名古屋国税局は、文書回答手続に基づき、職務発明の原始取得制度を採用した場合における課税関係について、事前照会への文書回答を公表しました。

本回答は、出願補償金、登録補償金、実績補償金(自己実施及び実施許諾)、譲渡補償金の各制度を有することを前提に、所得税、法人税及び消費税の取り扱いについて、考え方を詳細に示しています。

ポイント

名古屋国税局は、文書回答手続に基づき、職務発明の原始取得制度を採用した場合における課税関係について、出願補償金、登録補償金、実績補償金(自己実施及び実施許諾)、譲渡補償金の各制度を有することを前提に、所得税、法人税及び消費税の取り扱いについて回答しました。回答に示された見解は、概要以下のようなものです。

所得税 いずれの補償金も雑所得に該当する。
源泉徴収は要しない。
法人税 出願補償金は、特許権(無形固定資産)に準じて特許権の耐用年数(8年)で償却することができる。
登録補償金は、特許権の取得価額に算入することとなる。
実績補償金は、対象となる収益の額または実施許諾料の額を収益の額に計上する事業年度の損金の額に算入することになる。
譲渡補償金は、権利の譲渡に要した経費として、譲渡があった日の属する事業年度の損金の額に算入することになる。
消費税 いずれの補償金も課税対象とはならない。

解説

文書回答手続とは

文書回答手続とは、国税庁が、一定の要件のもと、納税者からの申出に対し、取引等に係る税務上の取扱いについて、文書で回答し、公表する納税者サービスです。

回答の前提となる事実

回答の前提として、照会者は以下の制度を導入することを想定しています。

当社は、上記(1)のハの使用者原始帰属制度を導入することとし、当社の職務発明規程等を見直した上で、以下のとおり、当社の従業員等がした職務発明に係る特許を受ける権利は、当社に原始的に帰属することとし、特許法第35条第4項の規定により、「相当の利益」の内容として、本件各補償金を支払うこととします。
イ 定義
職務発明とは、発明がその性質上会社の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為が会社における従業員等の現在又は過去の職務に属する発明をいいます。
ロ 権利の帰属
職務発明は会社が特許を受ける権利を取得します(ただし、会社がその権利を取得する必要がないと認めたときは、この限りではありません。)。
なお、会社が取得するに当たっては当該職務発明の発明者に対し相当の利益を付与するものとし、次のハの区分に応じ本件各補償金を支払うものとします。
ハ 補償金の支払
(イ)会社が特許を受ける権利を原始取得し、これに基づき特許出願したときは「出願補償金」として1万円を支払います。
(ロ)上記(イ)の特許出願に係る特許権の設定の登録がされたときは「登録補償金」として3万円を支払います。
(ハ)会社が上記(ロ)の登録された特許を実施したとき又は他者に実施許諾したときは「実績補償金」として、会社が得た収益の額又は会社が受けた実施許諾料の額に応じて、発明者の貢献度を斟酌して決定した額を支払います。
(ニ)会社が上記(イ)の特許を受ける権利又は同(ロ)の登録された特許を他者に譲渡したときは「譲渡補償金」として、会社が受けた譲渡の対価の額に応じて、発明者の貢献度を斟酌して決定した額を支払います。
ニ 退職等したときの補償
本件各補償金の支払を受ける権利は、当該権利に関わる発明者(従業員等)が退職した後も存続し、また、当該権利に関わる発明者(従業員等)が死亡したときは、当該権利は、その相続人が承継します。

所得税について

所得区分について

特許を受ける権利の使用者原始取得を認めていなかった従来の制度のもとでは、特許を受ける権利承継時に一時に支払いを受けるものは譲渡所得、承継後に支払いを受けるものは雑所得と整理されていました。

しかし、原始取得の場合には、いずれの補償金についても譲渡の対価とはいえないため、譲渡所得に該当することはなく、また、発明者としての地位に基づいて支払われるものであって使用人として支払いを受けるものではないため、給与所得にも該当しません。
さらに、臨時・偶発的な所得である一時所得にも該当せず、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、退職所得、山林所得のいずれにも該当しません。

