コーヒーチェーン店と類似の店舗外観を施した喫茶店に対し、コーヒーチェーン店側が店舗の外観等の使用禁止の仮処分を求めていた事案で、東京地方裁判所は、平成28年12月19日、当該店舗用建物の使用ならびにウェブサイト等での店舗外観の写真及び絵の使用を禁止する仮処分決定を出しました。
本件は、裁判所が店舗の外観が不正競争防止法における「商品等表示」に該当することを認めた上で、差止を認容した初めてのケースであり、大きな意義があると思われます。

ポイント

骨子

本件は、コーヒーチェーン店が、類似の外観の店舗で類似の方法で飲食物の提供をしていた喫茶店に対し、類似の外観を有する店舗並びにその写真や絵の使用及び同店舗と合わせて店内で使用される飲食物とその容器の組み合わせの使用禁止の仮処分を求めた事件です。

本件の重要な争点は、店舗の外観(外装、店内構造及び内装)と、さらにそれらとともに使用される飲食物と容器の組み合わせが不正競争防止法2条1項1号及び2号の「商品等表示」に該当するかという点です。過去にこの点につき判断した裁判例は少なく、また、商品等表示該当性を認めたものはこれまでありませんでした。

裁判所は、本件において、コーヒーチェーン店の店舗外観が「商品等表示」に該当することを認めました。その上で、当該表示に周知性があること及びこれと喫茶店の外観が類似するとの判断をし、喫茶店に対して店舗建物とその写真及び絵の使用の禁止を命ずる仮処分決定をしました。

他方、店舗外観とともに使用される飲食物と容器の組み合わせについては、「商品等表示」に該当しないと判断し、差し止めを否定しています。

決定概要

事件番号 平成27年(ヨ)第22042号 仮処分命令申立事件
裁判所 東京地方裁判所民事第29部
決定言渡日 平成28年12月19日
裁判官 裁判長裁判官 嶋末 和秀
裁判官 笹本 哲朗
裁判官 天野 研司

解説

不正競争防止法の規定

他人の「商品等表示」として需要者に広く認識されているものを使用して営業主体の混同を生じさせる行為や、自己の「商品等表示」として他人の著名な「商品等表示」と同一もしくは類似のものを使用する行為は、不正競争防止法上の不正競争行為にあたります(不正競争防止法2条1項1号、2号)。

「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と定義され、例えば、会社のロゴや商品のパッケージなどがこれに該当します。

店舗外観が「商品等表示」に当たるか – 米国の例

米国の連邦商標法においては、「取引において商品若しくはサービス又は商品の容器に付した若しくはそれに関連した語、用語、名称、記号、図形若しくはそれらの結合」について虚偽や誤認を生じさせる記述をし、それが他人の商品やサービスの出所との誤認や混同を生じさせるおそれがある場合には、当該他人からの民事訴訟における責任を負うと定められています(43条(a))。また、この規定によって法律上の保護を受けるためには商標登録の有無は問われません。このような商品やサービスに付した語や名称などにより作り出された事業に関する総合的なイメージを米国では、Trade Dress(トレードドレス)と称しており、商標登録をされていないトレードドレスの侵害についても本条により権利救済を求めることが可能であると解されています。

実際に類似する店舗デザインの使用について、トレードドレスの侵害を認めたリーディングケースとして知られているのは、Taco Cabana International Inc. v. Two Pesos Inc. (505 U.S. 763 (1992))です。この事案では、メキシコ料理の店舗の外観が類似しているとして争いになったところ、第5巡回連邦控訴裁判所は、Taco Cabana (原告)の(店舗における)視覚的要素の組み合わせは併せて特徴的な視覚的印象を作り出す可能性のあるものであり、保護される旨判断し、デザインの類似する被告店舗の営業につきトレードドレスの侵害を認めました。

店舗外観や商品販売上の特徴的組合せが「商品等表示」に当たるか – 日本の裁判例

日本においては、類似する店舗の外観や商品販売上の特徴的な組合せを使用する行為につき、不正競争防止法に基づく差止及び損害賠償の請求がされた事案は過去にいくつかありますが、裁判所はいずれも請求を認めていませんでした。

店舗外観の不正競争防止法による保護につき判断した事例として著名なものとしては、大阪高判平成19年12月4日(まいどおおきにめしや事件)があります。この事案では、店舗外観が「商品等表示」に該当するかについては立ち入った判断はしておらず、店舗外観につき類似性が認められるためには、「少なくとも、特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており、その結果,飲食店の利用者たる需要者において、当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきである」とした上で、需要者の目を惹く部分が類似しない等と述べて、不正競争行為の成立を否定しています。

また、大阪地判平成22年12月16日(西松屋事件)は、商品陳列のデザインが「商品等表示」に該当するかが争われました。この点につき、裁判所は、商品陳列デザインは本来的には商品等表示に当たらないとした上で、「もし商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら、それは商品陳列デザインそのものが、本来的な営業表示である看板やサインマークと同様、それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる」とし、問題となった商品陳列デザインはこのような場合には当たらないとしました。

