景品表示法は、一般消費者のお客様に対してモノやサービスを販売する企業にとって逃れたくても逃れられない法律です。判断基準の掴みどころのなさも相まって、企業の広告担当者にとっては悩みの種といえるでしょう。

景表法事件レポートでは、消費者庁や都道府県による法執行(行政指導、措置命令、課徴金納付命令等)をモニターし、注目すべき事件につき皆様にご紹介いたします。

今回は、2023年10月1日に施行された「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の告示、いわゆる「ステルスマーケティング告示」(以下「ステマ告示」)に係る不当表示に対する初の措置命令である「医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令」について解説します。

前提:ステマ告示と運用基準

ステマ告示の位置付けと内容

景品表示法によって規制される不当表示は、大きく分けて、①優良誤認表示(5条1号)、②有利誤認表示(同条2号)及び③指定告示に係る不当表示(優良誤認表示及び有利誤認表示以外の表示で、告示によって特に指定された不当表示)(同条3号)の3つの類型に分かれています。

①優良誤認表示及び②有利誤認表示に該当する不当表示は措置命令(7条1項)及び課徴金納付命令(8条1項)の対象となるのに対して、③指定告示に係る不当表示に対する行政処分は、措置命令に限定されます。

ステマ告示によって規制されるステルスマーケティングは、このうちの③指定告示に係る不当表示に該当します。

ステマ告示は、2023年10月1日に施行されたばかりの告示で、規制対象となる表示を以下のとおり定めています。

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

要するに、ステマ告示が規制する表示は、以下の2つの要件を満たす表示ということになります。

  1. 事業者が……行う表示であること
  2. 一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められること

ステマ告示との関係で問題となる典型的なケース

ステマ告示の内容は上記のとおりであり、上記要件を充足する限り、類型や場面を問わずその対象となります。

とはいえ、ステマ告示との関係で問題になりやすい典型的なケースが存在することも事実であり、そのようなケースとしては概ね以下の3つが挙げられます。

  1. SNSマーケティング
  2. アフィリエイト広告
  3. 不正レビュー(サクラレビュー)

実際、今回問題となったのも、上記3の「不正レビュー(サクラレビュー)」です。

不正レビューと運用基準

上記のとおり、ステマ告示の内容自体は非常にシンプルなものです。

そこで、ステマ告示のいわば説明資料として、「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(以下「運用基準」)が公表されています。

要件①:事業者が……行う表示

1つ目の「事業者が……行う表示」という要件は、要するに、事業者に表示主体性が認められることを意味するものです。

そのため、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合に、この要件が充足されることになります(ベイクルーズ事件判決(東京高判平成20年5月23日)参照)。

運用基準では、ステルスマーケティングの実際に即した上でこれを敷衍し、インフルエンサーやレビュー投稿者などの第三者が介在するケースにおいて「事業者が……行う表示」に該当するか否かは、「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められ」るか否か(運用基準・第2)によって判断されるとされています。

具体的な事例としては、不正レビューとの関係では、一応以下のようなケースが挙げられています。

もっとも、下記各ケースを見ればわかるように、結局のところ、問題のレビューが投稿者の自主的な意思によるものであるか否かで要件①の充足性が決定されるということが示されているにすぎないともいえるところです。

要件①を満たす 要件①を満たさない
  • EC(電子商取引)サイトに出店する事業者が、……自らの商品の購入者に依頼して、購入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合(第2の1(2)ア(イ))
  • ECサイトに出店する事業者の商品を購入する第三者が、自主的な意思に基づく内容として当該ECサイトのレビュー機能を通じて、当該事業者の商品等の表示を行う場合(第2の2(1)エ)
  • ECサイトに出店する事業者が自らの商品の購入者に対して当該ECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼として、次回割引クーポン等を配布する場合であっても、当該事業者……と当該購入者との間で、当該購入者の投稿(表示)内容について情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われておらず、客観的な状況に基づき、当該購入者が自主的な意思により投稿(表示)内容を決定したと認められる投稿(表示)を行う場合(第2の2(1)オ)
要件②:一般消費者が当該表示であることを判別することが困難

