商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。

今回は、称呼同一商標の類否と商品の類否に関する審決を中心に、周知著名商標「ぐるなび」に関する審決等を取り上げております。

不服2018-5247(快音くん/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標: 快音くん(標準文字)
指定商品:第10類「耳栓型の助聴器,補聴器」

引用商標:快温くん(標準文字)
指定商品:第10類「温熱治療用具,その他の医療用機械器具,避妊用具,人工鼓膜用材料,補綴充てん用材料(歯科用のものを除く。),耳栓,しびん,病人用便器,耳かき」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

両商標は非類似の商標であるから、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「快音くん」の文字からなるところ、その構成中、「快音」の文字は、「胸のすくようなさわやかな音」の意味を有する語であり、また、「くん」の文字は、「同輩や目下の人の姓名に付けて、親しみや軽い敬意を表す語」の意味を有する「君」の語の読みを平仮名で表したものであって、「君」の語と同様に、前にある語と一体となって造語を形成し、事物を擬人化して愛称的にいう場合にも使用される語といえるものであるから、本願商標は、全体として、「快音(胸のすくようなさわやかな音)を出す人」程の意味合いを有する擬人化を図った一種の愛称を表したものとして理解されるとみるのが相当である。そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して、「カイオンクン」の称呼を生じ、愛称としての「快音くん(快音を出す人)」程の意味合いを想起させるものといえる。

引用商標は、「快温くん」の文字からなるところ、前半の「快温」の文字は、辞書に載録された成語であるとは認められないものの、「快」及び「温」の文字は、それぞれ「快いこと」及び「温かさ」等の意味を有する語としていずれもよく知られているものであり、また、後半の「くん」の文字は、「同輩や目下の人の姓名に付けて、親しみや軽い敬意を表す語」の意味を有する「君」の語の読みを平仮名で表したものであって、「君」の語と同様に、前にある語と一体となって造語を形成し、事物を擬人化して愛称的にいう場合にも使用される語といえるものであるから、本願商標は、全体として、「快い温かさにする人」程の意味合いを有する擬人化を図った一種の愛称を表したものとして理解されるとみるのが相当である。そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「カイオンクン」の称呼を生じ、愛称としての「快温くん(快い温かさにする人)」程の意味合いを想起させるものといえる。

本願商標と引用商標の類否について検討すると、外観においては、本願商標は、「快音」及び「くん」の2つの語からなると理解されるものであるのに対し、引用商標は、「快」、「温」及び「くん」の3つの語からなると理解されるものであるから、両者は、異なる構成からなるものというのが相当であり、外観上、判然と区別し得るものといえる。次に、称呼においては、本願商標と引用商標とは、共に「カイオンクン」の称呼を生じるものであるから、称呼上、同一である。そして、観念においては、本願商標と引用商標とは、ともに造語として理解されるものではあるものの、本願商標は、愛称としての「快音くん(快音を出す人)」程の意味合いを想起させるものであるのに対し、引用商標は、愛称としての「快温くん(快い温かさにする人)」程の意味合いを想起させるものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。

そうすると、本願商標と引用商標とは、共通の称呼を生じるとしても、外観においては、判然と区別し得るものであり、観念においても相紛れるおそれはないものであるから、これらを総合して全体的に考察すれば、商品の出所について混同を生ずるおそれのない非類似の商標というのが相当である。

コメント

本件のように、本願商標と引用商標が、異なる漢字を構成要素とする場合、同一の称呼を生じるとしても、外観及び観念において類似するということはできず、非類似であると判断される傾向にあります。同様の判断をした他の審決例として、「宝生」と「宝晶」を非類似と判断した不服2013-9963、「妙煎」と「妙泉」を非類似と判断した不服2012-25859があります。

不服2018-6665(SOWA/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第25類「作業服,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

引用商標:
指定商品:第25類「被服」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標は,引用商標とは類似する商標ではないから,その指定商品を比較するまでもなく,商標法第4条第1項第11号には該当しない。