そのため、すべての補償金が雑所得に整理されています。

源泉徴収の要否等について

各補償金が源泉徴収の対象となるか否かは、工業所有権等の使用料としての性質を有し、所得税法第204条第1項第1号(源泉徴収義務)に掲げる報酬・料金等に当たるかどうかにかかります。

この点、回答は、各補償金は、発明者である従業員等が特許権を有しない状態のもとで、特許法第35条第4項に規定する「相当の利益を受ける権利」に基づき支払を受ける金銭であり、使用料とはいえない、との考え方のもと、報酬・料金等に該当せず、源泉徴収をする必要はないとの見解を示しました。

法人税について

出願補償金及び登録補償金について

法人税法上、特許権は、減価償却資産中の無形固定資産の一つとされています。

回答は、出願補償金について、職務発明規程等に基づき、特許を受ける権利を原始的に取得したことに伴って生じる取得費用と考え、「法人が他から出願権(工業所有権に関し特許又は登録を受ける権利をいう。)を取得した場合のその取得の対価については、無形固定資産に準じて当該出願権の目的たる工業所有権の耐用年数により償却することができるが、その出願により工業所有権の登録があったときは、当該出願権の未償却残額(工業所有権を取得するために要した費用の額があるときは、その費用の額を加算した金額)に相当する金額を当該工業所有権の取得価額とする。」と定める法人税基本通達7-3-15(出願権を取得するための費用)に基づき、特許権(無形固定資産)に準じて特許権の耐用年数(8年)で償却することができるものとしています。

また、登録補償金についても、同法人税基本通達の「工業所有権を取得するために要した費用の額」に該当し、当該特許権の取得価額に算入することになるとしています。

実績補償金及び譲渡補償金について

実績補償金及び譲渡補償金は、職務発明の独占的な実施によって得られた利益を発明者に還元することを目的とする利益の分配であるとの考えが示されています。

その上で、実績補償金は、自己実施または許諾による収益の額に応じて支出するものであることから、当該収益に対応する原価の額(法人税法第22条第3項第1号)に該当し、当該収益を計上する事業年度の損金の額に算入することになるものとされています。

また、譲渡補償金は、会社が原始的に取得した特許を受ける権利または特許権を他者に譲渡したことに伴って支出するものであることから、これらの権利の譲渡に要した経費(法人税法第22条第3項第2号)に該当し、その譲渡があった日の属する事業年度の損金の額に算入することになるとされています。

消費税について

消費税法は、国内における資産の譲渡等を課税の対象とします。

これに対し、使用者原始取得制度のもとでの出願補償金及び登録補償金は、会社が権利を原始取得し、出願等したことに基づき支出するものであり、また、実績補償金及び譲渡補償金は、会社が原始的に取得した権利に基づく利益の分配と考えられ、いずれも資産の譲渡等の性質を有しないこととなります。

そのため、消費税の課税対象とはならないとの見解が示されています。

コメント

本回答は、あくまで上に示した特定の事実関係を前提としたものであって、使用者原始取得制度を採用するすべての企業に適用される回答をしたものではありません。
しかし、前提事実は、多くの企業にもあてはまるごく一般的なものとなっているため、相当程度汎用性のある考え方が示されたものといえます。
そのため、使用者原始取得制度を導入した企業や、導入を検討している企業にとって、参考になる回答と思われます。

なお、所得税との関係では、原始取得制度を採用することにより、当初の支払いが譲渡所得から雑所得になるため、発明者の税負担が大きくなる可能性があります。
届出や出願時の補償金の額はさほど大きくはない場合には、影響は限定的ではないかと思われますが、一括でまとまった額を支払う制度の採用を検討する場合にはこの点を意識しておいた方が良いかもしれません。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・藤田)