知的財産高等裁判所第2部(森義之裁判長)は、平成30年8月29日、称呼同一商標の類否及び商品の類否が争われた事案について判決をしました。

判決は、「TENRYU」の欧文字を標準文字で表した商標が、「天龍」の文字からなる商標及び図形と「TENRYU」の文字からなる商標とは類似すると判断し、また、「金属加工機械器具用刃物」と「金属加工機械器具」、「製材機械器具用刃物,木工機械器具用刃物,合板機械器具用刃物」と「製材用・木工用又は合板用の機械器具」、「除草機械器具用刃物」と「栽培機械器具」、「金属加工機械器具用刃物」と「金属加工機械器具の部品及び附属品」が、それぞれ類似する商品であるとの判断を示しています。

ポイント

判旨概要

  • 「TENRYU」の欧文字を標準文字で表した本願商標は、「テンリュー」の称呼が生じ、「天竜、天龍」を意味するものと理解するのが一般的であり、「天竜、天龍」からは「天の竜(龍)の観念が生じるから、「天の竜(龍)」の観念が生じる。
  • 「天龍」の文字からなる引用商標1と本願商標は、外観は異なるものの、称呼及び観念が同一であるため、類似しているというべきである。
  • 本願商標と引用商標3文字部分は、いずれも「TENRYU」の欧文字からなり、「テンリュー」との称呼と「天の竜(龍)の観念を生じることから、本願商標と引用商標3は、類似するというべきである。
  • 金属加工機械器具及び金属加工機械器具用刃物に同一又は類似の商標が付された場合、需要者である金属加工を行う者は、同一の者の製造又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがあるというべきである。
  • 製材用・木工用又は合板用の機械器具と同機械器具用刃物に同一又は類似の商標が付された場合、需要者である木材や合板の加工を行う事業者及びそれらの加工を趣味として行っている一般人は、同一の者の製造又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがある。
  • 除草機械器具と同機械器具用刃物に同一又は類似の商標を付された場合、需要者である農業従事者、草刈りをする必要のある環境で生活している者は、同一の者の製造又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがあるというべきである。
  • 本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するから、登録を受けることができない。

判決概要

裁判所 知的財産高等裁判所第2部
判決日 平成30年8月29日
事 件 平成30年(行ケ)第10014号 審決取消請求事件
原審決 不服2017-15582号
裁判官 裁判長裁判官 森  義之
裁判官    佐野 信
裁判官    熊谷 大輔

 

解説

本件の争点

商標法第4条第1項第11号に該当するというためには、「本願商標が、当該出願日前の出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」であることが要件とされております。すなわち、(1)商標が同一又は類似すること、(2)商品又は役務が同一又は類似すること、の2つの要件を満たす場合、商標法第4条第1項第11号に該当すると判断されることになります。

本件は、本願商標の商標法第4条第1項第11号該当性が争われた事案であり、特に、称呼同一商標及び商品の類否が争われた事案です。

商標の類否判断

商標の類否判断の基本的な考え方については、特許庁が発行している商標審査基準で詳しく説明されています。商標審査基準の第4条第1項第11号の説明においては、以下のように記載されております。

商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。

上記基準は、過去のリーガルアップデート「フランク三浦とパロディ商標訴訟の系譜」で詳しく説明しております最三判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁(氷山印事件)と最一判昭和49年4月25日審決取消訴訟判決集昭和49年443頁(保土ヶ谷化学工業社標事件)で判示された考え方がベースになったものであり、これらの裁判例は度々商標の類否判断を争う裁判事件で引用されております。本件においても、類否判断の考え方として、以下のとおり、最三判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁(氷山印事件)の判断手法が用いられております。

商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。

商標の類否判断の手順としては、まず初めに本願商標及び引用商標のそれぞれから生じる外観、称呼及び観念を認定します。そして、それぞれの要素が互いに同一又は類似するか否かを検討し、取引の実情も考慮しつつ、最終的に商標全体として類似するか否かを判断します。ひと昔前は、類否判断において称呼が重視される傾向にありましたが、近年、称呼が同一であっても、外観や観念が異なることを理由に商標全体として類似しないと判断する事案が散見されるようになっております。

商品・役務の類否判断

商品・役務の類否判断についても、商標審査基準の第4条第1項第11号で以下のように説明されております。

商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、出願商標及び引用商標に係る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断する。

原則としては、商品・役務の類否判断は、類似商品・役務審査基準によるものとされており、商品・役務ごとに付与された類似群コードが同じであれば、商品・役務は類似すると推定されます。