審決等の要点

本願商標を構成する「SOWA」の欧文字は、辞書等に載録された成語ではなく、また、本願の指定商品を取り扱う分野において特定の意味合いを表す語として使用されている実情も見受けられないことから、特定の意味合いを有しない造語を表したものといえる。特定の語義を有しない欧文字からなる商標については、我が国において広く親しまれている英語風又はローマ字風の発音をもって称呼されるのが一般的といえるから、本願商標は、その構成文字に相応して、「ソーワ」又は「ソワ」の称呼を生じ得る。以上によれば、本願商標からは、「ソーワ」及び「ソワ」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものと認められる。

引用商標は、「爽和」の漢字を行書体に近い筆書体により横書きしてなるから、構成文字に相応して、これを音読みした「ソウワ」及び訓読みした「サワワ」の称呼が生じるほか、音読みした場合の「ソウワ」の第2音「ウ」の音が直前の「ソ」([so])の音の母音「o」に続けて発音されることにより、該「ソ」の音の長音のように発音されることも一般的であることからすると、「ソーワ」の称呼をも生じるといえる。引用商標を構成する「爽和」の漢字は、辞書等に載録された成語であるとは認められないものの、「爽」及び「和」の各文字は、共に親しまれた漢字であって、一般人にとって観念を容易に想起し得る漢字であり、また、2文字程度の漢字を組み合わせた単語について、これを構成する文字からその意味を理解することも通常のことである。そうすると、「爽和」の文字は、「爽」から生じる「さわやか」と「和」から生じる「なごやか」との観念を組み合わせた、「爽やかで和やか」程度の意味合いを認識させるものといえる。以上によれば、引用商標からは、「ソウワ」、「ソーワ」又は「サワワ」の称呼が生じ、「爽やかで和やか」程度の観念を生じるものと認められる。

本願商標と引用商標とは、外観においては、文字の色彩、文字種(欧文字と漢字)、文字数及び書体が相違し、明らかに異なるものである。本願商標及び引用商標からは、それぞれ複数の称呼が生じるから、両商標の称呼は、共通又は類似する場合(「ソーワ」が共通。本願商標の「ソーワ」と引用商標の「ソウワ」とは類似。)と異なる場合(本願商標の「ソーワ」と引用商標の「サワワ」とは非類似、本願商標の「ソワ」と引用商標の「ソウワ」、「ソーワ」又は「サワワ」とは非類似。)があり得る。そして、本願商標から特定の観念が生じないのに対し、引用商標からは「爽やかで和やか」程度の観念を生じ得ることから、両者は観念において相紛れるおそれはない。

してみると、本願商標と引用商標とは、外観において明らかに相違し、観念上も相紛れるおそれはなく、称呼上も、共通又は類似する場合だけでなく異なる場合もあるから、これらを総合して判断すると、本願商標と引用商標は、互いに出所の誤認混同を生じるおそれはなく、非類似の商標というべきである。

コメント

漢字からなる商標と欧文字からなる商標の類否については、商標審決アップデート(Vol.2)で紹介した不服2017-13566(「陽舟」と「yousyu」)と商標審決アップデート(Vol.9)で紹介した不服2017-15661(「一騎」と「IKKI」)でも非類似と判断されております。一方、リーガルアップデート「称呼同一商標の類否及び商品の類否に関する判断を示した「TENRYU」審決取消訴訟事件知財高裁判決について」で紹介しました平成30年(行ケ)第10014号の審決取消請求事件では、「天龍」と「TENRYU」が類似すると判断されております。当該審決取消請求事件では「TENRYU」から「天の竜(龍)」の観念が生じると判断されておりますので、欧文字から同一の観念が生じると判断されるか否かが判断の分かれ目になっているように思われます。

不服2018-1167(Re:Style/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第44類「エステティック美容、ダイエット・栄養摂取又は健康管理に関する指導・診断・助言、あんま・マッサージ及び指圧」

引用商標:
指定商品:第44類「ダイエット・栄養摂取又は健康管理に関する指導・診断・助言、骨格の矯正、あんま・マッサージ及び指圧、カイロプラクティック、きゅう、柔道整復、はり、医療情報の提供、健康診断、栄養の指導、エステティック美容、美容、理容、アロマテラピー及びリフレクソロジーの提供」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標に類似する商標であって、引用商標に係る指定役務と同一又は類似する役務について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決等の要点

