商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。 
 
今回は、商品の一般名称とその他の文字を組み合わせた結合商標の類否に関する審決を中心に取り上げております。

無効2015-890082(ゲンコツコロッケ/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本件商標:
指定商品:第30類「茶、茶飲料、菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ、調味料、穀物の加工品、穀物の加工品を主材とする調理済み惣菜、ぎょうざ、しゅうまい、すし、たこ焼き、弁当、ラビオリ、お好み焼き、おにぎり、調理済みのラーメン、調理済みのうどん、調理済みの中華そば、調理済みのそうめん、調理済みの焼きそば、調理済みのパスタ、調理済み麺類、調理済みの炒飯、調理済みの丼物、調理済みの米飯、調理済のスパゲティ、調理済みのカレーライス、ドライカレー、チャーハン」等

引用商標:ゲンコツ(標準文字)
指定商品:第30類「おにぎり、ぎょうざ、サンドイッチ、しゅうまい、すし、たこ焼き、肉まんじゅう、ハンバーガー、ピザ、べんとう、ホットドッグ、ミートパイ、ラビオリ」

結論

登録第5708397号の指定商品中、第30類「茶,茶飲料,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,コロッケ用以外の調味料,穀物の加工品,穀物の加工品を主材とする調理済み惣菜,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,お好み焼き,おにぎり,調理済みのラーメン,調理済みのうどん,調理済みの中華そば,調理済みのそうめん,調理済みの焼きそば,調理済みのパスタ,調理済み麺類,調理済みの炒飯,調理済みの丼物,調理済みの米飯,調理済のスパゲティ,調理済みのカレーライス,ドライカレー,チャーハン」についての登録を無効とする。 その余の指定商品の「コロッケ用調味料」についての審判請求は成り立たない。

本件商標は、上記指定商品について、商標法第4条第1項第11号及び同第16号に違反して、又は、同法第3条第1項柱書の要件を具備しないにもかかわらず登録されたものである。

審決等の要点

1.商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、「ゲンコツ」と「コロッケ」の結合商標と認められるところ、その全体は8字8音とやや冗長であること、上記のとおり「コ」の字がやや大きいこと、「ゲンコツ」も「コロッケ」も上記の意味において一般に広く知られていることからすると、本件商標は、「ゲンコツ」と「コロッケ」を分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているとはいえないものである。また、本件商標の指定商品中に含まれる「コロッケ入りのパン,コロッケ入りのサンドイッチ,コロッケ入りのハンバーガー,コロッケ入りの弁当,コロッケ入りの調理済みの丼物,コロッケ入りの調理済みカレーライス,コロッケ入りのチャーハン」の商品(以下「コロッケ入り商品」という。)は、いずれも、「コロッケ入り」の食品であるから、本件商標の構成のうち「コロッケ」の部分は、指定商品の原材料を意味するものと捉えられ、識別力がかなり低いものである。これに対し、上記のとおり、「ゲンコツ」は、食品分野において、ゴツゴツした形状や大きさがにぎりこぶし程度であることを意味する語として用いられることがあることから、「ゲンコツコロッケ」は、「ゴツゴツした、にぎりこぶし大のコロッケ」との観念も生じ得るが、常にそのような観念が生ずるとまではいえず、また、本件商標の指定商品中、コロッケ入り商品の原材料である「コロッケ」は、ゴツゴツしたものやにぎりこぶし大のものに限定されているわけでもないから、「ゲンコツ」は、「コロッケ」よりも識別力が高く、需要者に対して強く支配的な印象を与えるというべきである。

そうすると、引用商標は、「ゲンコツ」の文字を標準文字で表してなるものであるから、本件商標の要部「ゲンコツ」と引用商標とは、外観において類似し、称呼を共通にし、観念を共通にする。したがって、両者は、類似しているものと認められる。

2.商標法第4条第1項第16号について
本願商標の構成中の「コロッケ」の文字は、本願商標の指定商品との関係においては、「コロッケ入りの商品」であることを理解・認識させるものであって、指定商品の取引の実際においても、商品の品質を示すものとして一般に使用されているということができる。

