平成30年8月17日、東京地方裁判所民事第40部(佐藤達文裁判長)は、教育用教材に関するソフトウェアに対する不正競争防止法上の商品形態模倣行為の成否が問題となった事案について、判決を言い渡しました。原告の損害賠償請求は棄却されたものの、東京地裁は、ソフトウェアの画面が同法2条1項3号の「商品の形態」に該当し得ることを明言しており、実務上参考になりますので、ご紹介します。

ポイント

骨子

  • 原告ソフトウェアは、タブレットとは別個に経済的価値を有し、独立して取引の対象となるものであることから「商品」ということができ、また、これを起動する際にタブレットに表示される画面や各機能を使用する際に表示される画面の形状、模様、色彩等は「形態」に該当し得るというべきである。
  • 原告が主張する一致点は、いずれもアイデア、抽象的な特徴又は機能面での一致にすぎず、具体的な画面表示においても、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは異なるか又はありふれた表現において一致するにすぎない。
  • 不正競争防止法2条1項各号の規定は、特定の行為を不正競争として限定列挙するものであるから、同項各号所定の不正競争に該当しない行為は、同法が規律 の対象とする社会全体の公正な競争秩序の維持等の利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
  • 原告が主張する被告の行為は同項3号の不正競争行為に当たると認められないところ、被告が、同法が規律の対象とする社会全体の公正な競争秩序の維持等の利益とは異なる法的に保護された利益を侵害したなどの特段の事情は認められない。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第40部
判決言渡日 平成30年8月17日
事件番号 平成29年(ワ)第21145号
事件名 損害賠償請求事件
裁判官 裁判長裁判官 佐 藤 達 文
裁判官    三 井 大 有
裁判官    遠 山 敦 士

解説

商品形態模倣行為とは

不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)2条1項3号は、不正競争として、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」を規制しています。その趣旨は、「商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果が模倣されたならば,商品開発者の市場先行の利益は著しく減少し,一方,模倣者は,開発,商品化に伴う危険負担を大幅に軽減して市場に参入でき,これを放置すれば,商品開発,市場開拓の意欲が阻害されることから,先行開発者の商品の創作性や権利登録の有無を問うことなく,簡易迅速な保護手段を先行開発者に付与することにより,事業者間の公正な商品開発競争を促進し,もって,同法1条の目的である,国民経済の健全な発展を図ろうとしたところにある」といわれます(知財高裁平成28年11月30日判決[加湿器事件])。

なお、商品形態模倣行為の規制は、日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品については適用されません(不競法19条1項5号イ)。

「商品の形態」とは

「商品の形態」とは、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」をいいます(不競法2条4項)。商品化された具体的な商品形態が対象となり、単なるアイデア(東京高裁平成12年11月29日判決[サンドおむすび牛焼肉事件])や外観の態様に影響しない機能(知財高裁平成17年11月10日判決[パレオ付きパンツ事件])は「商品の形態」に含まれません。

また、不競法2条1項3号の条文上、「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」が「商品の形態」から除外されています。この種の形態を特定の者に独占させることは、商品の形態でなく、同一の機能等を有するその種の商品そのものの独占を招来することになり、複数の商品が市場で競合することを前提としてその競争のあり方を規制する不正競争防止法の趣旨そのものにも反することになるからです(東京地裁平成9年3月7日判決[ピアス孔用保護具事件]参照)。

さらに、ありふれた形態についても、「商品の形態」には該当しないと判断した裁判例があります(東京地裁平成24年12月25日判決[携帯ゲーム機用タッチペン事件])。

ソフトウェアの画面が「商品の形態」に該当するか否か

無体物の形態が「商品の形態」に含まれるか否かについては、議論があります。

東京地裁平成15年1月28日判決[スケジュール管理ソフト事件]は、スケジュール管理ソフトウェアの画面の模倣が問題となった事案について、形態の実質的同一性の有無を詳細に検討しており、「商品の形態」該当性への言及はないものの、当該画面が「商品の形態」に該当するとの前提に立つものと理解されています(ただし、最終的に商品形態模倣行為の成立は否定されました。)。