しかしながら、あくまで推定であるため、類似群コードが同じであっても、推定が覆され、商品・役務は類似しないと判断されることもあります。商標審査基準では、以下の基準を総合的に考慮すると記載されております。

(1)生産部門が一致するかどうか
(2)販売部門が一致するかどうか
(3)原材料及び品質が一致するかどうか
(4)用途が一致するかどうか
(5)需要者の範囲が一致するかどうか
(6)完成品と部品との関係にあるかどうか

なお、商品の類否判断を争う裁判例において度々引用されている最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁では、以下のように述べられております。

指定商品が類似のものであるかどうかは、商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判断すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、類似の商品に当たると解するのが相当である。

事案の概要

商標
本願商標:TENRYU(標準文字)
引用商標1:
引用商標3:
※引用商標2は本件訴訟で争われていないため省略。

審決の要点

本願商標と引用商標1とは、外観において欧文字及び漢字という文字種を異にするものの、称呼、観念が共通し、商標の出所について誤認混同を生じさせるおそれがある類似の商標というべきである。

本願商標と引用商標3とは、外観において相違するものの、引用商標3の要部である引用商標文字部分を比較すると、つづりを同じくし、称呼、観念が共通し、商標の出所について誤認混同を生じさせるおそれがある類似の商標というべきである。

本願の指定商品は、引用商標1及び引用商標3の指定商品と同一又は類似する。

出願人は、この審決の取消しを求めて審決取消訴訟を提起しました。

判旨

まず、判決では、本願商標と引用商標1から生じる外観、称呼及び観念について、以下のとおり認定し、類否判断を行いました。

本願商標は、「TENRYU」の欧文字を標準文字で表したものであり、「テンリュー」の称呼が生じる。 また、上記称呼から、本願商標は、「天竜、天龍」を意味するものと理解するのが一般的であり、「天竜、天龍」からは「天の竜(龍)」の観念が生じるから、本願商標からは「天の竜(龍)」の観念が生じる。

引用商標1は、「テンリュー」の称呼が生じ、「天の竜(龍)」の観念が生じる。

本願商標と引用商標1とは、外観は異なるものの、称呼及び観念は同一である。

そして、引用商標1は漢字を用いているのに対し、本願商標は欧文字を用いているが、引用商標1をローマ字で表記すると本願商標となることは明らかである。我が国においては、漢字を同じ称呼のローマ字で表記することは一般的に行われているという事情を考慮すると、文字種が異なることによる本願商標と引用商標1の外観の相違は、両商標が別異のものであると認識させるほどの強い印象を与えるものではないというべきである。

以上の事情を総合考慮すると、本願商標は引用商標1に類似しているというべきである。

また、本願商標と引用商標3から生じる外観、称呼及び観念について、以下のとおり認定し、類否判断を行いました。

引用商標3は、別紙記載3の商標であり、黒色で塗り潰した円図形の中に、白抜きの太線で三角形を描き、該三角形内の各辺に接続するように「T」と思しき文字を白抜きの太字で描いた図形(引用商標図形部分)と、該三角形の下端部の白抜きの「TENRYU」の文字(引用商標文字部分)からなる。

そのうち、引用商標文字部分は、引用商標図形部分とは重なっておらず、また、読みやすい書体からなるから、引用商標図形部分とは明確に区別することができる。また、引用商標文字部分は、引用商標3全体の約7分の1の高さ、約8分の5の幅を有すること、黒色で塗り潰した円図形の中に、白抜きの太線で描かれていることから、十分に目立つものである。そして、引用商標文字部分からは「テンリュー」との称呼と「天の竜(龍)」との観念が生じ、引用商標3に接した者は、引用商標文字部分の上記称呼と観念を十分に認識することができるというべきである。

一方、引用商標図形部分は、抽象的な図形であり、同部分からは、特定の称呼や観念は生じないし、また、引用商標文字部分と一体となって特別な意味を有することになるなど、引用商標文字部分と何らかの関連性を有しているともいえない。

以上の事情を考慮すると、引用商標3のうち引用商標文字部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものと認められるから、引用商標3と他の商標の類否を判断するに当たっては、引用商標文字部分を要部として分離観察をすることができるというべきである。

そうすると、本願商標及び引用商標文字部分は、いずれも「TENRYU」の欧文字からなり、「テンリュー」との称呼と「天の竜(龍)」の観念を生じることから、本願商標と引用商標3は、類似するというべきである。