そうすると、これを本願商標の指定商品中、「コロッケ入りの商品」以外の商品に使用したときは、あたかも、「コロッケ入りの商品」であるかのように、その商品の品質について誤認を生じるおそれがあるといえるため、「茶,茶飲料,菓子,コロッケ入り以外のパン,コロッケ入り以外のサンドイッチ,中華まんじゅう,コロッケ入り以外のハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,コロッケ用以外の調味料,穀物の加工品,穀物の加工品を主材とする調理済み惣菜,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,コロッケ入り以外の弁当,ラビオリ,お好み焼き,おにぎり,調理済みのラーメン,調理済みのうどん,調理済みの中華そば,調理済みのそうめん,調理済みの焼きそば,調理済みのパスタ,調理済み麺類,調理済みの炒飯,コロッケ入り以外の調理済みの丼物,調理済みの米飯,調理済みのスパゲティ,コロッケ入り以外の調理済みのカレーライス,ドライカレー,コロッケ入り以外のチャーハン」については、商標法第4条第1項第16号に該当する。

3.商標法第3条第1項柱書きについて
本件商標は、その構成中に「コロッケ」の片仮名を有してなることは明らかである。そして、商標法第3条第1項柱書により商標登録を受けることができる商標は、その査定時において、現在使用をしているもの又は近い将来使用をするものと解されるところ、本件において指定している商品中、「コロッケ入りの商品」以外の商品については、本件商標の構成態様から必然的にその使用が想定される範囲を超えたものであるため、このような状況の下では、本件商標の登録をすべき旨の審決時において、本件商標を、被請求人が使用していたか又は近い将来使用をすることについて疑義がある。

これに対し、被請求人は、本件商標をその指定商品中の「コロッケ入りのパン,コロッケ入りのサンドイッチ,コロッケ入りのハンバーガー,コロッケ用調味料,コロッケ入りの弁当,コロッケ入りのチャーハン,コロッケ入りの調理済みのカレーライス,コロッケ入りの調理済みの丼物」以外の商品について、登録査定時において使用していたこと又は近い将来使用する意思を有していたことを何ら主張、立証していないため、商標法第3条第1項柱書の要件を具備していないものである。

コメント

本件は、商標法第4条第1項第11号に該当しないと判断した審決を覆した知的財産高等裁判所における審決取消訴訟の判決(平成29年(行ケ)第10169号、平成30年3月7日判決言渡)を受けてなされた審決です。本件を含め、今回の商標審決アップデートで紹介する同種事案の審決の判断から、現在、商品の一般名称を構成に含む結合商標とその一般名称を含まない商標は、類似と判断される傾向にあると思われます。

一方、商標「ゲンコツメンチ」と商標「ゲンコツ」の類否を争った審決取消訴訟の判決(平成年(行ケ)第10164号、平成29年1月24日判決言渡)では、「メンチ」の文字部分からは、出所識別標識としての称呼、観念が生じないともいえないため、両商標は非類似であると判断されております。

なお、審決では、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないことも無効の理由として述べられております。商標の構成に「コロッケ」の文字が含まれていることを理由に、「茶」等の商標の使用が想定されない商品については被請求人が使用していたか又は近い将来使用をすることに疑義があると判断した珍しい事案でもあります。ちなみに、指定商品中「コロッケ用調味料」だけが、上記各拒絶理由のいずれにも該当しないと判断され、無効になっておりません。

不服2017-14398(Dan サイディング/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:Dan サイディング
指定商品:第6類「金属製壁用外装材,金属製サイディング材」

引用商標1:DAN
指定商品:第6類「金属製水道管,金属製天井板,金属製棚板,金属製シャッター,金属製ちょうつがい,金属製ばね,金属製管継ぎ手,金属製いかり,金属製ボルト,金属製ナット,金属製錠前,金属製鍵,ワイヤロープ,金網,金属製壜用栓,金属製標札,金属製貯金箱,金属製又は琺瑯製の家庭用水槽,金属製金庫,つえ用金属製石突き,金属製あぶみ,金属製拍車,銅はく,すずはく」