本願商標は、黒塗りの四角形内の上段に曲線等を組み合わせた図形を、下段に「Re:Style」の欧文字をそれぞれ白抜きで表してなるところ、上段の図形部分と下段の欧文字部分とは結合しておらず、間隔をあけて表されていることから、両者は視覚的に分離して看取されるものであり、また、これらを常に一体のものと把握しなければならない特段の事情も見いだせないことからすれば、それぞれが独立して自他役務の識別機能を果たし得るものというべきである。また、本願商標の構成中の下段の欧文字部分である「Re:Style」の文字は、その構成文字に相応して「リスタイル」の称呼を生じ、該構成文字全体としては、辞書等に載録のないものであるから、特定の観念を生じないものである。そうすると、本願商標は、その構成中の「Re:Style」の欧文字に相応して、「リスタイル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標は、「Re:Style」の欧文字を筆記体風に表してなり、「R」の文字の右下部の線を長く延ばし、その先にクローバーの葉のような図形を赤色で表してなるところ、その構成文字である「Re:Style」の欧文字に相応て「リスタイル」の称呼を生じ、該構成文字全体としては、辞書等に載録のないものであるから、特定の観念を生じないものである。

本願商標と引用商標とを比較すると、両商標は、外観においては、その全体の構成において差異を有するものであるが、両商標の欧文字部分を比較すると、両者は、記号「:」(コロン)を介して「Re」と「Style(style)」の文字を一連に横書きした構成からなるものであるから、これらの欧文字部分において、外観上、類似するものである。次に、称呼においては、両商標は、共に「リスタイル」の称呼を同一にするものである。そして、観念においては、両者は特定の観念を生じないものであるから、観念上、比較することができないものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較できず、全体の外観において相違するものの、両商標の構成中の「Re:Style」の欧文字部分において、外観上、類似するものであって、「リスタイル」の称呼を同一にするものであるから、これらを総合的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

本件のように、全体としては外観が異なるような場合であっても、商標を構成する文字が同じであれば類似すると判断される傾向にあります。商標審決アップデート(Vol.9)で紹介した不服2017-6925でも、両商標の外観は大きく異なりますが、同じ「一番摘み」の文字からなるため、類似すると判断されております。

無効2017-890081(べるなび/周知著名商標と出所混同)

審決分類

商標法第4条第1項第15号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本件商標:
指定役務:第35類「広告業,広告の代理,雑誌による広告,ダイレクトメールによる広告,インターネットによる広告,広告スペースの貸与又は提供,インターネット上での広告スペースの提供及び貸与,広告用具の貸与,マーケティング,経営に関するコンサルティング,フランチャイズの事業の管理,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,商品の販売促進のためのクーポン券の発行及び管理,ポイントカードの発行・清算及び管理,クーポン券及び割引などの特典付カードの発行,トレーディングスタンプの発行,新聞記事情報の提供,職業のあっせん,求人情報の提供」等

引用商標:
指定役務:第35類「広告,インターネットによる広告の代理,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,商品の売買契約の仲介,ホテルの事業の管理,広告用具の貸与,職業のあっせん,電子計算機・タイプライター又はこれらに準ずる事務用機器の操作,輸出入に関する事務の代理又は代行,求人情報の提供」等

結論

登録第5906278号の登録を無効とする。

本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであって、同法第4条第1項に違反してされたものというべきであるから、その余の無効理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項第1号の規定に基づき、無効とすべきものである。

審決等の要点

(1)引用商標の著名性について
請求人は、独特の文字で表されている「ぐるなび」の商標を自己の業務に係る役務「飲食店に関する情報の提供」等について20年以上使用して、当該分野において名声と信用を築き上げてきたものであって、「ぐるなびグループ」の多角経営の程度、営業活動の期間、売上高等を考慮すると、「ぐるなび」の文字からなる商標は、本件商標の登録出願前より、請求人の業務に係る役務を表示するものとして、取引者、需要者間に広く認識され、全国的に著名となっていたものと判断するのが相当である。

