消費者庁は、今般、新型コロナウイルス予防効果等を標ぼうするウイルス予防商品の表示の監視活動を実施しており、令和2年3月から6月にかけて、優良誤認表示(不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」又は「景品表示法」といいます。)5条1号)又はこれに該当するおそれのある表示に対して行政指導又は措置命令をし、併せて、SNSを通じて一般消費者への注意喚起を行っています。
そこで、本稿では、消費者庁の動向の整理及び解説の前提として、景品表示法による優良誤認表示規制の概要をご説明します。
なお、消費者庁の動向の整理及び解説については、「新型コロナウイルス予防商品と優良誤認表示(2)~消費者庁の動向(令和2年3月~6月)~」をご覧ください。
ポイント
骨子
- 景品表示法は、自己の供給する商品又は役務の取引について、優良誤認表示に該当する表示をすることを禁止しています(法5条1号)。
- ある表示が優良誤認表示に該当するか否かは、①一般消費者の認識として、表示の意味は何か(法的評価の問題)、②客観的な事実として、実際の商品又はサービスの内容はどのようなものか(事実認定の問題)、③両者は同じかという3ステップで検討されます。
- 優良誤認表示に係る表示主体には、①自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者、②他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者、③他の事業者にその決定を委ねた事業者という3つの類型があります。
- 優良誤認表示(又は優良誤認表示に該当するおそれのある表示)に対する措置としては、①措置命令(法7条)、②課徴金納付命令(法8条)、③行政指導の3種類があります。
消費者庁による法執行・行政処分等の概要
日付 | 内容 | 種類 |
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3月10日 | 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について |
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3月27日 | 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請等及び一般消費者等への注意喚起について(第2報) |
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5月1日 | 新型コロナウイルス予防効果を標ぼうする食品について(注意喚起) |
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5月15日 | 携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について |
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5月19日 | 株式会社メイフラワーに対する景品表示法に基づく措置命令について |
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6月5日 | 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請等及び一般消費者等への注意喚起について(第3報) |
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解説
景品表示法による優良誤認表示規制の概要
優良誤認表示(法5条1号)
景品表示法は、自己の供給する商品又は役務の取引について、優良誤認表示に該当する表示をすることを禁止しています(法5条1号)。
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二~三 略
なお、上記のとおり、規制対象は「自己の供給する商品又は役務の取引について」の表示に限定されています。
そのため、広告代理店や媒体社(新聞社、出版社、放送局等)は、優良誤認表示に該当する広告の制作に関与していたとしても、当該広告に係る商品又はサービスを自ら提供していない限り、優良誤認表示規制の対象とはなりません*1。
判断枠組み
ある表示が優良誤認表示に該当するか否かは、具体的には、以下の順序で検討されます*2。
① 一般消費者の認識として、表示の意味は何か(法的評価の問題)
② 客観的な事実として、実際の商品又はサービスの内容はどのようなものか(事実認定の問題)
③ 両者は同じか
これを「カシミヤ混用率が80%程度のセーターに『カシミヤ100%』と表示した場合」という事例で図解すると、下図のとおりとなります。
このように、上記事例では、①「カシミヤ混用率が100%のセーター」という表示の意味と、②「カシミヤ混用率が80%程度のセーター」という実際の商品の内容との間には、齟齬があります。そのため、③両者が一致していない表示として、上記「カシミヤ100%」という表示は、優良誤認表示に該当することとなります。
表示の主体
前述のとおり、事業者は、優良誤認表示に該当する「表示をし」(同法5条柱書)てはなりません。
それでは、どのような行為が「表示をし」に該当するのでしょうか。言い換えれば、表示の主体は、どのように特定されるのでしょうか。
この点について、ベイクルーズ事件判決(東京高判平成20年5月23日)は、以下のとおり判示しています(下線部は筆者による)。
「表示内容の決定に関与した事業者」が法4条1項の「事業者」(不当表示を行った者)に当たるものと解すべきであり,そして「表示,内容の決定に関与した事業者」とは「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるものと解するのが相当である。そして,上記の「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは,他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいい,また,上記の「他の事業者にその決定を委ねた事業者」とは,自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者をいうものと解せられる。
