平成30年9月27日、東京地方裁判所民事第46部(柴田義明裁判長)は、テレビゲームの名称及びキャラクターに関する不正競争行為及び著作権侵害行為が問題となった事案について、被告会社の行為の一部に不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)上の周知表示混同惹起行為及びドメイン名に係る不正行為の成立を認め、各使用行為の差止め及び1000万円の損害賠償を命じました。ゲームの略称の使用やキャラクターのコスチュームの使用を不正競争行為と認めたものであり、社会から注目された事件でもありますので、ご紹介します。

ポイント

骨子

  • 原告文字表示「マリカー」は、広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として、遅くとも平成22年頃には、日本全国のゲームに関心を有する者の間で、広く知られており、ここには観光の体験等で公道カートを運転してみたい一般人も含まれるので、「マリカー」は、日本全国の本件レンタル事業の需要者において広く知られていたと認めることができる。
  • 他方、「マリカー」は、日本語を解しない者の間で、原告の商品等表示として広く知られていたとは認められない。
  • 本件レンタル事業において使用された場合、被告標章「マリカー」等は、周知性が認められる原告文字表示「マリカー」と類似しているうえ、両者の商品ないし役務の間には強い関連性が認められるから、これに接した日本全国の需要者に対し、原告文字表示「マリカー」を連想させ、その営業主体が原告であるか、又は原告と関係があると誤信させる。
  • 原告表現物「マリオ」は、平成18年5月には日本全国の者の間で周知性を得ており、遅くとも平成23年11月には、外国に在住して日本を訪問する者の間でも原告の商品等表示として広く認識されていた。また、原告表現物「ルイージ」等についても、平成18年5月には日本全国の者の間で原告の商品等表示として広く認識されており、遅くとも平成25年1月までには、外国に在住して日本を訪問する者の間でも原告の商品等表示として広く認識されていた。
  • 被告が各コスチューム及び人形を使用して行った本件宣伝行為(本件写真1の表示を除く。)は、原告の周知の商品等表示と類似する標章を商品等表示として使用しているものであり、これに接した需要者に対し、被告会社と原告との間に、原告と同一の商品化事業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存するものと誤信させる。
  • 被告会社は、原告文字表示「マリカー」と類似する本件各ドメイン名を使用することにより、同文字表示が有する高い知名度を利用し、原告の公認あるいは協力の下で本件レンタル事業を営んでいるかのような外観を作出し、不当に利益を上げる目的があった。
  • 著作権に基づく原告表現物「マリオ」等の複製又は翻案の差止め等については、差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく、広範かつ多様な態様な行為のすべてを差止めの対象とするものであるが、このような差止めの必要性を認めるに足りる立証はされていない。また、不競法に基づく差止請求には、各コスチュームの貸与禁止の請求が含まれる(両請求は選択的併合の関係に立つ)ので、不競法に基づく差止請求が認められれば、著作権に基づく貸与禁止の請求について判断する必要がない。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第46部
判決言渡日 平成30年9月27日
事件番号 平成29年(ワ)第6293号
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官    安 岡 美香子
裁判官    佐 藤 雅 浩

解説

周知表示混同惹起行為の成立要件

周知表示混同惹起行為とは、不正競争の1つであり、「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」をいいます(不競法2条1項1号)。この行為を規制する趣旨は、商品又は営業の出所混同を防止し、業務上の信用を保護するとともに、需要者を保護することにあります。

この行為の成立要件は、以下のとおりです。

  • 他人の商品等表示
  • 需要者の間に広く認識されていること(周知性)
  • 同一・類似の商品等表示(同一性・類似性)
  • 商品等表示の使用又はそれを使用した商品の譲渡等
  • 他人の商品・営業と混同(又は混同のおそれ)を生じさせること(出所混同のおそれ)

出所混同のおそれについては、同一主体であると誤認させる場合(狭義の混同)のみならず、関連企業であると誤認させる場合(広義の混同)が含まれます。

周知表示混同惹起行為によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、差止請求が可能です(不競法3条)。また、故意又は過失によりこの行為を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、損害賠償責任を負います(不競法4条)。

ドメイン名に係る不正行為の成立要件

ドメイン名に係る不正行為も不正競争の1つであり、「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為」をいいます(不競法2条1項13号)。この行為を規制する趣旨は、競業目的、妨害目的、譲渡料目的等で他者の著名表示や登録商標を先にドメイン名として登録すること(サイバースクワッティング)を防止することにあります。インターネットビジネスの重要性の高まりを受け、平成13年改正により導入されたものです。

この行為の成立要件は、以下のとおりです。

  • 不正の利益を得る目的又は他人に損害を加える目的(図利加害目的)
  • 他人の特定商品等表示
  • 同一・類似のドメイン名(同一性・類似性)
  • ドメイン名を使用する権利の取得・保有又はそのドメイン名の使用

特定商品等表示においては、周知表示混同惹起行為における商品等表示と異なり、(ドメイン名と関係のない)容器及び包装が含まれていません。

図利加害目的について、東京地裁平成14年7月15日判決[mp3事件]は、「『不正の利益を得る目的で』とは『公序良俗に反する態様で,自己の利益を不当に図る目的がある場合』と解すべきであり,単に,ドメイン名の取得,使用等の過程で些細な違反があった場合等を含まないものというべきである。また,『他人に損害を加える目的』とは『他人に対して財産上の損害,信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合』と解すべきである。」と述べたうえ、具体例として「例えば,①自己の保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売する目的,②他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的,又は,③当該ドメイン名のウェブサイトに中傷記事や猥褻な情報等を掲載して当該ドメイン名と関連性を推測される企業に損害を加える目的,を有する場合などが想定される」と述べました。

ドメイン名に係る不正行為についても、差止め(不競法3条)及び損害賠償(不競法4条)の対象になります。

差止めの必要性

知的財産関係訴訟において、差止請求が認められるためには、差止めの必要性、すなわち、侵害行為が行われ、又は将来行われるおそれがあることが要件となります。

侵害行為の内容は、可能な限り具体的に特定する必要があります。著作権に基づく差止請求であれば、例えば書籍名、著者名等によって特定される具体的な書籍の出版や製造販売を対象とします。「原告著作物を複製してはならない」といった一般的、抽象的な行為を対象とすることは、通常、侵害行為の特定が不十分であるとされ、差止めの必要性が認められません(もっとも、著作権の中でも演奏権が侵害された場合のように、被告の侵害行為を具体的に特定することが難しい場合には、「演奏してはならない」といった差止請求が一般的に肯定されています。)。

