景品表示法は、一般消費者のお客様に対してモノやサービスを販売する企業にとって逃れたくても逃れられない法律です。判断基準の掴みどころのなさも相まって、企業の広告担当者にとっては悩みの種といえるでしょう。
景表法事件レポートでは、消費者庁による法執行(行政指導、措置命令、課徴金納付命令等)をモニターし、注目すべき事件につき皆様にご紹介いたします。
今回は、今後、監視・法執行が強化されることが予想されるアフィリエイト広告に関する2つの事件(景品表示法に基づく措置命令、消費者安全法に基づく注意喚起)をご紹介します。
なお、2つ目の事件は、景品表示法ではなく消費者安全法に関する事件ですが、不当なアフィリエイト広告が問題になった重要事件として、併せて解説します。
育毛剤に関するアフィリエイト広告の広告主に対する景品表示法に基づく措置命令(2021年3月3日公表)
概要
消費者庁は、2021年3月3日、育毛剤に関するアフィリエイト広告について、優良誤認表示に該当することを理由に、広告主に対する措置命令を行いました。
対象商品 | 「BUBKA ZERO」と称する育毛剤及びそのセット商品 |
---|---|
表示の概要 |
|
実際 | 違反行為者から資料の提出があったものの、合理的根拠を示す資料とは認められなかった。 (不実証広告規制を適用) |
解説
アフィリエイト広告の仕組み
アフィリエイト広告は、インターネットを用いた広告手法の一つです。
特にネットメディア系のニュースサイトなどで「PR」と表記されて記事と記事との間に挟まれた広告が典型例です。
アフィリエイト広告では、下図(引用元:消費者庁のNews Release・40頁(参考3))のように、広告側の登場人物として、「広告主」、「ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)」及び「アフィリエイター」が存在します。
これに加えて、「広告主」と「ASP」との間に「広告代理店」を挟む場合もあります。
それぞれの登場人物は、それぞれ下表の役割を担っています。
広告主 | 商品・サービスの提供主体です。そのため、最終的には、広告主が消費者に対して商品・サービスを販売することになります。 ASPとの間でアフィリエイトサービスに関する契約を締結するか、又は広告代理店との間で広告に関する契約を締結します。 |
---|---|
広告代理店 | 登場しない場合もありますが、登場する場合には、広告主とASPの間に入り、それぞれと契約を締結します。 |
ASP | アフィリエイターに対してアフィリエイトサイトにアフィリエイト広告を掲載するためのシステムを提供します。 広告主又は広告代理店との間の契約の他、アフィリエイターとの間でパートナー契約を締結します。 |
アフィリエイター | アフィリエイト広告を作成し、自らのアフィリエイトサイトに掲載します。 |
アフィリエイト広告には、商品・サービスの宣伝文句と併せて、広告主のウェブサイトへのリンク・バナーが表示されます。
アフィリエイト広告を見た消費者が当該リンク・バナーをクリックし、広告主のウェブサイトに遷移した上で、広告主の商品・サービスを購入すると、その実績に応じて、広告主が、ASPを通じて、アフィリエイターに対して報酬を支払う、という仕組みになっていることが一般的です。
アフィリエイト広告と景品表示法の関係(表示主体性)
上記のとおり、アフィリエイト広告をアフィリエイトサイト上に作成するのは「広告主」ではなく、「アフィリエイター」です。
そのため、景品表示法との関係では、上記登場人物のうち誰がアフィリエイト広告の表示主体となるのかが問題になります。
この点について、「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」には、以下の記載があります。
近年、インターネットを用いた広告手法の一つであるアフィリイトプログラムを用いて、アフィリエイターが、アフィリエイトサイトにおいて、広告主の販売する健康食品について虚偽誇大表示等に当たる内容を掲載することがある。このようなアフィリエイトサイト上の表示についても、広告主がその表示内容の決定に関与している場合(アフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合を含む。)には、広告主は景品表示法及び健康増進法上の措置を受けるべき事業者に当たる。
つまり、少なくとも、いくらアフィリエイトサイトにおいてアフィリエイト広告を作成するのが「アフィリエイター」であっても、それのみをもって「広告主」が景品表示法上の責任を逃れることはできません。
以前の記事(「新型コロナウイルス予防商品と優良誤認表示(1)~景表法による優良誤認表示規制の概要~」)でご紹介した表示主体の3類型でいえば、広告主は、その関与度合いに応じて、②又は③に該当し得ると整理することができます。
ちなみに、不当表示規制は「自己の供給する商品又は役務の取引」(景品表示法5条柱書)に関する表示についてのみ及ぶものです。
