消費者庁は、今般、新型コロナウイルス予防効果等を標ぼうするウイルス予防商品の表示の監視活動を実施しており、令和2年3月から6月にかけて、優良誤認表示(不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」又は「景品表示法」といいます。)5条1号)又はこれに該当するおそれのある表示に対して行政指導又は措置命令をし、併せて、SNSを通じて一般消費者への注意喚起を行っています。
そこで、本稿では、「新型コロナウイルス予防商品と優良誤認表示(1)~景表法による優良誤認表示規制の概要~」の続きとして、新型コロナウイルス予防効果等を標ぼうする優良誤認表示に対する消費者庁の動向を整理し、その内容を解説します。
ポイント
骨子
- 一連の注意喚起等では、「新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も不可能な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性及び合理性を欠くものであると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与えるものとして、景品表示法(優良誤認表示)……の規定に違反するおそれが高いものと考えられます。」といった消費者庁の考え方が、繰り返し説明されています。
- 健康食品、マイナスイオン発生機、イオン空気清浄機、空間除菌用品(首さげ型、据置型)、アロマオイル、光触媒スプレー、除菌・抗菌スプレーに係る表示が行政指導又は注意喚起の対象とされており、中でも健康食品に係る表示が最も多くその対象とされています。
- 携帯型の空間除菌用品に係る表示に関して、「『身につけるだけで空間除菌』等の表示が行われていることがありますが、当該表示の根拠とされる資料は、狭い密閉空間での実験結果に関する資料であることがほとんどであり、風通しのある場所等で使用する際には、表示どおりの効果が得られない可能性があります。」と指摘されています。
- アルコール配合の手指消毒剤について、アルコールの配合割合に関する優良誤認表示に対する措置命令が1件行われました。
消費者庁による法執行・行政処分等の概要
日付 | 内容 | 種類 |
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3月10日 | 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について |
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3月27日 | 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請等及び一般消費者等への注意喚起について(第2報) |
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5月1日 | 新型コロナウイルス予防効果を標ぼうする食品について(注意喚起) |
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5月15日 | 携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について |
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5月19日 | 株式会社メイフラワーに対する景品表示法に基づく措置命令について |
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6月5日 | 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請等及び一般消費者等への注意喚起について(第3報) |
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解説
各事例の解説
「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について」
消費者庁は、令和2年3月10日、インターネット広告においてウイルス予防商品を販売している30事業者による46商品の表示について、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の観点から、改善要請等の行政指導を行ったことを公表しました。
対象となった商品の種類及び表示は、下表のとおりです。
商品区分 | 表示されていた効果等 |
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健康食品 (カプセル、錠剤、粉末等) 【23事業者40商品】 |
ビタミンC、ビタミンD、亜鉛、マグネシウム、セレン、ビタミンA、梅肉エキス、オリーブ葉エキス、マヌカハニー、タンポポ茶、タンポポエキス、あおさ、スピルリナ、霊芝、ポリフェノール、納豆、α-リポ酸、N-アセチルシステイン、グルコサミン、β-グルカン等につき新型コロナウイルスに対する予防効果を示唆する表示(18表示) |
マイナスイオン発生器 イオン空気清浄機 【4事業者3商品】 |
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空間除菌剤 (首下げ型、据置型) 【3事業者3商品】 |
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ここで、本件のNews Releaseでは、消費者庁が行政指導を行った理由について、次のとおり説明されています(下線部は筆者による)。
新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も不可能な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性及び合理性を欠くものであると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与えるものとして、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の規定に違反するおそれが高いものと考えられます。
これは、下図のとおり、「新型コロナウイルス予防に効果あり」等の広告表示について、「新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も不可能な現状」を踏まえると、
①「新型コロナウイルス予防に効果のあるウイルス予防商品」という表示の意味が生じるものの、
②これを裏付ける合理的な根拠を欠くと考えられ、
③両者が一致せず、優良誤認表示に該当するおそれが高いこと
を指摘するものと考えられます。
また、上記行政指導と関連して、消費者庁は、次のとおり、ツイッター及びフェイスブックを通じて一般消費者等への注意喚起を行ったことも公表しています。
「新型コロナウイルス予防に効果あり」等の広告表示に注意!!