2つ目の「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められること」という要件は、一般消費者にとって表示主体が事業者であることが明瞭となっているかどうか、逆にいえば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないか否かによって判断されます(運用基準・第3)。

この要件は、大雑把にいえば、「わかりやすく広告である旨を表記せよ」というもので、実際、運用基準では、「『広告』、『宣伝』、『プロモーション』、『PR』などの記載がある場合」及び「『A社から商品の提供を受けて投稿している』といったような文章による表示を行う場合」が明瞭になっているケースとして挙げられています。

医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令(2024年6月6日)

概要

消費者庁は、2024年6月6日、上記医療法人が運営する「マチノマ大森内科クリニック」(以下「クリニック」)における診療サービスに関する下表記載の表示がステマ告示に係る不当表示に該当することを理由に、同法人に対して措置命令を行いました。

対象役務 クリニックにおいて供給する診療サービス
表示の概要
    • 表示媒体:Googleマップの口コミ
    • 表示内容:星5(★★★★★)

命令内容
  1. 差止め(不当表示行為の速やかな取り止め)
  2. 誤認排除措置(不当表示をした事実の一般消費者への周知)
  3. 再発防止措置(同様の不当表示行為を防止するための必要な措置の実施)
  4. 将来の不作為(将来、同様の不当表示をしてはならないこと)
  5. 消費者庁長官への報告(1~3に基づく対応の報告)
要件①:事業者が……行う表示

ステマ告示の要件①の充足性については、以下のとおり認定されています。

ア 祐真会は、本件役務を一般消費者に提供するに当たり、第三者(注:インフルエンザワクチン接種のために クリニックに来院した者)に対し、本件星投稿(注:Googleマップの口コミ投稿欄のクリニックの評価として「★★★★★」又は「★★★★」の投稿をすること)を条件に当該第三者がクリニックに対して支払うインフルエンザワクチン接種費用から割り引くことを伝え、これに応じて当該割引を受けた第三者が、……投稿している又は投稿していたことから、祐真会は、本件役務に係る別表1及び別表2「表示内容」欄記載の表示内容(注:星5)の決定に関与しているものであり、当該投稿による表示は事業者の表示と認められる。

具体的には、報道によれば、以下のようなフローで割引が行われていたようです。

つまり、事業者は、来院者に対して以下のような働きかけをしていたわけですが、このような事情に照らせば、本件では、まさに事業者が来院者に働きかけて「★★★★★」との投稿を行わせたと評価することができます。

  1. 「★★★★★」(又は「★★★★」)という投稿内容を特定した依頼
  2. その依頼に沿った内容の投稿を行ったか否かの確認
  3. 「★★★★★」(又は「★★★★」)を投稿したことに対する対価としての割引の提供

したがって、上記依頼によって投稿された「★★★★★」は、到底口コミ投稿者による自主的な意思による表示内容とはいえないものであり、要件①を満たすといえるでしょう。

なお、レビュー依頼と要件①の関係性について、「いかなる場合でもおよそ事業者のレビュー依頼に起因して行われた投稿は要件①を満たす」ということにはなりませんが、少なくとも、投稿内容を指定したり、投稿内容と謝礼の有無及び内容とを関連付けたりした場合には、要件①を充足する可能性が極めて高いと考えられます。

要件②:一般消費者が当該表示であることを判別することが困難

また、要件②の充足性については、以下のとおり認定されました。

イ 前記アの表示は、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、当該表示は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであった。

上記認定内容からのみでは詳細は判然としませんが、筆者が本件処分の公表直後に問題の口コミ投稿欄を確認したところ、中には「星5のレビューを投稿すれば550円OFFと案内されたので星5にしました」といったコメントを添えた上で星5としていた投稿もあったものの、そのような注記のない星5投稿が多く見られました。

