エネルギーの使用の合理化等に関する法律の一部を改正する法律(省エネ法)の改正法案が第196回通常国会で可決されました。改正法の施行日は、公布の日から起算して6か月を超えない範囲において政令で定める日となります(ただし、改正法により新たに荷主とされた者の輸送量の届出義務については、公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日から)。
本稿では、省エネ法の概要を紹介の上、改正内容について解説します。なお、詳細については、経済産業省のウェブサイトもご参照下さい。
ポイント
骨子
省エネ法は、日本国内におけるエネルギーの有効利用を確保することを目的とする法律であり、その主な内容は、①工場等の設置者や輸送事業者・荷主が達成することが望まれる省エネの目標設定を行い、エネルギー消費量等が一定以上の事業者に対して中長期計画の作成や定期報告等を義務付けることと、②自動車や家電製品等につきエネルギー消費効率の目標を設定し、製造事業者等に対して達成を求めるものとなっています。
今回の改正では、特定事業者における報告主体の柔軟化と、ネット通販による輸送部門のエネルギー消費が増大したことを受け、輸送部門における省エネ促進のための対策として、荷主の範囲を広げることが行われました。この改正により、より多くの事業者が省エネのための措置を講ずることが意図されています。
解説
省エネ法の概要
制定及びこれまでの改正の経緯
省エネ法は石油危機を契機として1979年に制定された法律ですが、1993年の法改正により、「内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じた燃料資源の有効な利用の確保に資するため、工場等、輸送、建築物及び機械器具等についてのエネルギーの使用の合理化に関する所要の措置、電気の需要の平準化に関する所要の措置その他エネルギーの使用の合理化等を総合的に進めるために必要な措置等を講ずることとし、もつて国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的とすることとされ、エネルギーの有効利用を確保することが目的として明記されました(第1条)。
1997年に京都議定書が採択され、日本は二酸化炭素を含む温暖化を促進する6種類の規制物質につき6%の削減を行うこととされました。これは法的拘束力のある数値目標であるとされていたため、温室効果ガス削減のための具体的な施策を講じる必要が生じました。
これを受けて、1998年6月に法改正が行われ、具体的対策として、①対象となる工場や事業場を広げてエネルギー使用の合理化を図るための措置が採られるとともに、②自動車や家電製品等の機械器具等に関する燃費基準などの目標値が強化されました。
さらに、2002年、2005年、2008年及び2013年にも法改正が行われ、対象事業者や事業所の拡大や対象分野の拡大が行われ、省エネのための措置が強化されてきています。
地球温暖化対策との関係における本法律の位置づけ
上記のとおり、京都議定書の採択を契機として省エネ法で具体的な対策が採られるようになっていることからも分かるように、省エネ法は地球規模での温暖化対策のために日本が具体的に行うべき措置を定める国内法に位置付けられる法律です。
他方、日本のエネルギー政策に関しては、2002年に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、国がエネルギー基本計画を策定し、3年ごとに見直しがなされています。省エネ法は、このエネルギー基本計画を実現するための具体的な施策としての意味も有しています。
なお、地球温暖化への対策を具体的に定める国内法としては、地球温暖化対策の推進に関する法律があります。同法は適用対象となる事業者に対して温室効果ガスの排出量を報告することを求めており(省エネ法はエネルギー使用量等の報告)、省エネ法による省エネにおけるものと同種の施策を含んでいます。
法律の概要
上記のとおり、省エネ法における施策は、大きく分けて、①工場等の設置者や輸送事業者・荷主が達成することが望まれる省エネの目標設定を行い、エネルギー消費量等が一定の量以上の事業者に対して中長期計画の作成やエネルギー使用量の定期報告等を義務付けることと、②自動車や家電製品等につきエネルギー消費効率の目標を設定し、製造事業者等(対象となる事業者は「エネルギー消費機器等製造事業者等」と定義されます。77条1項。)に対して達成を求めるということの二つからなっています。
上記①は、エネルギーの使用量や貨物の輸送能力ないし輸送させる貨物の量が一定以上の事業者を「特定事業者」、「特定貨物輸送事業者」、「特定荷主」と定義し、エネルギー使用の合理化の目標達成のための計画を作成するとともに、エネルギーの使用量やエネルギーの使用の合理化の状況等に関し、経済産業省令で定める事項につき定期の報告を行わせるものです(14条、15条、55条、56条、62条、63条)。こうした計画や報告を通じて、事業者の自主的な取組を促すことが意図されています。
上記②における目標数値は、現在商品化されている商品のうち、エネルギー効率が最も優れているものを基準として、これに今後予想される技術進歩を勘案して設定されるという点(トップランナー方式)が重要です。平成30年3月作成の資源エネルギー庁の資料によれば、このトップランナー制の下で、ガソリン乗用車の燃費は1996年から2014年で97%、エアコンの効率は、2001年から2014年で31%改善しました。
上記①については、経済産業使用の定める判断基準に照らして合理化が著しく不十分である場合には、主務官庁は、特定事業者に対してエネルギーの使用の合理化に関する計画の作成や修正を命じたり、公表、命令を出すことができます(16条、57条、64条)。
②についても、基準に照らしてエネルギー消費性能等の向上を相当程度行う必要があると認めるときは、主務大臣は、当該エネルギー消費機器等製造事業者等に対して、勧告、公表、命令を行うことができます(79条)。また、①、②いずれについても罰則規定が設けられています(95条)。
