ロシアは、2014年のクリミア併合以降、日本や欧米等から一定品目の輸入制限に関する大規模な経済制裁を受けており、2022年2月24日のウクライナ侵攻により、輸出禁止・規制品目リストが大幅に増加され、日常生活に至るまで多大な影響を受けました。これによって、ロシア国内で必要な商品・製品の欠如を避けるために、ロシアが並行輸入を合法化[1]したことについて、本稿で解説したいと思います。

ロシアにおける並行輸入とは

ロシア法では、並行輸入という法的な概念そのものはありませんが、一般に、並行輸入とは、知的財産の権利者またはこれら権利者の正規販売店の同意を得ずに、他の輸入業者が真正商品を輸入販売することを意味します。ここでいう並行輸入は、模倣品輸入の合法化を意味するものではなく、正規代理店ルートとは別のルートで真正品を輸入することを指すと、ロシア産業商務省のHPで指摘されています。

具体的には、ロシアでは、商標が付された商品を輸入する権利に関しては、2002年から国内消尽原則が適用されています(ロシア民法1487条)。要するに、国内原則のもとでは、商標にかかる独占権は、商品がロシア国内で流通することによってのみ、消尽されたことに見なされます。言い換えれば、商標権者(または正規代理店など)が、ロシア連邦に真正品を輸入販売した場合に限り、その後の独占権が消尽することになります。

第1487条 商標に係る排他権の消尽

権利者により直接又は権利者の同意を得てロシア連邦領域内において流通された商品について,他人による当該商標の使用は,商標に係る排他権の侵害とはされないものとする。

さらに、特許権に関しては、特許権者の同意なしに、特許が使用された製品のロシアへの輸入、使用、マーケティング、販売、商業取引、保管等が侵害行為に該当すると規定しています(ロシア民法1359条6項)。

第1359条 発明,実用新案又は意匠に係る排他権の侵害に該当しない行為

次に掲げる行為は,発明,実用新案又は意匠に係る排他権の侵害ではない。

・・・(略記)

6)発明若しくは実用新案を組み込む製品又は意匠を用いる装置のロシア連邦領域内への輸入,販売の申出,販売,その他の態様での交易への導入又はこれらの目的での保管であって,当該製品又は装置が特許所有者又は特許所有者の同意を得ていたその他の者により以前ロシア連邦領域内の市場に導入されていたか又はかかる同意はなかったがこのような商業的流通への導入が本法に基づいて適法であった場合

この規定の解釈として、ロシアの裁判実務では、たとえ真正品であっても、ロシア外で調達されたものについては、ロシアへの輸入について商標権や特許権は消尽していないと考えられてきました。

したがって、並行輸入は、権利者の同意がない限り、知的財産権の侵害行為としてみなされ、民事上の責任や、行政・刑事上の責任の対象になっていました。この点は、日本や米国などとは考え方が大きく異なるところです。

並行輸入を合法化とは(時系列で説明)

ロシアは、日欧米などの貿易制限・経済制裁やウクライナへの軍事侵攻を機に、外国企業がロシア市場から撤退・休眠することを受け、国内における必要品の価格高騰を抑えるために、連邦法で、一定の品目につき、並行輸入を知的財産権の侵害行為に当たらないと定めて並行輸入を合法とし、知的財産権の侵害行為に該当しないこととしました(2022年6月22日に国会にて法案承認、2022年6月28日にロシア大統領が署名[2])。具体的に、並行輸入が下記の流れで承認されることになりましたので、時系列で解説したいと思います。

  日付 官庁名 内容
1. 2022年2月24日 ロシア ウクライナに対し軍事的作戦を遂行
2. 2022年3月8日 議会 ロシア民法における知的財産の独占権保護にかかる特定の規定は、ロシア政府が指定した商品リストに対して適用されず、かつ、独占権の適用対象外とする規定の適用を判断する権限や、対象となる商品を指定する権限はロシア政府が有するものとされました[3]。当該法律は2022年中に適用効力を生じます。
3. 2022年3月29日 政府 上記法律をもって、ロシア政府は、ロシア民法の第1359条6項および第1487条が、ロシア産業商務省が指定した品目リストに対して適用されないものと規定しています[4]。これにより、並行輸入が適法になります。
4. 2022年4月19日 産業商務省 産業商務省は、ロシアへの並行輸入を認めるブランド名および品目リストを作成しました[5]
5. 2022年6月28日 議会 知的財産権保護の適用を除外した品目に関する輸入販売等の行為は、知的財産権の侵害行為に当たらないと定め、並行輸入が適法であることがさらに明確にされました[6]。当該法律は2022年中に適用効力を生じます。

したがって、産業商務省が指定した品目については、権利者の同意なしに、輸入することが可能となります。

並行輸入対象の商品

産業商務省が指定する品目のリストには、鉱石、石油、鉱物性燃料、医薬品・医療品、化学製品、紙、繊維繊維素材(綿、羊毛、絹など)、衣類・履物、卑金属、プラスチック、ゴム製品、原子力産業用設備・機器、電気機械器具、陸上車両、船舶、家具など、計55の商品カテゴリーを対象としています。これらのカテゴリーは、さらに具体的な品目・商品名まで細分化されています。日本企業の商品では、自動車および部品、タイヤ、自動車の内燃機関、エアコン、印刷機、スマートフォン、ゲーム機などが対象となっています。当該リストを日本語で確認するには、ジェトロのHPをご参考ください。

おわりに

当該リストは、市場状況や外国企業がロシアマーケットでどのような方針をとるかによって、リストは常に変更されているため、随時確認することは必要です。また、ロシアの消費者法を運用する連邦反独占庁(Federal Antimonopoly Service)によると、知的財産所有者の同意なしにロシアに並行的に輸入された商品に関しても、製造者保証の対象となるべきであり、製造者はロシアの消費者保護法に従い、消費者に対して欠陥や不良品に対する責任を負うべきであるとの立場[7]を明らかにしています。この点は、製品により、たとえロシア向けの製造販売をしていない場合であっても、日本企業にとって潜在的なリスクとなり得ます。そのため、そういったリスクが想定される製品を製造販売している企業は、無断で自社製品がロシアに輸入されることがないよう、販売代理店や物流チェーンを確認することが推奨されます。

 

脚注
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[1] 知的財産権の侵害に該当しないことを意味します(2022年6月29日付連邦法第213-FZ号)

[2] 当該法律の成立過程については、ロシア議会のHPを参照:https://sozd.duma.gov.ru/bill/127049-8#bh_histras

[3] 2022年3月8日付連邦法第46-FZ号「ロシア連邦の特定の立法の改正について」第18条13項

[4] 2022年3月29日付連邦政府決定第506号「商品で表された知的財産の成果および商品に表示される識別手段に対する排他的権利の保護にかかるロシア連邦民法の特定の規定を適用しない商品(商品のグループ)について」

[5] 2022年4月19日付産業商務省規定第1532号

[6] 2022年6月29日付連邦法第213-FZ号

[7] TASS報道(ロシア語の記事):https://tass.ru/ekonomika/14200495?utm_source=yxnews&&utm_medium=desktop

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(文責・アザマト・シャキロフ)