そのため、注記のない星5投稿に関しては、要件①のみならず、要件②を充足することについても争い得ない事案だったと考えられます。

解説

今回の措置命令の3つのポイント

今回の措置命令については、まず①ステマ告示による措置命令の第1号事案であることが注目されました。

前述のとおり、ステマ告示は2023年10月1日に施行されたばかりの告示ですが、今回早くも第1号事案が発生したことになります。実は、指定告示には、ステマ告示以外に、原産国告示おとり広告告示有料老人ホーム告示無果汁告示融資費用告示及び不動産おとり広告告示がありますが、原産国告示及びおとり広告告示以外の指定告示には措置命令の実績が(ほぼ)ありません。そのような中で、ステマ告示が早速活用されたという事実は、現代社会におけるステマ告示の必要性を示すものであり、今後のさらなる執行も予想されます。

また、②医療社団法人に対する措置命令であるという点も注目されます。

医療分野は、医療広告(医業等に関して行われる広告)につき医療法による広告規制が存在していることからもわかるように、特に適正な広告の確保の必要性が高い分野の1つです。医療広告に関する景品表示法に基づく措置命令としてはこれまで以下の事例がありましたが、件数としては少なく、その意味でも、今回の措置命令は珍しい事例であるといえます。

事例 あたかも表示 実際
2013年5月29日付け医療法人社団太作会に対する措置命令
(有利誤認表示)
あたかも、9歳以下の患者については、矯正治療に係る料金、初診料及び検査診断料として記載された合計233,000円の料金並びに管理料として記載された料金を支払うだけで本件役務の提供を受けることができるかのように表示 9歳以下の患者が本件役務の提供を受けるためには、左記の合計233,000円の料金並びに管理料として記載された料金及び当該料金の消費税相当額のほか、当該合計233,000円の料金の消費税相当額及び「保定装置」と称する矯正器具に係る料金として32,650円の料金を負担することが必要となるものであった。
2014年7月4日付け医療法人社団バイオファミリーに対する措置命令
(優良誤認表示)
あたかも、本件役務の提供を受けることにより、顎関節症、睡眠時無呼吸症候群、腰痛、椎間板ヘルニア、坐骨神経痛等の特定の疾患又は症状が治療又は改善するかのように示す表示 資料提出要求に対して資料を提出したが、合理的な根拠資料とは認められず。

さらに、③前述したステマ告示との関係で問題になりやすい典型的なケース(SNSマーケティング、アフィリエイト広告及び不正レビュー)のうち、不正レビューの事案であることも目を引きます。

後述のとおり、昨年度に行われたステマ告示による行政指導は、いずれもSNSマーケティングに関する事案でした。昨今のSNSの隆盛に照らすと、ステルスマーケティングの場面として真っ先に頭に思い浮かぶのは、SNSマーケティングであるともいえるところですが、不正レビューにもステマ告示の規制が及ぶことが広く周知されたことも、今回の措置命令の成果の1つであるといえるかもしれません。

ステマ告示の運用状況(行政指導)

前述のとおり、今回の措置命令はステマ告示による措置命令の第1号事案ではあるものの、行政指導に関しては、既に昨年度中に実績がありました。

公表されているのは概要のみですが、少なくとも、以下の2件の行政指導が行われました(「令和5年度における景品表示法等の運用状況及び表示等の適正化への取組」45ページ)。

いずれの事例も、今回の措置命令とは異なり、SNSマーケティングに関するものであること、PR表記等が記載されていたものの不明瞭と評価されたことが特徴的です。

空間除菌グッズのステルスマーケティングに対する行政指導

L社は、空間除菌を標ぼうする商品(以下「本件商品」という。)を販売するに 当たり、SNSのアカウントを保有する第三者に対し、本件商品について投稿するよう依頼し、その内容についても指示することなどにより、室内のウイルス・ 菌を除去する等と表示させていたことから、当該表示はL社が供給する商品の取引について行う表示(以下「事業者の表示」という。)と認められた。 また、前記の表示には、事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されており、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているとは必ずしも認められなかった。