この点について、東京地裁平成15年12月17日判決[ファイルローグ事件]は、「本件各管理著作物につき,同被告が運営する本件サービスにおいて,MP3形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない旨を求める」差止請求について、「単に,原告が著作権を有する本件各管理著作物を複製した電子ファイルを送受信の対象とする行為について,その不作為を求めるものであって,法律が一般的,抽象的に禁止している行為そのものについて,その不作為を求めることと何ら変わらない結果となること,上記請求をそのまま認めると,執行手続きにおける差止めの対象になるか否かの実体的な判断を執行機関にゆだねる結果になること等の理由から,相当といえない」と述べました。

請求の客観的併合

同種の訴訟手続による場合に限り、1件の民事訴訟において数個の請求を併せて行うことが認められています(民事訴訟法136条)。このような場合を請求の客観的併合といい、これには単純併合、予備的併合及び選択的併合の3種類があります。

単純併合とは、併合された請求相互間に順位を付さず、数個の請求すべてについて審判を求める場合をいいます(例えば特許権に基づく差止請求と損害賠償請求)。予備的併合とは、併合された請求相互間に順位を付し、主位的請求が認容されれば、予備的請求について審判を求めない場合をいいます(例えば著作権に基づく損害賠償請求を主位的請求とし、著作物性が否定された場合に備え、一般不法行為に基づく損害賠償請求を予備的請求とする場合)。選択的併合とは、併合された請求相互間に順位を付さないが、いずれか1つの請求が認容されれば、残りの請求について審判を求めない場合をいいます(例えば複数の知的財産権に基づく同一の利用態様の被告行為に対する差止請求)。

事案の概要

当事者

原告は、娯楽用品、運動具、音響機器及び乗物の製造及び販売、ゲーム、映像及び音楽等のコンテンツの制作、製造及び販売、キャラクター商品の企画、製造及び販売並びに知的財産権の許諾等を業とする株式会社(任天堂株式会社)です。

被告会社は、自動車等の売買、リース、レンタル等を業とする株式会社(平成27年6月4日設立)であり、設立時は「株式会社マリカー」との商号を用いていましたが、平成30年3月22日付けで、これを「株式会社MARIモビリティ開発」に変更しました。被告Aは、被告会社の代表取締役です。

差止請求

原告は、以下のとおり、被告会社による「マリカー」等の使用、ウェブサイトにおける各コスチュームの掲載、各コスチュームの貸与、特定のドメイン名の使用等の行為が不正競争又は著作権侵害に該当すると主張し、被告会社に対し、当該行為の差止め等を請求しました(各別紙の概要については後述)。不正競争については、原告は、周知表示混同惹起行為(不競法2条1項1号)又は著名表示冒用行為(同項2号)及びドメイン名に係る不正行為(同項13号)の成立を主張しています。

被告会社による行為 該当する不正競争又は著作権侵害 請求内容及び根拠
原告の周知又は著名な商品等表示である文字表示「マリオカート」及び「マリカー」(併せて「原告文字表示」)と類似する別紙被告標章目録第1記載の各標章(「被告標章第1」)の営業上の使用行為及び商号としての使用行為 不競法2条1項1号又は2号の不正競争 被告標章第1の使用差止め、同抹消及び商号登記の抹消(不競法3条1項・2項)
原告が著作権を有する別紙原告表現物目録記載の各表現物(「原告表現物」)と類似する部分を含む別紙掲載写真目録記載の各写真(「本件各写真」)及び同投稿動画目録記載の各動画(「本件各動画」)を作成(「本件制作行為」)してインターネット上のサイトへアップロードする行為(この掲載及びアップロード行為を「本件掲載行為」) 原告の著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権等)侵害 原告表現物の複製又は翻案及び複製物等の自動公衆送信等の各差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄(著作権法112条1項・2項)
原告の周知又は著名な商品等表示である原告表現物又は別紙原告商品等表示目録記載の商品等表示(「原告立体像」)と類似する表示である別紙被告標章目録第2記載の各標章であるコスチューム及び人形(「被告標章第2」、同目録記載の標章を「被告標章第2の1」等と特定)を使用する行為である本件掲載行為、従業員のコスチューム着用行為及び店舗における人形の設置行為(併せて「本件宣伝行為」) 不競法2条1項1号及び2号の不正競争 被告標章第2の使用差止め並びに本件各写真及び本件各動画の削除及びデータ廃棄(不競法3条1項・2項)
原告の特定商品等表示である原告文字表示と類似する別紙ドメイン名目録記載の各ドメイン名(「本件各ドメイン名」)の使用 同項13号の不正競争 本件各ドメイン名の使用差止め及び同ドメイン名の一部の登録抹消(不競法3条1項・2項)
原告表現物の複製物又は翻案物である別紙貸与物目録記載の各コスチューム(「本件各コスチューム」)を貸与する行為(「本件貸与行為」) 原告の著作権(貸与権)侵害 本件貸与行為の差止め(著作権法112条1項・2項)
損害賠償請求

また、原告は、被告会社に対し、前記各不正競争該当行為(前記①、③及び④)につき不競法4条、5条3項1号・4号に基づき、著作権侵害行為(前記②及び⑤)につき民法709条及び著作権法114条3項に基づき、被告Aに対し、会社法429条1項に基づき、損害賠償として1000万円(一部請求)及びこれに対する不法行為後の日である平成29年3月18日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めました。

判決別紙の概要

本判決には複数の別紙が添付されているので、簡単に整理します。各別紙の概要は以下のとおりです(写真は省略しますので、詳しくは、本稿冒頭のURLから判決全文をご覧ください。ただし、判決全文において当初から掲載が省略されている写真もあります。)。