引用商標2::
指定商品:第6類「建築用又は構築用の金属製専用材料」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標と類似する商標であって、その指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品であるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決等の要点

本願商標は、「Dan サイディング」の文字からなるものであるところ、その構成文字は「Dan」と「サイディング」の文字との間に半角程のスペースを有するものであることに加え、その構成文字の種類が欧文字と片仮名と異なるため、「Dan」と「サイディング」は視覚上分離して観察される。そして、本願商標構成中の「Dan」の欧文字部分は、「ダン(男性名:Danielの愛称)、(深海漁業・掃海作業用の)標識浮標、ダン(ブイ)」(株式会社研究社新英和中辞典)等の意味があるものの、我が国で親しまれた英語ということはできないものであるから、直ちに特定の意味合いを理解することができない一種の造語と認識されるものである。次に、「サイディング」の片仮名部分は、「建物の外壁に張る仕上げ板材のこと。ふつうセメント製や金属製のものをいう。」(株式会社岩波書店広辞苑第六版)程の意味を表す語であるから、当該語は本願の指定商品「金属製壁用外装材、金属製サイディング材」との関係においては、商品の普通名称を表示するものであって、自他商品の識別標識として機能を有さないものである。さらに、本願商標が、構成全体として、なんらかの特定の意味合いを看取させる等、これらを常に不可分一体のものとしてのみ観察されなければならないとすべき特段の事情は認められない。

そうすると、本願商標は、その構成中、「Dan」の欧文字部分が自他商品の識別標識としての機能を有する部分といえ、当該部分を要部として抽出し、他人の商標と比較して商標の類否を判断することができるものである。したがって、本願商標は、その構成文字全体から生ずる「ダンサイディング」の称呼のほか、「Dan」の欧文字部分に相応した「ダン」又は「ディーエーエヌ」の称呼が生じ、特定の観念を生じないものである。

本願商標の要部と引用商標1の類否についてみるに、外観については、大文字と小文字の構成の相違点はあるものの、そのつづりを共通にするものであるから、両者は、外観上、近似した印象を与えるものである。次に称呼については、本願商標の要部と引用商標1は、「ダン」又は「ディーエーエヌ」の称呼を共通にするものである。そして、観念については、本願商標の要部と引用商標1は、ともに特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上、比較することができないものである。してみれば、本願商標の要部と引用商標1とは、観念については比較できないとしても、外観上類似するものであって、「ダン」又は「ディーエーエヌ」の称呼を共通にするものであるから、これらを総合的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのある類似の商標といわなければならない。

本願商標の要部と引用商標2の類否についてみるに、外観については、大文字と小文字の構成の相違点はあるものの、そのつづりを共通にするものであるから、両者は、外観上、近似した印象を与えるものである。次に称呼については、本願商標の要部と引用商標2は、「ダン」又は「ディーエーエヌ」の称呼を共通にするものである。そして、観念については、本願商標の要部と引用商標2は、ともに特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上、比較することができないものである。してみれば、本願商標の要部と引用商標2とは、観念については比較できないとしても、外観上類似するものであって、称呼については「ダン」又は「ディーエーエヌ」の称呼を共通にするものであるから、これらを総合的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのある類似の商標といわなければならない。

コメント

指定商品の表示は「金属製壁用外装材,金属製サイディング材」ですが、「サイディング」の文字のみで「建物の外壁に張る仕上げ板材のこと。ふつうセメント製や金属製のものをいう。」(株式会社研究社新英和中辞典)を意味することが、審決の判断に影響を与えたものと思われます。

不服2017-14055(口福餃子/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:口福餃子(標準文字)
指定商品:第30類「ぎょうざ」

引用商標:口福
指定商品:第30類「ぎょうざ」等

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決等の要点

本願商標は、「口福餃子」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「餃子」の文字は、単に本願の指定商品の普通名称を漢字で表示したものにすぎないから、当該文字部分は、出所識別標識としての機能が無いものとみるのが相当である。そうすると、本願商標は、その構成中の「餃子」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められるから、本願商標から「口福」の文字を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。