消費者庁は、新型コロナウイルスの予防効果を標ぼうする商品等の不当表示に対する監視指導を実施しています。現時点で、健康食品、マイナスイオン発生器、空間除菌剤等の商品については、当該ウイルスに対する効果を裏付ける根拠は認められていませんので御注意ください。手洗いなど、正しい予防を心掛けましょう。
「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請等及び一般消費者等への注意喚起について(第2報)」
消費者庁は、令和2年3月27日、インターネット広告においてウイルス予防商品を販売している34事業者による41商品の表示について、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の観点から、改善要請等の行政指導を行ったことを公表しました。
商品区分 | 表示されていた効果等 |
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健康食品 (カプセル、錠剤、粉末等) 【31事業者 38商品】 |
ビタミンD、ビタミンC、亜鉛、ビタミンA、グルタミン、オリーブ葉(エキス)、アルキルグリセロール、ジアスターゼ、マヌカハニー、ポリフェノール、カテキン、青汁、プロテイン、松種子エキス、たんぽぽ茶、漢方、植物酵素、酵素玄米御飯、納豆、アリシン、あおさ海苔、乳酸菌、ウコン、水素水・水素サプリ、水素等につき新型コロナウイルスに対する予防効果を示唆する表示(23表示) |
アロマオイル 【2事業者2商品】 |
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光触媒スプレー 【1事業者1商品】 |
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第1報と比較すると、健康食品につき対象となる表示が追加され、アロマオイルと光触媒スプレーに係る表示が新たに対象とされています。
また、第1報と同様に、併せて、SNSを通じて一般消費者等へ以下の注意喚起を行ったことも公表しています。
〇「新型コロナウイルス予防に効果あり」等の広告表示に注意(第2報)!!
消費者庁は、新型コロナウイルスの予防効果を標ぼうする商品等の不当表示に対する監視指導を実施しています。現時点で、健康食品、アロマオイル、光触媒スプレー等の商品については、当該ウイルスに対する効果を裏付ける根拠は認められていませんので御注意ください。
「新型コロナウイルス予防効果を標ぼうする食品について(注意喚起)」
消費者庁は、一般消費者に対し、令和2年5月1日、「新型コロナ関連 週飛車の方々へのメッセージ」として、新型コロナウイルス予防効果を標ぼうする食品につき注意喚起を行いました。
本件にも、下記のとおり、「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について」の第1報と同様の説明が記載されています(下線部は筆者による)。
新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も不可能な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果に根拠のある食品はありません。そのような広告等にはご注意ください。
「携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について」
消費者庁は、2020年5月15日、景品表示法に違反(優良誤認表示に該当)するおそれがあることを理由に、下表のような事例が確認された5事業者に対して再発防止等の行政指導を行ったことを公表しました。
なお、本件は、本稿中の他の行政指導とは異なり、新型コロナウイルスに限らず、ウイルス一般の予防効果を標ぼうする商品を対象としています。
対象商品 | 携帯型の空間除菌用品 |
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表示の概要 |
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実際 | 表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料がないおそれがある。 |
ここで、本件のNews Releaseでは、行政指導の理由について、次のとおり説明されています(下線部は筆者による)。
携帯型の空間除菌用品については、「身につけるだけで空間除菌」等の表示が行われていることがありますが、当該表示の根拠とされる資料は、狭い密閉空間での実験結果に関する資料であることがほとんどであり、風通しのある場所等で使用する際には、表示どおりの効果が得られない可能性があります。
これは、下図のとおり、「身につけるだけで空間除菌」等の表示について、
①身につけるだけで、風通しのある場所等を含む様々な利用環境において、自分の周囲のウイルス等を除去する効果があるという表示の意味が生じる場合があるところ、
②当該表示の根拠とされる資料が狭い密閉空間での実験結果に関する資料であることがほとんどであることから、上記表示の意味する事実を裏付ける合理的な根拠がないおそれがあり、
