商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。 
 
今回は、商標や商品の類否に関する審決・異議の決定をピックアップしました。特に、称呼同一商標の類否に関する審決を多く取り上げております。

不服2017-13979(シンクスモール/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:シンクスモール
引用商標:

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標と類似し、その指定商品も、引用商標の指定役務と類似するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標は、「シンクスモール」の片仮名を標準文字で表してなるところ、全体として特定の意味を有する成語ではなく、その構成も間隔や区切りなく横一連に表してなることから、特定の意味を有する語を組みあわせたものとは直ちに認識、把握できないため、全体として特定の意味を有しない造語を表してなるものと認識、理解されるものであり、その構成文字に相応して「シンクスモール」の称呼が生じ、特定の観念は生じない。

引用商標については、その右側の文字部分は、中央上部に頂点を有する山型線の内部に三角形を配した図案化した部分を含んでなるところ、当該図案化部分は、他の文字と横一連に連続して、同じ大きさで、一体的に配置されており、その構成上の特徴も、欧文字「A」を構成する山型線及び中央横線に相当する特徴を備えていることから、全体として「SYNCSMALL」の文字を表してなると容易に理解できる。そのため、引用商標の要部である文字部分からは、その構成文字に相応して「シンクスモール」の称呼が生じ、特定の意味を有する語とも認識できないため、特定の観念は生じない。

本願商標と引用商標の要部である文字部分を比較すると、称呼においては「シンクスモール」の称呼を共通にするが、いずれも特定の観念は生じないため、観念においては比較できない。また、両者の外観は、図案化した文字の有無や文字種(片仮名と欧文字)に相違があるものの、引用商標の文字部分を片仮名で表記したものが本願商標に相当し、実際の取引においては、欧文字で表した商標を片仮名で表記するなど、相互に置き換えた表記も一般的に行われていることや、本願商標が平易な書体からなるものであって、本願商標の外観は、取引者、需要者に対し、特段印象付けられるものではないことからすると、両者の外観における差異は、取引者、需要者に対し、特段印象付けられるものではない。そうすると、本願商標と引用商標の要部である文字部分は、称呼を共通にし、観念においては比較できないものの、外観における差異も特段印象付けられるものではないから、これらを総合的に勘案すれば、両者に時と所を異にして接するときは、誤認混同を生じるおそれがあるというのが相当である。そのため、本願商標は、引用商標とは、その要部の比較において相紛らわしい商標であり、互いに類似する商標というべきである。

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商標審決アップデートVol.6で紹介しました不服2017-13980では、本件と同じ引用商標と出願商標「THINK SMALL」が非類似と判断されたのに対し、本件では類似と判断され、異なる判断となっております。不服2017-13980では、「THINK SMALL」から「小さく考える」や「小さいことを考える」などの意味合いを想起させ、引用商標とは観念上の印象が異なると述べられており、これに対して本件では「シンクスモール」からは特定の観念を生じないと述べられておりますので、観念を生じるか否かの違いが判断に影響を与えたものと思われます。

不服2017-13190(ALtimate/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:
引用商標:

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、1文字目の「A」の文字をデザイン化した「ALtimate」の欧文字と、当該欧文字の「ALt」の各文字の上から右に向かって収束する3本の放物線からなる図形を配した構成からなるものであるところ、当該図形部分から特定の称呼及び観念を生じるとはいえない。そして、本願商標の構成中の「ALtimate」の欧文字は、一般の辞書等に掲載がなく、特定の意味合いを理解させるものとして知られている語ともいえないものであるから、これを称呼する場合には、我が国において親しまれたローマ字表記又は英語における発音に倣って称呼されるとみるのが相当である。そうすると、本願商標は、その構成中の「ALtimate」の文字に相応する「アルティメイト」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標は、「Ultimate」の欧文字と「アルティメイト」の片仮名とを二段に書してなるものである。そして、引用商標の構成中、「Ultimate」の欧文字は、「究極の、最高」等の意味を有する英単語であって、「アルティメイト」の片仮名は、そのつづり及び配置から、当該欧文字部分の読みを表したものとして看取、理解されるものである。そうすると、引用商標は、その構成全体から「アルティメイト」の称呼を生じ、「究極の、最高」といった観念を生じるものである。

本願商標と引用商標とは、図形及び「アルティメイト」の文字の有無という差異のみならず、欧文字部分の語頭の「A」と「U」という差異もあることからすれば、両商標は、視覚的印象において著しく相違し、外観上、相紛れるおそれはない。また、本願商標は、特定の観念を生じないものであるのに対し、引用商標は、「究極の、最高」といった観念を生じるものであるから、両商標は、観念上、相紛れるおそれはない。 そうすると、本願商標と引用商標とは、「アルティメイト」の称呼においては共通するものの、外観においては視覚的印象が著しく相違するため、相紛れるおそれがなく、観念においても相紛れるおそれのないものであるから、これらを総合して全体的に考察すれば、両商標は、非類似の商標というべきである。