原告表現物目録

各キャラクターの画像が掲載されています。

1. 「マリオ」
2. 「ルイージ」
3. 「ヨッシー」
4. 「クッパ」

原告商品等表示目録

各キャラクターに対応するコスチュームを着用した立体像の写真が掲載されています。

1. 「マリオ」
2. 「ルイージ」
3. 「ヨッシー」
4. 「クッパ」

被告標章目録第1

1. マリカー
2. MariCar
3. MARICAR
4. maricar

被告標章目録第2

各キャラクターに対応するコスチューム及び人形の写真が掲載されています。

1. 下記写真中の人物が着用する「マリオ」のコスチューム
2. 「マリオ」のコスチューム1
3. 「マリオ」のコスチューム2
4. 下記写真中の人物が着用する「ルイージ」のコスチューム
5. 「ルイージ」のコスチューム1
6. 「ルイージ」のコスチューム2
7. 下記写真中の人物が着用する「ヨッシー」のコスチューム
8. 「ヨッシー」のコスチューム
9. 下記写真中の人物が着用する「クッパ」のコスチューム
10. 「クッパ」のコスチューム
11. 被告会社の店舗入口に設置された「マリオ」の人形

掲載写真目録

詳細は不明ですが、本判決によると、別紙掲載写真目録記載1~3の各写真(「本件各写真」)は、原告表現物「マリオ」等の特徴を備えているコスチュームを着用した人物等の写真であるようです。

投稿動画目録

詳細は不明ですが、本判決によると、別紙投稿動画目録記載1~16の動画(「本件各動画」)は、本件レンタル事業の利用者らがコスチュームを着用し、公道カートに乗車して東京都内を走行する様子等を撮影して作成されたものや、本件レンタル事業について放映されたテレビ番組を録画して作成されたものであるようです。

ドメイン名目録

1. maricar.以下省略
2. maricar.co. 以下省略
3. fuji-maricar. 以下省略
4. maricar. 以下省略

貸与物目録

各キャラクターに対応するコスチュームの写真が掲載されています。

1. 「マリオ」のコスチューム1
2. 「マリオ」のコスチューム2
3. 「ルイージ」のコスチューム1
4. 「ルイージ」のコスチューム2
5. 「ヨッシー」のコスチューム
6. 「クッパ」のコスチューム

争点

本件の争点は、以下のとおりです。

事実関係

被告会社が平成28年6月24日以降、被告標章「maricar」の使用、本件制作行為、本件掲載行為を含めた本件宣伝行為、本件ドメイン名「maricar.以下省略」「fuji-maricar. 以下省略」「maricar. 以下省略」の使用並びに本件貸与行為(「本件各行為」)を行ったか否か(争点1)

なお、裁判所は、同日以降の被告標章「マリカー」「MariCar」及び本件ドメイン名「maricar.co. 以下省略」の使用については争いがなく、同日以降の被告標章「MARICAR」の使用は容易に認定することができると述べています。

不競法に基づく請求

1. 被告標章「マリカー」等の使用差止め及び抹消請求の可否

  • 被告標章「マリカー」等の営業上の使用行為及び商号としての使用行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か(争点2)
  • 登録商標の抗弁の成否(争点3)
  • 使用差止め及び抹消請求の可否及び範囲(争点4)

2. 被告標章第2(各コスチューム及び人形)の使用差止め並びに本件各写真等の削除及び廃棄請求の可否

  • 被告標章第2(各コスチューム及び人形)を使用する本件宣伝行為が不競法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するか否か(争点5)
  • 使用差止め及び抹消・廃棄請求の可否及び範囲(争点6)

3. 本件ドメイン名の使用差止め及び登録抹消請求の可否

  • 本件ドメイン名の使用行為が不競法2条1項13号の不正競争に該当するか否か(争点7)
  • 使用差止め及び登録抹消請求の可否及び範囲(争点8)
著作権法に基づく請求

1. 原告表現物「マリオ」等の複製又は翻案の差止請求並びに本件各写真等の抹消及び廃棄請求の可否

  • 本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点9)
  • 複製又は翻案の差止請求の可否及び範囲(争点10)

2. 本件貸与行為の差止請求の可否

  • 本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点11)
損害論
  • 被告Aに対する損害賠償請求の可否(争点12)
  • 原告の損害額(争点13)

判旨

被告会社が平成28年6月24日以降に本件各行為を行ったか否か

争点1について、被告会社は、本件レンタル事業を立ち上げたものの、平成28年6月24日以降は、本件レンタル事業を関係団体へ移管し、同日以降は関係団体が同事業を実施しており、被告会社が同日以降に本件各行為を行った事実はないと主張していました。

これに対し、裁判所は、同日以降も、被告会社が被告会社サイトにおいて同社の事業の1つとしてレンタル事業を掲げ、レンタル事業を運営すると記載し、雇用主として求人広告を出し、自社が組合員となって立ち上げた有限責任事業組合に各店舗を運営させたこと等から、同日以降における被告会社の本件レンタル事業運営への積極的な関与を認め、また、被告会社による公道カートの販売・メンテナンス、様々な場面での運営会社としての被告会社名の表示、各店舗におけるウェブサイトのデザイン、ドメイン名、ロゴの共通性といった本件レンタル事業の実態から、その営業が被告会社の関与の下で統一的に実施されていたと認めたうえで、以下のとおり述べ、被告会社が同日以降に本件各行為を行ったと認めました。

そして,前記の各事実からすれば,被告会社は,平成28年6月24日以降も,引き続き,自らが,全国に本件レンタル事業に係るサービスを提供する店舗を拡大し,同店舗を運営する有限責任事業者組合を立ち上げるなどして各店舗において自社の定めた規約に従ったサービスを提供させているということができるのであり,その関与の程度の強さから,本件レンタル事業に主体的に関与し,少なくとも,関係団体と共同して本件レンタル事業を実施していると認めるのが相当である。

以下においては、まず、被告標章「マリカー」等に係る周知表示混同惹起行為について、裁判所の判断を紹介します。

周知表示混同惹起行為①――原告文字表示「マリカー」の周知性

争点2に関し、裁判所は、原告文字表示「マリカー」の周知性について検討し、判断の前提として、「マリオカート」シリーズの売上げ、「2016年CESAゲーム白書」やゲーム雑誌における順位、テレビコマーシャルの放映回数、玩具メーカー等へのライセンスの実績等を認定するとともに、「マリカー」という文字表示がゲーム雑誌や漫画、Twitter上の投稿、テレビ番組において使用されてきた事実を認定しました。そして、裁判所は、以下のとおり述べ、「マリオカート」が日本全国のゲームに関心を有する者の間で相当に広く知られていたと判断しました。

