令和5年(2023年)10月1日、ステルスマーケティング(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」)を景品表示法の「不当表示」として指定する内閣府の告示が施行され、景品表示法違反と判断されることになりました。各企業は、当該規制の違反にならないようにマーケティング活動を行うことが求められます。
ポイント
骨子
- 令和5年(2023年)10月1日以降、ステルスマーケティング、すなわち、事業者の表示(企業による広告等)であることを秘して行う表示は景品表示法の「不当表示」となります。
- 違反の主体として処分を受け得るのは、インフルエンサーや個人等ではなく、表示(広告等)の主体である事業者(企業〔広告主〕)です。
- インフルエンサーや個人等に明示的に広告等を依頼したときはもちろん、明示的な依頼がなくても、客観的な状況から、「事業者の表示」(企業による広告等)と判断される場合があります。
- 「事業者の表示」とされる場合には、一般消費者にとって事業者の表示(企業による広告等)であることを明瞭にしなければなりません。
指定告示の概要
告示名 | 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示 |
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告示年月日 | 令和5年(2023年)3月28日 |
告示番号 | 内閣府告示第19号 |
施行日 | 令和5年(2023年)10月1日 |
解説
景品表示法とは
景品表示法(景表法)は、「不当景品類及び不当表示防止法」の略称です。
この法律は、一般消費者の利益の保護が目的であり(法1条)、①不当な景品類による顧客誘引(法4条)と、②不当な表示による顧客誘引(法5条)を規制しています。
①景品規制
①の景品規制としては、例えば、商品を買ってくれた人の中から抽選で何名かに、あるいは全員にもれなく、景品を贈るという場合に、景品の価額を告示で定められた所定の限度額以下にしなければならないという規制があります。あまりに高価な景品で顧客を誘引すると、一般消費者が景品に惑わされて品質不良や割高の商品・サービスを購入してしまうおそれや、事業者間で商品・サービスそのものでの競争よりも景品合戦になり、結果として一般消費者の不利益になるためです。
②表示規制
②の表示規制としては、以下のものがあります。
表示 | 条文 | 内容 | 例 | |
1 | 優良誤認表示 | 5条1号 | 実際より著しく優良と誤認させる表示 | カシミヤ80%なのに「カシミヤ100%」と表示 等 |
2 | 有利誤認表示 | 5条2号 | 実際より著しく有利と誤認させる表示 | 当選者100人のみ割安と表示したが、実際は全員が当選・同額 |
不当な二重価格表示 等 | ||||
3 | その他の不当表示 | 5条3号 | その他内閣総理大臣が指定する表示 | おとり広告に関する表示 |
原産国表示 等 |
商品・サービスの品質や価格の情報は、一般消費者によって重要な判断材料であり、実際と異なる表示は一般消費者を害することになるため、そのような表示を類型化して規制しています。
今回のステルスマーケティング規制の追加は、上記のその他の不当表示(法5条3号)として、新たに「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を指定するというものです。
規制の内容
ステルスマーケティング規制
ステルスマーケティング(ステマ)は、一般的には、広告等であることを隠して(個人の感想等のように装う等して)行う、販売促進や広告宣伝等の活動のことを意味します。
ここでいう「ステルス」は、内密に、こっそり行う、という趣旨で使われており(レーダーで捕捉されにくい「ステルス機」等と同様です)、外国ではUndercover Marketingなどと呼ばれます。
インフルエンサーや個人が、企業と何の関係もなく、ある企業の商品・サービスの感想を述べることや、企業と関係があっても、企業からの依頼案件であることを一般消費者にわかるように明示して、当該企業の商品やサービスを紹介することについては、広告等であることを隠しているものではないため、ステルスマーケティングに該当しません。
他方、実際には企業からの依頼案件(あるいは、明確な依頼はなくても当該企業から商品の提供を受けており、よい評価を書かざるを得ない状況等)であるにもかかわらず、そのことを秘して商品やサービスの紹介を行うと、一般消費者は、そのインフルエンサーや個人が中立的に商品・サービスを評価していると誤認するおそれがあります。このような行為が、ステルスマーケティングとして規制されることになりました。
具体的には、本告示により、以下の表示が法5条3号の不当表示として指定されることになりました。
一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示
事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの
規制の概要
今回の規制に違反するかどうかは、次の二段階で判断されます。
(1)「事業者の表示」(企業による広告等)に該当するか
該当しない場合は、本規制の対象外であり、景品表示法違反になりません。
(2)「事業者の表示」に該当する場合には、一般消費者にとって「事業者の表示」であることが明瞭となっているか
「事業者の表示」に該当する場合は、広告等であることを隠している、つまり、広告等であることが明瞭でない場合には、不当表示として景品表示法違反となります。
本規制の違反の主体として処分を受け得るのは、表示(広告等)の主体である事業者(企業)であり、商品・サービスを紹介したインフルエンサーや個人等の側は処分の対象になりません。
「事業者の表示」に該当するか
上述のとおり、インフルエンサーや個人が、企業と何の関係もなく、自分の自主的な意思によって、ある企業の商品・サービスの感想を述べることは、ステルスマーケティングには該当しません。
これは、インフルエンサーや個人が企業から影響を受けずに自己の感想を述べたもので、「事業者の表示」(企業による表示)ではないからです。
では、どのような場合に「事業者の表示」に該当するのでしょうか。「事業主の表示」(当該事業主の表示主体性)と認められるのは、事業主が「表示内容の決定に関与したと認められる」場合であるところ、ステルスマーケティング規制に関する消費者庁の運用基準では、具体的には以下のような判断基準が示されています。
