婚したカップルに納品される編集済みのビデオ(本件記録ビデオ)を制作するにあたり、原告撮影ビデオを適宜編集し、原告の氏名を表示しないことを原告が承諾していたかなどといった点が争われました。

判旨

著作者の認定について

判決は、結論において、著作権法29条1項に基づき、原告撮影ビデオの著作権は被告Beeに帰属するとの判断をしましたが、その前提として、まず以下のように述べ、原告撮影ビデオの著作者は原告であること、及び、本件記録ビデオはその複製著作物又は二次的著作物であるとの認定をしました。

挙式等の撮影については基本的には原告の裁量に委ねられており,原告は様々な工夫をして撮影をしたと認められるから,原告は,原告撮影ビデオについて,「映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した者」(著作権法16条)としてその著作者であると認められ,本件記録ビデオはその複製著作物又は二次的著作物である。

著作権法29条1項の適用について

次いで、判決は、「映画製作者」の意味について、以下の解釈を示しました。これは上で紹介した裁判例にも沿ったものであり、一般的に確立した解釈といえるでしょう。

著作権法29条1項にいう「映画製作者」とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいい(同法2条1項10号),映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体となる者のことをいうと解される。

上記定義へのあてはめとして、判決は、以下のとおり、①被告Beeが婚礼ビデオ製作業務を統括していたこと、②エフ・ジェイホテルズに対する婚礼ビデオの製作・納品義務は被告Beeが負っていたこと、③ビデオ撮影上の原告の裁量は、被告Beeの指示による制約を受けるものであったこと、④撮影料、交通費その他の費用の負担者は被告Beeであることを考慮し、被告Beeが映画製作者に該当すると認定しました。

・・・本件では,被告Beeは,社内の人間だけでは撮影業務をこなせないことから複数の外部業者に撮影業務を委託するようになり,原告はその外部業者の一人であったことからすると,被告Beeは,各婚礼のビデオ撮影業務の担当を各外部業者に割り振って委託することにより,全体としての婚礼ビデオの製作業務を統括して行っていたといえる。

また,エフ・ジェイホテルズから委託を受けて,新郎新婦から婚礼ビデオ製作の申込みを受け,その意向を聴取して打合せをするのは被告Beeであり,婚礼ビデオを完成させて納品するのも被告Beeである。また,被告Beeは,原告による撮影に不備があった場合の新郎新婦に対する責任も負担している。そうすると,婚礼ビデオを適切に製作し,納品する義務は,エフ・ジェイホテルズからの委託の下,被告Beeが負っていたといえる。

加えて,現場での撮影業務自体は基本的には原告の裁量と工夫に委ねられていたが,被告Beeも,新郎新婦に特段の意向がある場合には原告にそれを伝えて撮影の指示を行っており,原告の裁量等も被告Beeからの指示という制約を受けるものであったほか,被告Beeは,婚礼ビデオを完成させるに当たり編集作業を行い,その中では,被告Beeが独自に製作した「プロフィールビデオ」等の上映シーンを加工し,そのBGMを音源から採取して差し込むなど,独自の演出的な編集も行っているから,製作するビデオの内容を最終的に決定していたのは被告Beeであるといえる。

そして,被告Beeは,原告に対して撮影料と交通費を支払っているほか,それ以外の製作費用も負担しているから,本件記録ビデオの製作に関する経済的な収入・支出の主体となっているのは原告ではなく被告Beeである。なお,被告Beeは,本件記録ビデオに収録された楽曲についての著作権使用料等の支払をしていないが,原告は,本件記録ビデオに収録された楽曲の著作権使用料は被告Beeが負担することとなっていたと主張しており,この主張は,上記のとおり本件記録ビデオの製作に関する経済的な収入・支出の主体が被告Beeであることと符合する(この点については,被告Beeも,別件の福岡地方裁判所小倉支部に提起された事件で原告の上記主張を争うに当たり,結婚式の様子を撮影したビデオ等に結婚式の映像とともに式場で流された音楽が収録された場合に,その音楽について日本音楽著作権協会等に対して著作権使用料を支払うべき義務があるかは法律上確定されているものではなく,支払義務があるとしても,それを原告が支払った場合には求償権の問題が発生すると主張するにとどまり・・・,日本音楽著作権協会等に対する支払義務がある場合にそれを被告Beeが負担すべきことを特段争っていたわけではないと認められる。)。

