商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。

今回は、「オリンピック・シンボル(五輪マーク)」に関する審決の他、2016年に流行しました「ペンパイナッポーアッポーペン」に関する異議の決定等、親しみやすい事案を取り上げております。

不服2018-3425(五輪マーク/国、地方公共団体等の著名な標章)

審決分類

商標法第4条第1項第6号(国、地方公共団体等の著名な標章)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第25類「被服,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服」

五輪マーク:

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名な標章「五輪マーク」と類似の商標であるから、商標法第4条第1項第6号に該当する。

審決等の要点

本願商標と「五輪マーク」を対比すると、両者は、同じ大きさの5つの輪郭図形を上段に3個及び下段に2個配置し、下段の2個は上段中央の形状の左下及び右下に、上段の形状と交差するように逆台形図形状に配して表された点において共通にするものであり、相違するところは、本願商標が「ハート型(輪郭図形)」より構成されるのに対して、「五輪マーク」は「輪(円輪郭図形)」より構成されたものである点にすぎない。

そうすると、本願商標と「五輪マーク」とは、本願商標が特定の称呼及び観念を生じないから、称呼及び観念において比較することができないとしても、両者の共通点よりみて、構成の軌を一にするものと看取され、外観上近似した印象を与えるものであって、「五輪マーク」が著名であることにも照らせば、本願商標に接した需要者は、著名な「五輪マーク」を想起、連想するというのが相当である。

したがって、本願商標は、国際オリンピック委員会行う競技大会のシンボルマークとして著名な標章「五輪マーク」と、類似するものといわなければならない。

コメント

請求人は、本願商標とほぼ同態様の登録第4783515号が登録を認められていたので、本願商標も同様に登録されるべきである旨主張しましたが、そのような例があったとしても、具体的事案の判断にあたっては、過去の審査例等の一部の判断に拘束されることなく検討されるべきであり、請求人の主張は採用できない、と判断されております。

なお、オリンピック・シンボル(五輪マーク)に関する他の審決例として、以下の商標が商標法第4条第1項第6号に該当すると判断された事案があります。

・不服2018-1590:商標「

不服2017-12353(じぶん電力/指定商品・役務が不明確)

審決分類

商標法第6条第1項及び第2項(指定商品・役務が不明確)

商標及び指定商品・役務

本願商標: じぶん電力(標準文字)
指定役務:第35類「電力の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願は、商標法第6条第1項及び第2項の要件を具備しないものであるから、登録することができない。

審決等の要点

商標法においては、「商品」とは、「商取引の目的たり得るべき物、特に動産をいう。」(「特許庁編 産業財産権法逐条解説[第20版]」)とされているところ、この「動産」とは、「土地およびその定着物(建物・立ち木など)以外の一切の有体物。」を意味し、「商品」とは、主に「有体物」(「物理的に空間の一部を占め有形的存在を有する物。」)を意味するものである。さらに、商標法における「商品」とは、商取引の目的物として流通性のあるもの、すなわち、一般市場で流通に供されることを目的として生産され又は取引される有体物であると解されるものである(東京高等裁判所 平成元年11月7日判決 平成1(行ケ)第139号参照)。

本願の指定役務「電力の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下「電力の小売等役務」という。)において、取扱商品に該当するものは「電力」であるところ、この「電力」が小売等役務における取扱商品となり得る商品であることが必要である。そして、「電力」とは「電気によるエネルギー。」であり、「電気」は、「摩擦電気や放電・電流など、広く電気現象を起こさせる原因となるもの。電荷や電気エネルギーを指すことが多い。」(いずれも「広辞苑第六版」)を意味するものであって、その意味からして、「電力」と「電気」は、ほぼ同義にとらえられるものであり、両者は、無体物である。

そうすると、これらが商標法上の商品といえるためには、一般市場で流通に供されることを目的として生産され又は取引され、独立した商取引の対象となりえているかを検討する必要がある。

ところで、「電力(電気)」に係る事業については、電気事業法がその規制を行っているところ、平成28年4月1日以降は、同法において「電力の小売」が全面自由化された。ここで、電力の小売については、「小売供給 一般の需要に応じ電気を供給することをいう。」(同法第2条第1項第1号)、「小売電気事業 小売供給を行う事業(一般送配電事業、特定送配電事業及び発電事業に該当する部分を除く。)をいう。」(同第2号)と定められており、小売電気事業者(同第3号)が、その事業を行うものである。そして、小売電気事業者は、電力の小売部門を担うところ、「小売部門とは/消費者(各ご家庭を含む)と直接やり取りをし、料金メニューの設定や、契約手続などのサービスを行います。また、消費者が必要とするだけの電力を発電部門から調達するのも、この部門の役割です。」と記載されていることから、小売電気事業者は、自ら発電した電力や発電事業者が発電した電力について、様々な料金設定を行い、法人や個人等の消費者と契約を締結し、その需要に応じた電気を一般送配電事業者に対して送電するよう依頼し、一般送配電事業者の送電線を介して送電することで、需要者の電力使用を可能とする電気の供給を業として行っているものと解することができる。