判示事項

本決定は、①店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、②当該外観が需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、「商品等表示」に該当するとした上で、店舗外観が「商品等表示」に該当することを認めました。

他方で、当該外観を持つ店舗内で提供される飲食物と容器の組み合わせについては、営業主体を表示する機能を持つものではないとして、「商品等表示」には当たらないとしています。

決定では、店舗外観がどのような場合に商品等表示に該当するかにつき、次のように述べています。

店舗の外観(店舗の外装、店内構造及び内装)は、通常それ自体は営業主体を識別させること(営業の出所の表示)を目的として選択されるものではないが、場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを一つの目的として選択されることがある上、①店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、②当該外観が特定の事業者(その包括承継人を含む。)によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不正競争防止法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」に該当するというべきである。

以上のような規範を立てた上で、裁判所は、上記①の要件につき、本件のコーヒーチェーン店の店舗外観については、特定された構成要素に記載の「多数の特徴が全て組み合わさった外観は、建築技術上の機能や舗の店舗イメージとして、来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して選択されたもの」であり、そのように選択された特徴的な外観は、客観的に同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有している(他との十分な識別力を有しているということもできる。)と判断しました。

また、②の要件については、コーヒーチェーンは、全国展開していく中で、その郊外型店舗の外観について標準化が進められ、それは、もともと特定の店舗イメージを具現することを目して標準化されたものであること、この店舗表示を自らまたはフランチャイジーを通じて継続的・独占的に使用してきたこと、宣伝・報道を通じてその外観が視聴者・読者等に知られてきたこと、今回の類似の喫茶店ができたことで、コーヒーチェーン側に実際に複数の問い合わせがきていること、といった事実を認定した上で、本件店舗外観が一定の商圏内で需要者の間に広く認識されるに至っていたと認め、結論として、店舗外観が「商品等表示」に当たると判断しました。

その上で、不正競争防止法上の他の要件である表示の周知性及び喫茶店の外観との類似性をいずれも認め、喫茶店側に対して店舗建物とその写真及び絵の使用の禁止を命ずる仮処分決定を出しました。

一方、上記外観を有する店舗内で提供する飲食物と容器の組み合わせについては、以下のように述べて、商品等表示には当たらないと判断しています。

一般に、喫茶店において提供する飲食物の容器は、飲食物の提供という本来の目的を十分に果たすように当該飲食物に合わせて選択される(ただし、商品たる飲食物とその容器たる食器とが必ずしも1対1に対応するとは限らない)上、客の目を惹くようなデザインの食器が選択されることもあるが、提供商品たる飲食物とその容器との組み合わせ(対応関係)が営業主体を識別させる機能を有することはまれであるとみられる。こうしたことから、もともと飲食物と容器の組み合わせ表示のみでは、出所表示機能が極めて弱く、店舗外観以上に営業表示性を認めることは困難であるとかいされるところ・・・・各商品(飲食物)がそれぞれこれに対応する各容器(食器)と組み合わされて提供されるというのであるが、来店者や視聴者等の中で、これらの対応関係・組み合わせに気を留め認識するに至ったものがどの程度いるか甚だ疑問である。にも関わらず、・・(当該表示がコーヒーチェーンの)営業表示である旨広く知られていたことが疎明されているとはいえない。・・・(よって)営業表示性を獲得していたことを根拠付けるに足りる疎明はないといわざるを得ない。

コメント

チェーン展開などで多数の店舗を展開する場合には、意図的に店舗の外観やデザインを統一し、それによってひと目で「その店」であることを認識してもらうようにしている場合は少なくありません。

決定文によれば、本件ではコーヒーチェーン側は、類似店舗の開店後、別途、店舗名の外壁文字部分も含んだ店舗外装について立体商標も取得しています。店舗外観につき法律上の保護を図るためには、このように立体商標の取得を検討しておくことは重要です。

もっとも、立体商標についても登録審査では識別力が問われることから、単純な代替手段となるわけではありません。今後は増えていくことが予想されるものの、現時点での店舗外観の立体商標の登録数は飲食店としては10件弱であり、まだ利用が進んでいる状況ではありません。

そうした状況において、本件は、戦略的に作り出した店舗営業の顧客吸引力に一定の保護を与えるものといえます。

他方、本決定では、店舗外観の特徴の特定が詳細になされており、実際に裁判になった場合に、その保護されるべき「表示」としての店舗外観の特徴を的確に特定することが必要となることも示唆していると考えられます。

本件は店舗外観が酷似していたことが決定で認定されており、商品等表示性の判断も類似性が高いが故のものという面もあると思われます。そうした意味で、上記の米国でいうところのトレードドレスを一般的に認めたものとまではないと考えられますが、店舗外観の模倣の不正競争行為該当性を認めた初めての例として、実務上意義があるものと思われます。

*本件は、弊所の弁護士・弁理士が債権者代理人として担当した事件です(執筆者は関与しておりません。)。

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(文責・町野)