(2)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標とは、その外観上、極めて近似した印象を与える特徴的な形状の文字からなるものであって、着想、構図等その構成の軌を一にするものとみるのが相当である。したがって、本件商標と引用商標とは、観念において、比較できないとしても、外観において極めて近似しており、特徴的な文字のデザインも記憶に残るものといい得ることから、称呼において、語頭音の相違があるとしても、その相違が外観における類似性を凌駕するものとはいえないものであるから、両商標の類似性の程度は相当高いものといえる。

(3)引用商標の独創性について
引用商標である「ぐるなび」は、川合デザインが、1996年のデビューよりコーポレート・アイデンティティの開発の一環で考案したロゴ文字であり、この独創的な書体は、他に類を見ないものである。

(4)取引の実情等について
請求人は、株式会社ぐるなびプロモーションコミュニティ等の親会社として、パソコン・携帯電話・スマートフォン等による飲食店のインターネット検索サービスその他関連する事業を提供する会社であり、また、「ぐるなびグループ」は、株式会社ぐるなび及び連結子会社1社、関連会社3社によって構成される多角経営企業であり、その事業は、飲食店情報検索サイトを通じた飲食店情報の提供をはじめ、ウェディング情報の提供、デリバリー情報の提供、通信販売、飲食店の業務支援など、多岐にわたり、これら事業の連結売上高は約369億円であって、その事業規模も決して小さいものではない。

(5)需要者の共通性について
本件商標と引用商標の指定役務の取引者、需要者は、広告及び市場調査を依頼する事業者や求人情報の提供を受ける一般需要者であるから、両商標の取引者、需要者は同じである。

(6)混同を生ずるおそれについて
上記を総合勘案すれば、引用商標は、上記(1)のとおり請求人又は同人の業務を表示するものとして、本件商標の登録出願時ないし登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められるものである。また、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標とは、その外観上、極めて近似した特徴的な形状の文字からなるものであるから、両者の類似性は相当高いものと認められる。さらに、上記(3)のように、デザイン会社に依頼し、コーポレート・アイデンティティの開発の一環として考案したロゴ文字をサービス開始当初から使用しており、この独創的な書体は、他に類を見ないものである。加えて、上記の(4)及(5)のとおり、請求人は多角経営企業であること、及び取引者、需要者も共通していることを考慮すれば、被請求人が引用商標の存在を承知の上で、それと近似した商標を登録出願したものであり、引用商標の周知性へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や稀釈化(いわゆるダイリューション)を意図していたものといわざるを得ないものである。

そうすると、本件商標をその指定役務について使用した場合には、これに接する取引者、需要者をして、引用商標あるいは請求人を連想、想起させ、その役務が他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。

コメント

請求人は、商標法第4条第1項第11号に該当する旨も無効理由の一つとして主張しておりましたが、審決では同条項については述べられず、商標法第4条第1項第15号に該当することを理由に登録を無効としております。商標法第4条第1項第15号の判断に関して、参考になる事案です。

不服2018-5881(××××/図形商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標: 
指定商品:第25類「被服,ベルト」等

引用商標:
指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

審決等の要点

本願商標は、同じ長さの右斜め及び左斜めの2本の斜線が、中央で90度の角度で「×」状に交わった図形を、横一列に4つ並べた構成からなるものであって、その並べ方は、「×」状の図形同士が、上線先端と下線先端との2か所で接するようにつながった構成態様となっており、全体として一体の幾何図形を表したものと認識、把握されるのが自然である。そして、該幾何図形は、我が国において特定の事物を表したもの又は何らかの意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないことから、本願商標からは、特定の称呼及び観念を生じないものである。

引用商標は、やや肉太の欧文字「X」を、「XXXX」と横に4つ並べて書した構成態様からなるところ、その構成文字より、「エックスエックスエックスエックス」又は「フォーエックス」の称呼を生じ、該文字は辞書等に載録された成語とは認められないものであるから、特定の観念を生じないものである。