以上からすると,本件記録ビデオの製作に発意と責任を有する者は,被告Beeであり,被告Beeは「映画製作者」に当たると認めるのが相当である。

また、判決は、以下のように述べて、原告による本件記録ビデオ製作への参加約束も認定しました。

原告は,被告Beeから委託を受けて原告撮影ビデオの撮影をしたのであるから,被告Beeに対して本件記録ビデオの製作に参加することを約束したものといえる。

以上の事実認定の結果、判決は、原告撮影ビデオの著作権は被告Beeに帰属するものと認め、著作権に基づく原告の請求を棄却しました。

著作者人格権に基づく請求について

原告は、著作者人格権に基づく請求もしていましたが、判決は、これも排斥しました。

まず、同一性保持権については、以下のとおり、被告Beeによる編集は意に反する改変にあたらないと判断しました。

同一性保持権についてみると,本件記録ビデオは原告撮影ビデオを編集したものであるが,前記1で認定した事実からすると,原告は,被告Beeが原告撮影ビデオを適宜編集することを承諾していたと認められるから,本件記録ビデオは原告の同一性保持権を侵害して製作されたものではない。

したがって,仮に被告らが本件記録ビデオを複製,頒布するとしても,意に反する改変を行うことにはならないから,同一性保持権の侵害は生じない。

次に、氏名表示権については、「原作品」について「公衆への提供又は提示」が認められないとして、氏名表示権侵害のおそれはないと判断しました。

氏名表示権についてみると,氏名表示権は,著作物の「原作品」に,又は「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」,又は「その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際して」,著作者名を表示し又は表示しないこととする権利である(著作権法19条)ところ,原告は,本件記録ビデオが原告の氏名を表示しないままで複製され,頒布されることが氏名表示権の侵害に当たると主張しているものと解される。

しかし,まず,被告らがそもそも「原作品」たる原告撮影ビデオを複製するおそれが認められないことは先に述べたとおりである。また,著作物又は二次的著作物の「公衆への提供又は提示」とは,特定多数の者に提供又は提示することも含む(著作権法2条5項)が,本件記録ビデオが被告P2らの挙式及び披露宴の様子を収録したものであることからすると,仮に被告らが本件記録ビデオを複製するおそれがあるとしても,被告Beeが複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのは被告P2らに限られ,3年以上前に挙式等を行った被告P2らが複製物を提供する相手として現実的に想定し得るのも肉親くらいであり,被告P2らが今後SNSサービスに投稿するおそれがあるとも認められないから,被告らが特定多数の者に対してであっても本件記録ビデオを複製し,頒布するおそれがあるとは認められない。

したがって,被告らが原告の氏名表示権を侵害するおそれがあるとは認められない。

最後に、公表権についても、上述のような状況からすると、「公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」が作成、頒布されることはなく、「発行」の可能性がないことから、「公表」されるおそれがないとの考え方で、侵害のおそれが否定されました。この点に関する判示は、以下のような、ごく簡潔な記載となっています。

公表権についてみると,【氏名表示権に関する判示】で指摘した点に照らせば,被告らが,本件記録ビデオを公表(著作権法4条,3条)するおそれがあるとは認められない。したがって,被告らが原告の公表権を侵害するおそれがあるとは認められない。

結論

結論として、原告の請求はいずれも棄却されました。

コメント

本判決の結論は妥当なものと思われ、また、判示内容に特段目新しいものはありません。しかし、映画製作者の認定をめぐっては、映画製作に関与する者の間の契約関係や収支の帰属など、様々な要素を考慮する必要があり、過去にいくつも興味深い判決も現れているところです。

本件では、婚姻の当事者(新郎新婦及び両家)、婚礼の場を提供するホテル(ないしその運営者)、ホテルから婚礼ビデオの製作を受託した会社、当該受託会社から撮影を委託した個人といった関係者の中で、具体的な事情を考慮してホテルから製作を受託した会社を映画製作者と認定している点は参考になると思われます。

また、特に重要な争点となってはいませんが、婚礼ビデオの性質に基づき、発行ないし公表のおそれがないことを認定している点も、実務上参考になるものと思われます。

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(文責・飯島)