「マリカー」は,前記……のとおり,「マリオカート」の略称として使用されている表示である。「マリオカート」は,原告が平成4年から順次発売したゲームシリーズの名称である。そして,「マリオカート」のゲームシリーズは,累計出荷本数が相当数に及ぶほか,歴代の出荷本数ランキングにも複数の作品が入り……,人気ゲームとして雑誌に取り上げられたり,人気ゲームのランキングにも入ったりするなどし……,複数のライセンス商品が販売され……,テレビコマーシャルも相当数放送された……ことなどから,人気ゲームシリーズとして,日本全国のゲームに関心を有する者の間で相当に広く知られていたといえる。

その上で、裁判所は、以下のとおり述べ、「マリカー」が広く使用されてきたことを前提に、平成22年頃には、「マリカー」が「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として日本全国のゲームに関心を有する者の間で広く知られており、ここには公道カートを運転してみたい一般人も含まれるので、「マリカー」は、日本全国の本件レンタル事業の需要者において広く知られていたと判断しました。他方、裁判所は、「マリカー」が日本語を解しない者の間で広く知られていたとはいえないと判断しました。

そして,「マリカー」は,①ゲームソフト「マリオカート」の略称として,遅くとも平成8年頃には,ゲーム雑誌において使用されていて……,②少なくとも平成22年頃には,ゲームとは関係性の薄い漫画作品においても何らの注釈を付することなく使用されることがあったこと……,③被告会社が設立される前日である平成27年6月3日には,その一日をとってみても,「マリオカート」を「マリカー」との略称で表現するツイートが600以上投稿されたこと……が認められる。また,被告会社の設立後においても,テレビ番組においてタレントが,子供の頃から原告のゲームシリーズである「マリオカート」の略称として「マリカー」を使用していたと発言し……,本件訴訟提起に係る報道が出された後には,複数の一般人から,被告会社の社名である「マリカー」が原告のゲームシリーズ「マリオカート」を意味するにもかかわらず,被告会社が原告から許可を得ていなかったことに驚く内容の投稿がされた事実が認められる……。

これらの事実からすると,原告文字表示マリカーは,広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として,本件証拠上,遅くとも平成22年頃には,日本全国のゲームに関心を有する者の間で,広く知られていたということができる。そして,日本においてゲームに関心を有する層は相当広範囲にわたっていることは明らかであり,観光の体験等で公道カートを運転してみたい一般人も含まれ,原告文字表示マリカーは,日本全国の本件レンタル事業の需要者において広く知られていたと認めることができる。
他方,原告文字表示マリカーは「マリカー」という日本語の表示であり,日本語を解しない者の間で,原告の商品等表示として広く知られていたとは認められない……。

周知表示混同惹起行為①――「MariCar」等と「マリカー」との類否

被告標章「マリカー」と原告文字表示「マリカー」については、裁判所は、外観・称呼の同一性から、同一の標章であると認めました。

また、被告標章「MariCar」「MARICAR」「maricar」と原告文字表示「マリカー」についても、裁判所は、以下のとおり述べ、外観が異なるものの、称呼(マリカー)が同一であり、観念が類似するので、類似のものとして受け取られるおそれがあると判断しました。

また, 被告標章第1 のうち被告標章第1の2ないし4(MariCar,MARICAR,maricar)は,いずれも大文字と小文字のアルファベットから構成されており,原告文字表示マリカーとは外観において異なるものの,称呼はどちらも「マリカー」であり同一である。また前記各被告標章は,ひとまとまりの語として独自の意味をもった英語その他の外国語の単語と認識されるものではないが,「Car」「CAR」「car」との部分については,英語における「車」と同一の綴りであるから,全体として「マリ」と「車」を結合したものとの観念を生じさせる。そして,前記のとおり「マリオカート」が広く知られており,ゲームシリーズである「マリオカート」が「マリオ」等のキャラクターがカートに乗車して様々なコースを走行することを特徴とすることなどを考慮すると,「マリ」は「マリオ」を連想させ,「車」はカートを連想させることからすれば,両者の観念は類似するといえ,前記各被告標章と原告文字表示マリカーは類似のものとして受け取られるおそれがあるというべきである。

周知表示混同惹起行為①――出所混同のおそれの有無

原告の業務に係る商品はゲームソフトであるのに対し、被告標章「マリカー」等の付された役務は公道カートのレンタルです。しかし、裁判所は、以下のとおり述べ、両者の商品ないし役務の間の強い関連性を認め、表示の類似性や本件訴訟提起に係る報道後のTwitter上の反応も踏まえて、被告標章「マリカー」等が日本全国の需要者に原告文字表示「マリカー」を連想させ、本件レンタル事業の営業主体が原告であるか、又は原告と関係があると誤信させると判断しました。

前記のとおり,原告文字表示マリカーは,本件証拠上,遅くとも平成22年頃には,広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として,本件レンタル事業の日本全国の需要者の間においても広く知られていたと認めることができる。

原告の業務に係る商品はゲームソフトであるのに対し,被告標章1の付された役務は公道カートのレンタルである。しかし,映画やゲームといった二次元の世界をテーマパーク等において現実のアトラクションとして再現し集客するビジネスが数多く存在し,実際,原告においてもそのようなテーマパークの展開を計画しているとの報道発表がされている上……,本件レンタル業務は,キャラクターがカートに乗車して走行するゲームシリーズ「マリオカート」に登場するキャラクターのコスチュームを利用者が着用するなどして公道カートを運転するものであるから,両者の商品ないし役務の間には強い関連性が認められる。

これらの事情からすれば,本件レンタル事業において使用された場合,被告標章第1は,前記のとおり周知性が認められる原告文字表示マリカーと類似している上,両者の商品ないし役務の間には強い関連性が認められるから,これに接した日本全国の需要者に対し,原告文字表示マリカーを連想させ,その営業が原告又は原告と関係があると誤信させると認められる。

なお,実際に,本件訴訟提起に係る報道が出された後には,複数の者から,Twitterに,被告会社が原告の系列会社か関連会社である,あるいは本件レンタル事業が原告による宣伝活動か少なくとも許可を得て行われていると誤解していた旨の投稿がされており,これらは前記認定を裏付けるといえる……。

他方、裁判所は、原告文字表示「マリカー」について、日本語を解しない者の間では、需要者に対し、そのような出所混同のおそれを発生させるものとはいえないと判断しました。