本願商標の構成中の「口福」の文字は、横書きしてなり、また、引用商標を構成する「口福」の文字は、縦書きしてなるところ、当該文字は、「おいしい物を食べて感じる満足感」(大辞林第三版 株式会社三省堂発行)の意味を有する語であるから、そのような観念を生じ、「コウフク」の称呼を生じるものといえる。また、当該文字は、特定の観念を生じないものとしても、表意文字である漢字の2文字を同一にするものであるから、「クチフク」又は「コウフク」の称呼を生じ、生じる観念において異なるところはないといえる。

本願商標の構成中の「口福」の文字部分と引用商標とを比較すると、両者は、生じる称呼及び観念において異なるところはなく、さらに、漢字から構成される商標について、横書きと縦書きとを相互に変更することは、一般に行われることであり、その差異が強く印象に残ることはないから、両者は、外観において相紛れるおそれがあるものというべきである。そうすると、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、相紛らわしい類似の商標というべきである。

コメント

本件は「餃子」の文字の有無の差異を有する商標が類似すると判断された事例ですが、同じく「餃子」の文字の有無の差異を有する商標「もっちり餃子」と商標「もっちり」(いずれも指定商品に「ぎょうざ」を含む)の類否を争った不服2016-17348では、非類似であると判断されております。当該審決では、「もっちり餃子」は全体として「弾力があって柔らかく、ねばりつくような餃子」の意味合いを認識させ、一体不可分のものと認識、把握されると述べられており、観念上の結合の有無が類否判断に影響を与えていると思われます。

不服2018-1205(中華そば四つ葉/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:中華そば四つ葉(標準文字)
指定役務:第43類「飲食物の提供」

引用商標1:
指定役務:第42類「飲食物の提供」

引用商標2:
指定役務:第42類「飲食物の提供」

引用商標3:
指定役務:第43類「飲食物の提供」等

引用商標4:
指定役務:第43類「飲食物の提供」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標に類似する商標であって、引用商標に係る指定役務と同一又は類似する役務について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決等の要点

本願商標は、「中華そば四つ葉」の文字からなるところ、その構成中の「中華そば」の文字は、「中国風の麺。また、その料理。」の意味を、「四つ葉」の文字は、「葉が4枚あること。また、そのもの。」の意味を有する語(いずれも、株式会社岩波書店「広辞苑第7版」)として、一般に広く知られているものである。そして、その構成中の「中華そば」の文字は、本願の指定役務である「飲食物の提供」との関係においては、飲食物として提供される料理の名称の一つと理解されるものであり、本願商標に接する取引者、需要者をして、「中華そば」の文字部分は、提供する料理を表したもの、すなわち役務の質を表示したものと認識させるにとどまり、該文字部分は、役務の出所識別標識としての機能を有しないか、又は極めて弱いものといえる。

そうすると、本願商標の構成中「中華そば」の文字部分は出所識別標識としての称呼、観念が生じないものであるから、本願商標は、その構成中「四つ葉」の文字部分が取引者、需要者に対し役務の出所識別標識として強く印象付けられるものということができる。してみれば、本願商標は、その構成中「四つ葉」の文字部分を抽出し、他人の商標と比較することが許されるものであり、該文字部分が独立して役務の出所識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。

したがって、本願商標は、その構成文字全体から「チュウカソバヨツバ」の称呼を生じるほか、その構成中「四つ葉」の文字部分から「ヨツバ」の称呼を生じ、「四枚の葉」の観念を生じるものである。

本願商標と引用商標とを比較すると、両商標は、外観においては、その全体の構成において差異を有するものである。次に、称呼においては、両商標は、共に「ヨツバ」の称呼を生じるものである。そして、観念においては、両商標は、共に「四枚の葉」の観念を生じるものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、外観において相違するとしても、称呼及び観念を同一にするものであるから、これらを総合して考察すると、両商標は、類似の商標というべきである。