「模倣」とは

「模倣する」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」をいいます(不競法2条5項)。依拠性と実質的同一性が要件となります。

実質的同一性について、東京高裁平成10年2月26日判決[ドラゴンキーホルダー事件]は、「作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえない」と述べました。

なお、前記のとおり、「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」はそもそも「商品の形態」ではありませんが、これを実質的同一性に関する判断の中で考慮し、「当該商品の機能ないし効用と不可避的に結び付いた部分において形態の共通性が認められたとしても,そのことをもって,3号にいう形態の実質的同一性を基礎付けることはできない」と述べた裁判例もあります(東京高裁平成16年5月31日判決[換気口用フィルタ事件])。

知的財産法による保護を受けない情報の不法行為法による保護の可否

ある情報の無断利用行為が著作権侵害や不正競争でないときに、なお不法行為が成立するか否かについては、議論があります。

著作権に関する判例である最高裁平成23年12月8日判決[北朝鮮事件]は、わが国著作権法の保護を受けない北朝鮮国民の著作物(映画)の無断利用行為について、以下のとおり、特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと判断しました。

著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって,ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合,当該著作物を独占的に利用する権利は,法的保護の対象とはならないものと解される。したがって,同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。

同判決は、直接的には、著作権法6条各号に該当しない著作物の無断利用行為について判断したものですが、その後の下級審裁判例の多くは、広く著作権侵害が認められない場合に一般化してこの規範を参照したうえで、不法行為の成立を否定しています(最近の事例として、東京地裁平成30年5月11日判決[SAPIX事件])。また、不正競争が認められない場合についても、北朝鮮事件最高裁判決を参照して、同様の規範により不法行為の成立が否定されています(東京地裁平成27年3月20日判決[スピードラーニング事件]等)。

なお、北朝鮮事件最高裁判決は、「特段の事情」として、営業妨害によって営業上の利益が侵害された場合を挙げていますが、結論として不法行為の成立を否定しており、その評価基準は不明です。

事案の概要

原告は、教育現場においてパソコンやタブレット等で使用されるアプリケーションの開発、作成等の事業を営む株式会社(株式会社LoiLo)です。被告は、教育関連事業を営む株式会社(株式会社ベネッセコーポレーション)です。

本件は、原告が、主位的には、被告の製造販売する教育用教材に関するソフトウェアは原告の製造販売するソフトウェアの形態を模倣した商品に当たり、その販売は不競法2条1項3号の不正競争に当たると主張し、予備的には上記行為が民法上の不法行為に該当すると主張して、不競法4条又は民法709条に基づく損害賠償として、逸失利益1600万円及びこれに対する不正競争行為又は不法行為の日である平成28年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。

原告ソフトウェアは、学校において従前は黒板やホワイトボードで板書されていたことやマグネットを用いてカードで表現されていたことをタブレットパソコン上で行えるようにしたアプリケーションであり、カメラ撮影機能(写真及び動画)、テキスト入力、描画、ウェブサイト検索、地図表示、画像表示の各機能を有するものです。これと同様に、被告ソフトウェアもタブレットパソコンにおいて動作し、教師と生徒間における板書等のやり取りの代替機能を有するもので、カメラ撮影機能(写真及び動画)、テキスト入力、描画、ウェブサイト検索機能等を有するものです。

争点

本件の争点は、以下のとおりです。

  • 被告が被告ソフトウェアを販売する行為が不競法2条1項3号の不正競争に当たるか否か(争点1)
  • 被告が被告ソフトウェアを販売する行為が原告に対する不法行為を構成するか否か(争点2)
  • 原告の損害(争点3)

判旨

ソフトウェアの画面が「商品の形態」に該当するか否か

争点1について、裁判所は、以下のとおり、原告ソフトウェアが不競法2条1項3号の「商品」であり、原告ソフトウェアの画面の形状、模様、色彩等が同号の「形態」に該当し得ると判断しました。

