平成30年3月26日、東京地方裁判所民事第29部(嶋末和秀裁判長)は、ルイ・ヴィトン製品の代表的な柄「モノグラム」の一部を付した商品の無断販売等が問題となった事案について、原告(ルイ・ヴィトン仏国法人)の損害賠償請求を一部認める判決を言い渡しました。著名表示冒用行為(不正競争防止法2条1項2号)を理由とする損害賠償請求の各要件について具体的に検討している点や、信用毀損等の無形損害を認めた点で実務上参考になりますので、紹介します。

ポイント

骨子

  • 原告標章は、販売実績や広告宣伝状況によれば、被告商品の販売等の時点において著名であったことは明らかである。
  • 被告標章の使用態様からすると、被告標章は出所識別機能を有する態様で用いられているものと認められ、デザインとしての使用であり商品等表示として使用ではない旨の被告の主張は採用できない。
  • 著名表示冒用行為にあっては、著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し、稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か、すなわち、容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものであるから、誤認混同のおそれの有無に関する事情は類似性の判断に影響を与えない。
  • 被告による著名表示冒用行為は、原告が長年の企業努力により獲得した原告標章の著名性及びそれにより得られる顧客誘引力を不当に利用して利得するものであり、原告の企業努力の成果を実質的に減殺するものであるから、需要者の原告商品又は原告標章に対する信用や価値が毀損され、原告は無形の損害を被ったものと認められる。その額は、一義的に算出され得るものではないが、諸事情を総合考慮すると、50万円と認めるのが相当である。

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事第29部
判決言渡日 平成30年3月26日
事件番号 平成29年(ワ)第5423号 損害賠償請求事件
裁判官 裁判長裁判官  嶋 末 和 秀
裁判官     伊 藤 清 隆
裁判官     西 山 芳 樹

解説

著名表示冒用行為の成立要件

著名表示冒用行為とは、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為」をいいます(不正競争防止法2条1項2号)。著名表示冒用行為は不正競争の1つであり、これによって営業上の利益を侵害される(又はそのおそれがある)者は、差止請求権(不正競争防止法3条)及び損害賠償請求権(侵害者の故意又は過失が要件。不正競争防止法4条)を行使することができます。

原告が被告に自己の著名表示を冒用されたと主張して損害賠償等を請求するにあたっては、特に以下の要件がよく問題になります。本件においても、これらの要件が問題になっていました。

  • 原告の商品等表示の著名性
  • 被告による自己の商品等表示としての使用
  • 原告の商品等表示と被告の商品等表示との同一・類似性

周知表示混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)とは異なり、著名表示冒用行為においては、著名性という周知性よりハードルの高い要件が存在する代わりに、出所混同のおそれは要件とされていません。著名表示冒用行為規制の目的は、出所混同の防止ではなく、著名表示とその主体との一対一の対応関係や著名表示のブランドイメージの希釈化(ダイリューション)や、著名表示が持つイメージの汚染(ポリューション)の防止にあります。

類似性の判断手法

東京地裁平成20年12月26日判決[黒烏龍茶]は、「不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準も,同項1号におけるそれと基本的には同様であるが,両規定の趣旨に鑑み,同項1号においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。」と述べました。

このように、著名表示冒用行為の類似性判断においては、「容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否か」が基準となり、周知表示混同惹起行為と異なり、出所混同のおそれの有無は問われません。したがって、周知表示混同惹起行為と比較すると、著名表示冒用行為については、商品・営業の違いにより出所混同のおそれが生じ得ない場合であっても類似性が認められるという点では類似の範囲が広く、他方、単に類似するだけでなく、容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示が要求される点では類似の範囲が狭いといえます。

信用毀損等の無形損害の賠償

故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する義務を負います(不正競争防止法4条本文)。損害には、売上げの減少等の有形損害のみならず、名誉や信用に対する無形損害も含まれます。不正競争による無形損害は常に認められるものではありませんが、著名ファッションブランドのイメージが侵害された事案では、信用毀損等の無形損害を認めた裁判例が少なくありません。

著名表示冒用行為に関する近年の裁判例として、東京地裁平成26年5月21日判決は、被告がエルメスの高級ハンドバッグ「バーキン」の類似品を輸入・販売していた事案について、被告商品は「原告商品が1個100万円程度の価格を維持しているのに比して著しく粗悪な商品というべきであるから,被告各商品のインターネットを通じた販売により,原告は原告商品に係る信用を毀損された」と述べ、事案の全事情を総合して、150万円の信用毀損に基づく損害を認めました。