プロテインのステルスマーケティングに対する行政指導

M社は、プロテイン(以下「本件商品」という。)を販売するに当たり、SNS のアカウントを保有する第三者に対し、本件商品について投稿するよう依頼し、その内容についても指示することなどにより、本件商品の容器包装の画像と共に、プロテインが新しく出たから試してみたよ、プロテインバーもあるみたいなので チェックしてみてね等と表示させていたことから、当該表示はM社が供給する商品の取引について行う表示(以下「事業者の表示」という。)と認められた。 また、前記の表示は、事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているなど、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているとは必ずしも認められなかった。

ステマ告示との関係で問題になり得る過去事案

なお、過去の違反事例を分析してみると、「ステマ告示の施行日(2023年10月1日)前の事案であったためステマ告示に係る不当表示とは認定されていないが、施行日後であればステマ告示との関係で問題になり得るもの」も存在していることがわかります。

例えば、以下の3件は、ステマ告示施行後であれば、ステマ告示との関係でも違法なったはずであると考えられます。

2021年11月9日付け㈱アクガレージ及び㈱アシストに対する措置命令

Instagramにおける投稿が問題になった事案。

担当官解説においても、「本件におけるInstagram内のアカウントの投稿に係る表示については、表示内容を指示していたにもかかわらず、表示主体について事業者ではない第三者の表示であるかのように偽っていたことから、本件は、ステルスマーケティング告示の施行時期(令和5年10月1日)以降に行われていた表示であれば、同告示に違反するものであったとも言い得る事案であった」と指摘されている(公正取引2024年5月号(No.883)79ページ)。

【表示の例】

2020年3月10日付け㈱ゼネラルリンクに対する措置命令

自社運営のランキングサイトにおける表示内容が問題になった事案。

当該ランキングサイトについては、以下のとおり、なりすましであったことが認定されている。

  • 実際には自社が運営しその表示内容を自ら決定しているにもかかわらず第三者が運営するものであるかのように装った「妊活ガイド」と称するウェブサイト
  • 実際には自社が運営しその表示内容を自ら決定しているにもかかわらず第三者が運営するものであるかのように装った「妊活マカガイド」と称するウェブサイト
  • 実際には自社が運営しその表示内容を自ら決定しているにもかかわらず第三者が運営するものであるかのように装った「不妊対策ガイド」と称するウェブサイト

【表示の例(「妊活ガイド」と称するウェブサイト)】

2017年11月2日付け㈱ARSに対する措置命令

自社運営のランキングサイトにおける表示内容が問題になった事案。

当該ランキングサイトについては、以下のとおり、なりすましであったことが認定されている。

  • 実際には自社が運営しその表示内容を自ら決定しているにもかかわらず自社とは無関係の「マーケティング・インベスト企画」と称する市場調査等を業とする事業者が運営するものであるかのように装った「電気のトラブルお助け隊」と称するウェブサイト
  • 実際には自社が運営しその表示内容を自ら決定しているにもかかわらず自社とは無関係の「ウェブ統計企画」と称するウェブサイト制作等を業とする事業者が運営するものであるかのように装った「害虫&害獣駆除業者比較ナビ」と称するウェブサイト

【表示の例】
(「電気のトラブルお助け隊」と称するウェブサイト)

(「害虫&害獣駆除業者比較ナビ」と称するウェブサイト)

今後の展望

今回の措置命令は、ステマ告示の要件①及び②を充足することが明らかな不当表示が問題となった事案でした。そのため、本件と同様の不当表示を回避すること自体は極めて容易です。

もっとも、ステマ告示の規制対象は、本件のような明らかな違反事案だけではありません。告示内容がシンプルであり、また運用基準にも不明瞭な点が残されていることから、実務上、個別具体的な事案との関係で判断に迷う場合も多いのではないでしょうか。

今後、ステマ告示による執行はさらに続いていくことが予想されますので、お困りの際には、景品表示法に詳しい専門家に相談されることをおすすめします。

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(文責・増田)