不競法2条1項3号の「商品の形態」とは,「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感」をいうところ(同条4項),原告ソフトウェアは,タブレットとは別個に経済的価値を有し,独立して取引の対象となるものであることから「商品」ということができ,また,これを起動する際にタブレットに表示される画面や各機能を使用する際に表示される画面の形状,模様,色彩等は「形態」に該当し得るというべきである。

原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの形態の実質的同一性の有無

しかし、裁判所は、原告が主張する一致点がいずれもアイデア、抽象的な特徴又は機能面での一致にすぎず、具体的な画面表示においても、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは異なるか又はありふれた表現において一致するにすぎないことを理由に、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの形態の実質的同一性を否定し、被告による被告ソフトウェアの販売行為が不競法2条1項3号の不正競争に該当しないと判断しました。

例えば原告は、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは、フィールド領域に作成されたカード及び連結したカードが表示される点で一致し、この一致点は原告ソフトウェアの本質的部分に関するものであると主張していました。しかし、裁判所は、以下のとおり、カードをタブレット上で連結することは抽象的な特徴又はアイデアにすぎず、「商品の形態」に該当するものではないと指摘したうえで、両ソフトウェアの具体的な画面における相違点を詳細に認定し、両ソフトウェアの画面が実質的に同一であるとはいえず、むしろ相当程度異なると判断しました。

しかし,学校において黒板等に貼り付けられていたカードをタブレット上で表現し,複数のカードをプレゼンテーションの順序等に応じて連結することは,抽象的な特徴又はアイデアにすぎず,不競法2条1項3号の「商品の形態」に該当するものではない。
原告ソフトウェア及び被告ソフトウェアにおけるカード及び連結されたカードの具体的な画面表示を比較すると……,①原告ソフトウェアには,カード右上に円で囲まれた黄色の矢印が表示されるのに対し,被告ソフトウェアにはそのような表示はない,②連結されたカードは,原告ソフトウェアにおいては,フィールド領域各所に配置されたカードが曲線又は直線の矢印で連結されるのに対し,被告ソフトウェアにおいては,フィールド領域に平行かつ一直線の形で各カードが直線で連結される……,③原告ソフトウェアは,黄色の細い曲線等によりカードを結び,各カードを結んでいる線はそれぞれ独立し同一の線ではないのに対し,被告ソフトウェアは黒色の太い一つの直線でカード間を結んでいる,④原告ソフトウェアは連結されたカードを2行で表示することもできるのに対し,被告ソフトウェアでは,複数のカードを複数行で表示することはできない,⑤原告ソフトウェアではプレゼンテーション時に最初に表示されるカードの左横に黄色の丸で囲まれた「-」の表示があるのに対し,被告ソフトウェアでは黒色の○に白抜きで「start」と表示されている,⑥原告ソフトウェアではプレゼンテーションにおいて最後に表示されるカードの右上に黄色の丸で囲まれた矢印が表示されているのに対し,被告ソフトウェアでは黒色の丸に白抜きで「-」の表示がされているなどの点で相違し,全体的な印象も類似していないということができる。
以上によれば,原告ソフトウェア及び被告ソフトウェアでは,カード及び連結されたカードの画面表示が実質的に同一であるということはできず,むしろ相当程度異なると認めるのが相当である。

原告は、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは、「カメラ」等の機能を使用すると画面全体に被写体が表示され、撮影に必要な機能がボタンで表示される点で一致する(一致点③)と主張していました。しかし、裁判所は、以下のとおり、それが機能を使用するための必要な表示における一致にすぎないと判断しました。これは、商品の機能確保のために不可欠な形態(不競法2条1項3号括弧書)の共通性は実質的同一性を基礎付けないと判断したものであると考えられます。