そのため、「アフィリエイター」や「ASP」は、景品表示法上の措置を受けることはありませんが、他方で、そのような限定なく「何人も」対象とする健康増進法や薬機法は別途問題になります。
違反事業者=「広告主」
本措置命令の名宛人となった違反事業者は、上記登場人物でいうところの「広告主」でした。
本措置命令によれば、違反事業者は問題のアフィリエイト広告の「表示内容を自ら決定している」とのことですが、より具体的には、違反事業者は、アフィリエイターが作成したアフィリエイト広告の内容を、事前又は事後に確認の上で了承していたという事情があったとのことです。
もちろん、広告主が、アフィリエイト広告の内容をアフィリエイターに一任しており、自らその内容を確認しなかったとしても、それをもって広告主の表示主体性が否定されるものではない点には注意が必要です。
提出資料の問題点
本措置命令では、違反行為者提出された資料が、表示内容を裏付ける合理的根拠を示す資料とは認められなかったために、不実証広告規制(景品表示法7条2項)によって優良誤認表示該当性が認められました。
消費者庁によれば、違反事業者から提出された資料は、本育毛剤に含まれる各成分に関する資料にすぎず、結局「本件商品を使用するだけで、本件商品に含まれる成分の作用により、短期間で、外見上視認できるまでに薄毛の状態が改善されるほどの発毛効果が得られる」ことを裏付けるものではありませんでした。
より具体的には、問題のアフィリエイト広告では、本育毛剤の機序につき「薄毛の原因は17型コラーゲンという毛包幹細胞を支えるタンパク質の不足であるところ、本育毛剤にはマジョラムエキスという17型コラーゲンを生成する効果のある成分が含まれているため、本育毛剤を頭皮に塗布すると、17型コラーゲンが生成され、発毛効果が得られる」と説明されていました。
ところが、消費者庁によれば、違反事業者から提出された資料は上記のとおりであり、またマジョラムエキスについては、17型コラーゲンを増加させることに関するエビデンスは提出されなかったとのことです。
なお、17型コラーゲンについては、研究者から、消費者に誤解を与えるような形で研究結果を引用した化粧品・健康食品があることにつき注意喚起がなされています(「【17型コラーゲン】に関連するとされる化粧品・健康食品等への注意喚起について」)。
2つの「初」
消費者庁によれば、本措置命令は、次の2点で消費者庁にとって「初」の事件だったとのことです。
- アフィリエイト広告の表示内容そのものを対象とした点
- 男性用育毛剤に関する広告である点
このうち1. について、昨年12月、消費者庁がアフィリエイト広告に対して大規模な調査を実施するとの報道がありました。
本措置命令以外にも、近時、後述する注意喚起や、薬機法違反容疑でアフィリエイターが書類送検されるといった事案が続いていることから、今後、アフィリエイト広告に対する監視・法執行が強化されていくことが予想されます。
シミ取り効果を謳った化粧品に関するアフィリエイト広告に関する注意喚起(2021年3月1日公表)
概要
消費者庁は、2021年3月1日、シミ取り効果を謳った化粧品に関する虚偽・誇大なアフィリエイト広告について、消費者安全法38条1項に基づく注意喚起を行いました。
本注意喚起は、アフィリエイト広告の表示内容について消費者安全法を適用した初めての事案です。
解説
消費者安全法に基づく注意喚起
消費者庁による注意喚起というと、昨年に複数回行われた新型コロナウイルスに対する予防効果を標榜する広告に関する注意喚起が想起されますが、本注意喚起は、それとは異なり、消費者安全法を根拠とするものです。
法第2条第5項(定義)
この法律において「消費者事故等」とは、次に掲げる事故又は事態をいう。
一・二 略
三 前二号に掲げるもののほか、虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者により行われた事態施行令3条
法第2条第5項第3号の政令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
一 商品等……について、虚偽の又は誇大な広告又は表示をすること。法第38条(消費者への注意喚起等)
内閣総理大臣は、第十二条第一項若しくは第二項又は第二十九条第一項若しくは第二項の規定による通知を受けた場合その他消費者事故等の発生に関する情報を得た場合において、当該消費者事故等による被害の拡大又は当該消費者事故等と同種若しくは類似の消費者事故等の発生(以下「消費者被害の発生又は拡大」という。)の防止を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるときは、当該消費者事故等の態様、当該消費者事故等による被害の状況その他の消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報を都道府県及び市町村に提供するとともに、これを公表するものとする。法第47条(権限の委任)
内閣総理大臣は、第四十五条第一項の規定による権限その他この法律の規定による権限(政令で定めるものを除く。)を消費者庁長官に委任する。