上記判示によれば、表示の主体には次の3つの類型があることになります。
① 自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者
② 他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者(=他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者)
③ 他の事業者にその決定を委ねた事業者(=自己が表示内容を決定することができるにもかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者)
以上を前提に、2つの具体的なケースを検討してみましょう。
【ケース1】
小売業者であるA社は、製造業者であるB社から、ある商品を仕入れました。その商品のラベルには「●●ウイルスに効く!」という表示がありましたが、実際には●●ウイルスに対する殺ウイルス効果や感染予防効果はなく、その表示は優良誤認表示に該当するものでした。
そのラベルを作成したのはB社ですが、A社はそのラベルを付したまま商品を陳列・販売してしまいました。
さて、このケースにおいて、A社は、優良誤認表示に該当する「表示をし」たことになるのでしょうか。
ケース1では、問題のラベルを作成したのはB社であり、A社はその作成に一切関与していません。そのため、A社は、ベイクルーズ事件判決が示した3類型のいずれにも該当せず、表示の主体とはなりません。
実際、消費者庁が公開している「表示に関するQ&A」にも以下の記載があり、A社が表示の主体とはならないことが示されています。
Q6 製造業者がその内容を決定した表示が容器に付けられた商品を小売業者が仕入れ、それをそのまま店頭に並べ、消費者がその表示を見て商品を購入した場合、容器に付けられた表示に不当表示があったとき、小売業者も表示規制の対象になるのでしょうか。
A 表示の内容を決定したのが製造業者であり、小売業者は、当該表示の内容の決定に一切関与しておらず、単に陳列して販売しているだけであれば、当該小売業者は表示規制の対象にはなりません。
それでは、次のケースはどうでしょうか。
【ケース2】
ケース1とは異なり、商品のラベルには「●●ウイルスに効く!」という表示はありませんでした。
しかし、A社は、B社から「この商品は●●ウイルスを殺すことができるんです。」という誤った説明を受けていたため、A社においてその商品につき「●●ウイルスに効く!」という店頭POPを作成し、これを店内に設置してその商品を陳列・販売しました。
ケース2では、A社は、B社の表示内容に関する説明に基づき店頭POPの内容を定めています。そのため、A社は、上記3類型のうちの②に該当し、表示の主体として扱われることとなります。
上記「表示に関するQ&A」にも、以下のとおり、ケース2と同様の事案を紹介し、A社が表示の主体となることが明らかにされています。
Q4 小売業者が製造業者から仕入れた商品について、当該製造業者からの誤った説明に基づいて、当該商品に関するチラシ広告を作成したために不当表示となった場合、小売業者は表示規制の対象になりますか。
A チラシ(表示)の内容を決定したのは当該小売店ですので、小売業者に過失があるかどうかにかかわらず、小売業者は表示規制の対象になります。
優良誤認表示に対する消費者庁による執行
優良誤認表示(又は優良誤認表示に該当するおそれのある表示)に対する措置としては、下表の3種類があります。
種類 | 内容 |
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①措置命令 | (1)優良誤認表示の差止め、又は(2)再発防止のために必要な事項もしくは(3) 優良誤認表示をした事実の公示等の命令 |
②課徴金納付命令 | 優良誤認表示に係る商品又はサービスの売上の3%に相当する金額(最長3年間分)の課徴金の支払い |
③行政指導 | 各命令をする必要性までは認められない場合に、優良誤認表示に該当するおそれのある表示をした事業者に対し、当該表示の是正措置を採るように求める指導(景品表示法上の行政指導(27条及び28条)ではなく、行政手続法上の行政指導であり、同法第4章の適用を受ける*3) |
①措置命令の根拠規定は、法7条にあり、
(措置命令)
第七条 内閣総理大臣は、……第五条の規定(注:不当な表示の禁止)に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。(以下略)
2 略(不実証広告規制)
また、②課徴金納付命令の根拠規定は、法8条にあります。
(課徴金納付命令)
第八条 事業者が、第五条の規定(注:不当な表示の禁止)に違反する行為(同条第三号に該当する表示(注:指定告示違反の表示)に係るものを除く。以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。(但書略)
一~二 略
2 略
3 略(不実証広告規制)
なお、各命令の主語は「内閣総理大臣」とされていますが、各命令を行う権限は、法33条で、「消費者庁長官」に委任されています。
コメント
本稿の続きは、「新型コロナウイルス予防商品と優良誤認表示(2)~消費者庁の動向(令和2年3月~6月)~」をご覧ください。
脚注
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*1大元慎二編著『景品表示法[第5版]』(株式会社商事法務、2018年)43頁、消費者庁「表示に関するQ&A」Q3(広告会社の責任)参照
*2植村幸也『製造も広告担当も知っておきたい景品表示法対応ガイドブック』(第一法規株式会社、2018年)17頁参照
*3大元慎二編著『景品表示法[第5版]』(株式会社商事法務、2018年)269頁
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(文責・増田)