コメント

請求人は、本願商標を使用した飲食店「中華そば四つ葉」が雑誌掲載やインターネット掲載に関する証拠を提出して、需要者の間に広く認識されており、常にその全体を一体のものとして認識される旨主張したようですが、雑誌等の発行部数等が不明であり、ある程度知られていることは認められるものの、需要者の間に広く認識されていると認めることはできないと判断されております。

不服2017-15414(恵比寿刃/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:恵比寿刃(標準文字)
指定商品:第8類「包丁類」

引用商標:
指定商品:第8類「手動利器(「刀剣」を除く。)」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標と類似する商標であって、その指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似する商品であるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決等の要点

本願商標は、「恵比寿刃」の文字を標準文字で表してなるところ、本願商標の構成中、「恵比寿」の文字は「七福神のひとり。風折烏帽子に狩衣・指貫姿でタイを釣り上げた挙げた像に作る。商家で守護神として信仰する。」の意味を有し、「刃」の文字は「刃物の、物を切る部分。やきば。刃物。刀剣」の意味を有する語(株式会社三省堂 新明解国語辞典第七版)として、それぞれ広く一般に親しまれた語である。そして、その構成中「刃」の文字部分は、本願商標の指定商品「包丁類」との関係において、「包丁類」の物を切る部分あるいは「包丁類」を含む刃物の総称を表わすものとして普通に使用されていることからすれば、本願商標の構成中「刃」の文字部分は自他商品の識別標識としての機能を有さないものといえる。さらに、本願商標が、その構成文字全体として、なんらかの特定の熟語的意味合いを形成する等、「恵比寿」及び「刃」の文字を常に一体不可分のものとしてのみ観察されなければならないとすべき特段の事情は認められない。

そうすると、本願商標は、その構成中、「恵比寿」の文字部分が、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強い印象を与えるものというべきであるから、本願商標は、その構成中の「恵比寿」の文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することができるものである。したがって、本願商標は、その構成文字全体から生ずる「エビスヤイバ」の称呼のほか、「恵比寿」の文字部分に相応した「エビス」の称呼を生じ、「七福神のひとりである恵比寿」の観念を生じるものである。

本願商標の要部と引用商標とを比較してみるに、外観においては、漢字からなる本願商標と、欧文字及び片仮名の組み合わせからからなる引用商標とは、文字種を異にするところがあるものの、両者は、「エビス」の称呼と「七福神のひとりである恵比寿」の観念を共通にするものである。そして、外観における文字種の差異についても、本願商標と引用商標とは特異なデザインが施されているものでもなく、さらに、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼を生じる範囲内で平仮名、片仮名及びローマ字等相互に変更したり、デザイン化したりすることが一般に行われている取引の実情があって、これより、商標より生ずる称呼及び観念において記憶し、これを頼りに取引に当たることがすくなくないというのが相当であることから、前記、本願商標と引用商標の文字種の差異が、称呼及び観念の一致を凌駕するほどに看者の印象に強く残るとはいえない。

以上によれば、本願商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、上記取引の実情を考慮すると、両者の外観が相違するとしても、取引上必要な役割を果たす称呼及び観念を共通にするものであるから、商標の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

「刃」の文字が「刃物」を意味する語として辞書に掲載され、広く親しまれており、本願の指定商品「包丁類」が「刃物」の一種であることから、当該文字部分は自他商品識別力を有さず、「恵比寿」の文字部分が要部として抽出される旨判断されております。

不服2017-650082(KAMA AYURVEDA/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第3類「Soaps; essential oils; cosmetics; hair lotions; hair conditioners; hair shampoos; moisturisers; facial cleansers; hand cleansers; skin cleansers; lip balms; perfumery、 fragrances and incense; incense sticks; aftershave creams; body creams; exfoliant creams; eye creams; face creams; hand creams; shaving creams; sunscreen cream; anti-ageing creams; body mask creams; beauty creams for body care; night creams.」等