コメント

本件では、本願商標と引用商標から同一の称呼が生じるものの、引用商標「Ultimate/アルティメイト」からは「究極の、最高」といった観念が生じ、特定の観念を生じない本願商標とは非類似であると判断されております。本件も含め最近は、称呼同一であっても、外観及び観念が異なる場合、非類似と判断される傾向にあります。 

不服2017-15661(IKKI/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:
引用商標1:
引用商標2:

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、黒塗りの長方形内に、大きく太く表された「IKKI」の欧文字と、前後にハイフンを配し、小さい文字で表された「KASUTEIRA」の欧文字とを上下二段に白抜きで表してなるところ、その構成中の「IKKI」及び「KASUTEIRA」の文字は、その文字の大きさ及び太さなどから視覚的に分離して看取されるものであり、「IKKI」の文字部分が、大きく太い文字で顕著に表されていることから、該文字部分が、取引者、需要者に対し商品及び役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであり、識別力を発揮する要部とみるのが相当である。そして、本願商標の構成中の「IKKI」の文字は、「一騎」、「一気」又は「一揆」等の語を連想、想起させる場合があるものの、特定の観念を生じるとまではいえないものである。そうすると、本願商標は、その構成文字全体から生じる「イッキカステイラ」の称呼のほかに、要部である「IKKI」の文字部分に相応して「イッキ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標1は、「一騎」の文字からなり、引用商標2は、別掲2のとおり、「一騎」の文字の「騎」の文字が異体字で表された構成からなるところ、これらの文字は、「馬に乗った一人の将兵」の意味を有する語(株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)として理解されるものである。そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して「イッキ」の称呼を生じ、「馬に乗った一人の将兵」の観念を生じるものである。

本願商標と引用商標とを比較すると、外観においては、両商標は、その構成態様や構成文字における欧文字と漢字という文字種の違い及び文字の太さなど明らかな差異を有するものであるから、外観上、明確に区別できるものである。次に、称呼においては、本願商標の要部から生じる称呼と引用商標から生じる称呼は、共に「イッキ」であるから、称呼上、同一である。そして、観念においては、本願商標からは特定の観念を生じないのに対し、引用商標は、「馬に乗った一人の将兵」の観念が生じるものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。そうすると、本願商標と引用商標とは、「イッキ」の称呼を共通にするとしても、外観において明らかな差異を有し、その称呼の共通性が、明らかに相違する外観の印象を凌駕するものとはいい難く、また、観念において類似しないものであるから、これらを総合して考察すれば、両商標は、商品及び役務の出所の誤認、混同を生ずるおそれのない、互いに非類似の商標というのが相当である。

コメント

上記不服2017-13190と同様に、本件でも引用商標から「馬に乗った一人の将兵」の観念が生じ、特定の観念を生じない本願商標とは非類似であると判断されており、外観及び観念の差異が類否判断に影響を与えています。 

不服2017-6925(一番摘み/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:
引用商標:

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、登録することができない。

審決等の要点

本願商標は、灰色の正方形の背景の中に、葉のような図形と白色の星のような図形と横書きの「一番摘み」の文字とを配した構成からなるところ、「一番摘み」の文字部分が正方形全体の3分の1ほどを占める大きさで顕著に表されているものであるから、本願商標に接する取引者、需要者が、その構成中の「一番摘み」の文字部分に着目し、該文字部分のみをもって取引することも少なくないというべきである。そうすると、本願商標は、その構成中の「一番摘み」の文字部分が独立して自他商品識別標識として機能するというのが相当であり、該文字部分の構成文字に相応して、「イチバンツミ」の称呼を生じ、「最初に摘むこと」ほどの観念を生じるものである。

引用商標は、縦書きの「一番摘み」の文字と筆書き風の円弧状の図形とからなるところ、「一番摘み」の文字部分は、全体の中央に大きく顕著に表されているものであるから、引用商標に接する取引者、需要者が、その構成中の「一番摘み」の文字部分に着目し、該文字部分のみをもって、取引することも少なくないというべきである。そうすると、引用商標は、その構成中の「一番摘み」の文字部分が独立して自他商品識別標識として機能するというのが相当であり、該文字部分の構成文字に相応して、「イチバンツミ」の称呼を生じ、「最初に摘むこと」ほどの観念を生じるものである。

本願商標と引用商標とは、それぞれの構成中、独立して自他商品識別標識として機能する「一番摘み」の文字において、その構成文字を同じくし、これから生じる「イチバンツミ」の称呼を同じくし、観念も同一のものである。 そうすると、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念を総合的に考察すると、相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