そうすると、「電力(電気)」は、一般市場においてそれ自体が独立して市場において譲渡、引き渡しされることを目的として生産され又は取引されているものというよりも、消費者の需要に応じた量の電気を、需要者の元に送電する(供給する)という役務において取り扱われているものというべきであって、それ自体が商品として独立した商取引の対象として流通しているものということはできないから、商標法上の商品とはいえないというのが相当である。

以上のとおり、「電力(電気)」は、商標法上の商品とはいえず、小売等役務における取扱商品とはなり得ないものであるから、これを取扱商品とする「電力の小売等役務」は、不明確な役務といわざるを得ないものである。

コメント

審決でも説明されているとおり、平成28年4月1日以降、「電力の小売」が全面的に自由化されましたが、無体物である「電力(電気)」は商標法上の商品といえないため、「電力の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は第35類の小売等役務表示として認められない旨判断されております。

このため、小売電気事業者も、他の電気事業者と同様に、第39類「電気の供給」を指定役務として商標出願を行う必要があると考えます。

不服2017-650015(BLACK SABBATH/他人の氏名又は名称等)

審決分類

商標法第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)

商標及び指定商品・役務

本願商標:BLACK SABBATH
指定商品・役務:第21類「Household or kitchen utensils and containers; glassware, porcelain and earthenware; pans, kettles, dishes, lunchboxes, waste baskets, planters, vases; candlesticks; drinks coasters; drinking flasks; portable beverage container holders.」、第25類「Clothing, footwear, headgear; t-shirts, jackets and caps.」及び第41類「Entertainment services; production and presentation of live performances, concerts and events; provision of entertainment, both interactive and non-interactive; presentation of live performances in theatres; providing entertainment in the nature of live theatrical and stage performances; music production, recording studio services; production and distribution services in the field of recordings of sound, video, data, interactive software and multimedia, in electronic, magnetic, optical or other form; production and presentation of animation and other special effects; publishing services, including provision of on-line electronic publications; information services relating to entertainment; music publishing services; artistic direction of performing artists; advisory and consultancy services relating to performing artists and entertainment performances.」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標は、他人の著名なバンド名を含む商標とはいえず、商標法第4条第1項第8号に該当しない。

審決等の要点

本願商標は、「BLACK SABBATH」の文字を横書きしてなるところ、原審が拒絶理由で示した証拠及び当審の職権調査によれば、該文字は、1970年に英国でデビューしたヘビーメタルバンドのバンド名であり、日本においても当該バンドの音楽CDが販売されている事実はうかがえるとしても、このバンド名が我が国において広く知られていることを認めるに足りる証拠は見出すことはできない。

そうすると、本願商標は、上記バンド名を表すものとして、本願商標の登録出願時及び審決時において、我が国の世間一般に広く知られていたということはできない。

コメント

「BLACK SABBATH」はヘビーメタル愛好家の間では著名な名称と思われますが、世間一般で広く知られているとはいえないため、商標法第4条第1項第8号には該当しないと判断されております。なお、当初、指定商品に第9類「Recodings of radio; sound and video recordings; recordings of sound, video」を含んでいたため、商標法第3条第1項第3号に該当するとの拒絶も受けておりましたが、第9類の指定商品を削除することにより、同号の拒絶理由には該当しないものとなっております。

異議2017-900289(アタックNo.1/公序良俗)

審決分類

商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)

商標及び指定商品・役務

本件商標:
指定役務:第35類「インターネットによる企業情報の提供」

結論

登録第5960691号商標の商標登録を取り消す。

本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものである。

審決等の要点

「アタックNo.1」の文字は、全体として造語であり、(a)「アタックNo.1」の題号の下、1968年に漫画が連載されて以降、単行本が多数発行されたこと、(b)原作漫画をもとにした本件アニメ作品、その総集編の映画及びテレビドラマが制作、放映されていること、(c)本件アニメ作品のDVDやBlu-ray Diskが何度も発売されていること、(d)本件アニメ作品の再放送が近年もされていること、(e)「アタックNo.1」に関する各種商品が現在も販売されていること、(f)「アタックNo.1」に関するパチンコ機器が多数設置されたこと、(g)「アタックNo.1」の原作漫画、オリジナル原稿などを公開する展示会が近年開催されたことから、「アタックNo.1」の文字は、本件商標の登録出願の日前はもとより、本件商標の登録査定の日及び現在においても、本件作品及び本件アニメ作品の題号として、需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当である。

