景品表示法は、一般消費者のお客様に対してモノやサービスを販売する企業にとって逃れたくても逃れられない法律です。判断基準の掴みどころのなさも相まって、企業の広告担当者にとっては悩みの種といえるでしょう。
景表法事件レポートでは、消費者庁や都道府県による法執行(行政指導、措置命令、課徴金納付命令等)をモニターし、注目すべき事件につき皆様にご紹介いたします。

今回は、2020年度に都道府県が行った措置命令全8件のうちチェックしておきたい次の2件をピックアップしてご紹介します。

  1. No.1表示等の消費者に対する調査結果に基づく表示が問題となった措置命令
  2. 同一でない商品の価格を比較対象価格とする二重価格表示

前提:都道府県知事による措置命令の根拠

景品表示法の法執行の主体としては、消費者庁が最もポピュラーな存在ですが(法33項1条)、措置命令(+合理的根拠要求及び調査)については、都道府県知事にも権限が付与されています(法33条11項、施行令23条1項本文)

景品表示法第33条(権限の委任等)
1 内閣総理大臣は、この法律による権限(政令で定めるものを除く。)を消費者庁長官に委任する。
2~10 略
11 第一項の規定により消費者庁長官に委任された権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととすることができる

景品表示法施行令第23条(都道府県が処理する事務)
1 法第三十三条第一項の規定により消費者庁長官に委任された権限に属する事務のうち、法第七条(注:措置命令+合理的根拠要求及び第二十九条第一項(注:調査)の規定による権限に属する事務……は、不当な景品類の提供又は表示がされた場所又は地域を含む都道府県の区域を管轄する都道府県知事が行うこととする。……
2~3 略

また、調査権限は、公正取引委員会にも委任されています(施行令15条本文)。

景品表示法施行令第15条(公正取引委員会への権限の委任)
法第三十三条第一項の規定により消費者庁長官に委任された権限のうち、法第二十九条第一項の規定による権限は、公正取引委員会に委任する。ただし、消費者庁長官が自らその権限を行使することを妨げない。

以上をまとめると、景品表示法は下図のような体制で運用されており、調査は消費者庁、公正取引委員会及び都道府県知事により、措置命令は消費者庁及び都道府県知事により、そして、課徴金納付命令は消費者庁のみにより行われていることとなります。

(引用元:消費者庁HP「景品表示法違反行為を行った場合はどうなるのでしょうか?」)

このうち、本稿では、都道府県知事による措置命令(上図右下の赤枠)を取り上げます。

なお、景品表示法違反被疑事件の処理状況・相談状況等は、「景品表示法執行NETシステム」によって消費者庁、公正取引委員会及び都道府県の間で情報共有されています。

埼玉県:家庭教師派遣事業者に対する措置命令(2020年9月14日公表)

概要

埼玉県は、2020年9月14日、家庭教師派遣サービスに関する下表記載の表示が優良誤認表示に該当することを理由に、家庭教師派遣事業者に対して措置命令を行いました。

なお、本措置命令では、その他の表示(家庭教師の登録数等)の優良誤認表示該当性や、解約料に関する表示の有利誤認表示該当性も認定されていますが、本稿では割愛します。

対象サービス 家庭教師を派遣して行う学習指導
表示の概要
  •   表示媒体:自社ウェブサイト
  •   表示期間:合格率に関する表示につき2019年5月1日~2020年7月1日、満足度に関する表示につき2019年4月3日~2020年8月14日
  •   表示内容:以下の各表示


1.  
合格率に関する表示
下図のとおり表示し、あたかも、本件役務の供給を受けた者の第一志望校への合格率が高いものであるかのように表示していた。

2.   満足度に関するNo.1表示
下図のとおり表示し、あたかも、顧客からの満足度が高いものであるかのような表示をしていた。

実際 1.   合格率に関する表示
本件役務を利用して受験をした受験生を全て含んだ上で算出されたものではなく、しかも第一志望校を複数校挙げた受験生もそのいずれかの学校に合格した場合は第一志望校合格者として計上される等、統計的に客観性が十分に確保されているとはいえないものであった。2.   満足度に関するNo.1表示
平成31年2月から3月に調査会社に委託し、インターネット上で収集した家庭教師派遣事業者9者に関するイメージ調査の結果であり、顧客に対しての調査ではなかった

解説

消費者に対する調査結果に基づく表示と不当表示規制

一般に、消費者に対する調査結果に基づいてある表示を行う場合、当該調査につき以下の2点が問題になると考えられます。

  1. 統計的客観性が十分に確保されていること
  2. 表示と調査結果とが適切に対応していること
(1)ポイント1. 統計的客観性

調査には、大別して、調査対象者(母集団)の全てを調査する「全数調査」と、母集団から一部抽出された標本(サンプル)を調査して母集団の特徴を推測する「標本調査」が存在しますが、このうちの「標本調査」において母集団の特徴を適切に推測するためには、十分な数の標本を、偏りなく抽出する必要があります。