本願商標と引用商標とを比較すると、外観においては、本願商標は、幾何図形を表したものであり、引用商標は、「XXXX」の欧文字を表したものであるから、外観上、幾何図形と欧文字の羅列では、明確に区別できるものである。 また、称呼においては、本願商標からは、特定の称呼を生じないのに対し、引用商標からは、「エックスエックスエックスエックス」又は「フォーエックス」の称呼を生じるから、称呼上、明確に聴別し得るものである。さらに、本願商標と引用商標とは、共に特定の観念を生じないから、観念上、比較することができない。

したがって、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において明らかに相違するものであり、これらを総合的に勘案すれば、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

コメント

本願商標と引用商標は外観上近似した印象を与えるものですが、本願商標が何ら称呼を生じない幾何図形と認識されるのに対し、引用商標は「X」(エックス)を4つ並べた構成態様からなるものであるため、幾何図形と欧文字の羅列で、外観上も明確に区別できると判断されております。本件審決で述べられているように、図形商標の類否を争う際には、印象が異なる点を主張するのが有効であると考えられます。

不服2017-17236(FIREFLY/商品の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:FIREFLY(標準文字)
指定商品:第9類「文字認識用のコンピュータソフトウェア(医療用及び外科用のものを除く。),商品のバーコードを読み取り商品を特定するための携帯電話・スマートフォン・タブレットコンピュータ用のコンピュータソフトウェア(医療用及び外科用のものを除く。),電話機を利用した情報検索用コンピュータソフトウェア(医療用及び外科用のものを除く。)」

引用商標:FIREFLY
指定商品:第9類「Luminescence diodes.」(参考訳:発光ダイオード)

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とが同一又は類似の商標であるとしても、本願商標の指定商品は、引用商標の指定商品と類似するものではないから、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念を同一又は類似とする類似の商標である。

両商標の指定商品の類否を検討すると、本願商標の指定商品である、いわゆる「コンピュータソフトウェア」(以下「ソフトウェア」という。)とは、「コンピューターを動作させるためのプログラムや命令を記述したデータのまとまり。・・・」であり、一方、引用商標の指定商品である「発光ダイオード」とは、「電流を流すと光を発する半導体素子。」(いずれも「ASCII.jpデジタル用語辞典」参照)であるところ、前者のソフトウェアは、コンピューターに所定の処理を実行させることをその用途とするものであり、後者の発光ダイオードは、ディスプレイ、信号機、照明器具等発光機能を有する機器の部品として組み込まれて使用されることをその用途とするもので、汎用性のある電子部品であるから、両者の用途は明らかに異なるものである。

また、両者の販売部門については、ソフトウェアは、コンピュータプログラムが格納された記憶媒体として、あるいは、インターネット回線を解して利用者の電子情報端末にダウンロードすることにより流通し、家電量販店、オンラインショップ等の小売店で販売されており、その需要者はコンピューターや電子情報端末を利用する企業や一般消費者であるといえる。一方、発光ダイオードは、一般的には、企業間取引において流通し、購入者の業務に係る商品の生産のために販売され、その需要者は、一般消費者ではなく、発光ダイオードの機能を利用した様々な商品を製造する製造業者であるから、明らかに異なるものである。

そして、生産部門についても、ソフトウェアは、大規模な製造設備等を必要とせず、コンピュータプログラミングに使用するコンピューター設備とプログラマーが行うのに対し、発光ダイオードは、特殊な基板材料を加工することが可能な、半導体製造装置を有する半導体製造企業であるから、その生産部門、原材料も明らかに異なるものといえる。

さらに、ソフトウェアは、その本質はプログラム言語で構成された処理実行命令であって、無体物といえるものであり、発光ダイオードは、サファイア、インジウム等特殊な原材料を必要とする有体物といえるものであるから、その品質においても明らかに異なるものといえる。

そうすると、ソフトウェアと発光ダイオードは、共に電子応用機械器具及びその部品の範ちゅうに属する商品であるとしても、その用途、販売部門、需要者、生産部門及び品質が明らかに異なるものであるから、両者に同一又は類似の商標を使用しても、それらが同一の営業主の製造、販売に係る商品と誤認混同されるおそれはないものと判断するのが相当である。また、他に両商標の指定商品が類似するというべき事情は見いだせない。