また、商標権に関するものですが、大阪高裁平成20年12月24日判決は、被告が高級ブランド「DAKS」の商標権を侵害するベルトを輸入・販売していた事案について、「低品質の本件商品がダックスブランドの正規品として著しい低価格で宣伝広告,販売され,上記リリース(引用者注:商標権侵害がないと考えていること等を内容とする一般投資家向けのリリース)が発表されたこと等により,ダックスブランドのブランド価値は相当に毀損され,被控訴人らの信用回復も妨げられたものというべきであ」ると述べ、200万円の無形損害を認めました。

なお、無形損害の額に関する事実の立証は事実の性質上極めて困難であることが少なくないため、基本的には不正競争防止法9条により裁判所が相当な損害額を認定することになるものと思われます。

事案の概要

原告は、ルイ・ヴィトン仏国法人であり、ブランドの代表的な柄である「モノグラム」(以下「原告標章」といいます。)を登録商標とする商標権を有しています。被告は、ウェブページ及び店舗で衣服、靴等を販売している個人です。

本件において、原告は、被告が原告標章と同一又は類似の標章を使用した商品(以下「被告商品」といいます。)を販売等しており、これが原告の商標権を侵害し又は侵害するものとみなされる旨主張するとともに、原告の商品等表示として周知又は著名な商品等表示と同一又は類似の使用した商品を譲渡又は譲渡のために展示したものであって周知表示混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)又は著名表示冒用行為(同項2号)に該当する旨主張して、被告に対し、民法709条又は不正競争防止法4条に基づき、損害賠償として、108万1490円(侵害者が侵害により得た利益の額。商標法38条2項又は不正競争防止法5条2項により原告の損害額と推定されます。)、108万1490円(先の損害額とは別途の信用毀損等による無形損害額)及び21万6298円(弁護士費用)の合計額237万9278円と遅延損害金の支払を求めました。

原告標章や被告商品の実物については、判決全文の別紙をご覧ください。

争点

本件の争点は、以下のとおりです。ただし、東京地裁は、不正競争に関する争点(2-1、2-2)から判断し、商標権侵害に関する争点(1-1、1-2)については判断しませんでした。

1. 被告の行為が原告の商標権を侵害するか
1-1.原告の商標と被告標章とは同一又は類似か
1-2.被告商標の使用は非商標的使用(商標法26条1項6号)に当たるか
2. 被告の行為が不正競争に該当するか
2-1.原告標章は原告の商品等表示として周知又は著名か
2-2.被告は被告標章を商品等表示として使用した商品を販売等したか
2-3.原告標章と被告標章は同一又は類似か
2-4.原告が周知であるが著名ではない場合、混同のおそれがあるか
3. 原告の損害額

判旨

原告標章の著名性

争点2-1について、東京地裁は、以下のとおり述べ、原告標章の著名性を肯定しました。

……原告はバッグ類,袋物及び被服等で知られる世界的に著名な高級ブランドを擁するフランス法人であるところ,原告標章は,1896年から現在まで原告商品に使用されて世界的に広く知られるに至っていること,原告標章を使用した商品の日本での販売実績は,平成26年から平成28年の3年間の平均で毎年●(省略)●円を超えていること,原告は,自ら又は日本における子会社を通じ,多額の広告宣伝費用を支出して,多数のファッション誌や全国紙等に原告標章の広告宣伝の掲載を依頼していること,雑誌発行者側からの依頼により原告標章に関する特集・紹介記事が掲載される場合の掲載状況も多数に上ること,テレビコマーシャルによる広告宣伝費用にも多額の費用が支出されており,多数のコマーシャルが放映されていることが認められるから,被告各商品が販売等された平成25年3月の時点において,原告標章が著名であったことは明らかである。

原告標章の著名性を認めるにあたっては、以下の要素が考慮されています。販売実績や広告宣伝数を考慮するのは従来の裁判例と同様です。

  • 原告のブランドの著名性
  • 原告標章の使用開始時期、世界での認知度
  • 原告標章を使用した商品の販売実績
  • 雑誌、新聞等に原告標章の広告宣伝を依頼した際の費用の額・方法
  • 外部からの依頼に基づく原告標章に関する特集・紹介記事の掲載数(本件では、平成28年から平成29年に限っても36媒体)
  • テレビコマーシャルによる広告宣伝の費用・本数(本件では、平成24年に約1か月間で60秒のコマーシャルが104本、平成25年に約2週間で90秒のコマーシャルが19本)
自己の商品等表示としての使用

争点2-2について、被告は、原告標章の一部の使用はあくまでデザインとしての使用であり、「自己の商品等表示として」の使用ではない旨主張していました。

この点について、東京地裁は、以下のとおり述べ、先に不正競争防止法2条1項2号の「自己の商品等表示として」の解釈を示しました。従来の裁判例と同様の解釈といえます。

不正競争防止法2条1項2号の趣旨は,著名な商品等表示について,その顧客吸引力を利用するただ乗りを防止するとともに,その出所表示機能及び品質表示機能が稀釈化により害されることを防止するところにあると解されるから,同号の不正競争行為というためには,単に他人の著名な商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず,それが商品の出所を表示し,自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。