これに対し、被告らは、利用者アンケートの集計結果等を根拠に本件レンタル事業の利用者の約95%が訪日外国人であると主張していました。しかし、裁判所は、当該集計結果が一部の店舗における短期間の任意アンケートの結果であることを指摘したうえで、本件レンタル事業の需要者には日本語を解する者が含まれており、当該主張は、需要者に日本語を解する者が含まれないことを前提とする点において採用することができないと述べました。

また、被告らは、本件レンタル事業に係るウェブサイトや公道カートの車体等に、本件レンタル事業とゲーム「マリオカート」とは関連がない旨の打ち消し表示を付したから、混同のおそれは生じないと主張していました。しかし、裁判所は、以下のとおり述べ、常に一体として使用されるとは限らないこと、車体上の打ち消し表示が停車中のカートに近寄って見なければ判読できない程度に小さいこと等を理由に、この主張を排斥しました。

しかしながら,前記のとおり,被告標章第1は,原告文字表示と同一のものもあり,類似の表示も原告文字表示マリカーと称呼が同一であるなど類似の程度は高いといえるものである。他方,前記……で述べたとおり,被告標章第1は,商号,チラシ,ウェブサイト,公道カートの車体,ロゴ等の様々な態様で使用され,ウェブサイトにおいても様々な画面で使用されていること,被告標章第1が前記で認定した打ち消し表示と常に一体として使用されるとは限らないものであることなどの事情がある。これらを考慮すると,前記……の事実関係(引用者注:打ち消し表示の事実)が認められるとしても,被告標章第1の使用によって原告又は原告と関係があるとの混同のおそれが生じなくなるということはできない。また,公道カートの車体に表示された打ち消し表示の文字は,停車中のカートに近寄って見なければ判読できない程度に小さいから,本件レンタル事業の利用者に対する効果も確実とは言い難い上,同カートを公道上で目撃する需要者が直ちに認識できるものではない。被告らの主張は採用することができない。

周知表示混同惹起行為①――登録商標の抗弁の成否

争点3について、被告らは、被告会社が「マリカー」の標準文字からなる商標に係る商標権を有しており、「マリカー」という標章を使用する正当な権限を有するから、不競法3条1項に基づく差止請求は認められない旨主張していました。しかし、裁判所は、以下のとおり述べ、原告文字表示「マリカー」が周知性を獲得した時期が被告会社の商標登録より先であることを踏まえ、権利濫用を理由にこの主張を排斥しました。

しかしながら,被告会社が本件商標の登録を出願したのは平成27年5月13日であるところ……,前記……で述べたとおり,その5年程度前である平成22年頃には,既に原告文字表示マリカーは原告の商品を識別するものとして需要者の間に広く知られていたということができる。

被告標章第1を使用する被告会社の行為は不正競争行為となるところ,上記事情を考えると,原告に対して,被告会社が本件商標に係る権利を有すると主張することは権利の濫用として許されないというべきである。

周知表示混同惹起行為①――「マリカー」等の使用差止め及び抹消請求

争点4について、裁判所は、被告会社が被告標章「マリカー」等を使用してきた事実から、被告会社がこれらの使用行為を継続する可能性があり、原告は、当該使用行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあると判断しました。そして、裁判所は、原告による以下の請求を認めました。

  • 不競法3条1項に基づき、営業上の施設及び活動において被告標章「マリカー」等を使用してはならないこと
  • 同条2項に基づき、侵害行為の停止又は予防に必要な行為として、営業上の施設、ウェブサイトを含む広告宣伝物及びカート車両から被告標章「マリカー」等を抹消すること

他方、原告は、自動車、自転車及び軽車両からも被告標章「マリカー」等を抹消するよう求めていましたが、裁判所は、カート車両以外の上記自動車等にこれらが表示されたことを認めるに足りる証拠もなく、またそのおそれも認められないと判断しました。

また、裁判所は、原告文字表示「マリカー」は日本語を解しない者の間では周知性が認められないとの前記判断を踏まえ、日本語を解しない需要者のみを対象とする行為において被告標章「マリカー」等を表示することを差し止め、これらの広告宣伝物から同標章を抹消させることは認められず、外国語のみで記載されたウェブサイト及びチラシにおける被告標章「マリカー」等の使用についての差止め及び抹消請求は認められないと判断しました。

なお、「株式会社マリカー」の商号登記の抹消登記手続請求については、被告会社が既に商号を変更したことから、理由がないと判断されました。

次に、以下においては、被告標章第2(各コスチューム及び人形)に係る周知表示混同惹起行為について、裁判所の判断を紹介します。

周知表示混同惹起行為②――原告表現物「マリオ」等の周知性

争点5に関し、裁判所は、原告が著作権を有する表現物「マリオ」「ルイージ」「ヨッシー」「クッパ」(画像については判決全文をご覧ください。)の周知性について検討し、判断の前提として、「マリオ」が登場する一連のゲームシリーズの全世界における売上げ、「2016年CESAゲーム白書」における「マリオ」シリーズのゲーム作品や「ルイージ」「ヨッシー」を主役とするゲーム作品の順位、「ギネス世界記録」が発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」等における各キャラクターの順位、各ゲーム作品の画面等に掲載されてきた表現の多くが共通の表現上の特徴を備えていたこと等を認定しました。その上で、裁判所は、以下のとおり述べ、原告表現物「マリオ」は、平成18年5月には日本全国の者の間で周知性を得ており、遅くとも平成23年11月には、外国に在住して日本を訪問する者の間でも原告の商品等表示として広く認識されていた、また、原告表現物「ルイージ」等についても、平成18年5月には日本全国の者の間で原告の商品等表示として広く認識されており、遅くとも平成25年1月までには、外国に在住して日本を訪問する者の間でも原告の商品等表示として広く認識されていたと判断しました。

これらの事実によれば,原告表現物マリオは,その人物のイラストとしての基本的な表現上の特徴を同じくする「マリオ」が登場する原告のゲームソフトである「マリオ」シリーズの長年にわたる販売及び人気により,原告の商品の出所を表示する商品等表示となったというべきであり,遅くとも,国内出荷本数ランキングで2位を,国内及び世界における出荷本数ランキングで5位を獲得する売上げを記録した「Newスーパーマリオブラザーズ」が発売された平成18年5月には,日本全国の者の間で,原告の商品等表示として少なくとも周知性を得ており,また,遅くとも,「マリオ」が「ギネス世界記録」が発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において1位を獲得した平成23年11月には,外国に在住して日本を訪問する者の間でも,原告の商品等表示として広く認識されていたと認めることが相当である。