してみれば、両商標の指定商品は、非類似の商品といわなければならない。

コメント

「ソフトウェア」と「発光ダイオード」は、いずれも類似商品・役務審査基準において付与されている類似群コードが「11C01」であり、類似商品であると推定される関係にありますが、本件審決では、非類似の商品であると判断されております。類似群コードが同一の場合、類似商品と推定されますが、商品の用途、販売部門、需要者、生産部門及び品質が明らかに異なる場合、非類似商品であると判断される場合があります。

不服2017-19079(Z-SYSTEM/商品の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:Z-SYSTEM
指定役務:第28類「エアソフトガン」

引用商標:Z SYSTEMS
指定役務:第9類「video game software」(参考訳:ビデオゲーム機用ゲームソフトウェア)等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標は、引用商標とは、その指定商品及び指定役務において、同一又は類似の商品について使用をするものではないため、本願商標と引用商標を比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

審決等の要点

本願商標の指定商品である第28類「エアソフトガン」は、本物の銃器の形を模した、プラスチックなどでできた弾を発射できる遊戯銃の一種であるところ、当審による職権調査によれば、エアソフトガンには、発射パワーに応じて、法律で所持が禁止されているものや、18歳未満に使わせてはいけないものもあるなど、その使用にあたっては安全性への配慮が求められており、その流通にも年齢等に基づく一定の制限がある実情がうかがえる。そして、エアソフトガンには、その出力に応じて「10才以上用」と「18才以上用」があるところ、市場を構成している大半は「18才以上用」との記事情報もあることから、その需要者は子供ではなく、主にサバイバルゲーム愛好家やミリタリー関連商品コレクターなどの成人が中心であるということができる。以上のとおり、本願商標の指定商品は、主に玩具製造業者により製造され、主に玩具小売業者又は模型玩具小売業者により販売されるエアソフトガンであって、サバイバルゲーム愛好家などの成人を需要者とし、それを用いた遊戯の用途で販売されるものである。

引用商標の指定商品中、第9類に属する「video game software」(参考訳:ビデオゲーム機用ゲームソフトウェア)は、家庭用・業務用テレビゲーム機専用のビデオゲーム用ソフトウェアであるところ、これらは主に情報サービス業に属するゲームソフトウェア業者により制作され、主に玩具小売業者・玩具卸売業者又はゲーム用ソフト小売業者若しくは卸売業者により販売される商品であって、家庭用テレビゲーム機に接する幅広い年齢層の消費者や業務用テレビゲーム機を扱うゲームセンターなどの娯楽施設を需要者とし、それらを用いた遊戯の用途で販売されるものである。

本願商標の指定商品と引用商標の指定商品中の「video game software」を比較すると、それぞれの生産部門の業種は相違し(製造業と情報サービス業)、それぞれの販売部門は玩具小売業を含む点で共通するものの、それを細分化した業種としては差異があるもので(模型玩具小売業とゲーム用ソフトウェア小売・卸売業など)、エアソフトガンの流通には、一般の玩具とは異なり、年齢制限等もあることも踏まえると、それぞれ異なる流通経路を経て販売されることも多いものといえる。そして、両商品は需要者層も相違しており(成人と幅広い年齢層又はゲームセンター)、それぞれの用途は遊戯であるとしても、遊戯の内容(サバイバルゲームとビデオゲーム)において差異があることは明らかである。

そうすると、本願商標の指定商品である「エアソフトガン」と引用商標の指定商品中の「video game software」とは、生産部門、販売部門、商品の性質、用途、需要者の範囲を踏まえて総合的に考慮したとしても、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときでも、同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるものではなく、互いに類似する商品とはいえない。

コメント

本願商標と引用商標とは、末尾の「S」の有無の差異を有しておりますが、商標の類否を検討するまでもなく、それぞれの指定商品「エアソフトガン」と「video game software」が非類似の商品であるから、商標法第4条第1項第11号には該当しないと判断されております。なお、「エアソフトガン」と「video game software」は、いずれも類似群コード「24A01」が付与される指定商品です。

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(文責・前田)