そこで、ポイント1.として、標本調査の場合には、サンプルの抽出方法が無作為であること及びサンプル数が十分であることが要求されると考えられます。
また、全数調査及び標本調査に共通して、調査過程及び分析過程にバイアス・恣意・作為が加わらないことなどが必要になるでしょう。

(2)ポイント2. 表示と調査結果の対応

ポイント2.は、表示内容と調査の結果得られたデータとが適切に対応していることを意味するものです。

例えば、商品等の実際の利用者に対する調査結果であるかのような表示にもかかわらず、インターネット上の(実際の利用者に対するものではない)単なるイメージ調査が実施されたにすぎない場合等には、表示と調査結果とが適切に対応していないということとなります。
この場合、当該表示は優良誤認表示に該当する可能性があります。

(3)「No.1表示に関する実態報告書」

実際、No.1表示(事業者が自ら供給する商品等について、他の競争事業者との比較において優良性・有利性を示すためにする「No.1」、「第1位」、「トップ」、「日本一」などの表示)に関して景品表示法上の考え方をまとめた「No.1表示に関する実態報告書」では、No.1表示が不当表示(優良誤認表示又は有利誤認表示)とならない要件として、以下の2要件が挙げられています(7頁)。

No.1表示が不当表示とならないためには,①No.1表示の内容が客観的な調査に基づいていること,②調査結果を正確かつ適正に引用していることの両方を満たす必要がある……。

このうち、①客観的な調査について、客観的な調査にはあたらず景品表示法上問題となるおそれのある調査方法として、以下の3つが例示されています(7頁)。

  1. 顧客満足度調査の調査対象者が自社の社員や関係者である場合又は調査対象者を自社に有利になるように選定するなど無作為に抽出されていない場合
  2. 調査対象者数が統計的に客観性が十分確保されるほど多くない場合
  3. 自社に有利になるような調査項目を設定するなど調査方法の公平性を欠く場合

つまり、上記①の要件は、前述した「1. 統計的客観性が十分に確保されていること」と同趣旨のものと整理できるでしょう。

また、②調査結果の正確かつ適正な引用については、No.1表示の対象となる商品等の範囲(どのような商品・サービスのカテゴリーにおいてNo.1か)、地理的範囲(どの地域でNo.1か)、調査期間・時点(どの期間・時点でNo.1か)、調査の出典(誰がどのような名称で行った調査か)等の事項につき明瞭に表示することが求められています(8~14頁)。

なお、「No.1表示に関する実態報告書」では明記されていませんが、上記「2. 表示と調査結果とが適切に対応していること」も、No.1表示が不当表示にならないための前提となっているものと考えられます(西川康一編著『景品表示法[第6版]』(商事法務、2021年)80-81頁参照)。

合格率に関する表示の問題点

本措置命令における不当表示のうち合格率に関する表示については、以下の2点が指摘されています。

  1. 95%以上という数値が、受験生を全て含んだ上で算出されたものでないこと
  2. 第一志望校を複数校挙げた受験生がいずれかの学校に合格した場合、第一志望校合格者として計上されていたこと

1点目は、「第一志望校合格率95%以上」という表示が、あたかも事業者のサービスを利用した受験生の全てを母集団とする全数調査の結果得られたデータであるかのような表示であるにもかかわらず、実際には違ったことを指摘するものと考えられます。
あくまで想像ですが、おそらく、ここでは、一般消費者の認識を、「本件役務を利用して受験をした受験生」という限定された母集団であれば、「本件役務の提供主体である事業者は当該母集団の受験結果情報を取得・管理しているはず → 上記表示は当該情報に基づくもの → 上記表示は全数調査の結果得られたデータのはず」といった形で導いているのではないかと推測されます。

他方、2点目は、分析過程に恣意又は作為が加わっていたことを問題視するものであると考えられます。
つまり、「第一志望校合格率」を分析するためには、第一志望校が複数ある受験生については、受験生単位でカウント(いずれか一つの第一志望校に合格していれば、第一志望合格者としてカウント可)するのではなく、第一志望校別にみてカウントすべき(いずれか一つの第一志望校に合格したのみの場合、不合格となった分も結果に反映すべき)であるが、本件では、受験生単位でカウントが行われていたため、分析過程において事業者が有利になるような恣意又は作為があったと評価されたものと思われます。

実際のところ、上記表示に接した消費者が、複数の第一志望校のうちいずれかの学校に合格した受験生がいた場合にどのようにカウントされると理解するかは微妙なところとも思われます。そのため、「第一志望校=志望度の最も高い1つの学校(第一志望校として複数の学校が挙げられることは通常想定されない)」との考え方もあり得そうではありますが、受験生単位でのカウントの是非については議論の余地があるといえそうです。
とはいえ、少なくとも、本措置命令では、受験生単位でのカウントは統計的客観性を欠く方法であると判断されました。