引用商標1:
指定商品:第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤、医療補助品」

引用商標2:
指定商品:第4類「せっけん類(薬剤に属するものを除く)歯みがき、化粧品(薬剤に属するものを除く)香料類」

引用商標3:Kahma
指定役務:第35類「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等

引用商標4:
指定役務:第35類「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等

引用商標5:CARMA
指定商品:第29類「Cocoabutter」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「KAMA」の欧文字と「AYURVEDA」の欧文字とを上下二段に横書きしてなるところ、上段の文字と下段の文字とは、同じ書体及び色彩(金色)の文字で表され、同じ幅に収まるように配されていることから、全体としてまとまりよく一体的に表されているものである。そして、本願商標の構成中の「KAMA」の欧文字は、「(インド神話における)カーマ、愛欲神」の意味を有し、「AYURVEDA」の欧文字は、「アーユルベーダ、古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」の意味を有する語であるから、本願商標は、その構成全体から「カーマアーユルベーダ」の称呼及び「愛欲神カーマの古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」といった観念を生じるものである。

本願商標と引用商標1及び引用商標2とは、「AYURVEDA」の欧文字部分において共通するものの、その他の文字部分において明確に相違するから、外観上、相紛れるおそれはない。また、本願商標から「カーマアーユルベーダ」の称呼を生じるのに対し、引用商標1及び引用商標2から「アーユルベーダ」の称呼を生じるところ、両称呼は、「カーマ」の音の有無という差異を有するから、本願商標と引用商標1及び引用商標2とは、称呼上、相紛れるおそれはない。さらに、本願商標は「愛欲神カーマの古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」といった観念を生じるものであるのに対し、引用商標1及び引用商標2は「古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」の観念を生じるものであるから、本願商標と引用商標1及び引用商標2とは、観念上、相紛れるおそれはない。そうすると、本願商標と引用商標1及び引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれの点についても相紛れるおそれのない非類似の商標である。

本願商標と引用商標3とは、二段書きと一段書きという差異のみならず、文字構成及び文字数も明確に相違するから、外観上、相紛れるおそれはない。また、本願商標から「カーマアーユルベーダ」の称呼を生じるのに対し、引用商標3から「カーマ」の称呼を生じるところ、両称呼は、「アーユルベーダ」の音の有無という差異を有するから、両商標は、称呼上、相紛れるおそれはない。さらに、本願商標は「愛欲神カーマの古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」といった観念を生じるものであるのに対し、引用商標3は特定の観念を生じないものであるから、両商標は、観念上、相紛れるおそれはない。そうすると、本願商標と引用商標3とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。

本願商標と引用商標4とは、図形の有無という差異のみならず、文字部分の比較においても文字構成及び文字数が明確に相違するから、外観上、相紛れるおそれはない。また、本願商標から「カーマアーユルベーダ」の称呼を生じるのに対し、引用商標4から「カーマ」の称呼を生じるものであるから、両商標は、引用商標3における場合と同様に、称呼上、相紛れるおそれはない。さらに、本願商標は「愛欲神カーマの古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」といった観念を生じるものであるのに対し、引用商標4は特定の観念を生じないものであるから、両商標は、観念上、相紛れるおそれはない。そうすると、本願商標と引用商標4とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。

本願商標と引用商標5とは、二段書きと一段書きという差異のみならず、文字構成及び文字数も明確に相違するから、外観上、相紛れるおそれはない。また、本願商標から「カーマアーユルベーダ」の称呼を生じるのに対し、引用商標5から「カルマ」及び「カーマ」の称呼を生じるところ、いずれの称呼の比較においても、「アーユルベーダ」の音の有無という明らかな差異を有するから、両商標は、称呼上、相紛れるおそれはない。さらに、本願商標は「愛欲神カーマの古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」といった観念を生じるものであるのに対し、引用商標5は特定の観念を生じないものであるから、両商標は、観念上、相紛れるおそれはない。そうすると、本願商標と引用商標5とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。