さらに,原告表現物ルイージ,原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパについても,その人物又は生物のイラストとしての基本的な表現上の特徴を同じくする「ルイージ」,「ヨッシー」及び「クッパ」が登場する原告のゲームソフトである「マリオ」シリーズ等の長年にわたる販売及び人気により,原告の商品の出所を表示する商品等表示となったというべきであり,遅くとも,前記「Newスーパーマリオブラザーズ」が発売された平成18年5月には,日本全国の者の間で,原告の商品等表示として広く認識されていたと認められ,また,①「マリオカート」シリーズ及び「マリオ」シリーズが日本国内のみならず海外においても大きな売上げを記録したこと……,②「ルイージ」や「ヨッシー」を主役とするゲーム作品も世界歴代ミリオン出荷タイトルの96位及び108位にランクインしたこと……,③「ヨッシー」は「ギネス世界記録」が平成23年11月に発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において21位を,「クッパ」は同じく「ギネス世界記録」が発表した「ビデオゲーム史に名を残す悪役トップ50」において1位をそれぞれ獲得したこと……からすれば,原告表現物ルイージ,原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパもまた,遅くとも,前記ギネス記録が発表された平成25年1月までには,外国に在住して日本を訪問する者の間でも,原告の商品等表示として広く認識されていたと認めることが相当である。

周知表示混同惹起行為②――「マリオ」等と各コスチューム・人形との類否等

裁判所は、原告表現物「マリオ」等の表現上の特徴を詳細に認定したうえで、被告会社がウェブサイトにアップロードした本件各写真及び本件各動画、コスチュームを着用した被告会社従業員及び被告会社が店舗に設置したマリオ人形について、それらの内容を確認し、それらにおいて使用された表示と原告表現物「マリオ」等との類否、出所混同のおそれの有無を検討しました。

そして、裁判所は、本件写真1について、画像不鮮明を理由に表示の類似性を否定したものの、本件写真2及び3については、以下のとおり述べて、表示の類似性を肯定し、被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがあると判断しました。

本件写真2及び3は,河口湖店サイトに掲載されていたものである。公道カートのレンタル事業のサイトにおいて,原告の商品等表示といえる原告表現物と同一又は類似の表示がされた場合,その表示は,少なくとも,提供している役務に関する広告において営業の出所を示す表示としてされたということができる。

そして,本件写真2及び3において,いずれも原告表現物マリオ及びヨッシーの特徴の一部を備えたコスチューム(被告標章第2の1ないし3,8,9のいずれかのコスチューム)を着用した人物が表示されていること,これらの人物は,いずれも公道カートに乗車していること,「マリオ」,「ヨッシー」等がカートの運転手となるゲームシリーズ「マリオカート」が日本及び全世界において相当の出荷本数を有すること……,これらの写真が「マリカー」と称する本件レンタル事業を宣伝するウェブサイトにおいて掲載されていたことからすれば……,これらのコスチュームを着用した人物の表示は,本件レンタル事業の需要者をして,ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」,「ヨッシー」を連想させるといえる。そして,これらの人物と,本件レンタル事業の需要者において周知の商品等表示である原告表現物マリオ,原告表現物ヨッシーとを類似のものと受け取り,前記……で述べたとおり,その商品等表示が示す原告の業務と被告会社が行っている役務には関連性があるといえることから,被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。

また、裁判所は、本件各動画についても、以下のとおり述べて、表示の類似性を肯定し、同様に出所を誤信させるおそれがあると判断しました。

本件動画1ないし16は,インターネット上の動画共有サービスであるYouTubeにアップロードされたものであり,本件動画1ないし3,5ないし12及び16については,その冒頭において被告会社が行う本件レンタル事業に関する動画であることが表示されている。また,本件動画4は本件レンタル事業に係る利用者がコスチュームを着用して公道カートを運転する様子が撮影された動画であり,本件動画13及び14は本件レンタル事業について紹介するテレビ番組の当該紹介部分を切り取って作成された動画であり,本件動画15は本件ロゴ等がペイントされた公道カートを運転する本件レンタル事業の利用者を撮影したテレビ番組の当該部分を切り取って作成された動画であり,いずれも被告会社あるいは関係団体が,本件レンタル事業を広く紹介するために動画共有サービスにアップロードしたものと認められる。

そして,被告<ママ>がその役務である本件レンタル事業を紹介する動画において,原告の商品等表示といえる原告表現物と類似の表示がされた場合,その表示は,少なくとも被告会社が提供している役務に関する広告において営業の出所を示す表示としてされたということができる。

本件動画1ないし16においては,いずれも原告表現物の特徴の一部を備えたコスチューム(被告標章第2の1ないし10のいずれかのコスチューム)を着用した人物が表示されていること,これらの人物はいずれも公道カートに乗車していること,「マリオ」,「ルイージ」,「ヨッシー」,「クッパ」がカートの運転手となるゲームシリーズ「マリオカート」が日本及び全世界において相当の出荷本数を有すること……,これらの動画の冒頭に「MARICAR」などという表示がされていたことからすれば,これらのコスチュームを着用した動画上の人物は,本件レンタル事業の需要者をして,ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」,「ルイージ」,「ヨッシー」,「クッパ」を連想させ,上記各人物と,本件レンタル事業の需要者において周知の商品等表示である原告表現物とを類似のものと受け取らせ,その商品等表示と被告会社が行っている役務に関連性があると誤認させ,被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。

さらに、裁判所は、コスチュームを着用した被告会社従業員についても、以下のとおり述べて、類似性を肯定し、同様に出所を誤信させるおそれがあると判断しました。

前記……のとおり,本件マリオコスチューム,本件ルイージコスチューム,本件ヨッシーコスチューム及び本件クッパコスチューム(被告標章第2の1ないし10の各コスチューム)は原告表現物の特徴の一部を備えるところ,これらを着用し,カートツアーの先導者として「MARICAR」「MariCar」といった被告標章第1を表示する公道カートに乗車することは,前記……と同様の理由により,需要者をして,ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」,「ルイージ」,「ヨッシー」及び「クッパ」を連想させ,その先導者と,本件レンタル事業の需要者の間において周知の商品等表示である原告表現物とを類似のものと受け取らせ,被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。

