平成30年5月23日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が成立し、同月30日に公布されました。改正事項は多岐にわたりますが、不正競争防止法については、①限定提供データの不正取得・使用等に対する民事措置の創設のほか、②技術的制限手段に関する不正競争行為の規律強化、③証拠収集手続の強化が行われます。今回は、③について解説します。

なお、①については、松下外弁護士による「不正競争防止法の改正(「限定提供データ」の新設)について」を、②については、拙稿「不正競争防止法の改正(技術的制限手段に関する不正競争行為の規律強化)について」をそれぞれご覧ください。

ポイント

骨子

  • インカメラ手続の対象が拡大され、侵害立証又は損害計算のために必要な書類であるか否かの判断に必要がある場合も書類を提示させることができるようになります。
  • インカメラ手続において、裁判所は、当事者の同意を得て、提示された書類を専門委員(外部専門家)に開示し、専門的な知見に基づく説明を聴くことができるようになります。
  • 特許法等においても同様の改正が行われます。

改正法の概要

法律名 不正競争防止法等の一部を改正する法律
法律番号 平成30年法律第33号
成立日 平成30年5月23日(第196回通常国会)
公布日 平成30年5月30日
施行日 証拠収集手続の強化については、公布日から1年6か月以内

解説

改正の経緯

第四次産業革命を背景に、安心してデータ取引をでき、データに関する投資に見合った適正な対価を得ることができるような環境の整備を目的として、平成29年7月、経済産業省の産業構造審議会知的財産分科会に不正競争防止法小委員会が設置されました。同小委員会は、従前設置されていた営業秘密の保護・活用に関する小委員会における議論を引き継ぎ、データの不正取得等の禁止、データに施される暗号化技術等の保護強化、技術的な営業秘密の保護のための政令整備を中心に検討して、平成30年1月19日、「データ利活用促進に向けた検討 中間報告」(以下「中間報告」といいます。)を取りまとめました。

そして、中間報告を踏まえた「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が同年2月27日に閣議決定され、その後、上記のとおり法律として成立しました。

インカメラ手続の対象の拡大

裁判所は、不正競争訴訟において、当事者の申立てにより、書類の提出を命ずることができますが、その書類が侵害立証又は損害計算のため必要な書類であることが要件とされています(不競法7条1項)。しかし、現行不競法においては、いわゆるインカメラ手続(書類提出命令に先立ち、裁判所が書類所持者に書類を提示させ、原則として裁判所のみが当該書類を見る手続。「カメラ(camera)」とは「裁判官の私室」を意味します。)は、書類所持者に書類の提出を拒む正当理由があるか否かの判断に必要な場合に限られているため(現行不競法7条2項)、裁判所が対象となる書類自体を見ることなく必要性を判断しており、判断のための環境が必ずしも十分ではないと指摘されています。

そこで、改正不競法においては、このインカメラ手続の対象が拡大され、正当理由の存否だけでなく、侵害立証又は損害計算のために必要な書類であるか否かの判断に必要がある場合も書類を提示させることができるようになります(改正不競法7条2項)。

インカメラ手続への専門委員の関与

また、技術が複雑であり、裁判官のみでは、その必要性の判断が困難な場合もあるため、改正不競法においては、裁判所は、専門的な知見に基づく説明を聴くことが必要であると認めるときは、当事者の同意を得て、提示された書類を専門委員(外部専門家)に開示することができるようになります(改正不競法7条4項)。

なお、現行不競法においても、裁判所は、その意見を聴くことが必要であると認めるときは、提示された書類を相手方の当事者、訴訟代理人等にも開示することができます(不競法7条3項)。裁判所が書類所持者(一方の当事者等)の見解を聴くだけで判断することによる弊害を防止するための規定です。相手方への開示にあたっては、秘密保持命令(不競法10条1項)の併用が想定されています。

特許法等における同様の改正

特許法上の書類提出命令に関する規定(特許法105条)についても同様の改正が行われます(特許法105条は、実用新案法30条、意匠法41条及び商標法39条で準用されています。)。

コメント

現在、インカメラ手続が必ずしも活用されていないとの指摘もあり、今般の改正を機に、裁判所がインカメラ手続を積極的に活用するようになることが期待されます。

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(文責・溝上)