コメント

本願商標は、その構成中「KAMA」の文字と「AYURUVEDA」の文字が異なる大きさで表示されており、分離して認識され得る構成からなるものといえますが、外観上まとまりよく一体的に表されてこと、及び、全体から「愛欲神カーマの古代ヒンドゥー教徒の医術および長寿術」の意味合いが生じ、観念的に結合していることを理由として、引用各商標とは非類似と判断されております。

不服2016-17583(etp Hayabusa/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定役務:第36類「金融派生商品取引の媒介・取次ぎ又は代理、金融派生商品市況に関する情報の提供、預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ、資金の貸付け及び手形の割引、内国為替取引、債務の保証及び手形の引受け、有価証券の貸付け、金銭債権の取得及び譲渡、有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、両替、金融先物取引の受託、金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定着物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け、債券の募集の受託、外国為替取引、信用状に関する業務、信用購入あっせん」

引用商標:HAYABUSA(標準文字)
指定役務:第36類「税務相談、税務相談に関する情報の提供、税務代理、税務代理に関する情報の提供、課税額の査定、関税に関する手続きの代行、関税に関する情報の提供、金融又は財務に関する助言及び評価、金融又は財務に関する情報の提供、預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ、資金の貸付け及び手形の割引、内国為替取引、債務の保証及び手形の引受け、有価証券の貸付け、金銭債権の取得及び譲渡、有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、両替、金融先物取引の受託、金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定着物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け、債券の募集の受託、外国為替取引、信用状に関する業務、信用購入あっせん」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標は、引用商標とは非類似の商標であるから、その指定役務を比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号には該当しない。

審決等の要点

本願商標は、別掲のとおり、右手前から左奥に奥行きのある立体感を持った態様で、「H」の文字を図案化してなる図形を表し、その右側に間を空けて、その図形と高低を併せるように、上段に「etp」の文字を筆記体風の書体で、下段に「Hayabusa」の文字を太字の斜体で表してなるものであり、それぞれの色彩は、図形部分は赤色、「etp」の文字部分は青色、「Haya」の文字部分は赤色及び「busa」の文字部分は青色である。本願商標の図形部分と文字部分とは、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。

本願商標の文字部分についてみるに、「etp」の文字と「Hayabusa」の文字とは、一部を接して上下二段に近接して表されており、文字の書体及び大きさは異なるものの、色彩の共通性もあいまって(「etp」と「busa」の文字の色彩は共通している。)、外観上一体的な印象を与えるものであり、これより生じる「イーティーピーハヤブサ」の称呼も冗長というほどのものではなく、一気一連に称呼することができるものである。そして、「Hayabusa」の文字は、前半と後半で色彩を異にするものの、同一の書体で一連に表されているから、「はやぶさ(隼)」(タカ目ハヤブサ科の鳥)(「広辞苑第6版」岩波書店)の語をローマ字表記したものと認識、看取され得るとしても、「etp」の文字は、一般の辞書等に掲載されていない語であって、直ちに特定の意味合いを生じさせるものではないから、本願商標の文字部分全体としては特定の観念が生じないものである。そうすると、本願商標の文字部分については、その構成全体をもって要部とし、取引に資されるものとみるのが相当である。

本願商標の要部である文字部分と引用商標を比較すると、称呼においては、語頭における「イーティーピー」の音の有無に差異があるため、互いに聴別することは容易であり、外観においては、「Hayabusa」(HAYABUSA)の文字のつづりを共通するとしても、その書体や「etp」の文字部分の有無等に差異があるため、互いの外観上の印象は相違するものであり、観念においては、比較することができない。そうすると、本願商標の文字部分と引用商標は、外観、称呼及び観念を総合して考察するならば、相紛れるおそれはない非類似の商標というべきである。

コメント

本願商標の構成中「etp」の文字と「Hayabusa」の文字は、異なる書体、大きさで表示されており、分離して認識され得る構成からなるものといえますが、「etp」と「busa」の文字の色彩が共通しているという色彩の共通性があり、外観上一体的な印象を与えていることを理由の一つとして、文字部分については構成全体をもって要部とみるのが相当であると判断されております。

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(文責・前田)