最終的に、以上の2点などを根拠に「1. 統計的客観性が十分に確保されていること」が否定されました。

満足度に関するNo.1表示の問題点

本措置命令における不当表示のうち満足度に関するNo.1表示については、以下の点が指摘されています。

  • 家庭教師派遣事業者9者に関するイメージ調査の結果であり、顧客に対しての調査ではなかったこと

これは、上記No.1表示が、あたかも、事業者の顧客、つまり実際のサービス利用者に対する調査結果であるかの表示であるにもかかわらず、実際には、単なるインターネット上のイメージ調査にすぎず、表示から理解される母集団にずれがあることを指摘するものと考えられます。
この指摘は「2. 表示と調査結果とが適切に対応していること」に関するものと位置づけられると思われ、前述のように「2. 表示と調査結果とが適切に対応していること」がNo.1表示が不当表示にならないための前提となっていることを示すものといえるでしょう。

なお、本措置命令では、「No.1表示に関する実態報告書」における2要件のうちの「②調査結果を正確かつ適正に引用していること」に関する事実には触れられていません。
この点については、少なくとも、商品等の範囲につきNo.1となった項目(「お客様・料金・第一志望合格」)の具体的内容が消費者から見て明確といえるか、調査期間・時点につき「2019年3月」という記載のみで十分か、調査の出典につき調査名称等の他に引用元の調査を確認・特定可能な要素を明示できないかといった点が要検討といえそうです。

東京都:パソコンの販売事業者に対する措置命令(2021年3月30日公表)

概要

東京都は、2021年3月30日、下表記載のインターネット通販におけるパソコンの販売価格に関する二重価格表示が有利誤認表示に該当することを理由に、その販売事業者に対して措置命令を行いました。

なお、本措置命令では、全部で55の商品、70の表示が対象となり、以下で取り上げるパターン以外の二重価格表示の有利誤認表示該当性も認定されていますが、本稿では割愛します。

【パターン①:新製品と旧製品との比較】※ 筆者によるイメージ図

【パターン②:製品単体+サービス加入値引きと製品単体との比較】※ 筆者によるイメージ図

対象商品 パソコン(計55商品)
表示の概要
  • 表示媒体:自社ウェブサイト「ドスパラ
  • 表示内容:実際の販売価格に、それを上回る価格(比較対象価格)を取消し線付きで併記することにより、販売価格が通常販売している価格と比べて安いかのように表示していた。
実際 比較対象価格は、最近相当期間にわたって販売された実績のないものだった。

解説

非同一商品の二重価格表示

いわゆる「価格表示ガイドライン」では、以下のような二重価格表示につき有利誤認表示に該当するおそれがあると説明されています(5頁)。

  1. 同一でない商品の価格を比較対象価格とする二重価格表示
  2. 比較対象価格につき実際と異なる or あいまいな表示をする二重価格表示

このうちの1.に関連して、「価格表示ガイドライン」には以下の記載があります(5頁)。

商品の同一性は、銘柄、品質、規格等からみて同一とみられるか否かにより判断される。
……
また、ある一つの商品の新品と中古品、汚れ物、キズ物、旧型又は旧式の物(以下「中古品等」という。)とは、同一の商品とは考えられない。

つまり、型番や外見等から一見同じ商品同士であったとしても、新品にとっての中古品の価格、通常品にとっての訳アリ品の価格、新モデルにとっての旧モデルの価格は、二重価格表示における比較対象価格とすることができないことになります。

パターン①:新製品と旧製品との比較

パターン①は、まさに旧モデル(搭載されているCPUが旧モデルのパソコン)の価格を、新モデル(搭載されているCPUが新モデルのパソコン)の価格の比較対象価格とした二重価格表示のケースです。

両モデルを比較すると、商品名及び外見は同一でしたが、スペック(CPU)が異なっていました。そのため、旧モデルは、新モデルから見て「旧型又は旧式の物」であり、新モデルとは異なる品質の商品であったため、同一の商品とはいえないことになります。
その結果、パターン①は、「1.同一でない商品の価格を比較対象価格とする二重価格表示」に該当し、有利誤認表示にあたると判断されたものと考えられます。

とりわけ電子製品については、今回のパソコンのように、商品名や外見は同一であっても、その中身につき構成が変更され得る商品が多く存在します。
そのような商品については、中身が変われば商品としては非同一と評価され、二重価格表示を行えないことを十分に認識しておく必要があるでしょう。

パターン②:製品単体+サービス加入値引きと製品単体との比較

パターン②は、パソコン単体の価格を、当該パソコンにサービス加入割引を適用した価格の比較対象価格とした二重価格表示のケースです。

パターン②では、パターン①とは異なり、パソコンそのものは同一でしたが、比較されたのは、「パソコン」のみの価格と、「パソコン+サービス加入」のセットの価格でした。
取引の実態に照らせば、前者が「パソコン」という単体商品であるのに対して、後者は「パソコン+サービス加入」というセット商品と捉えられるため、両者は非同一の商品であり、ゆえに、パターン②は、「1.同一でない商品の価格を比較対象価格とする二重価格表示」として有利誤認表示に該当すると判断されたものと考えられます。

パターン②は、二重価格表示ではなく、パソコンの価格はそれ自体取消し線なく表示した上で、セーフティサービスへの加入を割引オプションとして明示すべき事案だったといえるでしょう。

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(文責・増田)