本願商標と引用商標1及び引用商標3は、いずれも外観のみ異なり、称呼及び観念が同一と認定され、類似すると判断されておりますので、妥当な判断と思われます。なお、最近の特許庁審決においても、本願商標と引用商標から生じる称呼と観念のいずれも同一であり、外観のみ異なる場合、類似すると判断される傾向にあります。

次に、本願商標の指定商品と引用各商標の指定商品の類否については、最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁を引用しつつ、以下のとおり判断しております。

金属加工機械器具及び金属加工機械器具用刃物の需要者は、金属加工を行う者であるが、金属加工機械器具用刃物は、金属加工機械器具の部品であり、需要者は、上記刃物を購入し交換して使用するものと考えられるところ、前記アで認定した事実によると、金属加工機械器具と金属加工機械器具用刃物は、同一の事業者によって製造、販売されていることがあるものと認められ、また、同一の事業者の表示が付された金属加工機械器具と金属加工機械器具用刃物も存するものと認められる。以上の事情を考慮すると、金属加工機械器具と金属加工機械器具用刃物に同一又は類似の商標が付された場合、需要者である金属加工を行う者は、同一の者の製造又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがあるというべきである。したがって、本願商標の指定商品中の「金属加工機械器具用刃物」と引用商標1の指定商品中の「金属加工機械器具」は類似しているというべきである。

製材用機械器具、木工用機械器具及び合板用機械器具の各機械器具の用途はおおむね共通しており、同一の機械で製材、木工加工及び合板加工に対応できること、同機械器具の需要者としては、木材や合板の加工を行う事業者の他、木材や合板の加工を趣味として行っている一般の個人も想定できることが認められる。そして、製材用、木工用又は合板用の機械器具に用いられる刃物は、それらの機械器具の部品であり、需要者は、上記刃物を購入し交換して使用するものと考えられるところ、前記アで認定した事実によると、上記機械器具と同機械器具用刃物は、同一の事業者によって製造販売されていることがあるものと認められ、また、同一の事業者の表示が付された木材、合板加工機械器具と同機械器具用刃物も存することが認められる。以上の事情を考慮すると、製材用・木工用又は合板用の機械器具と同機械器具用刃物に同一又は類似の商標が付された場合、需要者である木材や合板の加工を行う事業者及びそれらの加工を趣味として行っている一般人は、同一の者の製造又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがあるというべきである。したがって、本願商標の指定商品中の「製材機械器具用刃物、木工機械器具用刃物、合板機械器具用刃物」と引用商標1の指定商品中の「製材用・木工用又は合板用の機械器具」は類似しているというべきである。

除草機械器具及び除草機械器具用刃物の需要者としては、農業従事者の他、草刈りをする必要のある環境で生活している者であると認められる。そして、除草機械器具用刃物は、除草機械器具の部品であり、需要者は、上記刃物を購入交換して使用するものと考えられるところ、前記アで認定した事実によると、上記機械器具と同機械器具用刃物は、同一の事業者によって製造、販売されていることがあるものと認められ、また、同一の事業者の表示が付された除草機械器具と同機械器具用刃物も存することが認められる。以上の事情を考慮すると、除草機械器具と同機械器具用刃物に同一又は類似の商標が付された場合、需要者である農業従事者、草刈りをする必要のある環境で生活している者は、同一の者の製造又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがあるというべきである。そして、除草機械器具は、草木を除草するための機械器具であり、農業用機械器具のうちの一部である栽培機械器具に含まれる。したがって、本願商標の指定商品中の「除草機械器具用刃物」と引用商標1の指定商品中の「栽培機械器具」とは類似しているというべきである。

判決は、以上の判断に基づき、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するから、登録を受けることができないと結論付けております。

コメント

本判決は目新しい判断が示された事案というわけではありませんが、最近商標審決アップデートでも取り上げることの多い「称呼同一商標の類否」と「商品の類否」を争った事案であるため、紹介させていただきました。

最近の特許庁の称呼同一商標に関する類否判断は、称呼が同一であっても、外観及び観念が異なる場合、非類似と判断し、称呼及び観念のいずれもが同一の場合には、類似と判断する傾向にありますので、本判決の判断は特許庁の傾向とも共通するものです。

本判決では、「TENRYU」の文字からは、「天竜,天龍」を意味するものと理解するのが一般的であり、引用商標と同じ「天の竜(龍)」の観念が生じると判断されておりますが、欧文字から想起される漢字(同音異字)が複数あって、異なる観念を生じるような事案であれば、非類似と判断されることもあるかもしれません。

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(文責・前田)