第2 告示の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」についての考え方
告示の対象となるのは、外形上第三者の表示のように見えるものが事業者の表示に該当することが前提となる。景品表示法は、第5条において、事業者の表示の内容について、一般消費者に誤認を与える表示を不当表示として規制するものであるところ、外形上第三者の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合である。
(略)1 事業者が表示内容の決定に関与したとされるものについて
⑴ 事業者が自ら行う表示について
ア 事業者が自ら行う表示には、事業者が自ら表示しているにもかかわらず第三者が表示しているかのように誤認させる表示、例えば、事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品又は役務に関する表示も含まれる。
(略)⑵ 事業者が第三者をして行わせる表示について
ア 事業者が第三者をして行わせる表示が事業者の表示となるのは、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合であって、例えば、以下のような場合が考えられる。
(ア) 事業者が第三者に対して当該第三者のSNS上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場合。
(イ) ECサイトに出店する事業者が、いわゆるブローカー(レビュー等をSNS等において募集する者)や自らの商品の購入者に依頼して、購入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合。
(ウ) 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合。
(エ) 事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、自らの競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した、低い評価を表示させる場合。イ 事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の表示となる。
「客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある」かどうかの判断に当たっては、事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)、事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容、その主な提供理由(例えば、宣伝する目的であるかどうか。)、事業者と第三者の関係性の状況(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。)等の実態も踏まえて総合的に考慮し判断する。2 事業者が表示内容の決定に関与したとされないものについて
事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるものであれば、事業者の表示には当たらない。具体的には、次のとおりである。
⑴ 第三者が自らの嗜好等により、特定の商品又は役務について行う表示であって、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、通常、事業者が表示内容の決定に関与したとはいえないことから、事業者の表示とはならない。
(略)⑵ 新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む。)が自主的な意思で企画、編集、制作した表示については、通常、事業者が表示内容の決定に関与したといえないことから、事業者の表示とはならない。
(略)
要するに、事業者(企業)が自ら第三者のフリをして、あるいは、第三者に対し明示的に依頼、若しくは明示的でなくても商品を無償提供する等して、自己の商品・サービスを紹介し(させ)たり、競合他社の商品・サービスを悪くコメントし(させ)たりする場合、事業主が表示内容の決定に関与しているため「事業者の表示」に該当し、次に述べる、広告である旨の説明を付すこと等が必要になります。
「事業者の表示」であることが明瞭となっているか
「事業者の表示」(企業による広告等)ではない(インフルエンサーや個人等の第三者による自主的な意思による表示である)場合には、ステルスマーケティングには該当せず、景品表示法違反にはなりません。
他方、「事業者の表示」に該当する場合には、一般消費者にとって「事業者の表示」であることが明瞭となっていることが求められ、明瞭でない場合には、景品表示法違反となります。
明瞭となっているかどうかについて、前掲の運用基準では、以下の基準が示されています。
第3 告示の「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」についての考え方
告示は、事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると一般消費者に誤認される場合を規制するものであることから、「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」かどうかに当たっては、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうか、逆にいえば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになる。
1 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないものについて
⑴ 事業者の表示であることが記載されていないものについて
事業者の表示であることが記載されていないものとしては、例えば、以下のような場合が考えられる。
ア 事業者の表示であることが全く記載されていない場合。
イ 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイトサイトに当該事業者の表示であることを記載していない場合。⑵ 事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているものについて
事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているものとしては、例えば、以下のような場合が考えられる。
ア 事業者の表示である旨について、部分的な表示しかしていない場合。
イ 文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。あるいは、文章の冒頭に「これは第三者としての感想を記載しています。」と記載しているにもかかわらず、文中に「広告」と記載し、事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。
ウ 動画において事業者の表示である旨の表示を行う際に、一般消費者が認識できないほど短い時間において当該事業者の表示であることを示す場合(長時間の動画においては、例えば、冒頭以外(動画の中間、末尾)にのみ同表示をするなど、一般消費者が認識しにくい箇所のみに表示を行う場合も含む。)。
エ 一般消費者が事業者の表示であることを認識できない文言を使用する場合。
オ 事業者の表示であることを一般消費者が視認しにくい表示の末尾の位置に表示する場合。
カ 事業者の表示である旨を周囲の文字と比較して小さく表示した結果、一般消費者が認識しにくい表示となった場合。
キ 事業者の表示である旨を、文章で表示しているものの、一般消費者が認識しにくいような表示(例えば、長文による表示、周囲の文字の大きさよりも小さい表示、他の文字より薄い色を使用した結果、一般消費者が認識しにくい表示)となる場合。
ク 事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(例えば、SNSの投稿において、大量のハッシュタグ(SNSにおいて特定の話題を示すための記号をいう。「#」が用いられる。)を付した文章の記載の中に当該事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合)。2 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているものについて
⑴ 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていると認められるためには、一般消費者にとって、表示内容全体から、事業者の表示であることが分かりやすい表示となっている必要がある。例えば、以下の場合が考えられる。
ア 「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示を行う場合。
(注) ただし、これらの文言を使用していたとしても、表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていると認められない場合もある。
イ 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といったような文章による表示を行う場合。⑵ 前記第1のとおり、事業者の表示であることが一般消費者にとって明瞭である又は社会通念上明らかであるものは、告示の対象となるものではない。例えば、以下のような場合が考えられる。
ア 放送におけるCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合。
イ 事業者の協力を得て制作される番組放送や映画等において当該事業者の名称等をエンドロール等を通じて表示を行う場合。
ウ 新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合。
エ 商品又は役務の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物における表示を行う場合。
オ 事業者自身のウェブサイト(例えば、特定の商品又は役務を特集するなど、期間限定で一般消費者に表示されるウェブサイトも含む。)における表示を行う場合。
(略)
カ 事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合。
キ 社会的な立場・職業等(例えば、観光大使等)から、一般消費者にとって事業者の依頼を受けて当該事業者の表示を行うことが社会通念上明らかな者を通じて、当該事業者が表示を行う場合。
以上のとおり、「事業者の表示」に該当する場合、事業者(企業)としては、テレビCM等の社会通念上「事業者の表示」であることが明らかなもの以外は、一般消費者が「事業者の表示」だと理解できるように、「広告」「PR」等とわかりやすく付す等の対応が求められます(これらの文言を小さい字や見えにくい場所に付しただけでは、明瞭と認められないおそれがあります)。
コメント
本規制により、事業者(企業)が、第三者のフリをして自社商品・サービスを紹介等したり、インフルエンサーや個人等に紹介等を依頼しているのにそれを隠して紹介等させたりすることは禁止されます。
事業者(企業)が、インフルエンサーや個人等の第三者に商品・サービスの紹介等を依頼する際には、当該依頼先に対し、どのように表示(「広告」「PR」等)を行う必要があるのかも併せて伝えるとともに、当該第三者の表示について、実際に事業者の表示であることが明瞭となっているかを確認し、明瞭になっていなければ明瞭になるように修正を求めるといった対応が考えられます。
また、上述のとおり、事業者(企業)が明示的に依頼をしていない場合であっても、客観的な状況から、「事業者の表示」だと判断される場合があります。この部分は明確な線引きが難しく、一般消費者の保護という景品表示法の趣旨に照らすと、「事業者の表示」を広めに解釈されるリスクもあることから、事業者(企業)としては、商品・サービスの紹介等を行う第三者との間に、商品・サービスの評価に影響を与える関係性がある場合には、当該第三者が行う紹介等において、「広告」「PR」等の表示をわかりやすく付したり、当該関係性(例えば、商品を無償提供していること)を明示してもらう方がよいと考えられます。
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(文責・藤田)
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