コメント

本願商標と引用商標は、いずれも図案化されており、異なる外観を有しておりますが、同じ「一番摘み」の文字を含み、称呼及び観念が同一であるため、互いに相紛れるおそれのある類似商標と判断されております。

不服2017-13031(ザ★/図形商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:
引用商標:  他

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「ザ」の片仮名と黒塗りの星形の図形を上下に表してなるところ、その構成は、商標において単独では用いられない「ザ」の一文字と黒い星形の図形であって、上下にまとまりよく一体的に表されているものと看取され、かつ、かかる構成からは、上部の「ザ」の文字を捨象して下部の星形の図形のみに着目するというよりは、その構成全体をもって印象付けられる一体不可分の商標とみるのが自然である。

そして、本願商標は、その構成全体をもって特定の意味合いを表すものとして親しまれているというべき特段の事情は認められないことから、特定の称呼及び観念を生じないものである。

したがって、本願商標から、その構成中の星形の図形を抽出して、該図形に相応して「ゴリョウセイ」の称呼及び観念が生じるとし、その上で、本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

コメント

本願商標と引用商標を構成する黒塗りの星形の図形部分は、ほぼ同一の形状からなるものですが、単純な星形の図形であり、識別力がそれ程強くないことが類否判断に影響を与えたものと思われます。なお、商標審査基準では、商標法第3条第1項第5号に該当する「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」の一例として〇、△、や、♢、♡等の図形を挙げております。

不服2017-11923(SCREEN MASTER/商品・役務の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:SCREEN MASTER(標準文字)
引用商標:

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とが類似するとしても、両商標の指定商品は非類似の商品であるから、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。

審決等の要点

本願商標の指定商品は「発光ダイオード」であり、引用商標の指定商品は「インクジェットプリンタ」である。 そこで、両商標の指定商品の類否を検討すると、両者はいずれも「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに属する商品であり、前者は後者の部品として使用されているものといえる。 しかしながら、本願商標の指定商品「発光ダイオード」と引用商標の指定商品「インクジェットプリンタ」とは、一般に、前者が各種機器の部品として用いられ、必ずしも後者の専用部品といえるものでもなく、後者は印刷に用いられるものであるから、両者の用途は明らかに異なるものである。

また、両者の需要者は、前者が主として各種機器を製造する事業者であり、後者が一般需要者であるから、明らかに異なっている。

さらに、販売部門については、前者が主として専門店で販売されるのに対し、後者が家電量販店などで販売されるといった差異を有しており、また、生産部門については、一般的に両者のそれが共通するというべき事情は見いだせない。

そうすると、両商標の指定商品は、それらが「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに属する商品であって、部品と完成品の関係にあるとしても、販売部門が異なり、用途及び需要者が明らかに異なるものであるから、両者に同一又は類似の商標を使用しても、それら商品が同一営業主の製造、販売に係る商品と誤認混同されるおそれのないものと判断するのが相当である。 また、他に両商標の指定商品が類似するというべき事情は見いだせない。してみれば、両商標の指定商品は非類似の商品といわなければならない。

コメント

商品又は役務の類否判断については、商標審査基準の商標法第4条第1項第11号において、「販売部門が一致するかどうか」「原材料及び品質が一致するかどうか」「用途が一致するかどうか」「需要者の範囲が一致するかどうか」等の基準を総合的に考慮するものとすると記載されております。本件における「発光ダイオード」と「インクジェットプリンタ」は、いずれも「11C01」の類似群コードが付与されており、形式上類似商品といえるものですが、販売部門や用途、需要者が明らかに異なるため、非類似の商品であると判断されております。

不服2018-1187(スピードペプチド/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:スピードペプチド(標準文字)
引用商標:  他

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標の構成中「スピード」の文字部分を分離、抽出し、その上で、本願商標と引用商標とが類似するものであるから、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「スピードペプチド」の文字からなるところ、その構成文字は、同書、同大、等間隔でまとまりよく一体的に表されているものであり、その構成全体から生じる「スピードペプチド」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、無理なく一連に称呼し得るものである。

そして、本願の指定商品との関係において、本願商標の構成中「スピード」の文字部分が取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認め得る事情は見いだせない。

そうすると、本願商標は、その構成全体が不可分一体のものとして取引者、需要者に認識されるものといわざるを得ない。

コメント

原査定では、本願の指定商品が「ペプチド入りの茶」等、全て「ペプチド入り」の商品に限定されており、当該指定商品との関係において、本願商標の構成中「ペプチド」の文字部分は識別力が弱いと考え、「スピード」の文字部分が要部になると判断したものと思われますが、審決では、本願商標は不可分一体に認識されるため引用商標とは非類似であると判断しております。なお、同じ請求人が、指定商品を「プロテイン入りの茶」等とする商標「スピードプロテイン」についても審判請求しており、本件と同様に一体不可分に認識され引用商標とは非類似であると判断されております(不服2018-1184)。

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(文責・前田)