しかし,カメラ撮影のための機能を使用すれば,画面全体に被写体が表示されるのはその性質上当然であり,カメラ撮影のためにはシャッターボタンなど撮影に必要な機能を使用するための表示が不可欠であるから,一致点③は機能を使用するために必要な表示における一致にすぎない。

原告は、原告ソフトウェアと被告ソフトウェアは、原告ソフトウェアの「テキスト」機能及び被告ソフトウェアの「文字」機能において、文字入力画面が表示される点で一致する(一致点④)と主張していました。しかし、裁判所は、以下のとおり、それが機能面での一致にすぎず、また、両ソフトウェアの画面はありふれたものにすぎないと判断しました。後者は、ありふれた形態が「商品の形態」から除外されるという議論を踏まえ、そのような形態の共通性は実質的同一性を基礎付けないと判断したものと考えられます。

しかし,一致点④は,原告ソフトウェアと被告ソフトウェアがいずれもカードにテキストを入力する機能を有するという機能面での一致をいうにすぎず,また,原告ソフトウェア及び被告ソフトウェアのテキスト作成画面の表示……もありふれたものにすぎない。

そのほかに原告が主張する一致点についても、裁判所は、それがアイデア、抽象的な特徴又は機能面の一致にすぎない、両ソフトウェアの画面がありふれたものにすぎない、両ソフトウェアの画面に相違点が存在するなどと判断しました。

被告ソフトウェアの販売行為が不法行為を構成するか否か

争点2について、裁判所は、以下のとおり、北朝鮮事件最高裁判決を参照し、被告が被告ソフトウェアを販売することについて、不競法の規律対象と異なる法益の侵害がないことを理由に、民法上の不法行為を構成しないと判断しました。

しかし,不競法2条1項各号の規定は,特定の行為を不正競争として限定列挙するものであるから,同条各号所定の不正競争に該当しない行為は,同法が規律の対象とする社会全体の公正な競争秩序の維持等の利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第602号,同第603号同23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。
原告が主張する被告の行為が不競法2条1項3号の不正競争行為に当たると認められないのは前記のとおりであるところ,被告が,同法が規律の対象とする社会全体の公正な競争秩序の維持等の利益とは異なる法的に保護された利益を侵害したなどの特段の事情は認められない。

コメント

本判決は、従前の裁判例と異なり、ソフトウェアの画面が「商品の形態」に該当し得ることを明言した点で実務上参考になります。

ソフトウェアの画面は、著作権法によっても保護される可能性があります。しかし、そのためには、当該画面に創作性を含む著作物性があることが必要であるうえ、画面デザインはいわゆる応用美術の領域に属する場合も多いと考えられることから、保護を受けるのは容易ではありません。

不競法上の商品形態模倣行為による場合には、商品の機能確保のために不可欠な形態やありふれた形態は保護されないものの、真正面から創作性の要件が求められるわけではない点では、請求者に有利です。しかし、他方で、類似性ではなく実質的同一性が必要となるため、本判決のように、画面上の相違点が少なからず見受けられるケースでは、適用の可否について慎重な検討を要します。

なお、ソフトウェアの画面については、「画像を含む意匠」として意匠登録を受けられる場合があります。意匠法においては、かつて、物品の成立性に照らして不可欠な画面デザイン(機器の初期画面)に限って保護されていました。その後、平成18年同法改正及び平成23年意匠審査基準一部改正を経て、①物品の機能を果たすために必要な表示を行う画像(同法2条1項に関する意匠審査基準)、②物品の機能を発揮できる状態にするための操作の用に供される画像(同条2項)が保護されるようになりました。

そして、平成28年には、意匠審査基準改訂により、物品に事後的に記録された画像(物品の機能の事後的なアップデートに伴う画像、スマートフォンやタブレットに事後的にインストールされたソフトウェアによる画像等)が保護対象に追加されました。意匠登録を受けるには創作非容易性等の要件を満たす必要がありますが、本件のようなソフトウェアの画面の法的に保護したい場合には、リリース前に意匠登録出願をすることも考えられます。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・溝上)