本件商標は、上記のとおり、「アタックNo1」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字と本件作品及び本件アニメ作品の題号である「アタックNo.1」とは、「No」の後に「.」(ピリオド)を有するか否かの差異を有するものの、その差異は、微差にすぎず、それ以外は綴りを同じくするものである。そうすると、本件商標は、本件作品及び本件アニメ作品の題号と近似する構成文字からなるものといわなければならない。

そして、上記のとおり、本件作品及び本件アニメ作品の題号である「アタックNo.1」が需要者の間に広く認識されていること、「アタックNo.1」の文字が造語であること、さらに、本件商標権者が自身のホームページで「アタックNo.1」の文字とともに手でバレーボールを打つイラスト(後掲)を表示していたことを併せみれば、本件商標権者は、本件商標の登録出願の時に、本件作品及び本件アニメ作品並びにその題号である「アタックNo.1」を知っていたとみるのが自然である。

以上によれば、本件商標権者は、本件商標の登録出願の日前から、本件作品及び本件アニメ作品並びにその題号として、需要者の間に広く認識されていた「アタックNo.1」を知っていながら、これが商標登録されていないことを奇貨として、本件作品及び本件アニメ作品の題号である「アタックNo.1」と近似する構成文字からなる本件商標を申立人の承諾を得ずに登録出願をし、登録を得たものといわざるを得ない。

そうすると、本件商標の出願の経緯には社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。

コメント

比較的最近の同種(アニメ関係)の事案として、商標「四次元ポケット」(ドラえもん)の登録が、登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないから、公序良俗に反するものといわざるを得ない、と判断された異議の決定(異議2015-900124)があります。

不服2018-5163(図形(家紋)/公序良俗)

審決分類

商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定役務:第45類「特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・その他の知的財産権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・その他の知的財産権に関する契約の代理又は媒介,特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・その他の知的財産権に関する助言及びコンサルティング,特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・その他の知的財産権の利用に関する情報の提供」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。

審決等の要点

周知・著名な家紋は、その家やその家に関する人物の郷土やゆかりの地において、例えば、地方公共団体等の公的な機関が、地元のシンボルとして地域振興や観光振興のために使用するような実情があることから、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮する場合があると考えられる。そうすると、このような場合には、当該家紋と無関係な第三者が登録を受けることによって、その地域住民全体の不快感や反発を招き、地域振興等の施策の遂行を阻害することとなる。また、家紋の中には、従前から他家での使用を厳しく禁じ、それが現代においても特定の家やゆかりの神社等を表す紋として使用されているものがあり、そのことが広く一般に認識されているような場合がある。

そうすると、このような場合にも当該家紋と無関係な第三者が登録を受けることは、家紋が表す特定の家等の著名性や顧客吸引力に便乗することとなる。してみれば、特に、周知・著名な家紋を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもって出願をした場合や特定の家を表す紋として著名な家紋を第三者が出願するなど、登録出願の経緯や商標を採択した理由に、著しく社会的妥当性を欠く場合においては、公正な取引秩序を乱し社会公共の利益に反することとなるものであるから、前記のような場合には商標法第4条第1項第7号に該当するものと判断されるものである。

「丸に立葵」に家紋は、徳川四天王の1人として著名な武将である「本多忠勝」が使用していた家紋であることが認められ、「本多忠勝」とゆかりのある地方自治体が地域振興や観光振興等において「本多忠勝」の名称とともに、「丸に立葵」の家紋が利用されていることが認められる。

しかしながら、本願商標の指定役務は、地域振興や観光振興に関するイベント等において利用される蓋然性の高い地方の特産物、土産物等の商品又は役務と密接な関係性を有するものとはいえない上、本願指定役務を取り扱う分野においては、請求人以外に、「丸に立葵」の家紋を利用している事実を見いだすことはできなかった。

そうとすれば、本願商標が、歴史上著名な武将である「本多忠勝」が使用していた家紋として知られているとしても、その指定役務について使用した場合に、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するとはいえない。また、本願商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような図形からなるものではなく、その出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないようなものともいえない。

したがって、本願商標は、その指定役務について独占排他的に使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念にも反するものというべきものではない。

コメント

本件審決では、周知・著名な家紋について家紋と無関係な第三者が商標登録を受けることは、公序良俗違反となる場合がある旨述べた上で、本願商標はその指定役務が、地域振興や観光振興に関するイベント等において利用される蓋然性の高い地方の特産物、土産物等の商品又は役務と密接な関係性を有するものとはいえないため、商標法第4条第1項第7号には該当しないと判断されております。