そして、裁判所は、本件マリオ人形についても、以下のとおり述べて、類似性を肯定し、同様に出所を誤信させるおそれがあると判断しました。

本件マリオ人形(被告標章第2の11の人形)は,原告表現物マリオの特徴を全て備えており,原告表現物マリオと類似するといえる。

そして,本件マリオ人形が設置されている被告会社の店舗において本件レンタル事業が行なわれていること,「マリオ」等がカートの運転手となるゲームシリーズ「マリオカート」が日本及び全世界において相当の出荷本数を有すること……からすると,同設置行為は,少なくとも提供している役務に関する広告において営業の出所を示す表示としてされたものといえ,原告表現物マリオが本件レンタル事業の需要者において周知の原告の商品等表示であることから,被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。

結論として、裁判所は、以下のとおり述べ、被告標章第2(各コスチューム及び人形)を使用して行った本件宣伝行為(本件写真1の表示を除きます。)について周知表示混同惹起行為の成立を認めました。

以上によれば,被告<ママ>が,被告標章第2を使用して行った本件宣伝行為(本件写真1の表示を除く,以下同じ。)は,原告の周知の商品等表示と類似する標章を商品等表示として使用しているものであり,これに接した需要者に対し,被告会社と原告との間に,原告と同一の商品化事業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存するものと誤信させるものと認められる。

これに対し、裁判所は、以下のとおり述べ、被告らの反論を排斥しました。

以上に対し,被告<ママ>は,本件各動画のほとんどには冒頭に本件ロゴが表示されており原告を想起させるような表示はないから,本件宣伝行為は商品等表示としての使用には該当しない旨主張する。しかし,本件ロゴは原告の周知表示である「マリカー」と類似する被告標章第1の3「MARICAR」を含むものであるから,原告を想起させるような表示がない旨の前記主張は前提において理由がなく,前記に述べたところにより,本件宣伝行為は商品等表示としての使用に該当する。

また,被告<ママ>は,本件マリオ人形は販売目的で設置されていたから,商品等表示としての使用に該当しない旨主張するが,同人形が売り物であったと認めるに足りる証拠はない上,仮に被告会社に同人形を販売する意図があったとしても,これを需要者の目に止まる店舗内に展示することによって,需要者に対し,同店舗におけるサービスの提供が原告と関連するものであると推認させるといえるから,商品等表示としての使用に当たるといえる。

周知表示混同惹起行為②――各コスチューム・人形の使用差止め及び抹消・廃棄請求

争点6について、裁判所は、以上の判断を前提に、被告会社が原告表現物「マリオ」等と類似する被告標章第2(各コスチューム及び人形)を営業上の施設及び活動において使用することの差止めを認めました。そして、裁判所は、これによって、被告会社は、本件写真2及び3を同社が運営するウェブサイトに掲載すること、本件各動画を動画共有サービスに掲載すること、従業員に被告標章第2の1~10のコスチュームを着用させること、店舗内に同目録記載11の人形を設置することや、営業活動において上記各コスチュームを貸与すること等、被告標章第2(各コスチューム及び人形)を営業上の施設及び活動において使用することが禁止されることとなると述べました。

この点について、被告会社は、本件各写真及び本件各動画の掲載、従業員による各コスチュームを着用させての先導、本件マリオ人形の設置については本件の口頭弁論終結時までに中止しました。しかし、裁判所は、中止した行為も再開するのは容易であること等から、原告には、なお同行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められると判断しました。

また、裁判所は、本件各写真及び本件各動画の削除請求については、これらの写真及び動画が既にウェブサイトに掲載されておらず、視聴可能な状態ではないと述べて、認めませんでした。他方、裁判所は、それらのデータの廃棄請求については、本件各写真のデータ自体は、その内容に照らせば不正競争行為とならない利用方法があることからその廃棄は認められないと判断しましたが、広告のために作成されたといえる本件各動画のデータの廃棄の請求は認めました。

次に、以下においては、本件ドメイン名に係る不正行為について、裁判所の判断を紹介します。

ドメイン名に係る不正行為――本件ドメイン名と「マリカー」との類比

争点7について、裁判所は、本件ドメイン名のうち、出所を表示する機能を有する部分は「maricar」又は「fuji-maricar」であり、同部分が本件各ドメイン名の要部であると認めたうえ、このうち「maricar」部分については、原告文字表示「マリカー」と類似すると判断しました。また、「fuji-maricar」の「fuji-」の部分は「maricar」に付加されたものと受け取ることができるものであるので、「fuji-maricar」全体としても「マリカー」と類似すると判断しました。

ドメイン名に係る不正行為――図利加害目的の有無

裁判所は、被告会社の図利加害目的の有無について、以下のとおり述べ、被告会社が原告文字表示「マリカー」の知名度を認識していたこと、被告会社の意図が「マリオカート」の世界の体験を売りにして顧客を惹きつけようとするものであったことを理由に、被告会社には不当に利益を上げる目的があったと判断しました。

前記……で述べたとおり,原告文字表示マリカーは,被告会社が設立された平成27年6月4日の相当程度以前である平成22年頃から,原告の販売するゲームシリーズ「マリオカート」の略称として,ゲームに関心を有する需要者の間で全国的に知られており,被告会社がこれを認識していなかったとは認め難いこと,被告会社は,本件訴訟提起前の平成29年2月23日当時,本件ドメイン名1ないし3を使用して開設したサイト(被告会社サイト,品川店サイト1,河口湖店サイト)において,「マリオカート」シリーズに登場する主要キャラクターである「マリオ」「ルイージ」等のコスチュームを着用した利用者が公道カートを運転するという本件レンタル事業のサービス内容を写真等と共に宣伝し,「みんなでコスプレして走れば,リアルマリカーで楽しさ倍増。」と記載しており,被告会社の意図が,原告の「マリオカート」シリーズにおけるゲームの世界を現実世界で体験することを売りにして顧客を惹きつけようとするものであったと推認できることからすれば……,被告会社は,原告文字表示マリカーと類似する本件各ドメイン名を使用することにより,同文字表示が有する高い知名度を利用し,原告の公認あるいは協力の下で本件レンタル事業を営んでいるかのような外観を作出し,不当に利益を上げる目的があったものと認めることができる。

