経済産業省は「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(以下「本準則」といいます。)に改訂を行い、2020年8月28日、これを公表しました。この改訂は、2020年4月1日に施行された平成29年民法改正に対応するものです。本準則は、電子商取引(eコマース)や情報財取引に関する法的論点について経済産業省の考え方を提示する準則であり、実務上利用されています。

本稿では、前稿に引き続き、本準則について、平成29年民法改正に対応して改訂された部分のうち実務上注目される点として、利用規約の効力等に関する部分をご紹介します。

ポイント

骨子

  • 本準則は、平成29年民法改正により導入された定型約款の概念を、電子商取引(eコマース)や情報財取引における利用規約に当てはめて整理しました。
  • 具体的には、定型約款に該当する利用規約の具体例や、定型約款に該当する利用規約の変更が認められる場合の具体例を示しました。
  • 本準則はまた、定型約款に該当しない利用規約について、それが当事者間の契約内容となる場合の具体例や、その変更についての考え方を示しています。

解説

利用規約の効力等について

平成29年民法改正により、定型約款という概念が民法に導入されました。定型約款とは、日常生活でも約款と呼ばれる、公共交通機関の運送約款、電気、ガス、水道等の約款、保険の約款等が典型例ですが、これらにとどまるものではありません。

電子商取引や情報財取引における利用規約には、民法上の定型約款に該当する利用規約と、これに該当しない利用規約とがありえます。

本準則は、民法の規定に即して、電子商取引における利用規約がどのような場合に定型約款に該当するのかを示すとともに、定型約款に該当しない利用規約の効力についての考え方も示しています。

以下では、まず定型約款の説明を行い、続いて定型約款に該当する利用規約の効力等について言及した後、定型約款に該当しない利用規約の効力等についても触れることとします。

定型約款とは

定型約款という法的概念は、民法548条の2において以下のように定められています。

まず、定型約款とは、定型取引に用いられるものです。

それでは定型取引とは何かというと、定型取引とは次のいずれにも該当する取引をいいます。
(ア) ある特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引であること、及び
(イ) その内容の全部又は一部が画一的であることが、その双方にとって合理的なものであること

本準則によると、この(ア)の要件は、相手方の個性に着目しないで行う取引であることを求めているとされます。また、(イ)の要件は、定型約款によって契約内容を画一的に定めることについて、契約締結過程において、相手方がその内容の変更を求めずに(契約交渉が行われずに)契約締結まで至ることが当事者双方にとって合理的であることを求めているとされます(本準則25~26頁)。

そして、定型約款とは、(ア)でいう特定の者が、定型取引において契約の内容とすることを目的として準備した条項の総体のことです。

定型約款の効力

定型約款の効力は、一定の場合に、当事者間の契約内容がその定型約款の内容に従うものとみなされることです。

具体的には、定型取引を行うことを合意した者は、次のいずれかの場合において、定型約款の各条項を契約内容とすることに合意したものとみなされます(民法548条の2第1項)。
(ウ)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、又は
(エ)定型約款を準備した者があらかじめ定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき

ただし、定型約款に含まれる条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項は、合意をしなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。

定型取引に該当するサービスの具体例

以上を踏まえ、本準則はまず、どのような電子商取引が定型取引に該当するのか、その具体例を以下のように示しています(本準則23~24頁)。

(定型取引に当たると考えられる場合)

  • WEB 上にファイル保存・共有できるように設計されたサービス(クラウドストレージ)の利用
  • インターネットショッピングモールの出店者・出品者が販売している商品の購入
  • 簡単な手続で登録すれば会員になれる会員限定サイトで提供されている商品・サービスの購入・利用
  • 契約条件が「独身」に限定されている婚活サービスの利用

これらは、上記の(ア)相手方の個性に着目しないで行う取引であること、(イ)契約締結過程において内容の変更を求めずに(契約交渉が行われずに)契約締結まで至ることが合理的であること、をいずれも充足するとの解釈がされうる例ということになります。

定型約款に該当する利用規約の具体例

続いて本準則は、利用規約が定型約款として契約内容になるかどうかの具体例を以下のように示しています(本準則24頁)。

(利用規約が定型約款として契約の内容とみなされると考えられる場合)

  • ウェブサイトで定型取引を行う際に、事前に契約の内容とすることを目的として作成した利用規約を端末上に表示させるとともに、その末尾に「この利用規約を契約の内容とすることに同意する」との文章とチェックボックスを用意し、そのチェックボックスにチェックを入れなければ契約の申込みの手続に進めないようになっている場合
  • ウェブサイトで定型取引を行う際に、申込みボタンや購入ボタンのすぐ近くの場所に、事前に契約の内容とすることを目的として作成した利用規約を契約の内容とする旨を表示している場合

これらの具体例のうち、前者は主として上記「(ウ)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」を充足する例、後者は主として「(エ)あらかじめ定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」を充足する例と考えられます。

他方、上記(ウ)又は(エ)のいずれも充足せず、定型約款に該当しないと考えられる例は以下のとおりです。

(定型約款とならないと考えられる場合)