③両者が一致せず、優良誤認表示に該当するおそれがあること
を指摘するものと考えられます。
また、併せて、SNSを通じて一般消費者等へ以下の注意喚起を行ったことも公表しています。
携帯型の空間除菌用品について、「身につけるだけで空間除菌」等の表示が行われていることがありますが、当該表示の根拠とされる資料は、狭い密閉空間での実験結果であることがほとんどです。
風通しのある場所等で使用する際には、表示どおりの効果が得られない可能性がありますのでご注意ください。
「株式会社メイフラワーに対する景品表示法に基づく措置命令について」
消費者庁は、2020年5月19日、同日付けで下表記載の事例が確認された事業者に対して措置命令を行ったことを公表しました。
対象商品 | 「ハンドクリーンジェル(300mL)」と称する商品 |
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表示の概要 |
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実際 | 本件商品におけるアルコールの配合割合は、71パーセントを大幅に下回るものであった。 |
これを図示すると、下図のとおりとなります。
措置命令を受けた事業者の発表では、この製品は韓国にある会社から輸入したものであるところ、同社「より化学物質等安全データシート(SDS)及び全成分表にて71%のアルコールを確認しておりましたが、複数のご指摘を受け日本国内の分析試験所にて再計測したところ表示濃度と大幅に異なる事が判明した」と説明されています。
この説明によれば、当該事業者は、上記ベイクルーズ事件判決が示した3類型のうちの「②他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」として、表示の主体と扱われたと考えられます。
「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請等及び一般消費者等への注意喚起について(第3報)」
消費者庁は、令和2年6月5日、インターネット広告においてウイルス予防商品を販売している35事業者による38商品の表示について、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の観点から、改善要請等の行政指導を行ったことを公表しました。
商品区分 | 表示されていた効果等 |
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健康食品 (カプセル、錠剤、粉末等) 【27事業者 31商品】 |
ビタミンC、ビタミンD、マルチビタミン・ミネラル、パウダルコ、亜鉛、L-リジン、発酵飲料(日本酒)、発酵食品(酒粕)、乳酸菌、ビフィズス菌、コーヒーポリフェノール・クロロゲン酸、黒にんにく、みかん、マイタケに含まれる有効な多糖体(βグルカン)、モズク、フコイダン、ポリフェノールEGCG、エピガロカテキンガレート、茶カテキン、紅茶、テアフラビン(紅茶ポリフェノール)等につき新型コロナウイルスに対する予防効果を示唆する表示(19表示) |
除菌・抗菌スプレー (アミノ酸、光触媒等) 【8事業者7商品】 |
など11表示 |
なお、本件のNews Releaseにも、前述した第1報と同一の説明が記載されています(下線部は筆者による)。
新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も不可能な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性及び合理性を欠くものであると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与えるものとして、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の規定に違反するおそれが高いものと考えられます。
また、第1報及び第2報と同様に、併せて、SNSを通じて一般消費者等へ以下の注意喚起を行ったことも公表しています。
〇「新型コロナウイルス予防に効果あり」等の広告表示に注意(第3報)!!
消費者庁は、新型コロナウイルスの予防効果を標ぼうする商品等の不当表示に対する監視指導を実施しています。現時点で、健康食品、除菌スプレー等の商品については、当該ウイルスに対する効果を裏付ける根拠は認められていませんので御注意ください。
コメント
本稿で紹介した消費者庁の活動は、一般消費者が新型コロナウイルス等の感染予防について誤った対応をしてしまうことを防止するという観点から極めて重要な社会的意義を有するものです。
また、当然ながら、本稿で紹介した行政指導等の対象となっていない表示も、消費者庁によるお墨付きが与えられているというわけではありません。むしろ、残念ながら、現状、今般のコロナ禍による一般消費者の不安につけ込むような問題のある表示が氾濫しているといっても過言ではありません。そのような不当表示は決して許されるべきものではなく、今後も消費者庁による取締りが期待されます。
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(文責・増田)