同法では、消費者庁長官は、消費者事故等の発生に関する情報を得た場合等において、消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため消費者の注意を喚起する必要があると認めるときは、消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報を公表することとされています(同法38条、47条)。
そして、「消費者事故等」の一つとして、「虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが事業者により行われた事態」が定められているところ(同法2条5項3号)、当該「政令で定めるもの」につき「商品等……について、虚偽の又は誇大な広告又は表示をすること」が例示されています(施行令3条1号)。
「消費者事故等」該当性
本注意喚起では、対象事業者の行為が「消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する行為」に該当するとされました。
具体的には、下表のとおり、対象事業者の提供する商品に係るアフィリエイト広告につきその表示内容と実際との間にズレがあったため、当該アフィリエイト広告が「商品等……について、虚偽の又は誇大な広告又は表示」(施行令3条1号)に該当すると判断されたことになります。
【対象事業者①:株式会社Libeiro】
表示内容 | 実際 | |
---|---|---|
① 効果 | あたかも、当該商品を使用すれば3日から1週間程度で肌のシミが確実に消えるかのように表示 | 肌のシミをこのような短期間で確実に解消する効果はなし |
② 体験談 | 当該商品を使用したことにより1週間以内に肌のシワが解消したという内容の体験談を表示 | アフィリエイターが画像やテキストを編集して実在の消費者の体験談であるかのようにみせかけた架空のもの |
③ 期間限定 | あたかも、令和元年12月11日に限り、通常価格9,800円の「エゴイプセビライズ」が2,980円で購入できるかのように表示 | この日以降も2,980円で販売 |
【対象事業者②:株式会社シズカニューヨーク】
表示内容 | 実際 | |
---|---|---|
① 効果 | あたかも、当該商品を使用すれば誰でも3日程度で肌のシミが確実に消えるかのように表示 | 肌のシミをこのような短期間で確実に解消する効果はなし |
② 体験談 | 当該商品を使用したことにより短期間で肌のシミが解消したという内容の体験談を表示 | アフィリエイターが画像やテキストを編集して実在の消費者の体験談であるかのようにみせかけた架空のもの |
③ 期間限定 | あたかも、「シズカゲル」は令和元年11月26日までに限って販売されるものであり、在庫数が僅かであって売り切れた場合には長期間購入できなくなるかのように表示 | この日以降も販売されており、また、在庫が僅少になった事実もなし |
上記のうちの「実際」を見ると、対象商品には「使用により3日~1週間程度で肌のシミが確実に消える」という効果はないこと(①)及び体験談が架空のものであること(②)が認定されています。
消費者庁によれば、このうち①について、Libeiroに関しては代表者が対象商品に速効性がない旨を述べ、シズカニューヨークに関しては苦情に対して会社がシミ解消の実効性や速効性はない旨を説明していたことから、上記「実際」を認定したとのことです。
また、②については、問題のアフィリエイト広告を作成したアフィリエイターから、体験談が架空のものであることにつき供述をとっているとのことです。
公表する情報の範囲
同法38条に基づく公表の対象となる情報は、下図のとおり「消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報」であり、その例示として「当該消費者事故等の態様」及び「当該消費者事故等による被害の状況」が挙げられていると整理できます。
ここで、前述のとおり、アフィリエイト広告には「広告主」、「ASP」、「アフィリエイター」などが関与しますが、本注意喚起におけるそれぞれの情報の取扱いは下表のとおりとなっています。
公表された情報 |
|
---|---|
非公表の情報 |
|
まず注目されるのは、広告主の所在地、代表者名等といった景品表示法に基づく措置命令でも公表される情報が公表されていない点です。
この点について、消費者庁は、消費者安全法に基づく注意喚起において公表される情報は「消費者被害の発生又は拡大の防止に資する情報」であるところ、消費者被害の発生又は拡大を防止するという観点からは、問題となったのが何という事業者の何という商品に係る広告かを公表すれば足り、その所在地や代表者名は上記「資する情報」には該当しないと判断した、と説明しています。
この点はASPやアフィリエイターについても同様で、消費者庁によれば、消費者事故として認定されたのはあくまでも広告主による虚偽・誇大な広告・表示であるから、ASPやアフィリエイターに関する情報は上記「資する情報」に該当しないと判断したとのことです。
本記事に関するお問い合わせはこちらから。
(文責・増田)