  • ウェブサイト上に単に掲載されているだけで、それを契約の内容とすることを目的として準備されたものではないQ&A
信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項の具体例

信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項と解され、民法548条の2第2項の適用により合意をしなかったものとみなされる例は、以下のとおりです(本準則24頁)。

(信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項と解され得る場合)

  • 定型約款準備者の故意又は重過失による損害賠償責任を免責する条項
  • 過大な違約罰を定める趣旨で定められた高額な解約手数料に関する条項
  • 本来の商品に加えて想定外の別の商品の購入を義務付ける抱き合わせ販売の条項

利用規約(定型約款)の開示について

定型約款として合意したとみなされる利用規約については、その顧客への開示に関しても民法において定められています。

顧客からの請求に応じた開示

民法548条の3第1項本文によれば、定型約款を作成した事業者は、顧客から請求があった場合には、その定型約款の内容を示さなければなりません。

具体的には、定型約款が掲載されているウェブページを案内する方法などによることが可能です(本準則30頁)。

取引を行う前にこのような顧客からの請求がなされたにもかかわらず、定型約款を作成した事業者がこれを拒絶した場合、その利用規約は当事者間の契約内容とはなりません(民法548条の3第2項)。

なお、取引を行った後に顧客から開示請求があった場合において、それを拒絶した時の効果は民法には法定されていませんが、顧客は、開示の履行の強制の請求(民法414条)、債務不履行による損害賠償請求(民法415条)、解除(民法541条)をなし得るとされています(本準則31頁)。

あらかじめ利用規約(定型約款)を提供していた場合

上記の顧客による開示請求に対しては、既に定型約款を書面や電磁的記録によって提供していた場合には、これに応じなくてよいとされています(民法548条の3第1項ただし書)。

それでは、何を行えば電磁的記録によって提供していたと認められるのでしょうか。この点、本準則30~31頁の記述によると、次のように整理されます。ここでの本準則の基本的な考え方は、顧客がそのデータを管理し、自由にその内容を確認できる態様での提供が必要、というものです。

【電磁的記録によって提供していたと認められない方法】

  • 取引の際に注文画面となるウェブページ上に利用規約へのリンクを張っておく方法
  • 電子メールなどで定型約款を掲載しているウェブページのURLを単に表示する方法

【電磁的記録によって提供していたと認められる方法】

  • 定型約款の内容を記録した媒体を提供する方法
  • 定型約款の内容を記録したデータを電子メールにより提供する方法

ここでいう「電磁的記録によって提供していたと認められる方法」は、実務上、必ずしも頻繁に取られている方法でもないように思われます。上記「電磁的記録によって提供していたと認められない方法」として挙げられている方法を取りつつ、個々の利用規約開示請求があった場合にはこれに応じる体制も用意しておく、といった実務的対応もありうるところではないでしょうか。

利用規約(定型約款)の変更について

定型約款として合意したとみなされる利用規約を変更する場合についても、民法は定めを置いています。

変更の内容に関する要件

民法第548条の4第1項は、次のいずれかの場合、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなされ、個別に相手方と合意することなく契約の内容の変更が認められると定めています。

①定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合する場合(以下「利益変更の場合」といいます。)
②変更が契約の目的に反せず、かつ変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更に関して定める契約条項の有無及びその内容その他変更に係る事情に照らして合理的なものである場合(以下「合理性に基づく変更の場合」といいます。)

一般の利益に適合する場合とは

本準則は、利益変更の場合について、以下のような具体例を示しています(本準則32頁)。

(定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合すると考えられる場合)

  • 継続的に一定のサービスを有料で提供する契約において、顧客である相手方の支払義務を軽減(支払金額を減額)する場合
  • 定型約款準備者が提供するサービスの内容を拡充する場合

考え方としては、そのサービスの顧客にとって一般的に利益となる変更かどうかによって判断すればよいでしょう。

変更の合理性の考慮要素

合理性に基づく変更の場合は、利益変更の場合よりも複雑な判断になりえます。種々の要素を総合的に考慮することが、基本的な判断手法となるでしょう。本準則は以下のような具体例を示しています(本準則32頁)。

(変更の合理性を肯定する方向で考慮される要素の具体例)

  • 変更を望まない相手方に契約の解除権が付与されていること
  • 変更の対象や要件等を具体的に定めてあり、かつ信義則に反して相手方の利益を一方的に害するとは解されない変更条項が存在していること

(変更の合理性を否定する方向で考慮される要素の具体例)

  • 変更を望まない相手方が解除権を行使するに当たって過大な違約金を支払わなければならないとされていること

この具体例でも示されているように、利用規約の変更を望まない顧客が、そのサービスから不利益を負わずに離脱できるように設計することは、変更の合理性を肯定する方向の要素となります。

変更に関して定める条項について

定型約款の変更に関して定める条項(以下「変更条項」といいます。)を定型約款中に設けることは、法的に有効な変更を行うために必須ではありません。変更条項の有無及びその内容は、合理性に基づく変更の場合に、変更の合理性の判断において一要素として考慮されるにすぎません。