そして、東京地裁は、以下のとおり述べ、原告が原告標章(モノグラム柄)のみにより(「LOUIS VUITTON」という文字を併記せずに)原告商品の出所を識別させており、原告標章に関するそのような使用態様と被告標章の使用態様に共通性があることを理由に、被告標章は出所識別機能を有する態様で用いられている、すなわち「自己の商品等表示として」使用されている旨の判断を示しました。

……原告はバッグ類,袋物及び被服等で知られる世界的に著名な高級ブランドを擁するフランス法人であるところ,原告標章は,1896年から現在まで原告商品に使用されて世界的に広く知られる標章であり,原告商品にのみ付され,大規模かつ継続的な宣伝広告により,著名性を有するものであることからすれば,高い出所識別機能を有する商品等表示として使用されているものである。そして,その使用態様は,商品に応じて原告モノグラム表示の一部を切り取って商品に付されて使用されるという特徴を有しており,必ずしも「LOUIS VUITTON」との文字商標を必要とはしていない。

被告標章1ないし7は,原告標章を構成する原告記号aないしdと同一の記号により構成され,その配置も原告標章と同一なものの一部分であり,被告標章8は,被告記号eや,被告記号aないしdをカラーにした点が異なるが,それらの記号が原告標章と同一の配置とされたものの一部分であり,被告各商品に応じて被告各標章の一部を切り取って商品に付されて使用されている。

このような被告各標章の使用態様からすると,被告各標章は出所識別機能を有する態様で用いられているものと認められ,デザインとしての使用であり商品等表示として使用ではない旨の被告の主張は採用できない。

原告標章と被告標章との類似性

争点2-3について、被告は、被告商品は被告が中古購入した原告商品の一部をデザインの一部として組み込んで制作したものであり、被告商品には原告標章の一部しか付されていないこと(被告反論①)、被告商品を販売等するウェブサイトには「REMAKE」(「作り直された品」)、「CUSTOM」(「あつらえ品」「改造品」)と記載されており、また、価格や購入層の違いにより市場の重なりもないため、取引者や需要者における誤認混同のおそれはないこと(被告反論②)を理由に、原告標章と被告標章とは同一でも類似でもない旨主張していました。

これに対し、東京地裁は、以下のとおり述べ、類似性を肯定する判断を示しました。これは、被告反論①を踏まえ、原告も原告商品に応じて原告標章の一部を切り取って使用しており、原告標章に関するそのような使用態様と被告標章の使用態様に共通性があることを理由に、一般の需要者においては全体的に両者を類似のものと受け取るおそれがあると認めたものといえます。

不正競争防止法2条1項2号の「類似」に該当するか否かは,取引の実情の下において,需要者又は取引者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきである。

前記認定のとおり,原告標章と被告各標章は数種類の記号の集合体であり,特段の称呼及び観念は生じないから,それらの外観について検討する。そして,被告標章1ないし7は,原告標章を構成する原告記号aないしdと同一の記号により構成され,その配置も原告標章と同一なものの一部分であり,被告標章8は,被告記号eや,被告記号aないしdをカラーにした点が異なるが,それらの記号が原告標章と同一の配置とされたものの一部分であり,原告標章と同様に,被告各商品に応じて被告各標章の一部を切り取って商品に付されて使用されている。そうすると,原告標章と被告各標章とは,一般の需要者が外観に基づく印象として,全体的に両者を類似のものと受け取るおそれがあると認められる。

他方、被告反論②については、東京地裁は、以下のとおり述べ、周知表示混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)と対比して、そもそも誤認混同のおそれの有無は著名表示冒用行為に関する類似性判断の考慮要素ではない旨指摘しました。上記東京地裁平成20年12月26日判決と同じ立場といえます。

……不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号の不正競争行為にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものであるから,被告指摘の事情は類似性の判断に影響を与えるものではなく,失当である。

不正競争防止法5条2項の適用により算定される損害額

争点3について、被告は、原告商品と被告商品とは、デザインが全く異なるうえ、価格や需要者層が異なるから、需要者が被告商品を購入しなかった場合に原告商品を購入するであろうという相互補完関係が認められず、本件に不正競争防止法5条2項は適用されない(被告が侵害により得た利益が原告の損害額と推定されない)旨主張していました。

この点について、東京地裁は、以下のとおり述べ、不正競争防止法5条2項と同様の推定規定である特許法102条2項に関する知財高裁平成25年2月1日判決を参照して、「不正競争によって営業上の利益を侵害された者に、侵害者による営業上の利益の侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合」には不正競争防止法5条2項の適用がある旨の判断を示しました。