改正の内容
改正の目的
今回の法改正の目的は、2015年に策定されたエネルギー基本計画に基づく2030年度のエネルギーミックス(電源構成)を達成することです。
2018年策定のエネルギー基本計画の草案によれば、この2030 年のエネルギーミックスは、既存のインフラ・技術・人材を総合的に勘案し、相応の蓋然性をもって示された見通しであり、当該見通しは、国連気候変動枠組条約事務局に提出された「日本の約束草案」における削減目標(2013 年度比▲26%)の基礎となるものです。
そして、2030年度のエネルギーミックスを達成するためには、現在のエネルギー消費効率を35%改善することが必要であると試算されています。そこで、法改正により、エネルギーの消費効率を更に改善するための措置が採られることになりました。
今回の法改正は、具体的には、大きく分けて、①定期報告等の報告の単位の柔軟化と②運輸部門の改善のための「荷主」の範囲の拡大の2つです。また、細かな点としても、省エネのための設備投資に対する税制優遇措置等が盛り込まれていることには注目されます。
報告の単位の柔軟化
工場・事業場、荷主及び輸送事業者に課されている事業者におけるエネルギーの使用状況の報告については、企業単位で行うものとされていましたが、企業の連携による省エネ量を企業間で配分して報告することが可能となりました。
上記のとおり、省エネ法上の施策によって、産業・業務部門のエネルギー効率は相当改善したものの、近年は足踏み状態でした。この状況を打開するために、企業単位での取り組みだけでなく、複数の企業が連携する新たな省エネの取組によって、省エネ設備投資をさらに加速させ、エネルギー消費効率を改善させるという考え方が取り入れられるようになりました。
具体的には、まず、従前は企業単位で行うべきとされていた定期報告について、「連携省エネルギー計画」の認定を受けた者は連携省エネの省エネ量を企業間で分配して定期報告することが可能となりました(46~50条、117~121条、134~138条)。
これによって、例えば、ある会社の事業所の設備の一部を別の会社に統合した場合、2社を併せると全体としてエネルギー効率が改善しているものの、統合側のエネルギー効率だけ見ると悪化しているといった問題が解決し、設備の統合が進むことが期待されます。
また、グループ企業においても、一体的に省エネ取組を行うことについて認定を受けた場合、親会社による省エネ法の義務の一体的な履行が可能となりました(「認定管理統括事業者」と定義されます。29条)。ここで親会社が一括報告可能な子会社は、改正法においては、当該会社の100%子会社またはそれと密接な関連を有する者として経済産業省令で定める者です。この経済産業省令は未整備のため、今後の動向を注視する必要があるでしょう。
これによって、特定事業者に当たる会社に同様に特定事業者当たる子会社がある場合、親会社において定期報告等を一括して行うことが可能となり、グループ会社全体としての省エネが進むことが期待されます。また、このような事業者において、定期報告の事務負担の低減の効果もあると思われます。
貨物分野における更なる省エネ推進
貨物分野においては、ネット通販市場が急速に拡大(5年で1.8倍)したことに伴い、小口配送・再配達が増加したことによるエネルギー消費量の増加の問題がありました。また、BtoBの輸送において荷受け側において手持ちが相当程度発生しておりそれによるエネルギー消費が発生していましたが、法律上荷受け側には省エネ義務が課されないという問題点がありました。
この点、従前の法律では、省エネ法上の義務「荷主」は貨物の所有者であると定義されていましたが、ネット小売事業者には貨物の所有権を持たない者も存在し、こうした事業者には省エネ法の義務を課せないという問題点がありました。
そこで、改正法では、貨物の所有権を問わず、契約当で輸送方法を決定するものが荷主であるとする定義の見直しを行いました(105条)。これによって、貨物の所有権のないネット小売事業者も、輸送方法を決定していれば荷主として省エネ法上の義務を負うことになります。この改正では、「荷主」として定義される複数のネット小売事業者が共同で配送を行ったり、物流拠点を共有する等の省エネのための取組を行ったりすることが期待されています。
上記BtoBの輸送の場合の対策としては、荷主が決定した輸送方法の下で、到着日時等を指示できる貨物の荷受け側を「準荷主」と位置付け(106条3項)、貨物輸送の省エネについての努力義務が定められました(106条1項、2項)。
省エネ支援策の強化
また、企業が上記の省エネのための取組を行うための経済的な支援についても定められました。
まず、企業の連携による取組については、認定された「連携省エネルギー計画」の実施に必要な設備投資に対する税制優遇措置が新設されました。なお、省エネの取組への設備投資への補助金についても継続されます。
また、荷主定義の見直しに関しても同様に「荷主連携省エネルギー計画」の実施に必要なシステム等の設備投資に対する税制措置が採られ、設備投資に対する補助金についても継続されます。
コメント
2015年末に採択され、翌2016年に発効したパリ協定では、すべての締約国が削減目標を5年ごとに提出・更新するとともに、その実施状況を報告し、レビューを受けることになっており、京都議定書の内容を更に推し進めたものとなっています。一連の国際的な合意を達成するためには、日本国内における温室効果ガスの削減のためにより実効的な取組を行うことが急務となっています。
また、グローバルにおけるESG投資の拡大や、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択等、企業に対して環境に配慮した経営を求める潮流もあることから、企業においても、これまで以上に、省エネを含む環境に配慮した経営を行う必要性が高まっていると思われます。
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(文責・町野)