この点、変更の対象や要件などを具体的に定めた変更条項が定型約款に置かれている場合、その変更条項に従った変更をすることは、変更の合理性の判断に当たって有利な事情として考慮されます(本準則33頁)。

他方、変更条項それ自体が、顧客の権利を制限し又は顧客の義務を加重する条項で、信義則に反して顧客の利益を一方的に害すると判断され、民法548条の2第2項の要件を満たす場合、当該変更条項は契約の内容とならず、変更の合理性の判断においても考慮されません(本準則33頁)。

変更の手続的要件

手続的な要件として、まず、定型約款変更の効力発生時期を定めることが必要です(民法第548条の4第2項)。その上で、以下の内容をインターネットの利用その他の適切な方法により周知することも求められています(民法第548条の4第2項)。
・定型約款を変更する旨
・変更後の定型約款の内容
・変更の効力発生時期

合理性に基づく変更の場合は、効力発生時期が到来するまでにこの周知をする必要があります(民法第548条の4第3項)。

定型約款に該当しない利用規約について

民法548条の2第1項に定められた要件を満たさない利用規約には、民法の定型約款の規定は適用されません。電子商取引や情報財取引におけるこのような利用規約についての法的な捉え方は、平成29年民法改正前の利用規約に対するそれと大差はないと思われます。

定型約款に該当しない利用規約の効力

定型約款に該当しない利用規約が、当事者間の契約内容として効力を持つのはどのような場合でしょうか。

この点、本準則は、そもそもサービス提供者と利用者との間に契約関係が成立していることを前提に、利用規約がその契約条件として効力を持つためには、以下の要件の両方を充足することを必要としています(本準則38~39頁)
①利用者がサイト利用規約の内容を事前に容易に確認できるように適切にサイト利用規約をウェブサイトに掲載して開示されていること
②利用者が開示されているサイト利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定できること

この観点に基づき、契約条件として効力を持つ利用規約として本準則が挙げる具体例は以下のとおりです(本準則39頁)。

(定型約款の規定が適用されないサイト利用規約が契約に組み入れられると認められる場合)

  • 例えばウェブサイトで取引を行う際に申込みボタンや購入ボタンとともに利用規約へのリンクが明瞭に設けられているなど、サイト利用規約が取引条件になっていることが利用者に対して明瞭に告知され、かつ利用者がいつでも容易にサイト利用規約を閲覧できるようにウェブサイトが構築されていることによりサイト利用規約の内容が開示されている場合
  • ウェブサイトの利用に際して、利用規約への同意クリックが要求されており、かつ利用者がいつでも容易にサイト利用規約を閲覧できるようにウェブサイトが構築されていることによりサイト利用規約の内容が開示されている場合

この具体例のうち、後者は、いわゆる同意クリックがある場合です。他方、前者は、利用規約への同意クリックを要求する仕組みまでなくても、利用規約が契約内容として効力を持つ場合の例です。

次に、契約条件として効力を持たないであろう利用規約として本準則が挙げる具体例は以下のとおりです(本準則39頁)。

(定型約款の規定が適用されないサイト利用規約が契約に組み入れられないであろう場合)

  • ウェブサイト中の目立たない場所にサイト利用規約が掲載されているだけで、ウェブサイトの利用につきサイト利用規約への同意クリックも要求されていない場合

このような場合は、利用規約が契約内容として効力を持たない可能性が高いと考えられますので、注意が必要です。

定型約款に該当しない利用規約の変更

定型約款に該当しない利用規約を変更して既存の利用者に有効に適用するためには、利用者の同意を必要とするのが原則です。

ただし、本準則は、利用者による明示的な変更への同意がなくとも、事業者が利用規約の変更について利用者に十分に告知した上であれば、変更の告知後も利用者が異議なくサイトの利用を継続することをもって、黙示的にサイト利用規約の変更への同意があったと認定すべき場合があると考えられると述べています(本準則40頁)。

このような黙示の同意の成否を認定するにあたって考慮される可能性がある事項としては、本準則において次のものが挙げられています(本準則48頁)。

ⅰ)変更が一般の利用者に合理的に予測可能な範囲内であるか否か
ⅱ)変更が一般の利用者に影響を及ぼす程度
ⅲ)法令の変更への対応、悪意の利用者による不正やトラブルへの対応、条項・文言の整理など、一般の利用者であれば当然同意するであろう内容であるか否か
ⅳ)変更がサービスの改良や新サービスの提供など利用者にもメリットのあるものであるか否か

コメント

本準則は、経済産業省が示す現行法の解釈についての考え方であり、裁判所を直接拘束するものではありませんが、企業実務においては参考になります。
eコマースなどにおける利用規約について、民法上の定型約款の規定が適用されるかどうかを判断する指針や具体例を示した点など、今回の改訂がなされた内容も自社のサービスを設計する上で実務上有用といえます。

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(文責・神田)