不服2018-4882(図形/図形商標の識別力)

審決分類

商標法第3条第1項第5号(極めて簡単で、かつ、ありふれた標章)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第27類「人工芝,壁紙,浴室用マット,じゅうたん,靴ぬぐいマット,マット(敷物),ラグ,タペストリー(壁掛け)(織物製のものを除く。),壁掛け(織物製のものを除く。)」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第3条第1項第5号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、別掲のとおり、赤い直線の中心部分の頂を鈍角にした山形の図形よりなるところ、当該図形は、その構成から、全体として色彩を有し一体的に構成された特有の図形を表したものとして看取され、一種独特な印象を与えるとみるのが相当である。

当審において職権をもって調査したが、当該図形が、一般的に使用されていると認めるに足りる事実も発見できなかった。

そうすると、本願商標は、その構成が極めて簡単なものでなく、かつ、一般的に使用されているものとは認められないから、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標とはいえないものであり、自他商品・役務の識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。

コメント

最近の同種の事案として、二つの正三角形を並べて配してなる以下の商標が、本件と同様に識別力を有すると判断された審決例があります。

・不服2018-650022:

異議2018-900165(ペンパイナッポーアッポーペン/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本件商標:
指定商品:第9類「携帯電話機用ストラップ,携帯電話機・スマートフォン用カバー,携帯電話機・スマートフォン用ケース,携帯電話機用ネックストラップ及びネックピース,イヤフォン,ヘッドフォン,電気通信機械器具,携帯電話機用ゲームプログラム,電子計算機用ゲームプログラム,携帯電話機用プログラム」等

引用商標1:APPLE
指定商品:第9類「電子計算機,その他の電子応用機械器具及びその部品」等

引用商標25:APPLE PAY
指定商品:第9類「コンピュータ,コンピュータ周辺機器,コンピュータ端末装置,コンピュータハードウェア,マイクロプロセッサ,コンピュータ用メモリーボード」

引用商標26:APPLE PENCIL
指定商品:第9類「コンピュータ用入力装置,手持ち式携帯型電子端末用入力装置」
※引用商標は全部で26件ありますが、省略します。

結論

登録第6031236号商標の商標登録を維持する。

本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。

審決等の要点

証拠及び申立人の主張並びに職権調査によれば、商標「APPLE」及び商標「アップル」は、本件商標の登録出願日(平成29年2月24日)前から登録査定日(同30年2月23日)はもとより現在まで、申立人の業務に係る商品(パソコン、その周辺機器、コンピュータソフト、スマートフォン)を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されている商標と認めることができる。しかしながら、商標「APPLE PAY」(引用商標25)は、申立人の業務に係る電子決済サービスの名称として、また、商標「APPLE PENCIL」(引用商標26)は、申立人の業務に係る商品(パソコンの周辺機器)を表示するものとして、いずれも我が国の需要者の間にある程度認識されているものであることがうかがえるものの、それらを使用した商品又は役務の我が国及び外国における取引額、取引数量など取引の実績を示す証左は見いだせないから、両商標はいずれも、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていた商標と認めることはできない。

本件商標は、「ペンパイナッポーアッポーペン」の片仮名と「Pen Pineapple Apple Pen」の欧文字とを上下2段に書してなるものであるのに対し、引用商標は、「APPLE」、「アップル」、「APPLE PAY」及び「APPLE PENCIL」の文字を表してなるものであるから、両商標は、構成文字及び構成態様が異なり、外観上、相紛れるおそれはないものである。そして、称呼においては、本件商標から生じる「ペンパイナッポーアッポーペン」又は「ペンパイナップルアップルペン」の称呼と引用商標から生じる「アップル」、「アップルペイ」又は「アップルペンシル」の称呼とは、その構成音数、構成音の差異により、明瞭に聴取し得るものである。また、観念においては、本件商標からは、「ピコ太郎の曲名」の観念が生じるのに対し、引用商標1ないし24からは、「りんご(林檎)」又は「(申立人のブランドとしての)APPLE(アップル)」の観念が生じ、引用商標25及び26からは、特定の観念は生じないものであるから、両商標は、観念上、相紛れるおそれはない。

してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

コメント

本件では、商標法第4条第1項第15号及び第19号に該当する旨の主張もされておりましたが、本件商標から「ピコ太郎の曲名」の観念が生じるのに対し、引用商標からは親しまれた「りんご」の観念が生じるため、本件商標に接した取引者、需要者が引用商標を想起・連想することはなく、同号には該当しないと判断されております。

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(文責・前田)