ドメイン名に係る不正行為――ドメイン名の使用差止め及び登録抹消請求

争点8について、被告会社は、平成30年5月16日頃に本件ドメイン名とは異なる「marimobility.以下省略」との新たなドメイン名を使用して同社のサイトを開設しました。しかし、裁判所は、被告会社が本件各ドメイン名を営業活動に使用していないと認めるに足りる証拠はなく、本件各ドメイン名の使用行為を継続する可能性が高いというべきであるので、原告は、前記使用行為により事業活動に対する信用等の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあり、被告会社に対し、不競法3条1項に基づき、本件各ドメイン名の使用の差止めを求めることができると判断しました。

他方、裁判所は、原告文字表示「マリカー」は日本語を解しない者の間では周知性が認められないことを理由に、上記差止めは、本件各ドメイン名を外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合には認められないと判断しました。

本件ドメイン名「maricar.co. 以下省略」の登録抹消請求については、裁判所は、その使用の差止めが認められない場合(外国語のみで記載されたウェブサイトのために使用する場合)があることを理由に、これを認めませんでした。また、本件ドメイン名「maricar. 以下省略」の登録抹消請求についても、裁判所は、被告会社が平成30年1月31日までにその登録を抹消したため、理由がないと判断しました。

著作権に基づく請求

以上は不競法に関する判断ですが、原告は、著作権に基づき、原告表現物「マリオ」等の複製又は翻案の差止めを求め、また、それらの複製物又は翻案物の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを求めていました。しかし、裁判所は、以下のとおり述べ、差止めの必要性を否定しました。

原告表現物を複製又は翻案する行為には,広範かつ多様な行為があるところ,原告の請求は,絵画の著作物である原告表現物を絵画上複製するという行為がされていない本件において,差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく,広範かつ多様な態様な行為のすべてを差止めの対象とするものといえ,自動公衆送信又は送信可能化の差止めについても,その差止めの対象自体を複製物又は翻案物とすることから,同様のものといえる。このような無限定な内容の行為について,被告会社がこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めるに足りる立証はされていない。原告の前記請求には理由がない。

その結果、差止請求の前提となる争点9(本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か)について、裁判所は、判断する必要がない旨述べました。

また、原告は、著作権に基づき、本件各コスチュームが原告表現物「マリオ」等の複製物又は翻案物に当たることを前提として、被告会社にその貸与の禁止を求めていました。しかし、裁判所は、不競法に基づく差止請求には、これらのコスチュームの貸与禁止の請求が含まれる(両請求は選択的併合の関係に立つ)ので、不競法に基づく差止請求が認められれば、著作権に基づく貸与禁止の請求について判断する必要がない旨述べ、また、この請求の前提となる争点11(本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か)についても、判断する必要がない旨述べました。

被告Aに対する損害賠償請求の可否

原告は、被告Aは被告会社による不正競争行為及び著作権侵害行為を認識しながらこれに加担したのであり、会社法429条1項に基づき、被告会社と連帯して損害賠償責任を負う旨主張していました。しかし、裁判所は、以下のとおり述べ、被告Aの責任を否定しました。

被告Aの前記行為から,直ちに,同人が被告会社による被告標章1の使用行為等の原告が本件で問題とする行為が不正競争又は著作権侵害に当たると認識していたと認めることはできず,その他,同人がこれを認識しながら,あるいは容易に認識できたにもかかわらず,前記各行為を推進したと認めるに足りる証拠はない。

したがって,被告Aに被告会社の職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとは認められず,原告の前記主張には理由がない。

損害額

裁判所は、被告会社の行為は周知表示混同惹起及びドメイン名に係る不正行為に該当し、被告会社には少なくとも過失が認められるから、被告会社は、原告に対し、不競法4条本文に基づき、原告に生じた損害(原告は、被告会社が設立された平成27年6月4日から平成30年3月31日までに行われた行為の損害を請求しました。)の賠償責任を負うと判断しました。

そして、争点13について、裁判所は、不競法5条3項1号・3号(使用料相当額)に基づき、以下のとおり、原告の損害額を算定しました。

まず、損害額算定の基礎となる被告会社側の売上げについて、裁判所は、以下のとおり述べ、「関係団体が運営する各店舗における売上げを含めた本件レンタル事業による全売上げ」としました。

……被告会社は,平成27年6月4日から平成28年6月24日までは単独で,同月25日以降は少なくとも関係団体と共同して本件レンタル事業を行い,その過程で不正競争行為を行ったと認めることができるから,損害賠償額算定の基礎となる売上げは,関係団体が運営する各店舗における売上げを含めた本件レンタル事業による全売上げとすることが相当である。

この点について、被告会社は、平成28年7月1日以降の売上げを明らかにしませんでしたが、裁判所は、同日以降に店舗が拡大したこと及び平成27年6月4日から平成28年6月30日までの売上げの推移に照らし、平成28年7月1日以降の一日当たりの売上げがその直近6か月の売上げを下らないものと推認することができると述べました(なお、具体的な金額については、すべて記載が省略されています。)。

その上で、裁判所は、原告が原告の商品等表示及び著作物に関してこれまで締結したライセンス契約における実施料率、本件レンタル事業の態様、原告文字表示「マリカー」や特に原告表現物「マリオ」等に強い顧客吸引力が認められること等の諸般の事情を勘案し、一定の使用料相当額の損害を認めました(なお、具体的な金額は記載が省略されていますが、原告が被告会社の不正競争行為によって被った損害総計として裁判所が認定した額1026万4609円から弁護士費用相当損害93万円を控除した残額は933万4609円になります。)。

以上の結果、裁判所は、原告が一部請求として被告会社に請求した損害額1000万円の全額を認容し、また、遅延損害金については、原告が請求する前記期間(平成27年6月4日から平成30年3月31日)に係る不正競争行為の最終日である平成30年3月31日から生じると判断しました。

コメント

本判決は、目新しい判断基準を示したものではありませんが、他者の商品名の略称や、他者の商品に登場するキャラクターの(顔を含めた表現物全体ではなく)コスチュームを使用するビジネスに関する不競法に基づく判断を示したものとして、実務上参考になるものです。

他方、本判決は、著作権に基づく請求については、差止めの必要性や選択的併合を理由に実質的な判断を示しませんでした。いわゆるコスプレと著作権の問題には踏み込まない結果となり、この点については、今後も議論が続くことになりそうです。

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(文責・溝上)