不正競争防止法5条2項は,不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額を推定すると規定しているところ,不正競争によって営業上の利益を侵害された者に,侵害者による営業上の利益の侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,同項の適用が認められると解される(知的財産高等裁判所平成24年(ネ)第10015号・平成25年2月1日判決参照)。

そして、東京地裁は、以下のとおり述べ、販売形態の共通性、需要者層の一定の重なり合いを理由に、本件では「侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」が認められると判断しました。

……原告標章と被告各標章とが類似していることに加え,原告商品は一般消費者に対して店舗での販売以外にもインターネットのウェブサイトにおいても販売されているところ,被告各商品も一般消費者に対してインターネットのウェブサイトにおいて販売されていること,被告各商品の価格は,原告商品よりは安価であるものの相応に高価格であり,その需要者層には一定の重なり合いがあると推認されることに照らすと,原告には,被告による侵害行為がなかったならば,利益を得られたであろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,不正競争防止法5条2項の適用が認められるというべきである。

その結果、東京地裁は、不正競争防止法5条2項の適用により算定される損害額は、被告が被告商品の販売により少なくとも得た利益の額である108万1490円であると認めました。

無形損害の額

争点3について、原告は、需要者の原告商品又は原告標章に対する信用や価値が毀損されて無形の損害を受け、その額は少なくとも上記と同額の108万1490円であると主張していました。

この点について、東京地裁は、以下のとおり述べ、原告標章の著名性に加え、原告による商品の品質とブランドイメージの管理、知的財産権の保護・管理事業その他諸活動、知的財産権侵害に対する対応を指摘するとともに、原告商品と被告商品における品質の相違を認めました。

……原告はバッグ類,袋物及び被服等で知られる世界的に著名な高級ブランドを擁するフランス法人であり,原告標章も世界的に広く知られるに至っていること,原告標章を使用した商品の日本での販売実績が多額に上っていること,原告は,多額の広告宣伝費用を支出して,多数のファッション誌や全国紙,テレビコマーシャル等に原告標章の広告宣伝の掲載を依頼していることなどから,原告標章は被告各商品が販売等された平成25年3月の時点において著名であるばかりか,原告は,創業当初から偽造品対策に取り組んできており,商品の品質とブランドイメージを管理する目的から,限定された販売方法をとっていること,原告の子会社は,原告の知的財産権の保護・管理事業を行うほか,知的財産に関するセミナーやシンポジウムを開催したり,特集記事やテレビ報道等の活動を行い,原告の知的財産権の侵害に対しては,インターネット市場における侵害行為の監視,これに対する警告や損害賠償請求,警察の捜査への協力,税関当局との連絡等の多大な努力を払っている。これらに加えて,被告各商品は,原告商品と同様に一般消費者に対してインターネットのウェブサイトにおいて販売されているところ,被告各商品の価格は,原告商品よりは安価であるものの相応に高価格であるが,被告商品4について見るに,原告商品と比較して,縫い目の美しさの違いや生地とソール部分の隙間の有無等の点において,粗雑な品質であることが認められるところであり(甲35),その品質において相違が存在するものと推認される。

その上で、東京地裁は、以下のとおり述べ、原告の無形損害を肯定し、他方で損害額の算出の困難性を考慮して、原告の被った信用毀損等の無形損害の額を50万円と認めました。

そうすると,被告による不正競争行為は,原告が長年の企業努力により獲得した原告標章の著名性及びそれにより得られる顧客誘引力を不当に利用して利得するものであり,原告の企業努力の成果を実質的に減殺するものであるから,需要者の原告商品又は原告標章に対する信用や価値が毀損され,原告は無形の損害を被ったものと認められる。この損害は,その性質上,一義的にその金額が算出され得るものではないが,原告の事業規模や事業内容,宣伝広告の態様やそれに費やした費用,日本における営業活動の内容,原告標章を維持するための原告の努力のほか,被告各商品の販売期間や得た利益額,その結果認められた原告の逸失利益額等を総合考慮すると,原告が被った信用毀損等の無形損害の額は,50万円と認めるのが相当である。

その他弁護士費用として15万円の損害が認められています。

コメント

本判決は、著名ファッションブランドのイメージが侵害された事案について、著名表示冒用行為の成立と無形損害の発生を認めた新たな一例として実務上参考になるものです。

裁判所が認める信用毀損等の無形損害の額は、本件では50万円、近年の裁判例でも200万円程度にすぎません。しかし、実際の無形損害はそれ以上に発生している可能性も高いため、著名表示を有する企業としては、裁判において、少しでも多くの損害賠償金を得ておきたいところです。また、著名表示を冒用する業者の資力等によっては、たとえ50万円でも賠償金額を上乗せできれば、相当のインパクトを与えることができ、ひいては同様の業者に対する抑止力となり得ます。

もっとも、過去の裁判例においては、無形損害を否定したものも散見されますので、主張にあたっては慎重な検討が必要です。

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(文責・溝上)